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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第93話 収穫祭1(賭け闘技試合)

中途半端になってしまったので、夜も更新します。

 晴れ渡った秋空。

 高いところに刷毛で引いたような筋雲が数本。

 朝の大気は涼しく、頬や体を引き締める。


 村の通りは朝から賑やかだった。

 今日だけは畑仕事と建築をすべて休み、村を練り歩いた。

 近隣の村や、王都からも見物客がやってくる。

 旅館を建てたので繁盛していた。


 王都からは食べ物の屋台が呼ばれ、行商人が露店を出す。

 串焼き、揚げパン、海産物のフィード焼き。果実ジュースやお酒。おもちゃのような指輪やアクセサリ、くじ引きの店などもあった。

 行商人は生活品や、ちょっと高い陶器や金属器を売った。こちらは物々交換でも交渉可能だった。


 屋台は小銀貨1~2枚(1枚100円)ぐらいだったが、村人はあまり現金を持たないため、事前に模様を押した木の板を10枚配られた。10枚分、ただで屋台が楽しめる。クーポン券みたいなもの。

 中には旅人に券を半額で売って、現金を手に入れる村人もいたが、それは個人の裁量ということで黙認されていた。

 


 村人たちはいつものぼろぼろの作業服と違って、きらびやかに装飾された衣装をきているものが多かった。はぎれやくず糸を寄り集め、手作りで作ったらしい。


 とにかくいつもと違って華やかだった。



 俺は、セリカとミーニャ、それにラピシアを連れて歩いた。

 串焼きの屋台で立ち止まる。

「どうだい、旦那! 一本いっとく?」

「貰おうか。セリカ、払ってくれ」

 俺は金もクーポン券も全部渡していた。


「はい、ケイカさま……わたくしもいただきますわ」

 セリカはおっちゃんに券を2枚渡す。

「はいよ! 焼き立てだから火傷しないようになっ」

「どうも、ありがとうございます」

 俺も受け取った。

 ミーニャも交換していた。

 ラピシアだけは目移りするようで、木の板を握り締めてきょろきょろしていた。



 一口食べると、甘いタレと香ばしく焼けた鳥肉の香りが口の中に広がる。

 サッパリした肉に、タレの濃厚さがよく絡む。

「うまいな、これ」 

「甘辛くて、柔らかい肉とよくあってます――はむっ」

 セリカは口元を手で隠しながら上品に食べる。一人だけ場違いな美しい仕草だったので、通り過ぎる人々の目を釘付けにしていた。

 本人は気付いていなかったけれど。

 

 ミーニャは口を動かしながら串をじーっと見つめる。

「魚醤とはちみつ、香味野菜2種、あと……お酒?」

「作れそうか?」

「甘いお酒が使われてる。知らない味。これがわかれば作れる」

「みりんのように途中で発酵止めて甘くしたやつかな。このタレはいろいろ応用が利きそうだ」

「わかった、頑張る」

 ミーニャは残りをぱくぱくと食べていく。そして味を調べるためかもう一本、買いに行った。



 ラピシアも釣られて購入。

 2人は食べながら、手を繋いで歩いた。あちこちの露店や屋台を冷やかしている。

 自然と俺とセリカは2人だけになって歩く形になった。


 俺は酒とフィード焼きを買い、セリカはジュースと揚げパンを買って、祭りを楽しんだ。

 食べ終わる頃に、セリカがふと露店の前で足を止めた。

 地べたに布を広げて、その上に様々なアクセサリーを広げている。

 セリカは目を輝かせて、アクセサリーを眺めている。


 店の親父が髭を撫でながら喋った。

「さあさあ、いらっしゃい。どれもこれも一品ばかりだよ! ――どうだい、奥さん、素敵なネックレスでもして旦那の目を釘付けにしては!」

「お、奥さんだなんて……」

 セリカは頬を赤らめた。しかし、より熱心に物色を始める。

 彼女が営業トークに引っかかるとは珍しい。まあ安いからいいか、祭りだし。



 俺は真理眼でざっと品物を見た。

 どれもこれも安物ばかり――ん?


