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第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第3話、消えてゆく者達 その3

     第3話その3


「どういう事じゃチックチャック。何故オルグは姿を消したのじゃ?」

 バレンシアの問いにチックチャックは「わからん」と言いながら首を横に振った。

 順番に見張りをしながら睡眠を取った一行。そして全員が目を覚ました時にはオルグは姿を消していた。

 オルグと共に最後に見張りをしていたチックチャックに訊いた限りでは、どうやらオルグは「ちょっと用を足してきます」と言って出て行ったきり帰ってこなかったとのこと。

 食事をしていればそのうち返ってくるだろうと思い朝食を済ませた一行だったが、オルグは帰ってくる気配すらなかった。

「チックチャックさん、オルグさんと一緒に見張りをしていた時に何か変わった様子はありませんでしたか?」

「変わった様子……か…」

 アレイスローの質問に対し、そう言いながら腕を組み眼を閉じるチックチャック。何か思い出しているようにも見えた。

「何だよ、何かあったのか?」

「オルグと…チックチャック…喧嘩…した…?」

 ランビーとフェルフェルの視線にチックチャックは「う~む」と唸っていたが、意を決したように口を開いた。

「実は……オルグの様子はおかしかった」

「やはり何かあったのか?」

 バレンシアのその言葉にチックチャックは再び首を横に振った。

「何かあった訳では無いし、オルグがどうして姿を消したのかは分からん。だが、あの男が昨日の夕食のことをまだ引きずっている様に見えた」

「夕食って言うと、鹿肉事件のことか?」

「いつの間に鹿肉事件などという名前が付いたのかは知らぬが、まあその事だ」

 ドレイクの言葉に、ツッコミを入れつつも頷くチックチャック。

「それで、『吾輩は……吾輩は悪くない!』とか『やはり冒険者など野蛮人の集まりだった!』とか『こんなところは吾輩がいるべき場所ではない!一刻も早く町に帰り、新たな事件を解決せねば!』とか言っていた」

「なあそれってさ、オルグはアラセアに帰ったってことじゃないか?」

 ランビーの言葉に一同顔を見合わせる。山に入って何日もたつのに、一人で帰ろうとしたりするだろうか?確かにチックチャックの言では魔物などの気配はしておらず、オルグが一人の時に襲われた可能性は低いと言う。だからと言って一人で下山するなど無謀としか思えない行動を取るだろうか?仮にも名探偵を名乗るのだから、頭は切れるだろうし、無茶なことをするとも考えにくかった。

「あの……そもそもオルグさんは何で皆さんについて来たんですか?」

 フリルフレアがドレイクも感じていた疑問を口にする。

「オルグさんも探偵として依頼を受け、冒険者行方不明事件を捜査していたと言っていました」

 そう答えるアレイスロー。だがフリルフレアは首を傾げていた。

「依頼を受けて捜査をしていたのは分かるんですけど、なぜ皆さんに接触を?」

「何故って………何故でしょう?」

 フリルフレアの疑問に答えることが出来ず、バレンシアに視線を送るアレイスロー。しかし、視線を受けたバレンシアも少し考えただけで、すぐに視線をチックチャックに移した。

「何故じゃ?」

「何故じゃ?と言われてもな……何故だ?」

 バレンシアからの視線を受けたチックチャックだったが、頭を捻りながらランビーに視線を向けた。

「何故だ?って……オイラに分かる訳ないだろ。なんでだ?」

 視線を受けたランビーだったが、考えもせずにフェルフェルに視線を送る。

「オルグ…捜査に危険が伴う…って思ってたのかも…」

 フェルフェルの言葉に「なるほど」と納得するフリルフレア。しかし、アレイスローは腕を組んで考え込んでいた。

「本当にそれだけでしょうか?」

「他に何かあるのか?」

 ドレイクの問いに首を横に振るアレイスロー。

「分かりません。ただ、探偵が冒険者と一緒に行動するなど普通はあり得ません。ならば・……」

「何かしら意図があってついてきた?」

「はい、恐らくは」

 ドレイクの言葉に頷くアレイスロー。その横ではチックチャックも頷いていた。

「確かにあの男、我らがこの依頼に集まるとすぐに接触してきたからな」

「確かになぁ」

 そう言って頭の後ろで手を組むランビー。しかしその言葉を聞いたドレイクは疑問を口にした。

「『依頼に集まる』?お前ら元からパーティーを組んでたわけじゃないのか?」

「おお、そう言えばちゃんと説明しておらんかったか」

 そう言うとバレンシアはランビーの方を指差した。

「妾は元々ランビーと共に行動しておったのじゃ。最も妾が何度も自分のパーティーを造れと言ったのだが全く聞こうともしないんじゃがな」

 ヤレヤレと言ってか肩をすくめるバレンシア。そんなバレンシアの態度にランビーが鼻息を荒くする。

「オイラは姐さんの一番弟子なんだから当然だぜ!一生姐さんについて行く!」

「何度も言っておるが、今のお主の実力では妾にとっては足手まといじゃ」

「分かってますよ!だから姐さんと一緒に行動して一日でも早く姐さんに追いつきたいんだ!」

 ランビーの言葉に「はあっ」とため息をつくバレンシア。しかし話が脱線したことを思い出し話を戻す。

「とにかく妾とランビーは共に行動しておったが、他は別じゃ。アレイスローも、チックチャックも、フェルフェルもみなこの依頼を受けようと集まってきた者達じゃ。じゃがこの依頼自体が複数での捜査を指定していたのでその場で急遽パーティーを組んだんじゃ」

「皆さん臨時パーティーだったんですね」

 納得しつつも意外に思うフリルフレア。臨時パーティーにしてはかなりバランスの取れたパーティーだったためてっきり正規のパーティーだと思っていたのだ。

「しかし、それだとあの迷探偵は何のためにお前らに接触してきたんだ?」

「私達の…誰かに…用が…あった?」

 ドレイクの言葉をフェルフェルが引き継ぐ。だが、その問いに答えられる者はこの場には居なかった。

「仕方がありません。とにかくオルグさんのことは放っておくしかないでしょう」

「え⁉探しに行かないんですか⁉」

 アレイスローの言葉に驚くフリルフレア。しかしバレンシアもフェルフェルも首を横に振っていた。

「オルグは自分の意思で出て行ったのじゃ。それならば妾達が追いかける必要はない」

「それは……確かにそうかもしれませんけど……」

「オルグ…名探偵…自分の身は…自分で守る…」

 バレンシアとフェルフェルの言葉にそれでも納得がいかないフリルフレア。そんな彼女の肩をドレイクがポンと叩いた。

「あの迷探偵は自分から姿を消したんだ。ならそっとしておくのが本人の為だろう」

「ドレイク……分かった」

 渋々頷くフリルフレア。そして一行は再び冒険者行方不明事件に関係があると目される神殿を目指して歩き始めた。


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