第五十八話~侍ロボットのサライ~
カイト達はコロネフ居場所に向かうため、工場内のエレベーターから研究所の上層階を目指していた。
だがその途中、ほんのちょっとした、もといビッグアクシデントが起こり、第一階層に辿り着く事となる。
そして、そこで一同はある物を発見する。
「本当だ、何かあそこにありますッスね、ロボットッスかね?」
カイト達はボアードとカーミラの痴話喧嘩で気が付いていなかったが、フロアの真ん中あたりに一体のロボットがいるのを発見した。
フロアは百メートル四方程度の広い空間で、ボアードはエレベーターの扉から十メートル程離れた所まで吹き飛ばされ、現在三人はその場所に居る。
そしてそのロボットはちょうど部屋の中心、すなわちエレベーターの扉から五十メートル程離れた場所にいた。カイトはそのロボットの姿を見て動揺する。
ロボットの見た目はヒューマンタイプが元になっている。
それだけであれば、マーベルに入ってから何体も見てきたので特に動揺するような事ではないのだが、カイトが驚いたのはそのロボットに装着されていた装備だ。
なぜなら、ロボットの外装には日本の侍のような赤色と黒色を基調とした甲冑が施されており、腰のあたりには日本刀のようなものが二本差さっていたからである。
これはどこからどう見ても侍をモチーフにした装甲である。
この世界の一般常識、規則、法則等のある程度の理は地球にいた頃の世界と大差はないのだが、今まで海斗がこの世界で触れてきた人や文化等はどれもこの世界特有のものであった。
この世界に人間やロボットが存在するという事は地球と重なる部分ではあるものの、あくまでそれは人と機械という大分類の部分が重複しているだけで、そこから掘り下げていくと、この世界の人間は魔法を使用できたり、ロボットはこの世界固有の形や機能を持っていたりという点で地球のそれとは異なる事が分かる。
そのため、海斗はこれまでもこの世界の中で地球にも存在し、類似した物事は目にしてきたが、そこにはこの世界特有の要素が含まれていたため今回のように驚いたりする事はなかった。
しかし、ここで日本文化特有の侍の姿を目の当たりにした。
これがまだ鎧風の装甲を纏い、刀のような剣を装備したロボットであればそこまで驚く事はなかっただろう。
だがこれ程までにピンポイントで侍に似た姿のロボットを地球から来た異世界人が目の当たりにすれば驚くのは当然であり、ある疑念が生じるのは必然である。
そう、その疑念とは海斗以外の転移者の存在である。
この侍ロボットはドロイドの適当な思い付きでたまたま侍に似たような見た目になったのであろうか?果たしてこんな偶然があるのだろうか?
冷静に考えてそんな偶然などある筈がない。
どこかに自分以外の何者かが地球からこの世界に転移して来ている。
そう考えるのが自然であり、海斗自身も転移を経験している事を考えるとその可能性の方が十分に高い。
そして転移した何者かは侍を用いているあたりからすると、転移者は日本人あるいは日本に興味のある者の可能性が高い。
今得られている情報だけでいろいろと推測しても仕方がないのだが、十中八九、カイト以外にも転移してきた地球人、それも日本人がこの世界のどこかにいるだろう。
ちょっとした寄り道のつもりだったが、思わぬ収穫があった。
もっと情報を入手するためにもこのロボットはなんとしてでも捕らえて詳しく調べたいところである。
目の前に現れた侍ロボットの事を考えるあまり頭がいっぱいになっていたのだが、先程からこちらがあれだけの騒ぎを起こしているのにも関わらず、侍ロボットは警戒するどころか身動き一つしていない。
最初からずっとあぐらをかいて座っており、顔は俯いている。
この様子を見ると、どうやらまだ起動していないようである。
「今までの物とは違い、このロボットは少し変わった風貌をしていますね。今は起動していないようですがいかがいたしますか?」
カイトは、このロボットを何としてでも持ち帰りたいと思っているため、自分の事情は伏せたまま自然に回収する流れに誘導する。
「うむ、そうだな、これは今まで見てきた中でも特殊な機体だろう。このまま放置しておいても構わないと思うが、量産はされていない希少な機体だ。詳しく調べる事で今後何かの役に立つかもしれない。ドロイドの討伐が完了したあとに回収するとしよう。ボアードよ、ドロイドの討伐が完了次第この機体を回収し、引き上げるのだ。」
「承知しましたッス!それにしてもなんだか格好いい剣を持っていますッスね。見た事がない形をしているッス。ちょっと見せてもらうッス。」
ボアードが侍ロボットに近付き、腰に差してある刀に触れようとする。
するとその瞬間、なんと侍ロボットの目が赤く光り出し、起動した。
起動した侍ロボットは目にも止まらぬ速さで立ち上がり、腰にある二本の刀の内の一本を抜き、居合切りをする。
あまりにも速い所作にボアードは対応出来ず、辛うじて斬られる寸前で危険を察知し、一歩後退するが、侍ロボットの刀はボアードの右腕を捕らえる。
結果、ボアードの手首は切り落とされ、地面にボトッと落ちてしまった。
斬られた傷口からは血がぼたぼたと流れ出ている
「くっ、いきなり動き出すとは、、、油断したッス。」
