第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第2話、事件を追う者達 その3
第2話その3
マゼラン村に着いたドレイク達はそのままアレイスローたちが泊まっているという村長の家の離れに行った。そこには村で調べ物をしていたというアレイスローの仲間の女リザードマンと女バードマン、そして仮面をつけた謎の男がいた。
その3人に軽く会釈をするドレイクとフリルフレア。そのままドレイクとフリルフレア、アレイスローの3人は離れの中の一室に集まり席に着いた。話の内容が内容だけにアレイスローの仲間たちは同席を遠慮する様だった。
「改めて……兄の身に何が起きたのか、教えてください」
「ああ、分かった…」
そのままドレイクとフリルフレアは偽物のロックスローと出会って一緒に冒険したこと。ラングリアで起きた行方不明事件とそれに端を発したマン・キメラ事件のこと。マン・キメラを造り魔導士に化けていたブレイン・ジャッカーのこと。そしてフリルフレアの弟とも言うべきピータスという少年もその犠牲になったことや、ロックスローに化けていたバルゼビュートという悪魔が全ての黒幕だったことを話した。
「あなたのお兄さん……ロックスローさんは冒険者としてとても信頼されていたみたいなんです。だからパパ先生も信用してマン・キメラの資料を渡したと言っていました」
「それだけ信頼されていたからあの悪魔侯爵に目を付けられたんだろうな…奴の口ぶりからすると一人の所を狙ったんだろうな…」
フリルフレアとドレイクの言葉を黙って聞いていたアレイスロー。俯いていて表情はうかがえないが、握りしめた拳に涙の滴が落ちていた。
「兄は…ソロ冒険者でしたからね……その悪魔にも都合が良かったんでしょう…」
搾り出す様にそう言うアレイスロー。顔を上げたアレイスローは涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら拳を震わせていた。兄を殺された無念と兄を殺した悪魔への怒りで身を焦がす思いをしているのが見て取れた。
「その悪魔侯爵って奴は殺した相手の姿や能力を奪えると言っていた。その能力であんたの兄に化けていたんだ。……遺体は恐らく魔法で燃やしたんだろう……」
「そうですか……」
ドレイクの言葉に静かに頷くアレイスロー。しかしドレイクはこの時あえて嘘をついていた。悪魔侯爵バルゼビュートの本当の能力は『喰らった相手の姿や能力を奪う』ことである。だがドレイクはあえてロックスローが喰われたという事実を隠し、殺されたと嘘をついたのだ。
会ったことのない本物のロックスローには悪いが、今目の前で兄の死に打ちひしがれているアレイスローに、『あんたの兄は悪魔に喰われた』などと残酷なことは言えなかった。ましてバルゼビュートの言が本当なら、ロックスローは生きながら喰われたことになる。そんな事実をアレイスローに教えることは出来なかった。気休めにもならないが、それで少しは悲しみが和らげばと思った。
「その……バルゼビュートという悪魔は……どうなったのですか…?」
「ドレイクが…倒しました…」
フリルフレアの言葉にハッとした表情でドレイクを見るアレイスロー。複雑な表情でドレイクを見ていた。
「あなたが……ドレイクさんがその悪魔を…バルゼビュートという悪魔を倒した…?」
「ああ……その…すまない」
頷くドレイク。しかし気まずそうな顔をするとそのまま立ち上がりアレイスローに頭を下げた。
「どうして謝るのですか?」
「あんたが……兄貴の仇を取りたかっただろう?……だが、知らずに俺はあの悪魔を倒してしまった…」
「……そんな事ですか…」
首を横に振るアレイスロー。そして自身も立ち上がるとドレイクに対して深々と頭を下げた。
「私の方こそお礼を言わせてください。…あなたは…私には出来なかったであろう兄の仇を討ってくれたのですから」
「いや、しかし……」
「兄が勝てなかった相手なら私も勝てませんよ。それよりも兄の仇を討ち、こうして真実を打ち明けることで兄の汚名を晴らしてくれたことに感謝します」
頭を上げるアレイスロー。その瞳はまだ濡れていたが、表情はどこかスッキリした様だった。言葉通り本当にドレイクに感謝しているのだろう。
「むしろ、兄がそのバルゼビュートに殺されたことが全ての発端になっている……。その事でフリルフレアさんのご家族にも被害が……申し訳ありません!」
今度はフリルフレアに対し深々と頭を下げるアレイスロー。フリルフレアは慌てて立ち上がるとワタワタと両手を振った。
「頭を上げてくださいアレイスローさん!ピータスのことは仕方が無かったんです。それにロックスローさんのせいじゃありません。ロックスローさんだって被害者ですもの」
そう言って涙を浮かべながら微笑むフリルフレア。恐らく、ピータスのことを思い出し、同時にロックスローの無念を思い涙しているのだろう。
「優しいのですねフリルフレアさんは……。ありがとうございます」
そう言って頭を下げるアレイスロー。次に顔を上げた時には何か吹っ切れた様な表情をしていた。
「兄の無念は晴らされた。仇もすでに討ってある。ならば私からこれ以上は何も言う事はありません」
「でも…アレイスローさん…」
「良いのです。それに私も兄も冒険者になった時からこういう日が来ることを覚悟していました」
そう言ってアレイスローは立てかけてあった杖を手に取った。
「それに私も冒険者の端くれ。仕事の最中に私情を挟むつもりはありません」
「分かった……それならこの話はここまでにしよう」
頷くとドレイクは大剣を背負った。フリルフレアもその横で頷いている。
「実は私達はこの近辺で起きている冒険者の行方不明事件の調査という仕事をしていまして……」
「行方不明事件の調査ですか?」
どこかで聞いたような仕事内容に疑問の声を上げるフリルフレア。
「それって、ラングリアの冒険者ギルドで張り出してあった仕事だよね?」
「そう言えばそんな依頼書があったな」
フリルフレアとドレイクの言葉に首を傾げるアレイスロー。
「そうなのですか?もしかしたら同じ依頼を別の場所でも掲示していたのかもしれませんね。私達はアラセアで仕事を受けたんですよ」
「そうなんですか?私たちの運んでいる荷物もアラセアからだったんですよ」
アレイスローの言葉に答えながらフリルフレアは自分の背負っている箱をアレイスローに見せる。
「俺たちはアラセアからコルト山中の神殿まで祭事に使う宝珠を運ぶ仕事の最中なんだ」
「そうだったのですか。偶然ですね」
そう言って微笑むアレイスロー。そして「そうだ!」と手を打つと部屋の扉を開けた。
「せっかくですので私の仲間を紹介しますよ」
そう言って部屋を出るアレイスロー。ドレイクとフリルフレアは顔を見合わせるとアレイスローの後に続いた。




