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第二譜 人として

 そのまま男はハスタの手を離すと、エトナを起こして彼女の状態を確かめた。


「で、エトナは大丈夫!?」

「え、えぇ……。ありがとう、アッシュ……」

「どういたしまして!」


 青灰色の瞳を柔らかくし、ニッと朗らかに笑うアッシュ。それを見て、強張っていたエトナの体から力が抜ける。

 ――彼女を助けてくれる唯一の人が、ここに現れた。

 男にも女にも見える完璧なまでの中性的な顔立ち。ナヨっとしている風にも見えるが、エトナはアッシュの腕の中で鍛えられた筋肉に安心感を覚えていた。


「アッシュ・ヴェンタス! テメェ、なんでここにいやがる!?」

「そりゃあエトナのいるところに僕あり! だからね。まったく、僕がいなかったらすぐこれだ。一々僕がいないとエトナをいじめられないなんて、随分とまぁみみっちいじゃないか。――ハスタに、それからここにいるみんなもね」

「ッ……!!」


 明るい声を絶やさず、それでいて糾弾の言葉を並べるアッシュ。その瞳の中にはエトナを傷つけられた怒りが確かに込められていた。

 そんな、『いつでもやり返せる』というような上から目線の余裕な説教に、ハスタの怒りがさらに沸き立った。


「……テメェも邪魔すんじゃねぇよ正論野郎。テメェはお呼びじゃねぇんだよ」

「いやいや、だからさ。僕がエトナの傍にいるのは当たり前なんだから、そんなこと言われても困るんだよね。そうじゃなくても、僕は人として当然のことをやってるだけ。いじめなんて良くないよ。ここは人の未来を作るための学校なのに、人の未来を閉ざすことばっかやってどうすんの? それで本当に〈執火官(しっかかん)〉になるつもり? 同じ人間の女の子を攻撃するのが〈執火官〉のやること?」


 瞬き一つせず、アッシュは軽く首を傾げながら全員に聞こえるように言い放つ。

 それが、僅かに存在していた生徒達の罪悪感を突き刺して肥大化させた。

 王家と名家がエトナへの行為を肯定しているように見えたから自分を正当化出来ただけであって、客観的に見ればそこに正当性は何もない。

 そんな正論をぶつけられてしまい、バツが悪いと思った生徒達はアッシュを睨んだ。

 それでもアッシュは笑って受け流す。


「あれ? なにも言い返してこないってことは図星ってことで良い? っていうか、エトナに怒るならパートナーである僕にも同じことをやるべきだよね。だって〈合力〉を暴走させちゃうのは僕のせいでもあるんだからさ。それともなに? 成績No.1の僕には怖くて手を出せないのかな? ねぇNo.2クン」

「ッ!! 調子乗ってんじゃねぇぞ!! ミィシャ!!」


 純粋な正論と疑問をアッシュからぶつけられ、ハスタの怒りが頂点を越える。更にミィシャもアッシュに抱く感情はハスタと同じなのか、エトナの時とは違って止めることなくハスタの手を掴んだ。

 その瞬間、ハスタとミィシャから流れる波動が熱気としてアッシュに叩きつけられた。


「いつまでも上から目線でモノ言いやがって! テメェがNo.1だったのは一年前のことだろうが! 〈合力〉もまともに扱えない奴がいつまでもイキってんじゃねぇぞ!」

「ア、アッシュ……!」

「んー、まさかこんなところで〈合力〉を使うとは思わなかったな。流石にこれはマズいかも。詠唱なしでコレは、流石にトップなだけあるよね」


 腕の中で怯えるエトナを支えながら、アッシュは冷静に眼前を見極める。軽口はアッシュの性分。止まることはないが、内心は少しだけ焦っていた。

 〈熱〉が更に上昇する。その姿に生徒達は今度こそ慌て始め、アッシュが〈気力〉を漲らせようとすると――


「――君たち! そこでなにをやっている!!」


 パァンッと空気が裂ける音が廊下に響いたと同時に、〈熱〉が鎮静する。

 またもや邪魔をされたと思ったハスタが声の方向を睥睨すると、そこには怒り心頭の男性教師が立っていた。


「チッ……またかよ」

「ハスタ、ミィシャ! こんな人のいるところで〈合力〉を使うなんてどういうことだい! それは隷獣に向ける力であって、人に向けていい力じゃないんだよ!!」

「ヨハン先生、それはオレじゃなくてこの〈灰被(はいかぶり)〉に言うべき言葉ではないですか? こいつらのせいでオレはさっきの授業で怪我を負いかけたんですから」

「事故と故意は違う!」

「……結果は同じだと思いますけどね。まぁいいですよ。ここで使ったことは謝ります。ですがね、そいつらを庇うってんなら〈合力〉をまともにさせてくださいよ。〈合力〉を使えない奴らなんかにオレは命預けられませんから