 1つだけ能力を持った指輪があった。透き通る青い石の指輪。細かい装飾が施されている。

【祈蹟の指輪】神に祈ると精神力を回復し、一時的に能力値を上昇させる。神とともに歩んだ道のりだけ、効果は高まる。


 まるでセリカの瞳のような宝石の指輪を見ながら尋ねる。

「親父、この指輪、いくらだ?」

「旦那、お目が高い! そちらは、名のある貴族の家が落ちぶれて手放したもので……」

「能書きはいい。いくらだ?」

「へ、へえ……小金貨2枚となっておりやす」



 俺は指輪を手に取りながら言う。

「セリカ、払ってくれ」

「高い気がしますが……わかりました、ケイカさま」

 セリカが腰に下げた小袋から金貨を取り出して払った。


 親父は金貨をカチカチと鳴らすと、満面の笑みを作った。

「まいどありぃ!」

 元気な声をあとに、露店を離れる。


 セリカが心配そうに言う。

「よろしかったのでしょうか? こういう露店では値切るのが基本と聞きます」

「かまわない。これは魔法の力が込められているからな。たぶん、激安だ」

「まあ! そうでしたか! ――ちなみに、どのような魔力なのでしょう?」

 ――そういえば、神の名前は指定されていなかった。


「そうだな……。勇武神である俺を想いながら祈ると、精神力を回復して能力値が増えるらしい」

「……っ! まさか、祈蹟の指輪のような物なのですかっ!? 聖金貨数枚の価値はあるかと……」

「それは掘り出し物だったな――セリカ、手を出せ」

「えっ!?」

「俺がしててもしかたない。セリカが一番いいだろう」

 俺とラピシアは腐るほど魔力があるし、ミーニャはあまり必要としない。


「あの……でもっ」

 なぜか戸惑うセリカの左手を取ると、強引に指へ通した。小指がいいかと思ったが、ぶかぶかだったので薬指に通した。

「無くさないようにしろよ」


 セリカは、顔を真っ赤にしてうつむいた。

「当然です、一生、大切にします……あの、ケイカさま」

「ん?」

「ありがとうございます……ずっと、お傍にいますから」

 そう言って、俺に抱きついてきた。柔らかい丸みが押し付けられる。

 なぜか彼女は泣きそうな笑顔をしていた。


「あ、ああ……? これからも大切にするからな」

 なんだかよくわからないが、ぎゅっと抱き締めた。

 すると、彼女は腕の中で「ふみゃっ」と猫が潰れたような声を出した。



 その後、俺とセリカはなんとなく手を繋いで、ぶらぶらと祭りの中を歩いた。

 セリカはずっと美しい頬を赤くしながら微笑んでいた。繋いだ手は優しく温かかった。


 しばらく華やかな雰囲気を楽しんでいると、村長宅の屋根の上で若い男が大声で叫んだ。

「さあ、女神様に畑を見てもらうよ。まずは子供たちからだ!」

「「わぁ~!」」

 村の子供たちが村長宅の中庭へと駆けて行く。


 ラピシアが俺のところへ駆けてきて言う。

「ケイカ! 行ってきていい?」

「いいぞ、行って来い。ただし、手を添える程度でな。全力は出すなよ」

「うん!」

 ラピシアは弾けるような笑顔で頷くと、白いワンピースを翻して細い太ももまで見せつつ、元気に駆けていった。



