第75話 グールド制裁!
奴隷の館の地下から人質やエルフ、ナーガを連れて広間へ戻った。
みんなナーガの姿にびびっているが気にしない。
するとミーニャとラピシアが広間に入ってきた。
案内役の女性を縛って背負っている。
ミーニャが巫女服を揺らして傍へ来る。
「これでよかった?」
「ああ、さすがだ、ミーニャ」
黒髪を撫でると、気持ち良さそうにネコミミがピコピコと動いた。
ラピシアが寄ってくる。
「このあと、どうするの?」
「俺が戻ってくるまで、奴隷商人たちを見張っててくれ。あと奴隷の動向にも注意。誰かに命令されたら攻撃してくる可能性がある。その場合、気絶させるんだ」
「わかった! 手加減パンチする!」
「…………ああ、それでいい」
ラピシアの手加減は臨死体験させるレベル。
でも今は時間がなかった。
「じゃあ、黒幕倒してくる――セリカ、ついてこい」
「はいっ、ケイカさま!」
俺はまた右の部屋に入って地下4階へ飛んだ。
地下4階は明るい場所だった。魔法の光がこうこうと灯り、絵画や彫刻などが置かれている。
俺は千里眼で見ながらグールドのいる部屋へと向かう。
注意することはただ一つ。
「いいか、セリカ。どこに転移扉があるのか、俺でもわからない。逃げられる前に即効で倒すぞ」
「はいっ」
セリカは端整な顔を引き締めて、小声で答えた。
一番奥の寝室。
千里眼で見たところ、グールドは一仕事終えたあとらしい。全身に汗を光らせて寝転がりつつ、煙草をふかしていた。
頭の禿げ上がった、狡猾そうな男。
「俺が扉を蹴破るから、セリカは迷わず吹雪を飛ばせ」
「わかりました」
シャランッと澄んだ音を響かせてセリカは剣を抜いた。
青白い冷気を放つ細身の剣。フローズンレイピア。
俺は息を吸い込んで気合を入れると、ドガッと思いっきり扉を蹴飛ばした。
真ん中で折れ曲がった扉が、部屋の中に転がり込んで音を立てる。
「な、なんだ!?」
ベッドの上で驚くグールド。獅子鼻の三白眼。ハゲ頭が光る。
セリカは剣を突き出すと、氷のように澄んだ声で叫ぶ。
「ブリザード!」
ゴォォッ!
剣から白い冷気が放たれる。
一瞬にして、部屋の中が凍りつく。壁や天井が白い霜で覆われた。
俺は飛び込み、ベッドへ駆け寄る。
「ハァッ!」
振り下ろす斬撃。
肩から腹へと切り付ける。
「ぎゃあああ!」
グールドの汚い叫びが部屋に反響した。
しかし俺の太刀は止まらない。
右腕を肘から、左手を手首で切り飛ばす。さらには首にかけた金のネックレスも。
右腕には妖精の鍵紋があり、左手は魔法の指輪。首のネックレスも魔法がかかっていた。
「痛てぇ! 痛てぇよぉぉぉ!」
グールドはベッドを赤く染めながらのたうちまわった。
喉元に太刀を突きつける。
「観念しろ。小悪党。洗いざらい喋ってもらうぞ」
するとグールドは暗い目で俺を見上げる。
「ぐぁぅぅ……喋る、だと。オレは何も知らないな」
「それを調べるのは騎士たちの仕事だな」
グールドは青褪めた顔で荒い息をしながらも、下卑た笑みを浮かべる。
「くくくっ、俺を生かすって言うのかい? 後悔するぜぇ?」
「ん。それもそうだな」
「え?」
俺は無造作に太刀を振るった。
グールドの首が空を舞う。ハゲ頭がキラリと光った。
俺は太刀を収めつつ言う。
「忠告感謝する。国の高官に賄賂を送ってる可能性が高いからな。短い刑期で出てこれそうだ。――そういったことも拠点を探ればいろいろわかるだろう」
それからオークの拘束を解いてやった。
オークは不思議そうな顔をしたあと、飛び上って襲い掛かってきた。
俺はオークの手を避けると、顔面を殴りつけた。
グシャッと潰れて胴体は壁に激突した。
「この後のこと考えたら、一思いに死んだほうがよかったかもな」
「魔物ですけど……可哀想ですわ」