 教師の介入で今度こそ興が削がれたのだろう。そう言い放ち、ハスタは踵を返し、ミィシャもついていく。

 それを見届けたヨハンが手を叩き、号令を出す。


「さぁ他のみんなも! こんなところで余計なことをしている暇なんてないはずだ! 次の授業があるだろう!! 実戦前に気を抜くんじゃない!!」


 やがて生徒達全員がいなくなり、廊下にはアッシュとエトナ、ヨハンが残された。


「ありがとうございます、先生。助かりました」

「はぁ……。アッシュねぇ、もうちょっと穏やかに落ち着かせられないのかい?」

「パートナーが苦しんでるのに穏やかってのは無理がありますね。それに、僕間違ったこと言ってませんよ?」

「あぁそれは十二分に理解してるよ。――まぁいい。君たちも早く次の授業に行きなさい。〈マスク〉は忘れないようにね。後輩達も見てるんだから」

「はーい」


 そう言ってアッシュとエトナだけが残される。

 アッシュはエトナを解放し、俯く彼女の状態を改めて確かめた。


「大丈夫? 体もだけど、心の方」

「……えぇ、なんとかアナタのおかげで。……それに、いつものことだから」

「あれをいつものことって言ってしまえるのが僕としては心苦しいんだけどね。まぁそこら辺はまた一緒にどうにかしようか。さ、授業に行こ。遅れたらまた面倒なことになるし」


 エトナを決して一人にはしない。心にも寄り添う。そんな温かな雰囲気を言葉の端々や絶えない笑顔から感じ取り、エトナは嬉しく――そして辛くなった。

 だから、前を歩くアッシュの袖を思わず掴んでしまった。


「ん? どうしたの?」 

「あ、いや……その……。ねぇ、どうしていつも私を助けてくれるの……? 赤目の私なんか放っておけば……アナタだって理不尽に嫌われることないのに……」

「んー、僕自身、嫌われることは別にどうだっていいんだよね。それよりも、人として当然のことをしたいっていうか、人は助け合うって習ったからね。こんなご時世なんだ。助け合わないと生きていけないでしょ」

「でも……それは私を助ける意味には……」

「同じだよ。いや、ちょっと違うかな。エトナに関しては僕がそうしたいからしてるだけ」

「ッ……!」


 純粋無垢な好意を真っ直ぐ告げられ、エトナの頬が真っ赤に染まる。

 そんなエトナを揶揄うようにアッシュはカラカラと笑った。


「それに仮にエトナが【隷獣】だったとしても、仲良くしておけば襲われることないでしょ? 嫌われて恨みを晴らされた方が嫌だもん」

「……ふふっ、なにそれ。ノンデリすぎでしょ」

「あーごめんごめん! 嘘嘘!」


 臆面も無く言うアッシュに思わずエトナに笑みが宿る。それがわざと露悪的に振る舞った言葉だったとしても、『平等』に感じられる言葉はとても気楽だったのだ。

 と、エトナの心が少しだけ晴れたところで、アッシュは本心をド直球で告げる。


「まぁ恨み云々は嘘だとしても、単純に僕はエトナと一緒にいたいからね。――一番大切な人を見捨てることなんて出来ないよ」

「ばっ……! は、恥ずかしいからその言い方はやめてよもう……!」


 アッシュがエトナの手を取り、エトナがその手を握る。二人の薬指に付けられた指輪が擦れて軽い音を鳴らした。

 それに心地よく感じながら、二人は誰もいない廊下を歩いていく。

 二人はこの学院で〈灰被〉と蔑称で呼ばれる嫌われ者ペアであり、世界を救う英雄の卵であり、そして〈契り〉を交わし生涯を誓い合ったパートナーだった――


読んで下さりありがとうございます!

二人の過酷な運命の先が気になると思っていただけたら、【ブクマ】や【評価】などで応援していただけると彼女たちの励みになります! よろしくお願いします!

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