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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第3話、消えてゆく者達 その5

     第3話その5


「チックチャック!」

 バレンシアの叫びが響き渡る。50m以上あるであろう崖から落ちて無事で済むとは考えにくかったが、それでもみな崖の淵に近寄ろうとする。

 しかしそれを遮る様に無数のレッサーデーモン達が行く手を阻む。

「クソッ、よくもチックチャックを!」

 激高したランビーがレッサーデーモンに斬りかかる。しかしレッサーデーモンはその斬撃を槍であっさりと受け止める。

「落ち着くのじゃランビー!今はまずこ奴らを何とかせぬと、妾達も屍を晒すことになるぞ!」

「わ、分かりました、姐さん!」

 バレンシアの言葉に落ち着きを取り戻すランビー。レッサーデーモンの攻撃を避けながら一旦距離を取った。その横ではアレイスローが油断なく杖を構え魔法を発動させる隙を伺っている。

バスッ!

 アレイスローと背中合わせになる形でフェルフェルがクロスボウを撃ち、レッサーデーモンを撃ち抜いていた。矢はレッサーデーモンの右肩に当たり槍を取り落とさせる。だが一撃で倒すところまでは至っていなかった。

「チッ…もう一発…撃つ…」

 舌打ちしながら次の矢をクロスボウに装填するフェルフェル。淀み無く矢を装填したフェルフェルは再び同じレッサーデーモン目がけて矢を撃ち出す。

バスッ!

「ギイイィィィィ!」

 叫びをあげるレッサーデーモン。フェルフェルの撃った矢はレッサーデーモンの胸に命中した。しかしレッサーデーモンはしぶとく矢を2本刺したまま、いまだ空を飛んでいた。

「ダメ…これじゃ…威力足りない…」

 苦々しく呟くフェルフェル。そしてそんな彼らをあざ笑うかのようにレッサーデーモン達は一行を取り囲む様に飛んでいた。そして巨体を持つ黒い怪物も手にした巨大な戦斧を肩に担ぎ、ニヤリと口の端を上げていた。自分たちが圧倒的有利だと確信しているのだろう。

「まいりましたね。まさかグレーターデーモンまで出てくるとは……」

 アレイスローが額から冷たい汗を流しながら黒い怪物を見上げた。アレイスローの言が正しいならばそれはグレーターデーモンであり、その力はレッサーデーモンなどとは比べ物にならない。アレイスローはどうやってこの窮地を脱するか、頭をフル回転させながら考えていた。

「アクセス!炎の精霊サラマンダーよ、あなたの息吹を私に貸し与えて!『ファイアシュート!』」

 フリルフレアの撃ち出した炎の弾丸がレッサーデーモンに直撃する。しかし、やはり一撃で倒すには至っていなかった。

「ミィィィ……強い…」

「そうか?」

 フリルフレアの呟きに対し、ドレイクがどこか緊張感に欠ける声で答える。そして襲い来るレッサーデーモンの槍をあっさりと弾くと、返す刃でレッサーデーモンの胴を両断していた。

「白騎士野郎も気になるしな。さっさと片付けるか!」

 その瞬間ドレイクは地面を蹴りすさまじい跳躍をする。それは一気にレッサーデーモンに肉迫するほどの跳躍で、ドレイクはそのまま大剣を振り回した。

「ゼリャアアアァァァァァ!」

ザシュ!サス!ズバン!

 音を立ててレッサーデーモンが三体両断される。その様子にバレンシアは目を丸くした。

「ドレイク殿、まさかこれ程とは……未だ実力を隠していると見える」

 そう言いつつバレンシアも薙刀を振り回し、レッサーデーモンを斬り裂いていた。

 レッサーデーモンを残り2体まで減らした一行。しかし、グレーターデーモンはいまだ健在であり、さらにチックチャックと共に谷底に落ちて行ったレッサーデーモン達は谷底から戻ってきていた。途中でチックチャックだけを放り出して戻ってきたのだろう。彼の安否が気にかかったが、今はまず目の前の魔物たちを倒すのが先だった。