セリカは悲しそうな声で言った。
それから地下4階を漁り、書類や手紙、犯罪の証拠などをまとめ上げた。
大臣の好みや送った物品、また送る前の品など。ごろごろ出てきた。
金貨も大量に出てきたが。
「この金貨は犯罪の証拠品になってしまうだろうか」
「おそらく賄賂や不正な収入の証拠になるはずです」
「じゃあ、手が付けられないな……お【敏捷の実】だ」
「それはもらっても良さそうです」
あと何かの黒いカードが出てきた。キャッシュカードのような。ぺらぺらの金属。
真理眼で見ても【何かの黒いカード】としか表示されない。未完成品のためらしい。
もらっておく。
その後、証拠を収めた大きな袋と、グールドの首とオークの死体を持って1階へと戻った。
1階は騒がしかった。
外から争う声が聞こえる。
職人たちが詰め掛けているらしい。
「予想より早いな」
「どうしましょう……」
セリカがナーガを見ながら言った。
確かに魔物と間違われて襲われる可能性が高い。
俺は心話でリリールを呼ぶ。
――リリール、奴隷紋の消し方はわかるか?
『ええ、意外と簡単でしたよ』
――教えてくれ。
『まずは――』
彼女から方法を聞いた。やり方さえわかれば俺でもできそうだった。
ナーガの傍へ行く。
「こうして、こう、そしてこうだな」
呪文を唱えつつ、ナーガの右肩に押された奴隷紋をなぞった。
うまい具合に消せた。鱗に覆われた傷一つない腕。
「ありがとう、ケイカさま」
「気にするな。イエトゥリアには世話になったからな。――次はエルフだ」
「はい」
エルフは自ら近寄ってきた。服をたくし上げ背中を見せる。
白磁のように染み一つない肌。スレンダーな肢体。
そのなだらかな曲線を、俺は優しくなぞった。
「あ……っ。――くぅっ」
エルフは体を震わせて、痛みに耐えている様子。
こちらの奴隷紋もすぐに消えた。
――と。
兵士を筆頭にして、職人たちがなだれ込んできた。
「勇者さま! ――その魔物は!?」
「お前たちの手には負えない化け物だ。俺が処分するから、他の奴隷を助けてやれ。グールドの首と、犯罪の証拠はそこに転がっている。誘拐された人質もいるぞ」
「ははっ!」「さすが勇者さま!」「ありがとうございます!」
兵士と職人は声を震わせて感激していた。
俺はひょいっとナーガを持ち上げた。
「な、なにを!?」
「しばらく気絶したふりでもしといてくれ」
「わかった、信じよう」
ナーガは目を閉じて力を抜いた。ぐんにゃりと蛇体が力なく垂れる。
「セリカ、ミーニャ、ラピシア。あとの処理は任せた」
「はいっ」「任せて」「わかった!」
信頼の置ける返事を背に、俺はナーガを担ぎ上げたまま外に出た。
集まっていた職人たちが驚きの声を上げた。
「うお!」「なんでぇ、あの化け物!」「むしろ、あれを持ち上げてる男の方がやべぇ!」
兵士の一人が近寄ってくる。
「倒すのを手伝いましょうか?」
「いや、こいつの血液は毒だ。無闇に殺すと大変なことになる。俺が別の場所で処分してこよう」
「わかりました、勇者ケイカさま。お任せします」
だいぶ俺の存在が知れ渡ったようで、思い通りに話は進んだ。
港に来ると海へナーガを投げた。
体長5メートルの体は、大きな水柱を立てた。
それから顔をぷかっと水面に出してくる。
「何から何まですまない。ケイカさま」
「俺のためでもあるから問題ない。――それで、ドルアースの場所はわかるな?」
「ああ、ここから海岸沿いに東へ行ったところにある港町だな」
「そこにナーガ族が集まってる。今は――35人いるな。ケイカビーチか、高速輸送船で仲間が働いてる」
「そうなのか。教えてくれてありがとう」
「気をつけて行けよ」
「もう騙されない。……恩に着る」
ちゃぷっと水音を響かせて、ナーガは泳ぎ出した。蛇体をくねらせて。
