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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第94話 収穫祭2(ミーニャの戦い)

 抜けるような青空。

 収穫祭の最中。


 村の空き地に作られた特設会場にて、ミーニャ対マハルの戦いがおこなわれようとしていた。

 舞台の上で対戦者同士が向き合っている。周囲を人々が取り囲んで観戦していた。


 巫女服を着たミーニャは、凛と背筋を伸ばして佇んでいた。

 対するマハルは自然体で、ゆらりゆらりと動きながら微笑みを浮かべている。余裕が感じられた。

 マハルのほうが頭一つ分背が高い。



「子供を殴る趣味はないのですがね……。潔く負けを認めてくれたらいいのですが……」

「大丈夫。地面に倒れるのはそっちのほうだから」

「得意な刃物はルール上、使えないのですよ?」

「あなた程度、素手で充分。じゃないとケイカお兄ちゃんの役に立てない」

「ふんっ、言ってくれますね……どうやら少し教育が必要なようですね」

 マハルの細めた目がギラリと光った。

 舞台の上に緊迫した空気が流れる。


 ミーニャは素手だった。二刀流スキルが使えないが仕方ない。

 攻撃に使いそうなスキルは。

---------------------

【ステータス】

名 前:ミーニャ

性 別:女

年 齢:13

種 族:猫人族

職 業:神楽剣舞巫女(上級)

クラス:舞闘師Lv25 盗賊Lv12 料理士Lv30

属 性:【静嵐】

所 属:勇者ケイカパーティー


【スキル】

 二刀流:武器を両手に持って、変幻自在に攻撃する。複数回攻撃。

 瞬脚力:瞬間的に脚力を上昇させ、速度と跳躍力を上げる。複数回攻撃。

疾風迅雷:絶対先制攻撃。相手に確率で驚き戸惑わせる。一度の戦闘で一度のみ。

神舞俊速:神を思わせる俊足で飛来し、攻撃する。回避不可の攻撃。


【舞闘スキル】

  舞い:優雅な動きで舞って踊る。

魅惑剣舞:相手を魅了しながら攻撃する。敵回避率激減。

不思議舞:幻惑(ブラード)効果と精神力吸収。


明鏡止水:自身にかかる負の効果を打ち消す。

---------------------

 相手のペースに持ち込まれなければ勝てる。 



 獣人たちは二手に別れて応援する。狐対猫。1試合目は狐の勝ちなので、猫のほうが熱く応援していた。

「がんばれ!」「今度こそ頼むぞぉ~!」「勝ってくれないと来年の種籾がなくなる!」「狐なんて食べちゃうにゃ~!」

 やっぱり1人、生活賭けてる奴がいるな。村長に言って賭け金上限を決めさせておいてよかった。



 応援の紙ふぶきが舞う中、司会が叫ぶ。

「勝つのはどっちか! 賭けの行方はどうなるのか? ――では、第3試合マハル対ミーニャ――いざ尋常に……始め!」

 司会の言葉に被せるように、マハルが先に動いた。

 一気に10体の分身を生み出す。服の汚れまでもコピーした、完璧な分身。

「「「おおお~」」」

 いきなりの派手な技に、会場が驚きでどよめく。


 俺は感心していた。

 ミーニャの先制スキル【疾風迅雷】を出し抜くとは。

 敏捷が高いわけではない。猫人族が早さにものを言わせた速攻が得意と知っているからこその動き。場数の違いが出ていた。

 ――マハル、自信を持っていただけあって強いな。



 司会が叫ぶ。

「おおっとマハル氏、いきなりの大技! 分身を20体も生み出しました!」

「――20体?」

 俺は目を凝らしたが、10体しか見えない。

 セリカが横で頷く。

「はい、20体ぐらいですね」

 俺は真理眼でマハルを見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:マハル

性 別:男

年 齢:44

種 族:幻獣狐人族

職 業:狐人族族長

クラス:幻闘師Lv44 魔法使いLv25

属 性:【風】【水】


【スキル】

 急所突き

 疾風拳(ゲールフィスト)

 水舞脚(リップルダンス)

魔攻付与(マジカルエンチャント)

 刃竜巻(スラッシュトルネード)