「ダメ…これじゃ…倒せない…」

 フェルフェルがそう言いながらクロスボウを足元に放り捨てる。そして背中に背負っていたもう一つの長大なクロスボウを取り出すと、折り畳まれていた弓の部分を展開させる。

 それは一見すると奇妙な形をしたクロスボウだった。全長は1,3m程もあるだろうか、

非常に頑丈そうな弓の部分は縦に付いており、弓の真ん中に長大な矢を装填する場所がある。そして弓の弦を引くために回転式のレバーがついていた。

 フェルフェルは矢筒から長大な矢を取り出すとその長大なクロスボウに装填し、弦を引くためのレバーを高速回転させる。

「フェルさん、それは?」

 アレイスローの言葉にフェルフェルはその長大なクロスボウを構えながら答えた。

「フェルで…良い…フェルも…アレイって呼ぶ」

 そう答えながら狙いを定めるフェルフェル。

「これは…超長距離射程狙撃弩弓(ハイパーロングレンジスナイピングクロスボウ)…」

 そう言いながらトリガーを引くフェルフェル。

ドバスッ!

 激しい音を立てて撃ち出される超長距離射程狙撃弩弓の矢。そしてその長大な矢はレッサーデーモンを1体撃ち抜いていた。そのあまりの威力にレッサーデーモンは胸から上が消し飛んでいる。

「すごいですね!これは負けていられません!」

 そう叫ぶとアレイスローは精神を集中させた。その手の中に魔力が集中していく。

「ヴァル・リィズ・イド・ヴェルド・レイ・フォード…『ブラストレイ!』」

 次の瞬間アレイスローの掌から超圧縮された光線が撃ち出された。その光線はレッサーデーモン一体の上半身を吹き飛ばすと、そのままその後ろにいたレッサーデーモンの右腕を消し飛ばした。

「上級攻撃魔法とはさすがじゃのアレイスロー。ならば妾も!」

 次は自分の番だとばかりに叫ぶバレンシア。そして薙刀をクルクルと回転させ、その石突で地面を叩いた。

「ウスエル・ウブーア・ティーオルウ…『ウォーターブレス!』」

 バレンシアが竜語魔法を発動させる。竜司祭である彼女は本来ならば竜のみが使える竜語魔法を一部使うことが出来るのであった。そして発動された魔法は水の激流となってレッサーデーモンを撃ち抜く。激しい水流がレッサーデーモンを打ち砕いていた。

「すごい!さすが姐さん!」

 ランビーが歓声を上げる。これで残りのレッサーデーモンは2体。勝機も見えてきた。

「アマリチョウシニノルナヨ」

 喜んでいたのもつかの間だった。今まで静観を決め込んでいたグレーターデーモンが巨大な戦斧を振り上げて襲い掛かって来た。

「シネ!」

 巨大な戦斧の刃がバレンシアに向けて振り下ろされた。

「うぬ!」

 思わず薙刀で防ごうとするバレンシア。その巨大な刃をはたして受けきることが出来るかどうか不安がよぎる。だが戦斧がバレンシアに振り下ろされたその瞬間だった。

ガキイィン!

 激しい金属音と共にグレーターデーモンの繰り出した巨大な戦斧が受け止められた。いつの間にかグレーターデーモンとバレンシアの間に入り込んだドレイクが、その巨大な戦斧を大剣で防いでいたのだ。

「待てよ、お前の相手は俺がする」

 そう言ってグレーターデーモンの戦斧を弾き返すドレイク。グレーターデーモンは目の前に突然割り込んできた赤いリザードマンが自分の攻撃を難なく防いだことに驚きを覚えていた。

「オノレ…キサマ……」

 ドレイクを睨みつけるグレーターデーモン。それに対しドレイクも鋭い視線をグレーターデーモンに送っていた。

「ドレイク殿!」

「手出し無用だバレンシア。フリルフレア、バレンシア達のサポートに回れ」

「え?う、うん。了解」

 ドレイクに言われ、仕方なくバレンシア達のサポートに着くフリルフレア。ドレイクは改めて大剣を握りなおすと、切先をグレーターデーモンに向けて構えた。

 そして次の瞬間ドレイクの脚が凄まじい踏み込みと共に地面を蹴った。その衝撃に地面が踏み砕かれる。その跳躍はすさまじく一気にグレーターデーモンに肉迫していた。

「チェアリャアアァァァァ!」

ガキイィィン!

