第3章 赤蜥蜴と赤羽根と魔王の器 第2話、事件を追う者達 その2
第2話その2
「ロ、ロックスロー…さん……?」
「金髪優男⁉」
フリルフレアとドレイクが驚きの声を上げる。そこにいたのは確かにマン・キメラ事件の時に共に冒険をしたロックスロー・ストランティスその人だった。
「そんなバカな……」
そう言ってドレイクはフリルフレアを自分の後ろに下がらせると、油断なく大剣を構えてロックスローを睨みつけた。
それもそのはずである。ドレイク達の知っていたロックスローは実は偽物であり、侯爵という爵位を持つ悪魔バルゼビュートが化けていた姿だった。そしてそのバルゼビュートの口から本物のロックスローは自分が殺して喰ったという事実を聞かされていた。だから目の前にいるロックスローが本物のはずは無いのである。
「どうして貴様が……」
「ドレイク!もしかしてあのバルゼビュートが生きてたんじゃ…」
「そんな筈はない!あいつは俺が確実に倒した!身体が消滅したのも確認している!」
「でも…それならどうして!」
ロックスローを睨みつけるドレイク。そしてその後ろから疑惑の視線を送るフリルフレア。そんな視線に晒されたロックスローは呆然としながらドレイク達を見ている。
「え?あ、あの~……」
「何だよ、知り合いなのか?」
「いいえ、全く知りません」
ホビットの盗賊の問いにそう答えるロックスロー。その様子はとぼけている様にも誤魔化しているようにも見えなかった。
「知らないだと?とぼけるなよ金髪優男」
「えっと…誰の事です?金髪優男って……」
凄むドレイクだったが、ロックスローはやはり何のことだか分からないと言いたげだった。ホビットの盗賊と白い鎧の戦士は話について行けず戸惑いながらも様子を伺っている。
「まだとぼける気か?お前意外のどこに金髪優男が……」
そこまで言って言葉を切るドレイク。そして自分の言葉と目の前のロックスローに何か違和感を感じた。そして次の瞬間フリルフレアが大声を上げる。
「あ!待ってドレイク!このロックスローさん金髪じゃない!」
「何い⁉……た、確かに……」
驚きの声を上げたドレイク、確かに目の前のロックスローは金髪では無く銀髪だった。ドレイクは感じた違和感の正体がそれだと気付いたが、それと同時に頭の中が混乱するのが分かった。
「え、えっと……つまりお前は金髪優男じゃなくて銀髪優男……ってことか?」
「いえ……その、金髪やら銀髪やら言われましても……何の事だか…」
そう答えるロックスロー(?)だったが、何となく事情を察したのかドレイクとフリルフレアに微笑みかけてきた。
「もしかして兄の、ロックスローの知り合いの方ですか?」
「え……兄って…」
フリルフレアの言葉に頷くロックスロー(?)。
「はい、私はアレイスロー・ストランティス。ロックスローの双子の弟です」
「「ふ、双子の弟―⁉」」
驚きのあまりドレイクとフリルフレアの声がハモる。だが、双子と言われれば確かにそんな気もしてくる。髪の色が違うのもその証拠だと言えた。
「そ、そうか……双子の弟か…」
そう言うとバツが悪そうに構えていた大剣を鞘に納めるドレイク。その横ではフリルフレアが愛想笑いをうかべていた。
「お前が金髪優男だなんて言うから!」
「ドレイクだって間違えていたじゃない!」
不毛な責任のなすりつけ合いをするドレイクとフリルフレア。そんな二人を見ながらアレイスローはホビットの盗賊と白い鎧の戦を指差した。
「それとあっちのホビットがランビー、こっちのヒューマンの戦士がチックチャックです」
「俺がランビーだ。さっきはサンキューな」
「チックチャックと申す。助力に感謝する」
各々礼を言うランビーとチックチャック。
「それで…あなた方は?」
「ああ、俺はドレイク。こっちのちっこいのは…」
「フリルフレアです。ドレイク、ちっこいのは余計だよ」
「事実だろ」
