第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第3話、消えてゆく者達 その4
第3話その4
山頂付近にあるという神殿を目指し山道を登る一行。昼も過ぎ、日か傾き始めた位だろうか。朝からずっと山道を登り続けていたうえ、連日の登山の疲れもありフリルフレアの脚はパンパンだった。
「はあ、はあ……」
「おいフリルフレア、大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫」
明らかに疲れ切っている様子のフリルフレアを心配するドレイク。実際フリルフレアは口では「大丈夫」と言っていても脚がフラフラだった。正直、見ているドレイクがいつか倒れるんじゃないかとヒヤヒヤするほどだった。
「アレイスローよ。フリルフレアがそろそろ限界じゃ、このあたりで少し休まぬか?」
そう提案するバレンシア。しかしアレイスローは首を横に振った。
「それは私も考えたんですが、こんな山の中の獣道ではおちおち腰も降ろせませんよ」
「む、確かに……」
どうしたものかと頭をひねるバレンシア。そんなやり取りを聞いて、チックチャックが名案があるとばかりに口を挟む。
「脚が疲れたなら、飛んで行ったらどうだ?」
「チックチャック…バカ…飛ぶの…歩くより疲れる」
「何だ、そうなのか………だが俺はバカでは無いぞ」
フェルフェルの言葉に不満を口にするチックチャック。だが実際フェルフェルの言う通りバードマンが翼で飛行すると普通に走るよりも疲労する。疲労困憊なフリルフレアには無理な芸当であった。
「何だよ、じゃあどっかで休憩するのか?」
ランビーの言葉に一同辺りを見回した。山頂に向かって続く獣道のみで後は木々が生い茂り地面には草も生えている。
どうしたものかと脚を止める一行。しかしそんな中ドレイクはフリルフレアをヒョイと抱え上げるとそのまま抱きかかえてしまった。ドレイクの腕の中にお姫様抱っこされたフリルフレアがスッポリと収まっている。
「あわわわわわわ!ド、ドレイク⁉何するの⁉」
「いや、お前そろそろ限界そうだし、このまま少し休んでろ」
「ミィィィ!ヤダよ!降ろしてってば!恥ずかしい!」
「知るか、大人しくしてろ」
「ミイイイィィィィィ!」
恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にするフリルフレア。周りの視線が恥ずかしいのか顔を両手で隠してバタバタ暴れているが、ドレイクの手からは逃れられそうもなかった。
「思ったより元気だな」
「そうでしょ⁉だから下ろして!」
「いや、でもこのまま行こう」
「ミイイィィィ!何で~⁉」
無情にもフリルフレアの叫びが響き渡る。そしてドレイクはどことなく楽しそうに再び山道を登り始めた。
その様子をポカンと見つめていたアレイスロー達。慌ててドレイクの後に続く。
「どことなく楽しそうですね、ドレイクさん」
アレイスローの言葉に頷くバレンシアとフェルフェル。
「そうじゃの。どうやらあの二人の間に妾の付け入る隙は無さそうじゃな」
「フリルフレアと…ドレイク…ラブラブ?」
少し残念そうにため息をつくバレンシアと少し頬を赤くしながら楽しそうに二人を茶化すフェルフェル。
「別にそんなんじゃないからな」
「そ、そうです!別に私とドレイクはそういう関係じゃ……」
しっかりと否定するドレイクとフリルフレアだったが、一行は疑わしげな視線を送っていた。
「別にそんなにムキになって否定しなくても分かっていますよ」
そう言ってニコニコと笑っているアレイスロー。
「ふむ、リザードマンとバードマンの恋路か。良いではないか」
ニヤリと笑うバレンシア、二人の関係を面白がっているようにも見える。
「何だよ。本当は昨日の晩しっぽりしてお楽しみだったんじゃないのか?」
ランビーがニヤニヤと笑みを浮かべながら左手で作った輪の中に右手の人差し指を出し入れしていた。ドレイクとフリルフレアが性行為に及んでいたと言いたいらしい。
「フリルフレア…お幸せに…」
フェルフェルがまるでお嫁に行く友人に送る様な言葉を口にしながら微笑んでいた。フリルフレア的には否定したかったのだが、フェルフェルがあまりにもいい笑顔で微笑んでいた為、思わず口をつぐんでしまう。
「はあ……下らん」
チックチャックだけは興味が無いと言いたげにため息をついていた。しかし、だからと言って特に嫌悪感を表したりはしていない。仕方ないといった表情でドレイク達の方を見ていた。
「もう知らない」
恥ずかしさのあまり両手で顔を隠したままドレイクの腕の中で丸くなるフリルフレア。特に気にせず歩みを進めるドレイク。ちなみにフリルフレアが身体を丸くしたことで彼女の小ぶりなお尻がドレイクの左手の上にもろに乗っていたのだが、フリルフレアは気付いた様子もなかった。
(小さい尻……身体だな。こいつこんなんで子供産めるのかよ?)