 グレーターデーモンを超える高さまで跳躍したドレイクが大剣を振り下ろす。対してグレーターデーモンは戦斧で大剣を防ぎ、そして反撃として戦斧を薙ぎ払う。しかしドレイクはその戦斧の薙ぎ払いを大剣で受け止めると、返す刃でグレーターデーモンに斬りかかった。

 それらの行動を空中でやってのけたドレイクとグレーターデーモン。グレーターデーモンはいまだ翼で飛んでいたが、ドレイクは再び地面に降り立った。そして再び跳躍すると、空中でグレーターデーモンと斬り合いを始めた。

ギイィン!ガキイン!キィン!ガキィィィィン!

 ドレイクの大剣とグレーターデーモンの戦斧が幾度となく打ち合う。刃と刃がぶつかり合い、火花を散らしていた。

「コザカシイトカゲガ!」

 苛立ったグレーターデーモンは地面に降り立つと、右手を掲げた。右の掌に魔力が集中していく事が分かる。

「クタバルガイイ!アルファ・ラー・コウンド・ボミオス…『ポイズンミスト!』」

 グレーターデーモンの掌から紫色をした毒々しい霧が広がっていく。

「ポイズンミスト⁉いけません!皆さん、この霧を吸い込まないでください!」

 焦ったようにアレイスローが叫ぶ。そうしている間にもグレーターデーモンが魔法で作り出した毒の霧はどんどん広がっていった。

「な、何これ⁉」

 辺りを包み込む毒の霧にフリルフレアは思わず膝をついた。紫の霧を吸い込まないように手で口を塞いでいるが、あまり効果は無さそうだった。そして周りを見れば自分同様フェルフェルとランビーは膝をついており、バレンシアとアレイスローもそれぞれ薙刀と杖に寄りかかっていた。

「いけません……このままでは…」

 アレイスローが苦しそうにつぶやく。毒の霧にパーティーは一気に窮地に立たされることとなった。

 しかし次の瞬間毒の霧の中を正面から突き進む赤い影があった。それはドレイクだった。

 毒の霧をものともせずに突き進むドレイク。そして地面に降り立っていたグレーターデーモンに対し、一気に大剣を振り下ろす。

バキイイイイン!

 ドレイクの斬撃を戦斧で受け止めたグレーターデーモンだったが、大剣の刃が戦斧の刃に食い込んでいた。

「オノレ!イマイマシイトカゲガ!」

「残念だったな!お前はその忌々しい蜥蜴にやられるんだ!」

 次の瞬間ドレイクは再び戦斧に大剣を振り下ろした。

バキイイィイィィィィィィィィン!

 激しい音を立てて戦斧の刃が打ち砕かれた。ドレイクの大剣がグレーターデーモンの戦斧を破壊したのだった。

「オノレエエエ!」

 得物を失い拳を振り上げるグレーターデーモン。だがそれよりも早くドレイクの剣閃がグレーターデーモンを斬り飛ばす。

ザシュ!

 音を立てて斬り裂かれるグレーターデーモンの胸部。だが、次の瞬間ドレイクの大剣は再び唸りを上げた。

「ゼアリャアアアァァァァァ!」

ザバァン!

激しい音を立てて斬り裂かれるグレーターデーモン。ドレイクの大剣はグレーターデーモンを袈裟懸けに一刀両断していた。

「が……あ……」

 断末魔を上げる間すらなく絶命し崩れ始めるグレーターデーモン。そして見れば残り2体いたレッサーデーモンもアレイスローとバレンシアにより撃破されていた。


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