第七十話~完全決着~
第三階層では尚もカイトとドロイドの戦闘が続いていた。
ドロイドは土壇場で得たカーミラのドッペルゲンガー(分身)を発動させて二対一の状況に持ち込み、分身にはカーミラの戦闘スタイルで遠距離魔法攻撃、ドロイド自身はボアードの戦闘スタイルで近距離攻撃という作戦で一気に決着をつけにきた。
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃーッス!」
ドロイドはなりふり構わず剣を振るい、カイトに斬りかかる。
そして分身は遠距離から魔力弾や強力な属性魔法で援護する。
コーボは分身を作るところまでは成功したが、動かす事も出来ずに失敗していた。
しかし、ドロイドの分身はしっかりと動き、カイトに向かって正確に魔法を放っている。それも、縦横無尽に動き回るドロイドに誤爆させる事なく。
そう考えると、分身にこれだけの動きをさせているのは本当に凄い事なのかもしれないとカイトは思っていた。
「ほう、やるじゃないか。これ程精度の高い分身を作り上げるとはたいしたものだ。これは
私も少し本気を出さないとならないかもしれないな。」
「当たり前ッス!自分はロボットの頂点に立つ者。他のロボットと一緒にしないで欲しいッス!」
普通に考えれば、偽物とはいえ、ボアードとカーミラを同時に相手するなど常人には不可能である。
がしかし、カイトはボアードからの攻撃を右手で、カーミラからの攻撃を左手で器用に対処している。
カイトはいくらボアードが斬りつけてきてもフライ(飛行)やテレポーテーション(瞬間移動)でひらりと回避し、魔法で吹き飛ばすなどして距離を取り、隙を与えない。
そうかと思えば、カーミラからの魔法攻撃も瞬時に最適な魔法で対処し、隙があれば反撃している。傍から見てもカイトが押されているようには思えなかった。
そんな余裕の様子のカイトだが、その余裕の表れは転移してきた時からであった。
カイトは転移してきた時から四天王の座を与えられていたため、自分は多少実力がある方だと思っていた。
それに加え、人間の頃から自分は元々周囲より少し能力が高いと思うくらいには自信過剰な部分があったため、その性格も相まってこの余裕が生まれているのかもしれない。
だが、ボアードとカーミラもどきの二人がかりでも中々埋められない程の強さがどれだけ途轍もないものかをまだカイト本人は理解しておらず、更にこの旅での経験によって転移したばかりの頃よりも自分は強くなっている事など本人は知る由もなかった。
カイトはまだこの世界の強さの基準についてまだあまり理解していなかったためそれは無理もない話ではあるが、自分が思っていたよりもかなり強者の存在である事に気付くのはまだ先の事である。
その後も終始二体による攻撃を受けるが、カイトが遅れを取る事はない。
「くそっ、二人でも倒せないなんて、そんな筈はないッス!こーなったら、カーミラ、あれを頼むッス!」
ドロイドが分身に命じると、分身はエレメンタルウェポン(武器強化)とフィジカルリミットブレイク(身体能力限界突破)を唱え、ドロイドの大剣と身体能力を強化する。
そしてドロイドは大剣を大きく振りかぶり、全身全霊を込めた一撃を叩き込む。
「食らえッス!ソードバースト(爆裂剣)!」
強化された武器と技の効果で大剣は真っ赤なオーラを纏っている。
更に、身体能力の強化によって途轍もない威力と速度の斬撃が繰り出される。
流石にこれをまともに食らえばカイトは無事では済まないだろう。
だが、その振り下ろされた渾身の一撃を前にカイトは笑みをこぼす。
「ほう、これがボアードの言っていたエルフの里でグリーンドラゴンを屠った一撃か。本物ではないにしろ素晴らしい一撃だ。これを食らってしまえば私もタダではすまないだろう。しかし、だからと言ってこれを避けてしまっては男が廃るというものだ。よかろう、お前の全力の一撃に私もそれ相応の魔法で応えてみせよう。アルティメットスラッシュ(究極斬撃)。」
カイトはドロイドの斬撃が迫り来るこの僅かな時の流れの中で、片手を広げながらドロイドが振り下ろしている大剣に向かってアルティメットスラッシュなる魔法を発動させる。