 子供たちが女神像の祭壇を持ち上げて、畑へと出て行く。

 「あなたのおかげで私たちの畑がこんなに収穫できました」と大地母神ルペルシアに見ていただく儀式らしい。


 ゆっくりとあぜ道を練り歩き、一周終えてラピシアが帰ってくる。

「お母さんの像、とっても綺麗だった!」

「よかったな」

「えへへ~」

 頭を撫でてやるととてもニコニコしていた。自分の母親がみんなに慕われていて嬉しいらしい。

 それも当然か。



 子供たちの儀式が終わると、次は若い男性女性が祭壇を担いだ。みんな体をくっつけあうようにして持ち上げる。

 酒の勢いもあってか、きゃあきゃあ言って騒いでいる。

 同じイベントに参加して思い出を語りつつ、夜を深めていくのかもしれないな。

 大地母神といえば豊穣の神だし。


 それが終わる頃に、また村長宅の屋根で男が叫んだ。

「次は、収穫祭&ケイカ村襲名披露イベント! 獣人たちによる決闘がおこなわれます! どっちが勝つか、賭けるべし!」

 どうやら、ミーニャ対マハル以外にも、模擬戦がおこなわれるようだった。



 ミーニャは薄い胸を逸らし、澄ました顔で言った。

「じゃあ、ケイカお兄ちゃん……行ってくる」

「頑張れよ――宣伝も忘れずに」

「わかった」

 ミーニャは尻尾をぴんと伸ばして、しなやかな動作で歩いていった。


「楽しみだな」

 俺が言うと、セリカが心配そうに形の良い眉を寄せた。

「でも、ミーニャちゃん、大丈夫でしょうか……長く生きたマハルさんは、戦闘には一日の長があります」

「俺はミーニャを信じる。絶対勝つ」

「……そうですね。信じないといけませんね」


「そんなに心配するな。ミーニャも期間は短いが、なかなかできない戦闘を間近で見てきたんだから――だから、ミーニャに限度額いっぱいまで賭けるぞ」

「ええっ!? ……わかりました。わたくしも信じます」

 ジャラッと音をさせて、セリカはお金を入れた袋を握り締めた。



 村の北側に特設会場が作られていた。

 四角い舞台の周りには、人々が集まっている。

 みんな屋台出買ったものを持ち込みつつ、飲食していた。


 声のよく通る女性が司会に立つ。

「お集まりいただいた皆様。今日は収穫のお祝いと勇者ケイカ村の改名を祝して、闘技試合を行います! みなさん、どちらが勝つか賭けましたか!? あなたの思いを乗せて、いざ勝負! ――1回戦は狐獣人チャンド対猫獣人アニーラ!」

 18歳の青年であるチャンドは顔色が悪く、ガリガリに痩せていた。

 一方、アニーラは、走り込みによって鍛え上げられた体が健康的だった。

 チャンド6対アニーラ3の掛け率。

 多くの人間がアニーラの勝利に賭けたようだった。

 掛け金の上限は決まっていた。



 俺はセリカに尋ねる。

「チャンドに賭けたか?」

「はい、言われたとおりに。……ですが、アニーラさんのほうが強そうです」

「人の強さは見た目では決まらないもんだ」

 真理眼で見たからこその賭け。

 チャンドは、ティルトと同じ上級職の魔闘家だった。


 カァン!

