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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第四章 勇者村内政編

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第75話 グールド制裁!


 奴隷の館の地下から人質やエルフ、ナーガを連れて広間へ戻った。

 みんなナーガの姿にびびっているが気にしない。


 するとミーニャとラピシアが広間に入ってきた。

 案内役の女性を縛って背負っている。


 ミーニャが巫女服を揺らして傍へ来る。

「これでよかった?」

「ああ、さすがだ、ミーニャ」

 黒髪を撫でると、気持ち良さそうにネコミミがピコピコと動いた。


 ラピシアが寄ってくる。

「このあと、どうするの?」

「俺が戻ってくるまで、奴隷商人たちを見張っててくれ。あと奴隷の動向にも注意。誰かに命令されたら攻撃してくる可能性がある。その場合、気絶させるんだ」

「わかった! 手加減パンチする!」

「…………ああ、それでいい」

 ラピシアの手加減は臨死体験させるレベル。

 でも今は時間がなかった。


「じゃあ、黒幕倒してくる――セリカ、ついてこい」

「はいっ、ケイカさま!」

 俺はまた右の部屋に入って地下4階へ飛んだ。



 地下4階は明るい場所だった。魔法の光がこうこうと灯り、絵画や彫刻などが置かれている。


 俺は千里眼で見ながらグールドのいる部屋へと向かう。

 注意することはただ一つ。

「いいか、セリカ。どこに転移扉があるのか、俺でもわからない。逃げられる前に即効で倒すぞ」

「はいっ」

 セリカは端整な顔を引き締めて、小声で答えた。


 一番奥の寝室。

 千里眼で見たところ、グールドは一仕事終えたあとらしい。全身に汗を光らせて寝転がりつつ、煙草をふかしていた。

 頭の禿げ上がった、狡猾そうな男。


「俺が扉を蹴破るから、セリカは迷わず吹雪を飛ばせ」

「わかりました」

 シャランッと澄んだ音を響かせてセリカは剣を抜いた。

 青白い冷気を放つ細身の剣。フローズンレイピア。



 俺は息を吸い込んで気合を入れると、ドガッと思いっきり扉を蹴飛ばした。

 真ん中で折れ曲がった扉が、部屋の中に転がり込んで音を立てる。

「な、なんだ!?」

 ベッドの上で驚くグールド。獅子鼻の三白眼。ハゲ頭が光る。


 セリカは剣を突き出すと、氷のように澄んだ声で叫ぶ。

「ブリザード!」


 ゴォォッ!