すると目の前に横一線の白くて太い巨大な一本の斬撃が現れる。
それはカイトの魔法によって出現した斬撃で、その斬撃はドロイドの持つ大剣に向かって勢い良く放たれる。
「なんスかこの白い光りは?ええい、関係ないッス、それごと斬ってやるッス!」
ドロイドはその斬撃の正体が何かは分からなかったが、一緒に叩き斬れば問題ないと思いそのまま剣を振り下ろす。
しかしこの後、ドロイドは予想だにしなかった展開に直面する。
「ズバンッ!、、、ガッシャーン!」
なんと、ドロイドの大剣はカイトのアルティメットスラッシュにより真っ二つにされ、切断された剣の先の方が地面に落下したのであった。
そして、カイトの放ったその白い斬撃は空高く飛んで行き、雲を真っ二つしにして消えていった。
ドロイドはまさか自分の剣が弾き返されるどころか切断されるなど思っていなかった。
そしてカイトの斬撃が雲を割った様子を見て、未だに折れた剣を両手に握りながら唖然としている。
「な、何が起こったッスか?剣が、空が、まさか、いや、そんあ筈はないッス!」
現実逃避しているドロイドにカイトはありのままの事実を伝える。
「そのまさかなのだよ、ドロイドよ。この光景が信じられないようだから念のため説明してやるが、私はお前の斬撃を魔法の斬撃により剣ごと斬ってやった。そしてその斬撃はそのままの雲を割ったのだ。分かるか?」
カイトは丁寧に優しくこの場で起こった事を教えてあげるが、それでもボアードは認めようとしない。
なんせこんな無茶苦茶な出来事を認めてしまったら、それを体現した相手とどう戦えばいいかロボットでさえ分からなくなってしまいそうだったからだ。
「嘘をつくなッス!そんな事有り得ないッス!魔法か何かで幻でも見せているに決まっているッス!ソードバースト!」
自棄になったドロイドは折れた大剣で再びソードバーストを放つが、もうこれにはカイトも呆れて物も言えない様子だった。
「ふぅ、これだけ言っても分からんか。仕方ない。後の事を考えてお前はあまり傷付けたくなかったのだがな。もう一度見せてやるから身をもって知るといい。アルティメットスラッシュ。」
カイトは半分呆れた様子で再びアルティメットスラッシュを唱える。ドロイドは構う事なく折れた剣を振り下ろしてくるが、今度はもっと悲惨な結末が待っていた。
「ズバズバ、ガッシャーン!」
無情にもドロイドの両腕は肘から先が切り落とされてしまい、地面に転がった。
そして、本体と切り落とされた腕の切り口からは電気がバチバチと漏電している。
「どうだ?身をもって分かっただろう?これが現実だ。そしてこれが私とお前との圧倒的な力の差だ。」
ドロイドはカイトに両腕を切られたことで、ようやく受け入れたくなかった事実を認める。
「く、くそっ、ここまでとは。ここまでされたらもうお前の力を認めるしかなさそうッスね。どおりで戦いながらお前のデータをいくら収集しても解析が追いつかないわけッス。」
ドロイドはサライとコーボからボアードとカーミラのデータを収集しつつ、自分も戦闘中にカイトのデータを収集していたが、カイトのその強大な力故にデータの処理に時間がかかり、なかなか解析が完了しなかったという事実を吐いた。
どうやら強者であればある程データ量が多く、収集や解析に時間を要するようだった。
「やれやれ、ようやく認めたか。それにしてもこの戦闘中に私のデータも収集していたとはやるではないか!まぁ、無駄な努力に終わったみたいだがな。」
「ふん、確かにお前の魔法はとんでもない事が分かったッス。けどもし魔法ではなく単純な力比べだったらお前なんか軽く倒せたッスけどね!」
ドロイドは既に勝利を諦めているが、それでもまだ負け惜しみを吐いている。
その言葉を聞いてカイトはピクッと反応する。
「ほう、そうか。力比べならこの私に勝てると。面白い、その勝負乗ってやるぞ!もし私を肉弾戦で負かす事が出来たならお前の勝ちと認めてやろう!」
ドロイドは聞き流されるのを承知で負け惜しみを言ったのだが、カイトの思いもよらない返答に自分の耳を疑う。
