1年目 秋3
バトンを受け取るために2年生がトラック半周のところで準備を終える。丁度1年生もスタートラインに立ち後は合図を待つだけとなった。
松山家御一行は丁度ゴール地点の正面に陣を構え、須藤さん家族が隣に陣取りその間には当の子供以上の緊張が走っている。ここは毎年アンカーをやる子供達の保護者の特等席で松山家としては一昨年ぶりにここに構えることになった。
今年の後陣にて敵対する須藤君のお父さんは、なるほど子供が空手で地区優勝をする訳だ、と納得できるような大柄な人で、また聞きだがどうやら午前中最後の綱引きで紅組の一番後ろだったらしく、さっきから課長と一触即発の不穏な空気が流れており、あちらとは違う種類の緊張状態となっている。いや、加奈ちゃんとは同一のものか。
お隣さんのハンディカムがピッと高い電子音をたててCUEの合図を出した途端、空に向けられた銃の撃鉄から火薬の炸裂音が鳴り響いた。直後、会場が応援と歓声の波に飲み込まれる。
ほぼ同時にスタートを切った第1走者は内を紅組、外を白組で併走しそのままカーブへと突入したので内を取っていた紅組が先行する。がその差は僅かでそのままカーブをなぞり出口で若干膨らんだ白組が軸をずらす形で外をとる。凡そ0.5秒差でバントを第2走者へ。
「よしっ!そのまま行け!」
隣の怒鳴り声に反応してしまい、課長と共に発声元を睨みつける。おっと、しまった。向こうは気づく気配は無さそうだけど俺まで何してんだよ。手を出されたら一発KOどころじゃなくなるのに。課長菌が感染したかな?つか課長、あんたはちゃんとモニターを見てろよ。
「さすがに差が付かないねぇ」
各学年の選抜でメインイベントだけに練習も相当積んでいるのかバトンの受け渡しもスムーズでさっきから付かず離れずのまま第3走者が第1コーナーを抜ける。
「うん。特に今年は力が入ってるみたい」
太一君が険しい表情で各々の走者を見送っている。
もう負けが決まってしまった白組は、残すはプライドを守りきる事に目標を変え、まずは全敗を逃れる為に。そして重要種目の2種だけでも死守する方針だとさっき早苗さんのママさん友達から伝達があった。
さすがにこのまま完全優勝をさせてしまっては後世に合わせる顔が無いのか、当の子供達はもちろん、グランドを囲んでいる子供達からも応援の声を荒げており、赤組・白組と先ほどから応援合戦の様子を見せている。いや、白熱するのはいいんだけど、今にもグランドに雪崩れ込みそうな勢いはちょっと控えたほうがいいと思うよ、みんな。
そんな声援に後押しされてか第4走者も両組ともに付かず離れずの状態で最終コーナーへと差し掛かっていた。
「大丈夫かなぁ・・・」
「え?なに??」
さっきから腕を組み、ずっと眉間に皺を寄せていた太一君がぼそりと一際大きくなった歓声でかき消されながら何かを呟いた。
「ほら、覚えてない?次の子さ、去年も走ってたよね」
「次の子?去年??」
えーっと、バトンを受け取る準備を始めた男の子を見てみるが・・・。うーん、正直誰かわからない。特に特徴があるわけでもない子なんだけど覚えてない?と言われてもなぁ・・・。
「あっ!もしかしてあの子!?」
そういえば去年、加奈ちゃんの前の走者でバトンを受け取る際に落としちゃった子がいたな。それで出遅れて、さらに出鼻を挫かれそれまでの緊張も相まってかずるずると引き離されて最終的にはほぼ半周差までついてしまった。
「そうそう、あの子だよ。よしっ!そのままっ!いけっ!!」
そんな事を思い出していると第4走者が終わりを迎え、次にバトンを引き継ぐところだった。ただでさえクラス対抗リレーに抜擢されただけでも緊張するだろうに、去年の事があれば尚の事プレッシャーが重く圧し掛かっているはずだ。スタート時からほとんど変わらない赤組との差で白組が一歩後ろを走り、例の子も外側で構え、目の前に迫った白いバトンを確認した後、左手を後ろへ差し出したまま完全に前を向いた状態で赤組と鼻差で走り出す。
そのままっ!
気持ちは、相手よりも、一歩でも、少しでも、前でっ!
早く!バトンをっ!
後ろの子の右手が大きく前に引き伸ばされ・・・。
ラインが近づく!
白い棒が振り落とされ・・・、左手に・・・。
・・・・・・。
つかんだっ!!!
あとは・・・、あとは・・・。
・・・。
右手に持ち替え・・・。
よしっ!
いっけーーーー!!
エンドライン一杯まで引っ張り外枠を疾走。その時には既に赤組と肩を並べておりコーナー入り口へと差し掛かる。そのままの勢いで体が内へ傾いていき・・・。
「「「「よしっ!!!!」」」」
一際大きな歓声が会場を包み込み、白組が初めて前をとった!!
寝勒「ふぅ・・・疲れるなぁ」
太一「手に汗握るとはこの事だね」
寝勒「気づいたら息をしてなかったよw」
太一「だね。でも今回の書き方って・・・」
寝勒「え?違うよ、全然ざわ・・・ざわ・・・してないよ?」
小夜「極一部のネタを二つも織り込まないで」