第29話 相撲令嬢はヴァリアン砦場所を制し表彰される。
アデラが半透明の呼び出しさんと、もっこを担いでいた。
「なにしてるの、アデ吉」
「アデ吉ってなんですかっ、その呼び方！！」
「呼び出しの人は大吉とか幸吉とか呼ばれるのよ、だからアデ吉ってつけたわ」
「嫌ですよっ！ そんな名前っ！」
「わがままね、アデ吉は。で、何をしてるの？」
「やめてくださいっ、その呼び方っ、表彰式に向けて土俵を直してるんですよ、おじょうさまがドラゴンを叩き落としたりするからっ！」
ああ、表彰式ね。
そうね、式が無いとお味噌とか、お米とかが手に入らないわ、賞金も魅力だけど。
呼び出しさんたちが頑張って補修しているけど、これは時間がかかりそうね。
そうだ。
「対巨獣土俵送還」
対巨獣土俵だけを地面に戻して、と。
「土俵召喚」
普通の土俵を出せば、問題無いわ。
「わ、お嬢様っ！ ナイスアイデアですっ！ やったーっ！！」
「なんでもないわよ、アデ吉」
「それで押し通す気ですね、お嬢様」
ほほほ。
『表彰式に先立ちまして、土俵に向けて国家斉唱を行います、皆様ご起立おねがいします』
枡席を含めて、一万五千もの軍が立ち上がった。
なかなか壮観ね。
アデ吉たちは、大きなトロフィーを運んだり、準備に余念がない。
荘厳な国歌のメロディが流れてきた。
「ほほう、これは素晴らしい式典だ」
「お相撲の大会が終わった記念の式典ですからね、お父様」
隣で王様が式典に感心していた。
「「「「暁の大陸平原に命を受けて、走り戦い祖国を守る～♪」」」」
「「「「国境の砦に友の血が流れ、隣の者が倒れても～♪」」」」
「「「「我らは侵略者には屈しない、栄光の国土を守るのだ～♪」」」」
君が代に比べると物騒な歌詞だけど、フランス国歌よりは大人しいわね。
会場の一万五千が合唱すると圧がすごいわね。
国歌は良いわね、身が引き締まる感じがするわ。
アデ吉に呼ばれたので土俵に上がる。
今日も故元横綱の親方ね。
いつもありがとうございます。
『表彰状！ あなたは七月六日、ヴァリアン砦場所で素晴らしい成績を残しましたので、ここに表彰します！』
表彰状を受け取り、アデ吉に渡す。
大きなトロフィーを受け取り、ユスチン氏にわたす。
「いつも、ありがとうございます親方」
『最近頑張っているね、これからも精進してくださいよ』
「はいっ！ おそれいりますっ！」
わあ、元横綱の親方に声を掛けられちゃった。
うれしいわ。
それから、ぞくぞくと半透明の人に表彰された。
ガラス瓶に入った椎茸とか、ガラスの杯とか、前回貰った賞もあった。
味噌や、お米、お醤油も、また貰ったわ
新しい賞もあったわ、巨大な緑のマカロンのトロフィーを貰いましたの。
シラク大統領からの賞ね。
受け取ったけど、これは偽物ね、クッションみたいだわ。
副賞として、黄金のマカロンが貰えるみたいね。
今回も沢山賞を貰ったわね。
「素晴らしいセレモニーだったね、フローチェ嬢」
アルヴィ王が話しかけてきた。
「ありがとうございます、王様」
「私も、スモウ部屋でなにか出来ないだろうか」
「お相撲を習いますか？」
「うーむ、余はもう年だからなあ」
おや、半透明の行司さんがやってきた。
『では、行司をやってみませんか王様』
「む、言葉が通じるのか」
『最近、フローチェ親方のおかげで相撲人口が増えましたので、いろいろ出来るようになりましたぞ』
「そうだったの」
「ギョウジとはどんな仕事なのか？ 余にも出来るだろうか」
『行司とは相撲の審判ですな。どちらが勝ったか判定を下す仕事です』
「詳しく教えてくれまいか」
『よろしゅうございます。こちらへ』
王様と行司さんは土俵の上でなにか話始めた。
「フローチェ、スモウ取ろうぜ、スモウ！ 俺もヒョウショウして貰ってキノコを貰うんだ」
「まあ、熱心ねファラリス、偉いわ」
「えへへへ」
ファラリスはワイルド系で勝ち気だけど、可愛いわね。
でも私にはリジー王子が。
はぁどすこいどすこい。
「ファラリス、それよりも、砦に行って君の服を見ようよ」
「え、俺、マワシ、気に入ってるけど」
「マワシはスモウの時に付ける特別な服なんだよ、普段は別の服を着ないと」
「おう、俺も一緒に行ってやるよ、リジー王子、ファラリス」
「そうか、頼むぞ兄弟子。いろいろ大変だなあ人間の世界も」
「すぐ慣れるよ、行こうぜ」
リジー王子とファラリスの面倒をクリフトン卿が見てくれるようだ。
助かるわ。
彼は子供好きね。
王様が帰って……。
「どうだね、フローチェ嬢、似合うかな」
「よく行司服がお似合いですね」
王様は青色の直垂をキリッと着てとても格好がいいわ。
少しお太りだったから着物の似合うこと。
嬉しそうに軍配を振っている。
「私は土俵上では、ショウノスケ・キムラという偽名で呼ばれるようだ」
あら、いやだ、最高位の立行司じゃないの。
わたしが半透明の行司さんを見ると、彼は重々しくうなずいた。
そう、次の場所は、アリアカ王国の東の横綱エアハルト戦があるからなのね。
土俵と観客席が地面にゆっくり飲み込まれていく。
半透明の行司さんや呼び出しさんが、私たちにぺこりと礼をして消えていく。
どこからか跳ね太鼓が聞こえる。
と思ったらアデ吉が叩いていたわ。
アリアカ王城はここから三日。
さあ、王都よ、アリアカ王の帰還よ。
行司姿だけど。
