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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
補遺閑話集・勇者のんびり編

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第258話 あのときの言葉(狐の訪問その4)

 稲荷の狐あんずを連れて異世界を案内。

 大きなドラゴンが見たいというのでグリーン山へ連れてきた。


 洞窟へ入ると、ドラゴンのアウロラがうずくまってダンジョン管理画面を眺めていた。

 美しい緑色の鱗に覆われた巨体に、あんずが驚きの声を上げる。

「本物!? 本物でございましょうか!?」

「偽物を見せてどうする」


 アウロラが長い首をもたげた。

「ん、ケイカか。そちらは?」

「昔の知り合いのあんずだ。いろいろ案内している」

「あ、あんずです! よろしくお願いします! ――あの。一つお願いが」


「なんだ?」

 アウロラに睨まれて、ひぃっと縮み上がるものの声を震わせて言った。

「触らせていただいてもよろしいでしょうか?」



 俺は呆れながら言った。

「なんでも触りたがるな、お前」

「見てるだけなら夢と同じではありませんかっ。触れて体感してこそでございます!」

「楽しんでるようでなによりだ――アウロラ、頼む」


「まあ、減るものでなし。神獣的な者と見えるから、我に触れることを許そう」

「ありがとうございます!」

 あんずは紅白の巫女服を揺らしてアウロラに近付いた。

 それから手から足、腹や背中と、小さな手でぺたぺた触っていった。背中に背負った赤いランドセルがカシャカシャ鳴った。


 ただ大きいので時間がかかる。



 ――と。

 マントを翻して侯爵がダンジョンで入口から出てきた。

「ふはははっ。どうした、ドラゴン! 狐の亡霊に取り付かれておるではないかっ! ――む、ケイカか。また何かの病気か?」


「いや、今日は観光案内だ。ドラゴンを見に来た」

「あんずは亡霊ではございませんっ!」

 アウロラの尻尾に乗りながら小さな拳を振り上げて抗議していた。



 侯爵があんずを見ながら俺に尋ねる。

「どうかしたのか?」

「いや、古い知り合いを案内してるだけだ。ドラゴンや巨人が珍しいらしくてな」


「ほう。まあ丁度よかったな。近いうちにケイカに相談しようと思っていたところだ」

「何かあったのか?」

「魔王が死んで、食い扶持に困った魔物たちが我輩のところへ来たのだ。それがかなりの数でな」



 俺は腕を組んで唸った。

「なるほど……侯爵の噂が広がっていれば、押しかけるのも当然か――保護するのか?」


 すると侯爵は顔を片手で覆って悪そうに笑う。

「保護? くくくっ、何を勘違いしておる? 甘い噂に惑わされて寄って来た虫どもを、地獄の底へ突き落としているだけだ! 『ここまでとは思わなかった、どうか見捨てないでください』と泣いて許しを乞う姿は最高のショーだぞ、ふははははっ!」


 ――それ、単に待遇がよすぎて侯爵領から離れたくないと、泣いて懇願してるだけじゃないだろうか。



 呆れて頭を掻きつつ言った。

「侯爵は平常運転で安心した。……で、人が増えすぎて困っているというわけか」

「うむ。元の隠れ里のほかに、ドラゴンから階層を3つ貰ったが、それでも足りなくてな」


「なるほどな。……侯爵が魔物をまとめていてくれるほうが、何かと対処しやすいか。わかった。ダフネス王国の南東地域を割譲できるか、国王にもちかけてみよう。もちろん 納税の義務は出るはずだが」


