第74話 奴隷の館襲撃!
王都インダストリアに太陽の光がさんさんと降る。
埃っぽい潮風の吹く港には、大型船が何隻も止まり、加工品が入った木箱を人足やゴーレムが運び込んでいた。
港沿いの倉庫街。
木箱を積んだ荷馬車が行き交う大通りから、少し入ったところに奴隷商の館はあった。
豪奢な装いが施された館。とても流行っているように見受けられた。
千里眼で見たが、1階は受付と広間と風呂、事務室。2階はワンルームより狭い小部屋がたくさんあって、女性や少年ばかりいる。
地下は深い。ダンジョンのようになっていて、牢獄のような部屋が沢山あった。
そして魔物がいた。隷属状態。
やはり。ジャンに魔物の奴隷を渡したのはここからか。
勇者として突入できるな。
――いや、待て。
地下1階とそれ以降がつながってないぞ?
魔法的な仕組みがあるのか。厄介だな。
まずは普通の客として利用して観察するしかないか。
館の入口には屈強な警備兵が立っている。
「すみません、お客様。会員証か、紹介状はお持ちでしょうか?」
「いいや。これで代わりにならないか?」
【勇者の証】を見せ付ける。
うっ、と息を飲む警備兵。
「わ、わかりました勇者さま。どうぞ中へ」
明るい館内へ入ると、亜麻色の髪をした美しい女性が傍へ来た。
「お客様、どうぞこちらへ」
先に立って歩き出した。
分厚い絨毯の敷かれた廊下をついていく。
彫刻の施された柱、壁には絵画。美しい染め絵の壷などが置かれている。
華やかだけれどもどこか退廃的な雰囲気があり、高級娼館を思わせた。
長方形の広間に案内される。奥には3枚の扉があった。
椅子に座ると、すぐに奴隷商と思われる年配の男が現れた。出てきたのは奥の真ん中の扉。
後ろには強そうな若者と、年老いた老人を連れている。
奴隷商は柔和な笑顔を浮かべているが、目が氷のように冷たい。
「初めまして、勇者さま。今日はどういった御用でしょう」
「そうだな……美人は間に合ってる。使えそうな奴を見せてくれ」
俺はセリカの薄い肩を抱きつつ言った。セリカは、かあっと顔を赤らめて俯いてしまう。
「け、ケイカさまっ。恥ずかしいです」
「失礼ですが、予算はどれぐらいでしょう?」
「さっき貰った2枚を出してやれ」
「はい、ケイカさま」
セリカがほっそりとした指先で腰の袋を開けて聖金貨を2枚手のひらに載せた。
奴隷商は笑みを強くするとゆっくりと頷く。
「ええ、わかりました。いろいろとお見せしましょう」
ぽんっと手を叩くと、青年は一礼をしてから左側の扉から出て行った。
《千里眼》と《多聞耳》で見聞きしていく。
左の扉は地下1階に続いていて、そこには、美男美女、または幼い少女や少年。斧を持った犬獣人や、杖を持って本を読んでいる老婆などがいた。
全員、普通の部屋に閉じ込められている。
奴隷商の青年は顎に手を当てながら、吟味していき、最終的には10人ほど選んで部屋から出した。
廊下で青年が言う。
「今来てる客は勇者さまだ。間違いのないようにな」
奴隷たちは「おお~」とか「えぇ~」などと驚きの声を上げていた。
地下1階の階段のある部屋には鏡があり、全員の身だしなみを整えさせる。
しばらく時間がかかりそうだった。
俺は奴隷商の男を見た。
「それにしても儲かってるみたいだな」
「ええ、やはりインダストリアは工業の町。人手はいくらあっても足りませんから」
「よく人を集めてこれるな。攫ってきたりはしてないだろうな」
「何をおっしゃいますやら勇者さま。条件奴隷ならいくらでも集められますよ」
「条件奴隷?」
あっ、と奴隷商は声を上げると、こほんと咳をして居住まいを正した。
「奴隷には二種類ございます。手に職を持つ者や能力が高い者は、奴隷契約時に条件が出せます」
「ほう。例えば?」
「そうですね。例えば、魔導師の老婆がいますが、体罰禁止、重労働禁止、戦闘禁止。一日4時間勤務、週休3日、という条件をつけています。大金貨40枚でございます」
「高くないか?」
「ですが黒魔術と薬物合成に優れ、今の宮廷魔術師長もこの老婆の教え子ですよ」
「なるほど専門的な家庭教師なのか。それは引く手あまただな」
「はい。私どもを経由しまして、何度も取引成立しています」
――条件奴隷は、ある種の職業斡旋所や派遣社員的なものらしい。
ということは、地下1階は全員、条件奴隷か。
だから過度な拘束はしていなかったんだな。
「もう一種類は?」
「無条件奴隷でございます。こちらは能力が無い者や、借金が返せなくて売られてきた者がほとんどです」