幻惑分身(イリュージョン):相手を幻惑させて分身しているように見せる。

陽炎分身(ミラージュアバター):陽炎を使って分身を生み出す。

二重分身(ダブルスプリット):質量を持つ分体を生み出し同時攻撃する。


【生得スキル】

幻狐変化:伝説の九尾狐に化けてその力を振るう。


【魔法使いスキル】

 Lv25に準ずる。

--------------------

 ほう。幻惑分身と陽炎分身を同時発動したのか。

 俺に幻惑は効かないから、陽炎分身の10体だけ見えているということか。

 ミーニャは苦戦しそうだな。



 ――と。

 20体の分身を前にしているはずのミーニャは、おかしな行動に出た。

 いきなり右の拳を口に当てると、人差し指を強く噛んだ。

 つぅっと赤い血が流れる。


 痛みで幻惑を消したらしい。

 いい判断だ。動揺しなかったのは【明鏡止水】のおかげか。



 マハルたちが、口の端を歪めて次々と喋る。おそらく本体をわからせないようにするため。

「分身に驚かないとは」「褒めてあげましょう」「……しかし、まだ10体いますよ」

 ミーニャは無表情のまま、たんたんと答える。

「私の勝ちは……確定ずみ」

「「「ほう。ではお手並み拝見といきましょうか!」」」

 マハルたちがいっせいに動いた。


 一方、ミーニャは拳を構えたまま目を瞑った。

 精神が深く集中されていく。


 マハルたちがいっせいに殴りかかる。

「「「目を閉じて避けられますかね!」」」

 蹴りと拳が嵐のようにミーニャを襲う。

 ミーニャは動かず、殴られる――。


 ――シュッ!


 ミーニャの手が残像よりも早く動いた。

 ドガッ!

 

 ミーニャの顔にマハルの振り下ろす拳が命中した。

 勢いで舞台床に叩きつけられてバウンドした。

「く……っ!」

 唇の端から血を流しながらも素早く立ち上がって距離を取る。



 マハルは顔を仰け反らせていた。

 頬にはミーニャの拳の跡。

 切れ長の目が驚愕で見開かれる。

「本体の攻撃を見切ったというのですか!」


 ミーニャが口元の血を拭いながら言う。

「違う。分身は紙ふぶきが通過してたから。分身に実体がないなら、本体に殴られた瞬間、殴り返えせばいいだけ」

「……いい判断、と言いたいところですが、悪手ですよ。ダメージはあなたが多い。3回同じことを繰り返せば、私の勝ちです」

「大丈夫。次はないから」

「ほう。これを見ても同じことが言えますか? ――魔力付与(マジカルエンチャント)」

 マハルが魔法を唱えると、分身も含めたすべての両手が白く光った。風が拳に纏わりつく。

 ――疾風拳(ゲールフィスト)を全員にかけたのか!



 マハルたちが一斉に叫ぶ。

「「「これで最後で――!」」」


 ドンッとミーニャが床を蹴る!

 マハルが言い終わる前に、先に動いた。

 最近覚えたスキル【神舞俊速】か。神を思わせる俊足で飛来し、攻撃する。回避不可の攻撃。


 彼女のしなやかな動きは獲物を狙う猫のように。

 黒髪を後方へなびかせて、舞台の上を疾駆する。



「「「な、なにっ!」」」

 マハルたちが襲い掛かるが、ミーニャはひらりひらりと時には早く、時にはゆっくり避けていく。

 まるで奉納舞を舞うような優雅さ。

 けれども間違って分身を叩けば、その隙を突かれて袋叩きに遭う。確実に本体を叩かなくてはいけない――。


 そしてミーニャはなぜか確実に1人だけを狙っていた。

 10体から繰り出されるマハルの猛攻をものともしない。体の輪郭がぶれるぐらいの速さで避け続ける。

 ――いや幻惑(ブラード)効果のある【不思議舞】を発動してる!


 マハルの拳も蹴りも彼女を捉えきれなかった。

 逆にミーニャは数ある分身の中から、たった1人だけを追い詰める――。



「――終わり」

 ズンッ!