 侯爵は胸を反らして笑った。

「さすが、ケイカ! 地獄を知り尽くしておる男よ! 領地がもらえた暁には、地獄のバーゲンセールを開催してやろう! ふははははっ!」

 侯爵の笑いは洞窟内に反響した。

 ドラゴンのアウロラが鬱陶しそうに眉をひそめたが何も言わなかった。



 それからしばらくして、あんずが戻ってきた。

 ランドセルを鳴らして気をつけをする。

「ドラゴンさんは素晴らしい体格をされておりました! 一生のお願いがかなって、光栄でございます!」

「そうか。……そっちの男も本物のヴァンパイアだぞ。触ってみるといいんじゃないか?」


 むっ、と侯爵が嫌そうな顔をした。

「気でも触れたか、ケイカ。我輩は気安く触って良い存在ではないぞ」



 あんずは顔を真っ赤にして首を振る。

「と、殿方に触れるなんていけませんでございますっ! あんずが生涯で触れるのはケイカさまだけと決めて……はわわっ!」

 ――よくわからないが、慕ってくれているらしい。


「ありがとな」

 彼女の頭をポンポンと撫でると、太い尻尾がぴーんと立った。口では「はわわ」と言うものの、尖った狐耳は嬉しそうにピコピコと動いていた。


       ◇  ◇  ◇


 夕暮れ時の港町ドルアース。

 俺たちはケイカハウスを降りたところにある、海辺のライブ会場にきていた。

 人魚のアリアが奏でるライブ。


 ドルアースの人々の心を掴んだようで、白浜には人々が集っていた。

 夕焼け空の下、建物や人々などのすべてが赤く染まっている。

 打ち寄せる海は青黒いけれども、東に伸びる長い影までも赤く染まっていた。



 俺とあんずは浜辺の隅に座って、ライブの開始を待っていた。

 手元にはジュースとフィード焼き。

 ドライド商会の海の家で買ってきたものだ。


「このフィード焼き。お好み焼きとタコスを足して2で割った感じで、うまいぞ」

「さようでございますか……いただきます――はむっ」

 小さな口で頬張ると、あんずは目を丸くした。

 尻尾をぱたぱたさせて喜ぶ。


「甘くて辛くてもっちりした食感で、おいしゅうございます!」

「そうか、それはよかった。この世界で一番好きな食べ物かもしれないな」

「……ケイカさまの一番を味わえて、もう思い残すことはありません」

「え?」

 あんずを見ると、潤んだ瞳で会場に設置されたステージを見ていた。



 言葉をかけようとしたが、人魚のアリアが海の中からステージに登った。

「ようこそ、みなさん。こうして会えるのもすべて勇者ケイカさまのおかげです――では彼を讃える歌を一曲」


 アリアは美しい歌声で、俺の物語を語り出す。

 夕焼け空に物悲しく響いた。


 それが終わると、明るい歌や、雄大な歌を次々と歌っていった。

 観客は時間を忘れて聞きほれている。

 波が静かに打ち寄せる。



 俺はそっと隣の少女へ顔を寄せて囁く。

「なあ、あんず」

「なんでございましょう?」


「俺の神社が取り壊される時も、こんな夕焼けだったよな」

「……はい」


「あの時、何か言ってたよな。何て言ってたんだ?」

「それは…………もう、昔のことですし、いいじゃありませんか」

 あんずは顔を伏せた。狐耳が伏せられている。



「ん~。あの時は自分でもショックで、あまり覚えていないんだ。できれば、教えて欲しい」

「……あんずは言いました。ケイカさまは立派な神様になられるお方です、諦めないでくださいと。そして……」

「そして?」


「また、一緒に、神社を……いえ、やっぱり何でもありません」

 あんずは悲しそうな顔をして俯いた。

 何か言いたかったけれど、言葉にならなかった。


 波が静かに打ち寄せる入り江で、人魚の歌声が夕焼け空に物悲しく響き続けた。


       ◇  ◇  ◇


 深夜。

 ケイカ村の屋敷は寝静まっていた。

 物音一つしない中、誰かに呼ばれて目を覚ました。

『こん、こん』

 と囁くように呼んでいる。とても寂しく響く、耳に馴染んだ声だった。


 俺はベッドから這い出て和服を着た。

 隣で寝ていたセリカが、金髪を揺らしつつ「ううん……」と喘いだ。

 なぜか全裸でお疲れらしい。いったい誰が疲れさせたんだか。



 部屋を出て廊下を歩く。

『こん、こん』と呼ぶ声は続いている。

 そして客人用の部屋に入った。


 俺が入るなり、ベッドで正座をしていたあんずが、しずしずと頭を下げた。

「ケイカさま、来ていただき、ありがとうございます――どうぞこちらへ」

 ベッドの端を、小さな手でぽすぽすと叩く。


 ベッドにどっかりと座って話しかける。

「どうした、あんず?」

「……お願いがございまする」

「いいぞ。あんずには世話になった。なんでも聞いてやる」



 あんずはぺこっと頭を下げた。狐耳がピッピッと跳ねる。

「ケイカさまに抱いて欲しゅうございます」

「ん~。もっと大きくなってからな」

「そう言われると思っておりました」


 あんずはベッドから降りると、巫女服の帯を解きつつ机へ向かった。

 上に載せた赤いランドセルを開けて、中から葉っぱを取り出す。



 帯を解くと赤い袴が床に落ちた。

 白衣の前をはだけた姿になると、恥ずかしそうに微笑みながら葉っぱを頭に乗せた。

「きつねこんこん、お色気こんこん、姿は自在にこんこんこんっ!」


 ぽふっと白い煙が沸き起こったかと思うと、あんずは素晴らしい肉体の女性に変わっていた。


 くびれた腰、大きな胸、張り出すお尻。

 ふっくらとした唇に指を当てる仕草が色っぽい。


 でもどこか、見覚えがあった。

 慣れ親しんだ、一番大切な安らぎの形。



 くいっくいっと魅惑的に腰を振りながらベッドへ近付いて来た。

 狐の尻尾がふさりふさりと、左右に揺れる。


 艶美な肢体で、俺にしなだれかかってくる。

 見上げる茶色の瞳が誘うように潤んでいた。

「これで、よろしいでしょうか?」

「お前ってやつは、まったく……」


 茶髪の頭を数回、優しく撫でた。

 あんずは気持ち良さそうに目を細める。

 俺は尖ったキツネ耳に口を寄せる。

「理由を聞いてもいいか?」

「……願いが叶ったら教えるかもしれません」

「無理するなよ」


 俺は彼女の薄い肩を押してベッドへ倒しつつキスをした。

「ああ……っ! あんずは、嬉しゅうございますっ!」

 感極まった声で言った。泣いているようだった。


 そして初々しかったキスは、夜が更けるにつれて大胆に熱く変わっていった。

 翌朝になると、ベッドは尻尾の抜け毛で毛だらけになっていた。

終わらなかったので、次話は遅くても日曜までには更新します。

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何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
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