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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第6話、魔王の器の恐怖 その1

     第6話、魔王の器の恐怖


     第6話その1


「チックチャックさん……あなたは…クズです」

 縛られて転がされた姿勢のままだったが、フリルフレアはキッパリと言い放った。それに対し言われた当のチックチャックは兜の奥でニヤリと口物を歪めていた。

「誉め言葉だと受け取っておこうか、フリルフレア」

「……くっ」

 罵倒も効果が無かったと知り顔を歪めるフリルフレア。その様子を鼻で笑いながら見ていたチックチャックは長剣を一振りするとバレンシアに近寄っていった。一方のバレンシアも薙刀を構えて待ち構えている。

「さてバレンシア、今度は……こちらから行くぞ!」

「ぬかすが良いわ!」

 次の瞬間互いに駆け出したバレンシアとチックチャック。そのままガキィン!と激しい音を立てて薙刀と長剣がぶつかり合う。そのまま互いに相手の武器を弾くが、バレンシアはその後も華麗に薙刀を繰り出し続けた。振り下ろし、袈裟斬り、薙ぎ払い、刺突、石突、斬り上げ、連続突き。何度も繰り出される薙刀に対し、チックチャックは長剣、あるいは魔法反射大盾で完璧に防ぎ、反撃として長剣で何度も斬りかかっていった。連続でバレンシアに襲い掛かる長剣の刃、攻撃の合間に薙刀で防ぐバレンシアだったが、チックチャックの剣は鋭く、バレンシアの身体にいくつもの傷をつけていった。致命傷や有効打は避けていたが、それでも細かな傷は増えて行ってしまう。

 それでもバレンシアはチックチャックに対して不敵な笑みを浮かべて見せた。

「どうしたチックチャックよ。鎧や盾は大層なのに対して剣は大した魔剣では無さそうじゃな」

「くくく、そう見えたのも仕方は無いな。まだこの剣の真の力は見せていないからな」

「…真の力…じゃと?」

 余裕の態度を崩さないチックチャックに対し、バレンシアの首筋を冷たい汗が伝い落ちる。正直な話、チックチャックの技量はバレンシアの知るそれを遥かに上回っていた。恐らく、パーティーに入り込んでいた時は手を抜いていたのだろう。冒険者ランク9と言っていたが、恐らく実力はそれ以上だろう。

 そこまで考えたところでバレンシアはふとあることに気が付いた。

「チックチャック、そう言えばお主どうやって冒険者に成りすましたんじゃ?」

「成りすます?」

「そうじゃ。今回の依頼、冒険者ギルド経由だったはずじゃ、じゃが冒険者認識票は特殊な方法で作っておるから偽造は不可能なはず……」

「何だ、そんな事か。簡単な話だ、俺は本当に冒険者なんだよ」

「冒険者じゃと?」

「そうだ。最も普段は依頼など受けてはいないがな」

 チックチャックの言葉に、目つきを鋭くするバレンシア。

「つまり、こうやって生贄を集める時に冒険者に紛れる為だけに冒険者になったと?」

「いや、違う……そもそも俺は初めから冒険者だった。ランキラカス様にお仕えする一族の者として恥ずかしくない力をつけるため、いわば修行のためだ」

「フン、なるほどのぅ……」

 バレンシアはそう言うと再び薙刀を構えた。それに対しチックチャックも長剣を構えている。

「おしゃべりはここまでだバレンシア」

「同感じゃ。そろそろ決着をつけるとするぞ!」

 叫びと同時にバレンシアが一気に間合いを詰める。そして渾身の力で薙刀を大上段から振り下ろした。

ギイィン!

 甲高い音がする。渾身の力で振り下ろされたバレンシアの薙刀は、しかしチックチャックの漆黒の武器封じの鎧を前にその役目を果たすことは無かった。薙刀の刃はチックチャックの鎧にまたしても傷一つ付けることは出来なかった。

 それを見たチックチャックが兜の奥で口元をニヤリと笑みに歪める。それを直感で感じ取ったバレンシア、背筋に冷たいものが走る。咄嗟に身を引こうとしたが、それよりも一瞬早くチックチャックの剣がバレンシアを一閃した。

ドガアァァン!

 激しい爆発音が鳴り響く。チックチャックがバレンシアを一閃した瞬間、バレンシアの身体で爆発が起きた。チックチャックの剣閃によって右脇腹から左肩に掛けてバッサリと斬り裂かれたバレンシア、その傷口は焼け爛れ、爆発によってぐちゃぐちゃになっていた。

 思わず片膝をつき口から血を吐くバレンシア。

「ゴフッ……な、何じゃ今のは……?」

 バレンシアの疑問にチックチャックは自慢気に長剣を掲げる。

「この剣は爆発の魔剣・エクスプラウド。セレド家に伝わる最強の魔剣だ!」

 次の瞬間チックチャックは再び魔剣を振り下ろした。バレンシアはそれを咄嗟に薙刀の柄で受け止める。

ドゴオオォォン!

 やはり爆発する魔剣。そしてバレンシアの薙刀が柄の所で真っ二つに破壊されていた。

「ぐ……お、おのれ……」

 実家から持ち出してきた愛用の薙刀を破壊され歯を食いしばるバレンシア。口惜しいが、このままでは勝ち目は………無かった。

「バレンシアさん!私に構わず逃げてください!」

「フリルフレア⁉」

「このままじゃ、ランビーさんの仇どころか、バレンシアさんまで殺されちゃいます!」

「………くっ」

 悔しそうにギリッと歯ぎしりするバレンシア。だが、それを聞いたチックチャックは魔剣を掲げるとそのままバレンシアに突き付けた。

「残念だが諦めろバレンシア。俺はお前を逃がすつもりは無い、お前の様な危険な女はこの場で始末させてもらう!」

 叫びと共にバレンシアに向かって魔剣の刃が振り下ろされる。咄嗟に両手を交差させて防ぐバレンシア。だが、爆発の魔剣は容赦なくバレンシアを斬り捨て、爆発させる。そして魔剣の一撃の直撃を受けた左腕が肘の辺りから吹き飛んだ。

「ぐあああああああああ!」

 思わず叫び声を上げるバレンシア。フリルフレアが「バレンシアさん!」と悲痛な声を上げているが、今のバレンシアにはそれすらも耳に入っていなかった。

 左腕を押さえながらチックチャックを睨み付けるバレンシア。チックチャックの後ろでフリルフレアが「くっ、縄さえほどければ……。お願い!縄を解いてください!バレンシアさんを治療しないと!」と叫んでいたが、その言葉は二人のどちらにも届いていなかった。

「無様だなバレンシア…。せめて苦しまぬようにこのままあの世に送ってやる」

 そう言って魔剣を振り被りバレンシアに近寄るチックチャック。それに対しバレンシアは吐き捨てるように言い放った。

「無様がなんじゃ!妾の命、そう簡単に取れると思わぬことじゃ!」

 そう叫んだバレンシア。そのまま外套を脱ぎ捨てると、止血もせずに精神を集中し始めた。

「このバレンシア・ワーグナー、あまり舐めるでないわ!…オズー・オフォフ・アルオド…『ドラゴフォーゼ!』」

 次の瞬間魔法が発動し、バレンシアが光に包まれ始めた。


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