「なるほどね」
俺はあらためて地下を見た。
地下2階には、鎖と首輪を付けられた男女がいた。女も少女も薄絹をまとい、艶かしい化粧をさせられていた。男は手足も拘束されていた。
地下3階には、厳重に拘束された人たちがいた。「家に帰して……」と泣いてる人がいる。誘拐してきた人たちではないだろうか。
その他、エルフがいた。獣魔族もいる。蛇の化け物まで――いや、ナーガ族だ。
――これは助けなかったら、あとでイエトゥリアに怒られるな。
地下4階は……部屋がいくつかある。事務所っぽい部屋や、倉庫のような部屋もある。
寝室では痩せた男がベッドに太ったオークを縛り付けて楽しんでいた。
ステータスで見るとこいつがグールドだった。
――ここが犯罪組織グールドの隠れ家のようだ。
ただ、どうやって下に行くのかが分からない。
地面をぶち抜いた衝撃で地下室が崩れたら、発生した土砂で奴隷たちが死んでしまいそうだった。
そうするうちに、奴隷商の青年が戻ってきた。
ぞろぞろと奴隷を10人引き連れて。
奴隷たちは壁際に並んだ。
奴隷商が説明していく。
「戦いが得意な者、魔法が得意な者、盗賊スキルで探索ができる者、道具作りが得意な者……」
いくつか質問しては彼が答える。
やはり全員条件奴隷だった。
「うーん、確かに素晴らしいが、条件が厳しいな。冒険に連れて回れるほどじゃない。もっと条件がゆるい、奴隷が欲しいな」
ステータス的にも、それほど見るべきものはなかった。
奴隷商は言う。
「これは申し訳ございません。すぐに別のを……」
パンパンと手を2回叩いた。
青年が奴隷たちを引き上げさせると同時に、黙っていた老人が右の扉へと向かった。
《千里眼》で追う。当然、《多聞耳》も使用。
右の部屋は何もなかった。老人は手袋を脱ぎながらかがむと、床に手を当てた。
すると、床が虹色に光り出すとともに、高い声が響いた。
『地下2階と3階に行けます。行き先は?』
「地下2階」
『かしこまり』
部屋の中が蜃気楼のように揺れ、老人は地下2階へとワープした。
それなのに床を真理眼で見ても何もない。
老人の右手を《真理眼》で見る。
【妖精の鍵紋】妖精の扉を通れるようにする。妖精界移動不可。1日の使用4回まで。(残り1回)
妖精の技術を使っていたのか。
ワープゾーンみたいなものらしい。
奴隷にした妖精に作らせたんだろうな。
ていうか、真理眼でも探知できない妖精の技術を使って隠れていたんだから、グールドが今まで見つからなかったのも当然だ。
うーん、地下4階へは行けないみたいだな。
地下3階まで行って奴隷たちを助け出し、それから天井ぶち抜くか。
ただ老人の鍵は1日4回で、あと1回。帰りで使ったら使えない。
おそらく食事を運ぶ必要があるから、もう1人か2人、鍵紋を持ってる奴が……ん?
――これ、妖精の加護があれば代用できるんじゃ?
というか鍵紋が妖精の加護の劣化版か?
聞いてみればいいか。
心話でリリールに聞いてハーヤに尋ねてもらって……いや、妖精は顔と名前が分かってれば話しかけられるんだったな。
俺はぼそぼそと「妖精の加護を持つ我が名において~」と呪文を呟いてハーヤに聞く。
『ハーヤ、聞こえるか?』
『わぁ、びっくりしました! ボクは大丈夫です』
『今、奴隷の館にいるんだが、妖精の扉を使っているらしい。妖精の加護がある俺なら通れるか?』
『はい~。王女様の加護ですから、妖精の扉も妖精の門も、どこでもフリーパスです~。年会費も無料』
『妖精の扉はワープ装置みたいなものか? 遠くから見ても見えないんだな』
『装置事体は亜空間にあります。許可を持つ人が設置面に触れると作動しますー』
『設置場所を知らないと使用できないのか……わかった。そうそう、奴隷紋の処置は終わったか?』
『きれいになりました。お腹つるつる、玉肌です』
『じゃあ、ミーニャとラピシアに奴隷の館に急いで来るよう、伝えてくれ。港の倉庫街にある』
『わかりました~』
俺は椅子から立ち上がると伸びをした。
「よし。ゴミ掃除といくか!」
「はい? なんでございま――ぐふぅ!」
冷たい笑顔を浮かべる奴隷商の腹を思い切り殴りつけた。
壁に叩きつけられてそのまま気絶する。
「セリカ! 縛れ! 口もな!」
「――はい、ケイカさま!」
セリカは戸惑ったがすぐ命令に従った。奴隷商の中年男をベルトを使って縛り上げる。猿ぐつわもはめた。
残っていた青年が逃げようとする。
その背後から後頭部へ一撃。床に崩れ落ちた。