海岸沿いに消え去るのを見て、俺はその場を後にした。
奴隷の館へ戻ると、兵士の数が増えていた。
集まっていた職人たちは「さすが勇者さまだ!」「仲間を助けてくれてありがとう!」などと褒め言葉を口にした。
まんざらでもない気分で中へ入る。
1階の広間には、従業員と奴隷がすべて集められていた。
職人の奴隷メルビウスが話し掛けてきた。
「ケイカさん、お願いがあるんだが、いいかな」
「なんだ?」
聖金貨を弄びながら言う。
「……この金があれば妻は確実に助かる」
「それはよかったな」
「ただ、これだけの大金、一生かかっても返せそうにない」
「普通はそうだな」
「だから、あなたの奴隷として一生をささげる。その代わりに妻の面倒を一緒に見てもらえないだろうか」
メルビウスの青い瞳は真剣だった。
「そこまで妻が大切なのか」
「ああ。両親はすでに死んだ。妻だけが家族なんだ。それに罪滅ぼしの意味もある……」
何か事情がありそうだったが長くなりそうなので流した。
「そうか。わかった。引き受けよう」
「ありがとう。わがままを聞いてくれて」
「その代わり隣国に移り住んでもらうからな。俺の村はそこだ」
「そ、それは……職人は国から出られない決まりだ」
「交渉すればいい。待ってろ」
俺は騎士の隊長のところへ行った。
「隊長。ちょっといいか?」
「これは勇者さま! グールドを倒してくれてありがとうございます! 奴の関わっていた多くの悪事が暴かれました! 高官の子供を誘拐して意のままに操っていたとは!」
「やはりそうか。助けられてよかったな。――それで、誘拐されてきたエルフは一緒に連れて行く。あと報酬として、ここの奴隷を1人もらいたいんだが、いいか?」
「う……事情聴取は終わったので、わかりました。これだけの成果を上げてくれたのです。王様に伝えておきましょう」
「助かる。俺からも王様に頼んでおく。あとここの建物、地下4階まであるから、掘り返すといいだろう」
「はいっ、すぐに実行します!」
隊長は表に行き、大声で穴を掘るのが得意な人を集め始めた。
さすが職人の街。すぐに地下まで暴かれるだろう。
俺はメルビウスを振り返った。
「よかったな」
「ありがとうございます」
彼は深々と頭を下げた。
隊長が言う。
「それでは、勇者さま。また連絡させていただきます」
「わかった。俺は宿にいるから」
「はい」
俺たちは、メルビウスとエルフを連れて宿に戻った。
◇ ◇ ◇
宿に行った。
三階建ての豪華な建物。
大きな一部屋に入ると、フィオリアを見たエルフが駆け寄った。
「フィオリア!」
「まあ、ネビュラ! 無事でよかった!」
二人はひっしと抱き合う。
薄絹をまとう美女たちの、もつれ合う姿はとても目の保養になった。
すると、セリカが腕を組んできた。大きな胸を押し当てるように。
「ケイカさま。いやらしい目をしています」
「安心しろ、目だけだ。いやらしい手つきはセリカにしかしないから」
「う……。そ、そんなこと言わないでくださいっ」
セリカは頬を染めながら、ぎゅううっと腕に力を込めた。
胸の谷間に挟まれた腕に、潰れるような柔らかさが押し付けられる。
そうされると、なぜか心の中まで温かくなる気がした。
白い修道服の姿に戻ったリリールが美しい笑みを浮かべながら言う。
「とにかく、これで一件落着のようね」
「いや、まだだ」
「え?」
「今回のことは記録に残しておかないとな」
「記録?」
「まあ、見てろ。リリールはメルビウスと一緒に妻のところへ行ってくれ――セリカ、ありったけの金を用意してくれ」
「わかりました、ケイカさま」
セリカから金を受け取ると、俺は部屋を出た。
それから鍛冶師ギルドを訪れて、とある交渉をしたのだった。