 開始の鐘が響き渡る。

 うぉぉぉ! と人々は叫んだ。


 まず動いたのはアニーラ。

 健脚を生かして突進する。風が後れを取る速さ。



「にゃあ!」

 鋭い呼気とともに、腕が振るわれる。日差しを浴びて爪が輝く。


 しかしチャンドは、ひょいっと仰け反ってかわす。

 だが、アニーラの蹴り上げる追撃。

 ミーニャが持つスキルと同じ【瞬脚力】瞬間的に脚力を上昇させ、速度と跳躍力を上げる。複数回攻撃。

 鋭い爪と足蹴りの連撃がチャンドを襲う。

 しかしチャンドはひらりひらりと紙一重で避ける。



 続いてチャンドが攻撃に移る。

 無造作に握った拳をアニーラの顔に伸ばす。


「もらったにゃ!」

 彼女は手を掴むと、掴んだ拳を基点に1回転。

 大きな弧を描きながら、足蹴りを青褪めた顔へ繰り出す――。


 しかし、チャンドは腕を上げつつ、身を屈めた。

 アニーラのすらりとした足が空を切る。

 チャンドはそのまま後方へアニーラを投げた。

「にゃ!?」 



 空中で戸惑うアニーラに、チャンドは始めて魔法を使った。

烈風拳ゲールフィスト

 一瞬にして間合いを詰め、風をまとう拳を繰り出す。

 アニーラは両腕を交差して受ける。

 ミシッと鈍い音が響いた。

「くぅっ!」

 痛みにアニーラが顔を歪める。


 さらにチャンドの足が分身しながら舞う。

風舞脚ウィンドダンス

 空中にいるアニーラにはかわしきれない。

 手で必死に捌くものの、チャンドのかかとがアニーラのみぞおちに突き刺さる。

「ぐふっ! ――にゃあぁぁ!」

 ズドンッと地面に叩きつけられ、動かなくなるアニーラ。



 司会が大きな声で宣言する。

「勝者チャンド! ――いや~、アニーラさんも頑張りましたが、惜しくも届かず。素晴らしい試合でした。みなさん、拍手~」

 パチパチと鳴る拍手の合間に、「やったー!」や「うわぁぁ、今月の儲けがぁ!」という悲鳴が聞こえた。


 チャンドが一礼をして舞台から去り、アニーラが担架に乗せられて運ばれていった。

 ちなみにチャンドは狐族長マハルの息子だった。



 しばらく時間を置いてから、司会が言った。

「続きまして、牛獣人スジャータ対狐獣人サラ。女性同士の対決! さあ、皆さん、賭けましたか? 賭け終わりましたか?」

 全身がむちむちとして柔らかそうなスジャータと、細身ながらもしなやかな体躯のサラ。尻尾が筆のようにふさふさだった。釣りあがった目は不敵に光っている。

 スジャータ4対サラ2。

 1試合目に狐獣人が勝ったことでサラが人気になったようだった。

「セリカ。スジャータに賭けたな?」

「はい、もちろんです」

 木の札を持ち、ジャラッと金貨の入った小袋を鳴らす。



 司会が叫ぶ。

「泣いても笑っても勝負は一度だけ! いざ尋常に――始め!」


 カァン! と開始の合図が鳴り、二人は舞台上をゆっくりと歩いた。

 スジャータは豊満な胸をゆさゆさと揺らし、サラは筆のように尻尾を左右に揺らして隙をうかがう。

 先に動いたのはスジャータ。

 短い角の出ている頭から、相手へと突っ込んでいく。


 サラは軽く避けつつ拳を繰り出す。スジャータの背中を狙う。

 が、スジャータは突然向きを変えて胸で挟んだ。

「なっ!」

 拳は引き抜けなかった。離れられない状態で蹴りを繰り出すが決定打にならない。


 スジャータはそのまま豊満な体全体でサラに圧し掛かる。

「わぁぁ!」

 サラはスジャータの下で暴れたが1分ほどで静かになった。

 あっけなく勝利。



 どよめく群集の中、司会が気を取り直して叫ぶ。

「なんということでしょう! 手も足も出ずにサラ氏は負けてしまいました! 勝者スジャータ!」

 わぁぁ! とみんながざわめく。

「当たった!」「おっぱい、さいこう!」「うわぁ! 家族の食費がぁ!」

 何か生活が破綻しそうな奴がいる。


「スジャータは想像以上に強かったな」

「あれは、どうして離れなくなったのでしょう」

「肉体吸着という技らしい。吸い付くような肌触りで相手を包み込んで骨抜きにする。男性はいちころらしい……セリカも学べばできそうだぞ」

 セリカの大きな胸を見ながら言うと、彼女は頬を染めて手で隠した。

「け、ケイカさまが望むなら……習ってみましょうか」

「否定しないのか」



 サラが担架で運ばれると、司会が叫ぶ。

「さあ、本日のメインイベント! 狐人族の族長マハル対勇者ケイカさまのパーティーメンバーであるミーニャ! 大人の男対少女といった見た目ですが、はたしてどちらが勝つでしょうか! みなさん、賭けましたか!?」


 司会が煽ると、わああ! と人々が興奮して叫んだ。

 ミーニャの戦いが始まろうとしていた。



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