セリカがさっとやって来て同じように縛り上げる。
俺は男と青年を両手で持つと右の扉へ向かった。
セリカが首を傾げる。
「どうされるのでしょう?」
「地下にいる奴隷たちを助け出す。そしてグールドを倒す。まずは今から帰ってくる老人を無力化するぞ」
「わかりました」
セリカが真剣な顔で頷いた。凛々しい美しさ。
しばらくして右の扉が開いた。
老人が奴隷を5人連れて入ってくる。
「お待たせしまし――え?」
俺は瞬時に移動して、老人の首筋を叩いた。
ドッと鈍い音がして老人は倒れ付した。
ざわめく奴隷たち。
俺は勇者の証を奴隷たちに見せ付ける。
「俺は勇者だ。こいつらは魔王の手先の証拠がある。協力しないと魔王の手先になるぞ」
まあ、証拠は地下にあってまだ手に入れてないんだけどな。
「は、はい」「わかりました勇者さま」
「だったら、ここの壁際に並んで立ってるんだ。使用人が来たら『奥の部屋で入念な面接をしている』と言え」
「わかりました」
奴隷たちは素直に頷いた。
ふと、5人の奴隷たちの1人が職人だと気付いた。
黒髪に青い目をした若い男。無条件奴隷になったというのに、背筋を伸ばして凛々しい顔つきで立っている。目には意志の強さが光っていた。
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【ステータス】
名 前:メルビウス
性 別:男
年 齢:28
種 族:人間
職 業:奴隷
クラス:建築士Lv41 魔封鍛冶師Lv5
属 性:【土】
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お。魔封鍛冶師のスキルを持っている。
でも、建築士になったんだな。
俺はメルビウスに話しかける。
「君は? どうして奴隷になった?」
「私はメルビウス。妻の病気を治すために金が必要だった。大金貨30枚以上(300万円)。それだけだ」
涼やかな声で答えるメルビウス。
「金があれば助かるのか?」
「ああ。稀少な薬が必要なんだ」
「そうか――セリカ1枚渡してやれ」
俺の呼びかけに、セリカが腰に下げた小袋から聖金貨を一枚取り出した。
「どうぞ」
「え!?」
「もらっとけ」
俺は奴隷商人たちを担ぎ上げながら言った。
後ろでメルビウスが何か言っていたが気にしない。
どうせ奴隷紋があるから館からは逃げられない。
俺は縛った奴隷商人たちを右の部屋に入れた。
それから床に手を付いた。虹色に光り出す。
『地下2階、3階、4階、どこへでも行けます。行き先は?』
「地下3階へ行ってくれ」
『かしこまり』
甲高い声が響いたと思ったら、一瞬、重力を感じなくなった。
そして地下3階へとワープした。
「行くぞ、セリカ。誘拐されてきた人と、あとエルフとナーガを助け出す」
「まあっ、ナーガさんが!? ……わかりました」
部屋を出て、足早に廊下を駆ける。
まずは人間たちを助けていく。
貴族の娘や、高官の息子がいた。奴隷じゃなく、やはり人質のようだった。
泣きながら「ありがとうございますっ」「ありがとう、勇者さま」と感謝された。
続いてエルフを助けた。
緑の髪をした美しい女性が鎖につながれて部屋にいた。
鉄の扉を曲げて開ける。
「大丈夫か? 助けに来た」
「あ、あなたは……?」
「勇者ケイカだ。族長のヤークトとも知りあいだ」
ヤークトの名前を出したとたん、ううっと泣き顔になる。
「泣くのは後だ。逃げるぞ」
「は、はいっ。……でも鎖が」
「問題ない」
俺は大股で歩み寄ると、壁に繋ぐ鎖を引き千切り、首輪をむしり取った。
エルフは緑の髪を波立たせて、何度も頭を下げる。
「ありがとうございます、ケイカさま!」
「ついてこい」
「はいっ」
次に向かったのは一番奥の部屋。
狭い部屋の中で窮屈そうに蛇体を納めるナーガの女がいた。
扉を強引にこじ開けると、ナーガはびくっと体を震わせる。大きな胸がふるふると震えた。
「な、何者だ……」
「ダリア、イエトゥリア」
「……っ!! なぜ仲間の名を!?」
「俺はケイカ。勇者だ。みんなドルアースで楽しく働いてる。さあ、出よう」
「……う、うぅっ!」
美しい顔を歪めてナーガは涙をこぼす。
俺は彼女を壁に繋ぐ鎖を引き千切る。
「泣くのは後だ。今は逃げろ」
「……わかった」
ぐいっと涙を手で拭うと、蛇体をくねらせて廊下へ出てきた。
全員たちを連れて、1階へ戻った。
また半端なところで。更新は明日の昼か、遅くても夜に。




