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手、繋ぐ。人類滅亡間際、救いの二文字は手の中に  作者: 睦月稲荷
第2掌 芽吹き取り戻す栄華
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第十二譜 溢れる想いを告げる。それを告白と云う

 場所を少し変え、エトナ達は周りに人がいない修練場の端の方へやって来た。

 エトナ達の前ではミツキとイリーナが教師の様に立って講義を始めようとしている。ミツキも前髪を上げていることから、割と本気モードでしてくれる様だった。


「で、〈合力〉の制御だっけ? 簡単よ。お互いを信頼して、心を通わせ合うだけ。相性の良い人と〈契りの儀〉を交わしたから簡単よ」

「みんな、お互いを信じているから〈合力〉を使える。単純だけど、それが答えだ」


――あのハスタもミィシャも想っている


「それは分かってるけど……出来ないから制御方法を……」

「分かってない。いい? 出力も保有量も制御能力も全部後付けの法則なの」

「発動も安定も発展も、根本は互いをどれだけ想っているか、だ。心を通わせるなんて、息をするも同然。心の呼吸を合わせれば、こういうことだって簡単に出来る――」


 その瞬間、何の脈絡もなくミツキが左裏拳でイリーナの顔面に殴りかかる。


「ちょ、何を……!」


 エトナの驚きの声に構わず振り抜かれる拳。当たれば顎が砕けそうなほどの勢いだ

 しかしそれがイリーナに直撃することはなく、まるで分かっていたかのように紙一重で躱すと、それに連動してイリーナが後ろ回し蹴りをミツキに放つ。

 それも、ミツキは分かっていたかの様に、迫るイリーナの脚に手を突き振り抜かれる勢いのまま宙返り。

 着地と同時に再び攻撃を繰り出すミツキだが、やはりそれも当たらない。

 速度は段々と加速していくが、それらが傷になることはなかった。


「すっご……」

「息、ピッタリだ」


 『絶対に当たらない』超高速戦闘下での組手。並の〈グロウズ〉なら間違いなく最初の一撃で昏倒しているだろう。

 そんな中でもまだ余裕があるのか、イリーナ達は『今の動き』を教材としてエトナ達に講義していく。


「もちろん後付けの法則は〈合力〉を鍛える上で必須だけど、心の呼吸が合っているっていう前提が出来ていないと、どれだけ鍛錬したとしても無駄」

「ただ、さっきも言ったけど〈契りの儀〉と〈指輪〉のおかげで、おれたちはその前提を最初から突破出来る様になっている。これは人類が生きる上で編み出した、絶対のシステムだ。だから逆説的に、おまえ達が出来ないのはその前提を突破出来ていないってことになる」


 動きが加速する中、ミツキが講義を継続する。


「いいか? 〈合力〉ってのは、相手と心を繋ぐ行為。それを手っ取り早く行うのが手を繋ぐことだ」

「そして、それが安定する理由でもある。指輪が重なるってこともあるけど、大事なのは手から相手の心の機微が伝わるということなの。

 心理的な安心感、身体信号の直接検知とか色々理論づけられるけど、要するに手を繋ぐことは心の扉を開くこと。その安心感を常に持っていれば、手を離してもお互いのことを信じられるってわけ」

「「――つまり」」


 イリーナとミツキが同時に言葉を合わせ、攻撃と同時に右手と左手を合わせる。

 パァンと乾いた音が鳴り、そのまま〈合力〉を発動。白く光る指をそれぞれが、エトナ達に突きつけた。


「あんた/おまえ達は、手を離した瞬間にその安心感が崩れるほどお互いを信頼しきれていないってこと」


 淡々と事実を述べただけの無情な宣告。

 それにエトナは血相を変えて否定する。


「そ、そんなことない! 私はアッシュのことを信頼してる! 他の誰よりもよ! 人類みんな私のことが嫌いだけど、アッシュだけは私にいつも寄り添ってくれてる……! アッシュがいるから私がいるの! なのに信頼しきれてないなんてあり得ないわ!」

「うん、僕も同意見。僕がエトナを信頼していない? そんなの天地がひっくり返ってもあり得ないね」

「まぁそうだろうね。おれが見る限り、おまえ達の信頼関係は相当なものだ。元々の実力が近しいのも、日常的に距離が近いのも、それに伴う連携も実に見事だ。お互いに大切に思っていることは、外から見ていても分かる」