 強烈な左拳の一撃が、本物のマハルのみぞおちに刺さった。衝撃で髪が揺れる。


「ぐはっ!」

 マハルが前のめりになるが、さらに顎先を右拳が叩く。

 ガッ! と鈍い音がして、マハルが仰け反って体勢を崩す。


 しかし無慈悲な攻撃は止まらない。

 連撃スキル【瞬脚力】のさらなる攻撃!


 巫女服の白い袖と黒い袴がめくれるように空を舞った。

 しなやかな足が鞭のように回転し、マハルの後頭部にハイキックが叩きつけられる。


 ゴッ!


 鈍い音が会場中に響いた。

 しん……と観客たちが静まり返る。

 ミーニャはハイキックの姿勢のまま、止まっていた。激しく揺れていたまっすぐな黒髪がふわりと元に戻る。


 そして、マハルがゆっくりと舞台に倒れこんだ。

 



 ミーニャが細い足を戻して、乱れた巫女服を整える。

 その様子を見て司会が最初に気を取り戻した。

「鮮やかに決まりました! 勝者、ミーニャ! 勇者パーティーのミーニャさんが、狐獣人のマハルさんを倒しました! ――な、なんという技の応酬だったでしょう! 王都のコロシアムでもここまでの試合は見たことがありません! すばらしい戦いでした。皆様、盛大な拍手を!」


 司会の呼びかけに、ようやく会場の人々が爆発するように声を上げた。

 うぉぉ! と驚きと喜びと尊敬が入り混じった歓声。

「すげぇ!」「なんて技だ!」「あれが勇者パーティーの力……仲間であれなら勇者は……」「胸がドキドキする、ミーニャちゃん結婚してくれ!」「よかったぁ、これで来年の種籾が買えるぅ!」

 生活賭けてたやつは助かったようだ。

 あとミーニャは俺の巫女だ。誰にもやらん。


 獣人たちも騒いでいる。狐も猫も目をキラキラさせて。

「すごいっす!」「族長を倒すなんて!」「ミーニャさん、素敵でしたにゃ!」「あなたの強さに惚れました!」「ミーニャさまって呼ばせてもらうにゃ!」

 獣人全員から信頼を勝ち取ったようだった。



 すると、マハルが「うぅ……」と呻いて意識を取り戻した。

「……負けたのか……なぜ、見抜かれた? ――猫の少女よ、1つ教えていただきたい。私の幻術は完璧ではなかったのか……?」

「ん。完璧だった。だから目印をつけてマーキングした」

「目印!? そんな馬鹿な! 私の分身は怪我も汚れもリアルタイムで反映させていたはずだ!」


 ミーニャはコクッとうなずいた。

「知ってる。でも匂いまでは誤魔化せない。自分の血の匂いぐらいかぎ分けられる。――だって猫獣人だから」

 獣人という言葉に矜持を込めて言った。誇らしげに薄い胸を反らしている。出会った頃からは考えられなかった態度。



「血の匂い――なっ! 最初の指を噛んだ動作の時点で、すでに血をつけて匂いで判断するつもりだったと言うのですか!?」

「そう。だから私の勝ちは確定したと言った。幻術を破るためだけに指を噛んだ、と判断した時点であなたは負けていた」


 マハルは目を見開いてミーニャを見上げていたが、がっくりと肩を落とし、床に寝転がった。

「……私の完敗です。何度挑んでも勝ち目が見えません。……その節は侮るような発言をして申し訳ない。私の間違いだった、すまない。あとでケイカさまにも謝ろう」

「ん、わかってくれたらいい――ケイカお兄ちゃんに強くしてもらった私は、誰にも負けないから」



 そしてミーニャは舞台中央に行くと、懐から小袋を取り出した。

 ファルに頼んで作ってもらったケイカのお守り。

 それを天に掲げながら観客を見渡す。全員の注目を浴びた。

「私が強くなれたのは、このお守りのおかげ。勇者ケイカさまのご加護がもらえる。持っていれば弱い魔物を避ける効果も。旅の安全のために、買ったほうがいい」

「「「おおおおお!」」」

 勇者の仲間が、実際の力を見せ付けたあとで言ったものだから、会場が妙な熱気に包まれた。「欲しい!」「買うぞ!」と騒ぎ出す。


 俺は、嬉しくて笑いをこらえるのに必死だった。

 作戦通り!