何やら失礼なことを考えるドレイク。もちろんこんなことを言えば何を言い返されるか分かったものでは無いので口には出さなかったが、フリルフレアの小さな身体に改めて不安がよぎる。身体が小さいと言う事は体力が無く、身体の頑丈さにも欠けると言う事だ。実際フリルフレアは術者としては優秀だったが、直接的な戦闘能力はかなり低かった。恐らく町の腕自慢にも勝てないだろう。それだけに、もう少しフリルフレアに気を使ってやるべきかと考え直すドレイクだった。
「しかし赤蜥蜴の旦那よ。旦那の一物、そんなちっちゃい小娘に入るのかよ」
何やら未だ下ネタを言い続けているランビー。そんなランビーを「これランビー、下品じゃぞ?」とバレンシアがなだめていた。
そんな状態のまま山道を登り続ける一行。そしてついに開けた場所に出た時、一同は言葉を失った。
「崖だと⁉」
広場に出た一行の行く手を谷底に通じる崖が塞いでいた。谷の間を覗き込むチックチャック。そして振り返ると首を横に振った。
「ダメだ、谷底まではおそらく50m以上ある。対岸まではおそらく10mくらいだろうが……」
チックチャックの言葉に頭をひねる一行。神殿のある山頂付近に行くにはこの谷を越えなければならない。だが見た所この谷を越えるため吊り橋の様なものは見当たらなかった。
「どうするべきかのう?」
「この高さ、落ちたらひとたまりもないぜ」
谷底を覗き込んでいだランビーが身震いしながら戻ってくる。
「どうしますか姐さん。迂回したほうが……」
ランビーの言葉にバレンシアは首を横に振った。
「いや、地図によれば神殿はこのすぐ先じゃ。それにつり橋があると書いてある」
「吊り橋?見当たりませんが……?」
崖に近寄りまわりを見回すアレイスロー。しかし吊り橋らしきものは見当たらなかった。
「どうする?今日はいったんここで野営にするか?」
チックチャックが周りを見回してそう言う。確かにそろそろ野営の準備を始めても良い時間ではあった。
「高い崖の上…谷底に…落ちたら即死…飛行系モンスター…出たら厄介…」
「フェルさんそう言う縁起でもないことを言うと現実になるのでやめてください」
少し楽しそうに言うフェルフェルにジト目を送るアレイスロー。その後ろではドレイクがフリルフレアを下ろしていた。
「ミィィィ、恥ずかしかった……」
いまだ顔を赤くしているフリルフレア。そんなフリルフレアの横でドレイクは鼻をヒクヒクと動かしていた。
「ちょっと待て、瘴気の臭いがするぞ」
「瘴気の匂いじゃと?」
「ああ、バレンシアもリザードマンならわかるだろう?」
「いや……生憎と妾にはわからぬが………?」
不思議そうにしているバレンシア。だがドレイクの嗅覚は確実に瘴気の臭いを感じ取っていた。
「来るぞ!」
ドレイクが上空を見上げる。次の瞬間無数の黒い影が翼をはためかせて舞い降りてきた。
人影は黒い山羊の頭と下半身、筋肉質なヒューマンの男の上半身を持ち、背中からは一対の蝙蝠の羽が生えた化け物だった。その手には長槍を持っている。
そんな姿をした怪物が合計で12体ほども舞い降りてきた。
「レッサーデーモン⁉何故こんな所に⁉」
アレイスローが驚きの声を上げる。下級悪魔とも呼ばれるレッサーデーモンだが、上級の悪魔に比べれば珍しくないとはいえ、それでもこんな山中に突然現れるなど普通では考えられないことだった。まして一度にこれほどの数ともなればなおさらである。だが、そうしている間にもレッサーデーモンたちは槍を片手に襲い掛かって来た。
「「「ギィエエエェェェェ!」」」
奇怪な叫び声を上げながら襲い掛かってくるレッサーデーモン。ドレイク達は応戦するためにそれぞれの武器を抜き放つ。
「チェアリャアアアァァァ!」
ザバァァン!
激しい音を立ててドレイクの大剣が長槍ごとレッサーデーモンを一刀両断する。そしてさらに襲ってくるレッサーデーモンの槍を避けると左手でその頭を鷲掴みにする。
「フン!」
グッシャァ!
レッサーデーモンの頭を地面に叩きつけるドレイク。頭を潰されたレッサーデーモンにとどめとばかりに大剣を突き刺す。
そして各々が多数のレッサーデーモンに対応しているその時だった。
「う、うおおおおお!」
突如チックチャックの叫びが響き渡る。上空から聞こえたその声に上を見上げるドレイク達。そこにはいつの間に現れたのか黒い筋肉質の巨体に角の生えた鬼の様な厳つい顔をし、背中から蝙蝠の翼を生やした怪物がいた。明らかにレッサーデーモンよりも強くより上位な存在であることが伺える。そしてその横では3体のレッサーデーモンが翼をはためかせながら3体掛かりでチックチャックに組み付いていた。
「チックチャックさん!」
アレイスローの声が響く。だが次の瞬間レッサーデーモン3体はその身体を崖の下へと躍らせた。
……………そうチックチャックと共に。
「うわあああああああ!」
叫び声だけを残し、チックチャックは3体のレッサーデーモン共々谷底へと消えていった。