名乗りつつも話が脱線するドレイクとフリルフレア。そんな二人を見て笑っていたアレイスローだったが、気になることがあるのか疑問を口にした。
「ところでお二人は、兄とどういった関係なのですか?」
「「え…」」
再びハモるドレイクとフリルフレア。まあ、何となくこういった質問をされるのではないかと予想はしていたが、それでも実際に訊かれると言葉に詰まってしまう。それに、そもそも本物のロックスロー本人を知っている訳では無いので何とも説明しづらい。正直に全ての真実を教えて良いものかどうかも悩むところだった。
それでもやはり口を開かざるを得ない。本物のロックスローの死を肉親であるアレイスローに黙っている訳にはいかなかった。
(正直に……言うしかないよな…)
話す決意をするドレイク。隣ではフリルフレアがどのように言葉をオブラートに包んで伝えるか苦心していたが、ドレイクはその肩に手を添えて首を横に振った。
「いい…俺が話す」
「ドレイク……」
不安そうにドレイクを見つめるフリルフレア。だがドレイクはそんな彼女を後ろに下がらせると意を決して言葉を紡いだ。
「変にはぐらかすとあんたに失礼だと思うからまず結論から言っておく。金髪優男…あんたの兄は………死んだ」
「死んだ⁉」
驚きの声を上げるアレイスロー。ドレイクの言葉がショックだったのだろう。そのまま呆然としていたが、すぐに目元を片手で覆うと天を仰いだ。その肩はフルフルと震えている。
「……本当なのですか?」
「そんな悪趣味な冗談は言わない」
「…そうですね……」
そう言って言葉に詰まるアレイスロー。手で隠した目元からは涙がこぼれ落ちていた。
「………………」
しばし上を向いていたアレイスロー。しかしそのまま目元から手を離すと乱暴に服の袖で涙を拭った。
「兄は……兄はなぜ死んだのですか?」
「あんたの兄は……バル何とかって言う悪魔侯爵に殺されたんだ」
「バル何とか……?」
「バルゼビュート…です」
アレイスローの疑問に答えるフリルフレア。その顔には悲痛な表情が浮かんでいた。
「あんたの兄は冒険者としての信用の高さとランク11って言う実績、それらを奪い化けて成りすますために殺されたんだ」
「…奪う?…成りすます?…どういうことです?」
ドレイクの言葉に疑問を投げかけるアレイスロー。ドレイクの言葉が理解できないというよりは、兄であるロックスローの死が受け入れられない、そういう感じだった。
「あんたの兄は、マン・キメラ事件と呼ばれる事件に関わっていたんだ」
「マン・キメラ事件?………それは、ラングリアで人間が怪物になって町を破壊したあの事件のことか?」
ドレイクの言葉にチックチャックが口を挟んでくる。マン・キメラ事件のことを知っていることに驚きを覚えたドレイクだったが、とりあえず頷いておく。
「その通りだ。よく知っているな」
「ラングリアで騒ぎになったってこの界隈じゃ有名な話さ」
そう言って肩をすくめるチックチャック。ドレイクは再びアレイスローに視線を戻した。
「そもそも俺もフリルフレアも正確に言えばあんたの兄のことは知らないんだ。俺たちが出会ったのは金髪優男の偽物だった」
「そう…だったのですか……」
そこで言葉を区切るとアレイスローはドレイクとフリルフレアに視線を向けた。
「話はまだ続く用ですねですね。こんなところで立ち話も何ですから、今私たちのパーティーが泊まっている村に行きましょう。そこで兄の話を聞かせてください、詳しく」
「村?近くに村があるのか?」
「はい、マゼラン村という村があります。まずそこに行きましょう」
そう言って歩き出すアレイスロー。どうやらいきなり知らされた兄の死に頭がついて行かず、頭を整理する時間が欲しい様だった。そのことを察したのか無言でアレイスローに続くチックチャックとランビー。ドレイクとフリルフレアも無言でその後に続いた。
アレイスローの握りしめた拳はあまりに強く握りしめたために爪が皮膚に食い込み僅かに血を滴らせていた。




