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第六十話~真剣勝負~

研究所の第一階層でサライと名乗る侍ロボットと相対したカイト達は、ボアードと一騎打ちをさせる流れに持ち込み、その隙にカイトとカーミラは第二階層へ向かうのであった。


「カイト様、あのブタにサライの相手を任せましたが、奴一人で大丈夫だったのでしょうか?仮にあいつが討ち死にしても、サライの足止めをして少しは時間を稼いでくれるのであればそれだけでも良いのですが、サライもあのブタの前脚、もとい腕を容易く切り落とす程の腕前です。一騎打ちをさせたのは少し荷が重かったのではないでしょうか?」


カーミラが少し、ほんの少しだけボアードの身を案じてカイトに尋ねる。

確かにカーミラの言う通り一騎打ちに持ち込ませたが、ボアードは苦戦するかもしれない。

ボアードが油断していたとはいえ、あの強靭な肉体の腕をいとも簡単に切り落とす程の実力者だ。

勝つのは容易ではないだろう。

ボアードも負けじと一発御見舞してやったが、それは相手の隙を突いた一撃だった。

だが、カイトはボアードが勝つ事を信じている。というか、勝ってくれないと困るのである。

これがゲームではなく、命を懸けた勝負である以上、卑怯と言われようが何と言われようが、あの場に三人が残り、三対一でサライを殲滅するという手もあった。

しかしサライには魔法耐性があり、カイトとカーミラでは相性が悪い上にこの状況はドロイドに間違いなく監視されている筈である。


つまり、ここで魔法を発動させてしまうとドロイドに手の内を知られ、解析されるリスクがある。

それは相手が解析のプロフェッショナルとされるAIロボットである以上、避けたい。

相手は人知を超えた頭脳を持っているが故に、これを許して一旦解析されると、こちらが予想もつかない対策を立てられてしまう可能性だってある。

であるならば、出来る限り手の内を見せず、先を急いでドロイドを討つのが得策であるとカイトは考えた。


そして何よりもカイトは今後の調査の事も踏まえ、サライを配下に加えたいと思っていた。


そのためにはカイト達がサライに勝つ事が大前提となるが、サライの性格を考えると、正々堂々と一対一で挑み、勝利する事が重要だと考えカイトはこの結論に至ったのである。


「カーミラよ、ボアードの事なら心配いらない。確かにサライを倒すには骨が折れるかもしれん。だが私が命じた以上、ボアードは必ず勝ってくれると信じている。」


カイトはドロイドの監視の目を懸念している事などをカーミラに伝えようとしたが、ここでは敢えて仲間を信頼しているという単純な理由だけを伝えた。

このままの展開だとカイトがドロイドと戦闘する可能性が高い。

そのため、下手に自分の魔法が解析されないようにと口を滑らせてしまうと、自分の戦いを有利にするため下部を犠牲にしたとも思われかねない。


ボアードとカーミラの忠誠心を考えると、カイトの役に立てるのならそれは光栄な事だと思うのかもしれないが、カイトからすると上に立つ者として、そんな無様で格好悪い事はないだろう。


なので、カイトは敢えてそれを伝える事をしなかった。


「そうですね、カイト様がそうおっしゃられるのであれば間違いございません。苦戦するかもしれませんが、必ず勝つでしょう。とんだ愚問を述べてしまい申し訳ございません。」


「いや、お前の心配はもっともだ。それに前にも言ったが私が判断を誤る事だってある。これからも私の意見や考えに疑問があるなら遠慮せずに言ってくれ。」


「はっ、かしこまりました。」


「うむ、ではこのまま第二階層に進むとしよう。」


カーミラがいつもは酷い仕打ちをしているボアードの事を気遣ってくれた一面を見てカイトはなんだか心がほっこりしていた。

こうして二人は第二階層の入口へと先を急いだ。


一方、第一階層ではボアードとサライが激しい打ち合いを繰り広げていた。

ボアードが大剣をまるで木の棒でも振るかのように素早くブンブン振り回してサライに斬りかかっているが、サライはそれを全て見切って一本の刀で受け流している。


「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃー、どうしたッスか!?攻撃を受け止めるだけで精一杯っすか!?少しは反撃したらどうッスか!?」