ボアードは痛がっている様子はなく、止血するために傷口を抑えているが、出血が止まらない。
カイトはすぐに魔法で応戦する。
「ウィンドブラスト(暴風)!」
カイトは強力な風魔法を発動させて侍ロボットを吹き飛ばす。
ロボットは凄まじい勢いで吹き飛び、壁に激しく衝突した。
衝突した際の衝撃により壁にはクレーターが出来たが、ロボットが損傷した様子はなく、あまりダメージは与えられていないようだった。
ロボットはすぐに動き出そうとするが、ボディが壁にめり込んで抜けないようだ。
ボディをぐいぐいと動かし自らの力で抜け出そうとしているが、その隙にカイト達は陣形を整える。
「カーミラ、ボアードに治癒魔法を!私はボアードが回復するまであのロボットを食い止めておく!」
カイトの命令でカーミラは素早く行動を開始する。
「かしこまりました、カイト様。エクストラヒール(大回復)。おい、お前はさっさと自分の腕を拾え。」
カーミラはボアードに回復魔法を唱えるが、重傷を負っているのにも関わらず冷たい態度でボアードに腕を拾うように命令する。
「まったく、もう少し怪我人には優しくして欲しいッスよ。やれやれッス。」
「貴様ぁ、誰のせいでこんな事になったのか分かっているのか?貴様が無暗に近づかなければこんな事にはならなかったのだぞ?少しは身の程をわきまえろ、さもなければ治療を中断するぞ?」
「分かったッスよ。すまなかったッス。治療をお願いしますッス。」
ボアードもボアードで、自分の腕が切り落とされたのにも関わらず、いつもの調子で落ち着いている。そうなってくると、この状況で一番焦っているのはカイトなのかもしれない。
そうこうしている間にボアードは自分の腕を拾い上げ、傷口にくっつける。
すると、カーミラの魔法とボアード自身の自己修復でみるみるうちに傷口は止血され、腕が元通りに繋がっていく。
だがその間にロボットはめり込んだ壁から抜け出し、壁を蹴り、途轍もない速さで再びこちらに襲い掛かってくる。
「ボアードの事は少々心配し過ぎたようだな。流石に切断されたからまずいと思ったのだが、あいつの回復力とカーミラの魔法を侮っていたようだ。まったく頼もしい限りだ。しかし、あのボアードの強靭な肉体をいとも簡単に切断したところを見ると侮れない。ロックジェイル(岩牢獄)。」
カイトは更に足止めをするために岩魔法で侍ロボットを閉じ込める。
四方八方を突然岩で塞がれたロボットは岩の中で沈黙する。
「これで我を封じ込めたつもりか?まったく馬鹿馬鹿しい。笑止千万!」
ロボットは喋り出し、カイトのロックジェイル(岩牢獄)をまるで豆腐のようにスパスパと微塵切りにすると、簡単に脱出してしまった。
「ほう、なかなかやるようだな。ボアードの腕を切り落としただけの事はある。ではこれはどうだ?ボルケーノフレイム(爆炎)。」
カイトは相手の力量を試すかのように今度は炎魔法を発動させる。
ロボットは炎の塊に全身が包まれ焼かれる。
あまりの火力のためこちらから中の様子を窺い知る事は出来ない。
流石にこれで倒せるとは思っていないが、それでも今度こそは少しでもダメージを与えられたかとカイトは手応えを感じている。
「ぬるい、ぬるいぞ!何だこの攻撃は!」
だがしかし、またしてもカイトの攻撃は一蹴されてしまう。
ロボットがその場で刀を素早く振り回すと炎は掻き消されてしまった。
カイトの強力な魔法を掻き消すとは中々の強者であるが、それでもカイトは動じる事はなく、ボアードの傷の状態を確認する。
「ボアードよ、そろそろ傷は治ったか?」
カイトがボアードの方を見ると、傷は完全に塞がり、腕もくっついていた。
どうやら丁度治療を終えたようだ。
「はいッス!自分はもう大丈夫ッス!」
「よし、そうか、おいそこの侍ロボット!私はお前と少し話をしたい。一時休戦としないか?」
カイトはボアードが回復し、こちらの体制が整ったのを確認すると、攻撃の手を止めてロボットに向かって話しかけた。
ロボットがこちらの言う事に耳を傾けてくれるかは五分五分だったが、ロボットは侍というワードを聞くとピクリと反応し、一旦手を止めるのであった。
「ほぉ、よく我が侍である事を知っているな。それで我と何を話したいのだ?」
「そうだな、ではまずお前の名前を教えてくれ。おっと、その前に私の名はカイト。そして下部のボアードとカーミラだ。」
「カイト、それにボアードとカーミラか。我の名はサライ、ドロイド様に作られた侍ロボットだ。」
「サライか。ところでサライよ、ドロイドは何故お前のような侍の事を知っているのだ?侍という者は本来この世界には存在しない筈だが?」
「そうなのか?我は侍として作られただけなので詳しい事情はよく分からぬ。それはドロイド様に聞いてみる事だな。だが逆に何故お前はこの世界に存在しないという侍という名を知っている?」
カイトはサライから他の転移者の手掛かりになりそうな情報を聞き出そうとしたのだが、それが返って墓穴を掘る事になってしまった。
カイトはサライの返しに焦ったが、言葉に詰まっては怪しまれてしまうと思い、頭を高速回転させて言い訳を考えるのであった。
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