「え?肉弾戦で勝負するッスか?まさかそんな、、、」
「同じ事を言わせるな。私はお前がそこまで言うものだから肉弾戦で戦ってやると言っているのだ。さぁ、さっさとその腕を拾え。どうせ簡単に繋がるのだろう?」
カイトが提示したこれ以上ない条件にドロイドは喜悦するかと思われたが、その逆だった。ドロイドはカイトから完全に舐められた事に憤りを感じていた。
ドロイドは怒りで身を震わせながら、切り落とされた両腕を足で一本ずつ器用に掬い上げるようにして宙に蹴り上げる。
そして、宙に舞った腕にぶつけるような格好で本体の切断面を接触させると、綺麗にジョイントされて両腕は元通りになった。
「ふん、待たせたッスねぇ。ここまでコケにされたのは初めてッス。覚悟するッスよ。」
「あぁ、分かったからさっさとかかってこい。」
「死ねッス!」
ドロイドは怒りをカイトにぶつけるかのように突進してくる。
すると、ここでカイトは自身に魔法をかけた。
「では私も戦闘スタイルを変えさせてもらおう。トランスフォーム(戦闘形態変化)、バーサーカー(狂戦士)。」
カイトはトランスフォームの魔法で自身の戦闘スタイルをバーサーカーへと変化させた。
すると、一瞬気を失ったかと思うと、ふっと目が覚めて表情が変わり、全身が赤色のオーラに包まる。そしてカイトは素手のままドロイドに襲い掛かる。
「それで自分に勝つつもりッスか!?甘い、もらったッス!」
ドロイドは間合いに入るとカイトに正拳突きを繰り出す。
しかし、カイトはひらりとかわし、そのままドロイドに目にも止まらぬ連打を浴びせる。
カイトは多少なりとも体術の心得はあるものの、かといってドロイドに勝てるかと言われると正直そこまでではない。
だが、トランスフォームでバーサーカーとなったカイトはこの肉弾戦において自身の本来の力を遥かに超える能力を発揮していた。
ドロイドは強化されたカイトの動きに付いていく事が出来ずに連打を浴びる。
カイトが放つ一発一発の拳がドロイドには重くのしかかり、ドロイドの機体はあっという間にボロボロにされ、意識が遠のいていく。
「まさか、、、そんな事が、、、カーミラ、助け、、、」
ドロイドは遠ざかる意識の中で分身のカーミラに助けを乞おうとするが、指示が通らない。
そしてカイトは腰を低く構えて、拳を後ろに引き、正拳突きでトドメを刺す。
「これで最後だ。ふんっ!」
「ぐはぁ!バチバチ、バチ、バチ、、、ヒューン。」
カイトの拳はドロイドの腹部にクリティカルヒットし、周囲に衝撃波が発生する。
ドロイドは、吹き飛ばされはしなかったものの、その場でショートし、やがて電源が落ちてぐったりとしてしまった。
勝負が決まったところでカイトが自身にかけた狂戦士化が解除され、自我を取り戻す。
「ふぅ、やれやれ、やっと終わったか。くっ、いてててて。この魔法は自分の意識が持っていかれるからあまり使いたくなかったのだが、あの話の流れになってしまった以上、流石にこれを使わないと勝てなかったからな。狂戦士化すると、知らない内に戦闘が終わるし、意識が戻ったかと思えば全身筋肉痛になっているからあまりやりたくないんだけどなぁ。ちょっと見栄を張り過ぎたな。大人しく魔法で決着を付けるべきだった。」
戦いが終わって意識を取り戻したカイトだったが、よく見るとまだカーミラの分身がその場に立っていた。
「あ、そうか、まだお前がいたか。けど主人がこの様子ならきっと。」
すると、分身は砂のようにさらさらと崩れ、塵となって消え去っていった。
「やはりな。分身のエネルギーの源はマナだ。即ち、分身が己の状態を保つためには常に主人からマナを受け取る必要がある。だが、その主人が戦闘不能になってしまえば当然お前も消滅するという事だな。さて、他も気になるな。一旦ここは引き上げてみんなの様子を見に行くとするか。」
カイトはドロイドとの勝負に完全決着をつけ、他の仲間の様子を見に行くのであった。
「面白かった!」
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