「〈合力〉自体の出力そのものも、【レプリカント】を一撃で破壊した威力を鑑みれば十分ね」

「だったら!!」

「だから、手を離したらすぐに切れたり暴発したりするのが()()()()()()()。そうなる理由がない。何もかも完璧に近い、なのに〈合力〉が安定しないのは無意識のうちにそう思っているからだ」

「受け入れたくないことかもしれないけど、お互いを信頼しているっていう前提があってこその安定だ。出来ない時点で、『そう』としか言いようがないんだよ」


 突きつけられた事実に、エトナの顔が青ざめ、呼吸が荒くなる。

 頭の中を駆け巡るのは、自己嫌悪の横行。元より自己肯定感の低いエトナだ。

 原因が自分にあると察し、自分の嫌いなところがいくつも紐の様に現れては、ごちゃごちゃと絡まって心を混沌とした暗闇へと落ちていく。


「エトナ!」

「ご、ごめん……ごめんなさい……アッシュ……! 私は……あんなにいつもアッシュに寄り添ってくれてるのに……また私のせいで……! あぁもう……嫌! 私はなんでいつも……!」

「違う! エトナは悪くない! 多分、僕がエトナに甘えてたから――」

「――そうね。原因はエトナじゃない。あんたよアッシュ。あんたが全ての元凶よ」


 自己嫌悪や焦り、不安が入り乱れる中、イリーナの冷酷な言葉が絡まったエトナの(感情)を吹き飛ばす。

 エトナは信じられないと目を見開きアッシュを見るが、そんな彼もその双眸を大きく開いていた。


「僕が、エトナを信頼していない……?」

「正確にはちょっと違う。エトナがおまえを信頼し切れない理由が、おまえにあるってことだ」

「あんた、エトナの過去と今までのこと知ってるんでしょ? なら、目の前の人間を信頼することがどれだけ難しいことくらい分かるんじゃないの?」


 エトナとアッシュがお互いに目を合わせた途端、エトナの脳裏に全てを吹き飛ばして過去の映像が流れ込んでくる。


――なんでアンタみたいな子……。呪われた子を産むなんて最悪よ

――死んでしまえばいいのに

――お前に、孤児院の名前は与えん

――あの子、まだいるの? 気持ち悪い。


 鮮明に思い出される、周りにいた人たちからの嫌悪と侮蔑と嘲笑、そして死を願われる存在の否定。

 喉が渇いて貼り付き、言葉は音にもならない。息は荒くなる一方で、体も大きく震え出す。

 彼女の冷たくなった手を温めようとアッシュが手を握るが、震えは収まらない。

 そんな二人の様子を見ながら、教師役となっている二人はアッシュに答えを出す。


「覚えはないか? アッシュ。エトナからおまえが少しでも離れようとした時、今のように震えたことは? 彼女の感情が昂ったことは?」

「あ――」


 アッシュの記憶に、麻痺した手をも動かして胸ぐらを掴んだエトナの姿が再生される。


「依存めいてちょっとでも離れる素振りを見せたら震えるのは、『不安』だから」

「そもそもあんた、エトナに『なんで大事なのか』って理由をちゃんと伝えているの? ウチらだって、あんたがどうしてそこまでエトナに構うのが分からないんだよ?」

「あ……そう、いえば……」

「呆れた。なにも言ってないんだ」

「アッシュ、分からないってのは人類が一番怖がるものだ。エトナはその割合が人よりも多い。おまえはいつも人として――とか最もらしいこと言ってるけど、おまえ自身はエトナはどう思ってるのさ」

「――――」


 二人から冷徹で侮蔑を孕む視線で見下されるアッシュ。そんな視線はいつものことだが、今が一番アッシュの心を揺らしていた。

 歯を砕かんばかりに噛み締め、エトナへの申し訳なさで胸がいっぱいになる。罪悪感で張り裂けそうだった。

 けれど、そんなことよりもやるべきことはある――と深呼吸を一つ。


「……さっきは言葉は口にしろ――なんて言ってたのに、肝心なところを口にしていなかったなんてね。幼い頃だからってのは通用しないな。お婆ちゃんに申し訳ないし、なによりエトナに申し訳ないことした。ごめんよ、エトナ」

「ア……シュ……」

「だから、自分勝手ながらやり直させてくれないか。最初から、キミとの繋がりを結び直すために」


 エトナをどう想っているか。それを考えた瞬間に心に生まれた気持ち。

 ――手を繋いだまま、アッシュが心の奥底から湧き上がる想いを溢れさせる。


「僕がエトナを大切に思うのは、キミのことが大好きだからだよ。〈契りの儀〉なんて関係ない。えっと、こういう時なんて言うんだったかな。――そう、心の底から愛してる」

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