第30話 相撲令嬢は朝稽古でファラリスの実力を測る
ファラリスが突進して来たので、土俵中央で受け止めた。
ざざざっハイヒールが土俵上をすべり、一気に徳俵まで押し込まれた。
なるほど、すごい力だ。
ドラゴンの力のままというのは本当のようだ。
だが、技はちっとも覚えて無い。
重心も高い。
足を掛けると、簡単に転がって土俵の外に出た。
「あ、あれー、なんでだ、なんでだよう」
「力だけではお相撲は勝てないわよ」
「くっそー、もう一回!!」
「俺とやろうぜ、ファラリス」
「ユスチンとか、いいぜー、お前なら負けないっ!」
簡単に上手投げでファラリスは土俵に転がった。
「うそだろーっ!! 俺はユスチンより弱いのかーっ!」
「これでも格闘技の先生なんでなあ、次は馬鹿弟子とやってみな」
「ははは、俺と勝負になるわけないじゃんか、ファラリス」
凄い大勝負になり、粘りに粘ったが、クリフトン卿は負けた。
「うおーっ!! 勝ったーっ! 勝ったー!!」
「今は油断しただけだ、もう一番、な、もう一番っ」
「いいぜー、スモウ面白れーなーっ」
次はクリフトン卿がつり出しで勝った。
持ち上げられてはファラリスの怪力の使いどころも無いわね。
「ファラリス、次は僕としようよ」
「えー、リジーとだと俺が勝っちゃうよー」
「それはやってみないと解らないよ」
「そうかー、それもそうだな、やろうやろう」
土俵上で、ファラリスとリジー王子の取り組みが始まった。
意外に上手にリジー王子はファラリスの怪力をいなしていた。
あ、上手出し投げで投げた。
リジー王子も進歩してるわね。
よきかなよきかな。
「お前、スモウ上手いなあ」
「ファラリス君の力凄いね」
土俵上で男の子二人が友情を深めている図というのもグッとくるわね。
尊さマックス。
はぁどすこいどすこい。
私たちは今、峡谷の中にいるわ。
朝稽古をしているところね。
五千人を超える弟子達が一斉に朝稽古をしている所は勇壮ね。
リジー王子軍も一万五千を越えたので、ちょっとした街が移動している規模だわ。
ファラリスのお父さん、ドミトリー氏も呼び出し係に就職したわ。
紺の法被に背中には紀文と書いてあるわね。
「ファラリスはドミトリーさんが卵から育てたんですか?」
「そうですじゃ、若い頃、ドラゴンの巣へ忍び込んだ事がありましてな、卵なりを盗もうとしたんですが、竜が竜を食い殺しておりました、何かのもめ事だったんでしょうな。そのとき一個だけ残った卵がファラリスですじゃ」
そうだったのね。
「若い頃からファラリスとは一緒でしてな、あの子のおかげでギルドランクも上がり、魔獣使いとしての名声も得られましたのじゃ」
「そうでしたの」
「わしもいい年になりましたので、大金を掴んで引退と思いジョナス王子の仕事を引き受けましたが、こんな事になりまして、ええ、逆に素晴らしく良かったですわい。ファラリスも喜んでおります」
ドミトリー氏は顔を輝かせた。
「ええ、良いお相撲取りになりそうね。リジー王子が学園に入学するときは一緒に通わせてあげましょう」
「おお、そこまでしてくださるか」
「他ならぬリジー王子のお友達ですもの」
「ありがとう、ありがとう」
人化したドラゴンのお友達なんか、持とうと思っても持てないわよ。
末永く、リジー王子と仲良くして貰いたいわ。
「みなさーん、ちゃんこが出来ましたよ~、兵士の人は大テントへ、士官の人は士官テントへ行ってください~」
「おおおっ、ちゃんこ~、今日のはなんだ、アデ吉」
「アデ吉っていわないでよファラリス。今日は醤油ちゃんこよ」
「ショーユ、昨日の奴か」
「いいえ、昨日は塩よ、ファラリスが食べた事が無いやつよ」
「おおおおっ、違う味のちゃんこ、いこういこう、フローチェ、リジー、とうちゃんっ!」
「はいはい」
みんなで士官テントに行き、朝ご飯にする。
領都を離れてしばらくたつため、海産物はもう無いわ。
今日の醤油ちゃんこは鶏ちゃんこね。
士官のみんなが大きなテントに集まったわ。
「マウリリオ、新弟子の調子はどう?」
「なかなか仕上がってきましたね。五人ほど近衛力士隊に送れますが、どうします?」
「後で編成してちょうだい、近衛力士がこれで二十五人ね」
「かしこまりました、親方」
テーブルについて、食事を始める。
醤油味の汁に、地鶏のぶつ切りと、にんじん、ジャガイモ、白菜が入って、具だくさんだ。
主食はパンよ。
ご飯は、祝賀会と、昨日で無くなってしまったわ。
みんなよく食べるから。
こんど、半透明の人に頼んで、あの人たちが来る世界からお米を輸入しようかしら。
「うめっ、うめっ、うめっ、あー、人間の世界は美味しくて面白くてすげえなあ」
ファラリスが山盛りのちゃんこをかっこんでいた。
「ファラリスはドラゴンの時はどうしてたの? 街には入れないよね」
「んー、街近くの山に居たなあ、とうちゃんがたまに美味い飯とか持って来てくれるのが楽しみだったけど、つまんなくてさあ」
「すまんかったなあ、ファラリス」
「ああ、しょうがねえよ、でっかくなっちまってたからさあ。だから俺は今は嬉しいんだよ、ほんとうに人化できてよかったよ」
「うん、もっと一緒に人間の世界を楽しもうね、ファラリス」
「おう、色々見て回りたいぜ、リジー」
さあ、明日はアリアカ王都に入って、王城を攻撃するわ。
ご飯を食べたら行軍ね。
あれ、アデ吉が呼んでいる、なんだろう。
近くに寄ると、アデ吉が声を潜めて喋ってきた。
「あのファラリスはなんとかなりませんか、ちゃんこを鍋で五杯はたべてますよ」
「まあ、ドラゴンですからね」
ファラリスはオバQみたいね。
食費が大変だわ。
まあ、王様が玉座に戻ったら国費で養えば良いわね。