 剣から白い冷気が放たれる。

 一瞬にして、部屋の中が凍りつく。壁や天井が白い霜で覆われた。


 俺は飛び込み、ベッドへ駆け寄る。

「ハァッ!」

 振り下ろす斬撃。

 肩から腹へと切り付ける。

「ぎゃあああ!」

 グールドの汚い叫びが部屋に反響した。


 しかし俺の太刀は止まらない。

 右腕を肘から、左手を手首で切り飛ばす。さらには首にかけた金のネックレスも。

 右腕には妖精の鍵紋があり、左手は魔法の指輪。首のネックレスも魔法がかかっていた。



「痛てぇ! 痛てぇよぉぉぉ!」

 グールドはベッドを赤く染めながらのたうちまわった。

 喉元に太刀を突きつける。

「観念しろ。小悪党。洗いざらい喋ってもらうぞ」

 するとグールドは暗い目で俺を見上げる。

「ぐぁぅぅ……喋る、だと。オレは何も知らないな」

「それを調べるのは騎士たちの仕事だな」


 グールドは青褪めた顔で荒い息をしながらも、下卑た笑みを浮かべる。

「くくくっ、俺を生かすって言うのかい? 後悔するぜぇ?」

「ん。それもそうだな」

「え?」

 俺は無造作に太刀を振るった。


 グールドの首が空を舞う。ハゲ頭がキラリと光った。

 俺は太刀を収めつつ言う。

「忠告感謝する。国の高官に賄賂を送ってる可能性が高いからな。短い刑期で出てこれそうだ。――そういったことも拠点を探ればいろいろわかるだろう」

 それからオークの拘束を解いてやった。



 オークは不思議そうな顔をしたあと、飛び上って襲い掛かってきた。

 俺はオークの手を避けると、顔面を殴りつけた。

 グシャッと潰れて胴体は壁に激突した。


「この後のこと考えたら、一思いに死んだほうがよかったかもな」

「魔物ですけど……可哀想ですわ」

 セリカは悲しそうな声で言った。



 それから地下4階を漁り、書類や手紙、犯罪の証拠などをまとめ上げた。

 大臣の好みや送った物品、また送る前の品など。ごろごろ出てきた。

 金貨も大量に出てきたが。


「この金貨は犯罪の証拠品になってしまうだろうか」

「おそらく賄賂や不正な収入の証拠になるはずです」

「じゃあ、手が付けられないな……お【敏捷の実】だ」

「それはもらっても良さそうです」

 あと何かの黒いカードが出てきた。キャッシュカードのような。ぺらぺらの金属。

 真理眼で見ても【何かの黒いカード】としか表示されない。未完成品のためらしい。

 もらっておく。

 

 その後、証拠を収めた大きな袋と、グールドの首とオークの死体を持って1階へと戻った。


 

 1階は騒がしかった。

 外から争う声が聞こえる。

 職人たちが詰め掛けているらしい。


「予想より早いな」

「どうしましょう……」

 セリカがナーガを見ながら言った。

 確かに魔物と間違われて襲われる可能性が高い。


 俺は心話でリリールを呼ぶ。

 ――リリール、奴隷紋の消し方はわかるか?

『ええ、意外と簡単でしたよ』

 ――教えてくれ。

『まずは――』

 彼女から方法を聞いた。やり方さえわかれば俺でもできそうだった。



 ナーガの傍へ行く。

「こうして、こう、そしてこうだな」

 呪文を唱えつつ、ナーガの右肩に押された奴隷紋をなぞった。

 うまい具合に消せた。鱗に覆われた傷一つない腕。


「ありがとう、ケイカさま」

「気にするな。イエトゥリアには世話になったからな。――次はエルフだ」

「はい」

 エルフは自ら近寄ってきた。服をたくし上げ背中を見せる。

 白磁のように染み一つない肌。スレンダーな肢体。


 そのなだらかな曲線を、俺は優しくなぞった。

「あ……っ。――くぅっ」

 エルフは体を震わせて、痛みに耐えている様子。

 こちらの奴隷紋もすぐに消えた。



 ――と。

 兵士を筆頭にして、職人たちがなだれ込んできた。

「勇者さま! ――その魔物は!?」

「お前たちの手には負えない化け物だ。俺が処分するから、他の奴隷を助けてやれ。グールドの首と、犯罪の証拠はそこに転がっている。誘拐された人質もいるぞ」

「ははっ!」「さすが勇者さま!」「ありがとうございます!」

 兵士と職人は声を震わせて感激していた。


 俺はひょいっとナーガを持ち上げた。

「な、なにを!?」

「しばらく気絶したふりでもしといてくれ」

「わかった、信じよう」

 ナーガは目を閉じて力を抜いた。ぐんにゃりと蛇体が力なく垂れる。


「セリカ、ミーニャ、ラピシア。あとの処理は任せた」

「はいっ」「任せて」「わかった!」

 信頼の置ける返事を背に、俺はナーガを担ぎ上げたまま外に出た。

 


