少年ロウェルと広い世界(7)優しさは仇となる
「商人さん、こんなにサービスしてもらって良いんですか?」
女性は持っているカゴに商人から渡されたバナナを入れていた。
「良いんですよ、お子さんにぜひ食べさせてあげてください。お嬢ちゃん、栄養満点で美味しいからデザートにでも剥いてお食べなよ?」
女性の隣に立っている少女も笑顔で頷く。
「ありがとうございます、明日も商いなさるんですか?」
「えぇ、明日まで店は出しますよ、それからは帰る準備をして、他の商人たちとともに町を出ます」
「いつも商人の方々にはお世話になってて、助かります。もうそろそろ日も落ちますし、気をつけてくださいね。昨日も商人の方が盗みに入られたようなので」
「ありがとうございます、大丈夫ですよ」
女性は頭を下げ、少女とともに歩いて行った。
「…さてと、そろそろ切り上げるかな……ん?」
商人の男が女性たちの歩く方向を見送り、片付けを始めようかと考えた時、一人の少年が歩いてくるのが見えた。少年の白髪が落ちかけている夕日に照らされ美しく光る。その少年はまっすぐに自分のところに向かって来ていた。
「…いらっしゃい、どうしたんだい坊や、お遣いかい?」
「…そんなところかな」
ロウェルは前に出してる品物を見ながら問いかけてきた。
「なんで、果物、野菜と一緒にアクセサリ類を売っているの?」
「うん?あぁ、果物や野菜を買いに来るのはほとんどが料理人や女性なんだけど、この町で一番多く来るのは、母親なんだよ。君にもお母さんはいるだろう?」
ロウェルは頷いた。
「お母さんってのは忙しくて自分の時間を持つことがあまりできないんだよ、でもお母さんも女性だ。女性ってもんはお洒落したり、綺麗に見えたりしたいもんだろ?だから一緒に置いておくんだ、しかも安くね」
「そうなんだ、勉強になったよ」
「それはよかった」
「聞きたいことがもう一つあるんだけど…」
「なんだい?」
「おじさんはどこから来たの?」
「おじさんはここから東にずっと行ったところにあるスーシィという町から来たんだよ、馬車で他の商人たちとね。だいたい、5日かかるくらいの距離かな」
「5日かぁ、どこら辺にあるか教えてもらえる?機会があったら行ってみたい」
「良いよ、ちょっと待ってね」
商人は店の奥に置いている荷物の入ったバッグを漁り始める。
「地図があるからここら辺っていうのを見せるよ」
「ほんとう?…それは嬉しいよ」
その間にロウェルはネックレスに手を伸ばす。静かに手を取り、ゆっくり動かしていく。ここに来る前にリューグナーに作ってもらったズボンのポケットに入れる。
見事なまでに静かで且つ迅速な速さでネックレスを手に入れた。それを遠くからリューグナーは眺め、感心していた。
「あいつ…スゲェな、普通に盗んじまいやがった。普通初めて盗む時はビクビクするもんだろうが」
商人はバッグから地図を取り出し、開いてロウェルに見せた。地図にはソル大陸全土が写っていた。
「良いかい、ピータウンはここだ」
商人は地図の左の方に指を置く。そして動かしながら説明する。
「それからピータウンを出て、こうやって東の方に道なりに沿って行って、ある程度行くと看板があって二つに道が別れるから。それを左に行く、地図だと上に行く感じだね。それから道なりにまた行って途中、赤毛の村ってところにつく。さらにその村を超えて山があるから、それも道なりに進んでいくと山から降りたところに、大きな木で作られた人の像が見えてくるから、その像がある町がスーシィの町さ」
ロウェルは地図に顔を寄せ、じっと商人が教えてくれた部分を見ていた。
「熱心だな、どこかに行きたいのかい?」
「父親を探してるんだ」
「父親…?そうか…」
商人はロウェルの身なりを見て悟った。親に捨てられたか、亡くしたのだろうと。
「…それは大変だな」
商人がバツの悪そうにしてると、ロウェルのお腹が鳴った。
「腹減ってるのかい?なら…」
商人は店に出していたバナナとりんごをロウェルに渡す。
「これを食べな」
「いいの?」
「あぁ、むしろおじさんにはこれくらいしかできない…ごめんよ」
「?ありがとう。なら行くよ」
ロウェルはそう言って頭を下げ歩き出した。
「え?あ、あぁ…。頑張って生きるんだぞ!何かあったら明日もいるから」
商人は手を振り見送ったが、ロウェルは振り返らなかった。