ボアードが一方的にサライを押しているように見えるが、サライはまだ手の内を隠しており、相手の力量を測っているように見える。


「そうか、お前は我がお前の力量を測っているとも知らずに押されていると思っているようだな。何とも愉快な奴だ。ではお望み通り、そろそろ反撃してやるとするか。」


サライが反撃を宣言すると、受け流していたボアードの大剣を激しく弾き返す。

ボアードは足で踏ん張ったものの、サライの強烈な弾き返しで五メートル程後退させられる。

ボアードが踏ん張った地面は抉られており、その衝撃の強さを物語っていた。


「今度は我から行くぞ!」


サライが地面を蹴り上げ突進すると、一瞬でボアードとの間合いを詰め、斬りかかってきた。

ボアードは大剣でサライの斬撃を受けるも、五月雨の如く降り注ぐ無数の斬撃を回避しきる事が出来ず、刃が体を切り裂く。


「くっ、中々やるッスね、でもこの程度の攻撃なんてことないッスよ!」


ボアードが受けきれない斬撃が体を切り裂くも、自慢の修復能力でたちまち傷口は塞がり、致命傷にはならない。

そしてボアードも段々サライのスピードに慣れてきて、気が付けばほぼ全ての斬撃を受け流せるようになっていた。


「ほらほらどうしたッスか!?もうお前のスピードには慣れたッスよ!」


「そうか、少しはやるようだな。ではここから少し本気を出させてもらう。」


ここでサライは手を止めて一旦後退し、ボアードと距離を取る。

すると、今まで両手で握っていた一本の刀を右手だけに持ち替え、左手で右の腰に差してあったもう一本の刀を抜き、二刀流の構えを取る。


「今度は果たしてどうかな?行くぞ!」


サライは二本の刀を振り上げて再びボアードに斬りかかる。

一刀流の時でさえ無数の斬撃を繰り出していたが、今度はそれが二倍になって襲いかかってくる。

ボアードがいくらスピードに慣れたからと言ってもこれでは手数多すぎて受けきる事が出来ず、斬撃を浴びてしまう。

一刀流の時に比べれば片手での攻撃である分、一撃の重みは軽くなるが、そんな事が比べ物にならない数の斬撃を浴びてしまい、ボアードの自己修復も段々と追いつかなくなってしまっていた。


「くっ、このままではまずいッス。喰らえッス!」


このまま守っていても勝ち目がないと判断したボアードは防御を捨てて、大剣を思い切り振りかぶり、サライに斬りかかる。

だが、その瞬間を待っていたかのようにサライはボアードにカウンターを浴びせる。


「ふっはっはっはっはっ!この瞬間を待っていたぞ。これで終わりだ!」


サライはボアードが大剣を振り上げた瞬間、それが振り下ろされるよりも前に右手の刀でボアードの胸を突き刺し、体を貫く。

ボアードは止む事のない連撃に耐えかねて形勢逆転の一発を放とうとするが、サライはそれを読んでおり、致命的な一撃を浴びせる。


「ぐ、ぐはぁ!」


ボアードはサライの刀が胸を貫いた瞬間、時が止まったかのように大剣を振り上げたまま動きが止まる。口からは血を吐き、刺された胸からも大量に出血している。

そしてしばらくすると、遂には振り上げていた大剣も手から離れてしまい背後に落下して地面に突き刺さる。


「我にこんな大きな隙を与えるとは愚かな奴だ。少しは手ごたえがある奴かと思ったが結局大した事はなかったな。」


そして勝利を確信したサライはボアードの胸に突き刺さった刀を抜こうとする。


「さて、上に行った二人を追いかけるとするか。」


「ベンジェンス(報復)。」


その時、ボアードは途切れかけた意識の中でベンジェンス(報復)を発動させた。

するとボアードは落とした大剣の代わりに振り上げていた両手を組む。

両手は次第に赤く光り出すと、そのままサライの頭上を目掛けて拳を振り下ろされる。


「な、何!?」


サライはボアードの予想外の反撃に回避する事が出来ず、慌てて胸に刺さった刀を抜き取り、二本の刀を頭上で交差させ、振り下ろされる拳を防ごうと試みる。

ボアードの拳とサライの刀が衝突すると、周囲に激しい衝撃波が発生し、その衝撃で周りの地面は陥没する。


サライはボアードの攻撃を何とか弾き返そうと踏ん張っているが、機械の力でも抵抗できないくらいの途轍もない怪力に機体が押され、体制が低くなり、地面がみるみるうちに沈降していく。


そして遂にサライの刀はボアードの拳に砕かれ、そのままサライの頭部に渾身の一撃が炸裂した。

サライは地面に穴が開く程の威力で思いっきり叩きつけられ、再び激しい衝撃波が周囲を包む。


ベンジェンス(報復)の威力を見るからに、ボアードは相当のダメージを負っていた事が分かる。


やがて衝撃波が止み、視界が開けると、そこには地面に伏しているサライの姿があった。

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