 ――買ってくれた人はいやでも俺の名前を忘れないだろう。あとはちょこっと恩恵を与えれば、さらなる信者を手に入れられる!



 そのとき、会場にファルが駆け込んできた。茶髪を乱し、修道服をひらめかせて。

 駅弁売りのように肩から紐で物売り台を下げていた。

「会場のみなさぁん! こちらがケイカさんのお守りですよー。本来なら大銀貨3枚(3000円)のところ、今日だけ小銀貨6枚(600円)です! お一人様、1つだけです~……ひゃあっ!」


 どどどっと観客たちが押し寄せる。

「くれ!」「一つといわず3つぐらい売ってくれ!」「わぁ! 大海神に仕える巫女様が言われるのでしたら間違いないですね!」

 大繁盛。



 それを見たセリカが青い瞳を丸くして驚いた。

「まさか、決闘すらも名前の売り込みに利用しようと考えられていたのですかっ!」

「そうだぞ、セリカ。ミーニャを戦わせるなんていう危険なこと、俺のためにならない限り、やらせるはずがない」


 そう。勇者が勝っても効果は薄い。勝って当たり前だからだ。

 勇者の仲間が実際にこのお守りで強くなれたと実証したからこそ、お守りの信憑性が出る。

 しかもマハルは魔法を使いまくってたが、ミーニャは見た目的には普通の殴る蹴るだけで勝ったように見える。

 殴るだけのかよわい少女が、魔法を使う大人に勝つ。にわかに信じられない出来事。

 心情的に勇者のご利益のおかげと思いたくなってもおかしくない。人は信じられないものを見たとき、自分の納得できる理由を無理矢理にでも作り出すものだから。


 まあ、よくよく見られていたら、ミーニャのお守りは売り物と同じ新品だとばれてしまっただろうけど。舞台の中央という、少し離れた場所にいたのが目隠しになった。



 ファルは多くの人に囲まれて、目を回している。

「セリカ、手伝ってやってくれ」

「はいっ、ケイカさま」

 金髪を揺らしてさっそうと駆けつけた。


「おらー、早く売れー!」「お釣りくれー!」

「皆さん、お守りはまだまだたくさんありますわ。逃げませんから並んでお待ちくださいませ」

 凛とした声が熱気を押さえ込む。セリカの持つ姫スキル【威圧】によって辺りの雰囲気は飲み込まれた。

 群衆の騒ぎが少し収まって、買いやすくなった。

 その後はファルとセリカがお金をやり取りしていく。

「お守りはケイカさまの屋敷でも売っておりますから、いつでもおこしください」

 という言葉を忘れずにかけていた。



 ミーニャが舞台を下りて、会場の隅にいる俺の傍までやって来た。

「ケイカお兄ちゃん、これでよかった?」

「ああ、上出来だ。戦わせてすまなかったなミーニャ」

 俺が頭を撫でてやると、ミーニャは腕を回して抱きついてきた。

 細い肢体に筋肉のうねり。すべすべした肌は、かすかに汗で湿っていた。花のような香りが鼻をくすぐる。


「ケイカお兄ちゃんの力になれたら、それだけで嬉しい。私のすべてはケイカお兄ちゃんのものだから」

「そうか……ありがとうな」



 そこへマハルが狐の少年に支えられてやってきた。

「前に言ったケイカさまとミーニャさんを貶めた私の発言はすべて撤回したい。申し訳ありませんでした」

「いい。気にするな。これからもよろしく頼む」

「はい、あなたがたのために頑張らせていただきましょう」

 俺とマハルは握手を交わした。


 隣に立つ、ミーニャに言う。

「許してやってくれよ」

「うん。問題ない。これから仲良くする」

「ああ、こちらこそよろしく頼む、猫の若き巫女よ」

 ミーニャと挨拶を交わすと、マハルは付き添われて去っていった。


「すべてうまくいったな。これからも頼んだぞ」

「うん」

 コクッと頷くと猫が甘えるように、俺の胸に顔をこすり付けてくる。

 耳と尻尾が嬉しそうに揺れ続けていた。



あと1話で終わり。明日の夜になりそうです。たぶん。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
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