 集まっていた職人たちが驚きの声を上げた。

「うお!」「なんでぇ、あの化け物!」「むしろ、あれを持ち上げてる男の方がやべぇ!」


 兵士の一人が近寄ってくる。

「倒すのを手伝いましょうか?」

「いや、こいつの血液は毒だ。無闇に殺すと大変なことになる。俺が別の場所で処分してこよう」

「わかりました、勇者ケイカさま。お任せします」

 だいぶ俺の存在が知れ渡ったようで、思い通りに話は進んだ。



 港に来ると海へナーガを投げた。

 体長5メートルの体は、大きな水柱を立てた。

 それから顔をぷかっと水面に出してくる。

「何から何まですまない。ケイカさま」


「俺のためでもあるから問題ない。――それで、ドルアースの場所はわかるな?」

「ああ、ここから海岸沿いに東へ行ったところにある港町だな」

「そこにナーガ族が集まってる。今は――35人いるな。ケイカビーチか、高速輸送船で仲間が働いてる」


「そうなのか。教えてくれてありがとう」

「気をつけて行けよ」

「もう騙されない。……恩に着る」

 ちゃぷっと水音を響かせて、ナーガは泳ぎ出した。蛇体をくねらせて。


 海岸沿いに消え去るのを見て、俺はその場を後にした。



 奴隷の館へ戻ると、兵士の数が増えていた。

 集まっていた職人たちは「さすが勇者さまだ!」「仲間を助けてくれてありがとう!」などと褒め言葉を口にした。


 まんざらでもない気分で中へ入る。

 1階の広間には、従業員と奴隷がすべて集められていた。



 職人の奴隷メルビウスが話し掛けてきた。

「ケイカさん、お願いがあるんだが、いいかな」

「なんだ?」

 聖金貨を弄びながら言う。

「……この金があれば妻は確実に助かる」

「それはよかったな」

「ただ、これだけの大金、一生かかっても返せそうにない」

「普通はそうだな」

「だから、あなたの奴隷として一生をささげる。その代わりに妻の面倒を一緒に見てもらえないだろうか」

 メルビウスの青い瞳は真剣だった。


「そこまで妻が大切なのか」

「ああ。両親はすでに死んだ。妻だけが家族なんだ。それに罪滅ぼしの意味もある……」

 何か事情がありそうだったが長くなりそうなので流した。


「そうか。わかった。引き受けよう」

「ありがとう。わがままを聞いてくれて」

「その代わり隣国に移り住んでもらうからな。俺の村はそこだ」

「そ、それは……職人は国から出られない決まりだ」

「交渉すればいい。待ってろ」



 俺は騎士の隊長のところへ行った。

「隊長。ちょっといいか?」

「これは勇者さま! グールドを倒してくれてありがとうございます! 奴の関わっていた多くの悪事が暴かれました! 高官の子供を誘拐して意のままに操っていたとは!」


「やはりそうか。助けられてよかったな。――それで、誘拐されてきたエルフは一緒に連れて行く。あと報酬として、ここの奴隷を1人もらいたいんだが、いいか?」

「う……事情聴取は終わったので、わかりました。これだけの成果を上げてくれたのです。王様に伝えておきましょう」

「助かる。俺からも王様に頼んでおく。あとここの建物、地下4階まであるから、掘り返すといいだろう」

「はいっ、すぐに実行します!」

 隊長は表に行き、大声で穴を掘るのが得意な人を集め始めた。

 さすが職人の街。すぐに地下まで暴かれるだろう。


 俺はメルビウスを振り返った。

「よかったな」

「ありがとうございます」

 彼は深々と頭を下げた。



 隊長が言う。

「それでは、勇者さま。また連絡させていただきます」

「わかった。俺は宿にいるから」

「はい」


 俺たちは、メルビウスとエルフを連れて宿に戻った。


       ◇  ◇  ◇


 宿に行った。

 三階建ての豪華な建物。


 大きな一部屋に入ると、フィオリアを見たエルフが駆け寄った。

「フィオリア!」

「まあ、ネビュラ! 無事でよかった!」

 二人はひっしと抱き合う。

 薄絹をまとう美女たちの、もつれ合う姿はとても目の保養になった。


 すると、セリカが腕を組んできた。大きな胸を押し当てるように。

「ケイカさま。いやらしい目をしています」

「安心しろ、目だけだ。いやらしい手つきはセリカにしかしないから」


「う……。そ、そんなこと言わないでくださいっ」

 セリカは頬を染めながら、ぎゅううっと腕に力を込めた。

 胸の谷間に挟まれた腕に、潰れるような柔らかさが押し付けられる。

 そうされると、なぜか心の中まで温かくなる気がした。



 白い修道服の姿に戻ったリリールが美しい笑みを浮かべながら言う。

「とにかく、これで一件落着のようね」

「いや、まだだ」

「え?」

「今回のことは記録に残しておかないとな」

「記録?」

「まあ、見てろ。リリールはメルビウスと一緒に妻のところへ行ってくれ――セリカ、ありったけの金を用意してくれ」

「わかりました、ケイカさま」

 セリカから金を受け取ると、俺は部屋を出た。


 それから鍛冶師ギルドを訪れて、とある交渉をしたのだった。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
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