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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
補遺閑話集・勇者のんびり編

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第253話 意外な原因と解決法!(神さまのおしごと4)

本日2回目の更新。

 港町ポンバハル。

 貧者地域にあるティサの家に上がらせてもらって、普段の生活ぶりを観察していた。

 今のところ病気につながるような原因は見当たらなかった。



 時間が過ぎてお昼になる。


 ティセの母親が部屋の隅に座る俺に尋ねてきた。

「勇者さま、ごはんを召し上がりますか?」

「そうだな。いつもどおりの食事を用意してくれ」

「はい」


 母親はかまどに向かい、薪をくべて火を起こす。

 父親は部屋の隅にある大きな袋から、トウモロコシの粒を取り出した。

 石臼でゴリゴリと引き始める。


 それから母親が、粉になったトウモロコシに水を加えてこね始める。

 薄い板状に延ばしてから包丁で切り、ショートパスタ状にした。

 そして、ぐつぐつと蒸気を吹く湯に入れる。



 ――何もおかしなことはない、食事の支度。

 水も安全だった。トウモロコシも安全。石臼の素材も問題なし。

 鉱物毒も病原菌も見当たらない。


 けれども……頭の中でチカチカと黄色信号が明滅していた。


 本能的に何か気付いたのか、ラピシアが正座のまま飛び跳ねて俺の背中を叩く。

「ケイカ、ケイカ! ――う~ん、わかんない!」

 ラピシアがお手上げとでも言う感じで、両手を挙げた。



 細菌? 寄生虫?

 いや、ウィルスだったとしても熱で死滅する。

 何もおかしくはない。


 そして、湯がかれたトウモロコシのショートパスタが皿に盛られた。

 赤いソースを上にかけられて、俺たちの前へと持ってくる。

 もちろんソースも安全。


「お口に合いますかどうか……どうかお召し上がりください」

「すまないな」

 受け取って眺める。

 湯気の中、ソースとコーンの香りが交じり合って食欲をそそる。


 ――なんだろう、この違和感。



 俺は首を傾げつつ、フォークで差して一口食べた。

 歯ごたえのある、もっちりとした食感。

 甘辛いソースが全粒粉コーンのワイルドな風味を引き立てる。

 かなりおいしい。


 横ではセリカが目を丸くしている。

「シンプルなのに芳醇な香りと味ですわ。とてもおいしいです」

「ん、おいしい。粉が引き立てだから、とてもいい」

 ミーニャの黒い尻尾が喜びでハタリと揺れる。


 ラピシアも頬張りながら噴火でもするかのように叫んだ。

「うーまーいー!」

 

「そうだな……」

 ――ただ、辺境大陸で食べたような、すっきりした味じゃないな。

 皮まで粉にしたせいか?

 同じトウモロコシなのに深みのある味になっているが――あ!



 その瞬間、背中に電流が走った。


 思わず、叫ぶ。

「あああああ! そういうことか!」



 セリカが皿を手にしたまま、ビクッと華奢な肢体を震わせた。金髪がなびく。

「け、ケイカさま? どうされました?」


「確かに病原菌が原因じゃない! しかし、交流が盛んになったから起きた病気だ!」


「そ、それでは何が原因なのでしょう!?」



 俺は黒髪をかき乱しながら言った。

「原因はトウモロコシ! 必須アミノ酸欠乏症! 体を正常に保つためには複数のアミノ酸という物質が必要だが、辺境大陸で取れるトウモロコシには、必須アミノ酸の一つであるナイアシンが不足しているんだ!」


 そしてナイアシンが欠乏すると、皮膚がボロボロになって火傷のように爛れる。

 地球ではペラグラと呼ばれた病気!



 ――何かが体に侵入したのではなく、体を維持するものが足りなかったのか!


 富裕層が病気にならなかったのは、高価な小麦のパンを食べられたから。

 貧者地区に病気が蔓延したのは、輸入量が多くて安くなっていたトウモロコシしか買えなかったから。

 奇しくもラピシアの「貧しい」指摘は外れてはいなかった。



 セリカが青い瞳を見開いて驚く。

「そ、そうだったのですか! よくわかりませんが、トウモロコシを食べてはいけないということですね! なんということでしょう!」


 ティセの両親が悲しげな顔をした。

「それでは、トウモロコシが食べられないのですね……」「ですが、小麦も大麦も高いのです……私たちの収入では……」



 俺は首を振った。長い髪が波打つように揺れた。

「いや、そうじゃない。トウモロコシでもいい! ただそのままでは含まれているナイアシンが吸収されない状態なんだ!」


「「「え?」」」

 セリカとティセ、そして両親が目を丸くした。


「食べ方に問題があったんだよ! だから同じようにトウモロコシを食べている辺境大陸では発病者がいない! ――その食べ方とは」


 セリカがごくっと喉を鳴らす。

「とは?」



 俺は立ち上がり、かまどに近寄った。

 そこにある灰を掴むと鍋の中にぶち込む。

「「「え?」」」

 ティサたちとセリカがますます目を丸くした。


 一見、意味不明な行動。

 しかし、料理の得意なミーニャだけはコクリと頷く。

「灰汁(あく)で茹でる――毒が消える」


「その通り。正確には毒消しではなく、含まれているナイアシンが露わになって吸収されやすくなる!」

 ――灰を入れた水はアルカリ性となる。

 その性質を使っての、精錬方法。



 セリカが感激して青い瞳を潤ませた。

「さすがですわ、ケイカさま! 病気の原因を一目で見抜いてしまわれるなんて!」


 俺は深く頷いた。

「そうだな。もっと安全にするなら、植物の灰を入れた水で煮た後、一日放置するんだ。それから食べるようにするといい」


 両親たちは感激して体を震わせる。

「ありがとうございます、ケイカさま!」「これで、これで! 病気に苦しまなくてよくなるのですね!」


「ああ、他の人々にも知らせるといい。勇者ケイカの教えた方法を守れば、必ず病気は消えると」


「はいっ! 今すぐに!」「さっそく教えてきます!」

 ティセとその両親が家を飛び出して行った。


 

 そして、一日かからずに新しい調理法は街中に伝わった。

 ただ半信半疑の病人達もいた。


 けれどもアルカリ処理をすると雑味が消えて味がすっきりする。おいしさを求めて灰処理をおこなう人も増えた。

 ――理由はどうでもいい。病気がなくなればそれでいい。


 まさか食べ物は輸入したが、食文化までは輸入しなかったことが原因だったとはっ!



 病気の経過が気になったので、何度かポンバハルを訪ねて街を観察した。

 日に日に人々の症状が軽くなっていく。

 確かな手ごたえを感じて、俺は笑みが絶えなかった。


 その反面、ミーニャは長いこと落ち込んでいた。

 明るさを取り戻した街の中、しゅんっと肩を落として呟く。

「食べ物が原因なら、私が気付くべきだった」


「いや、俺や侯爵でもわからなかったんだから、しかたない」

 ――他の神々でも無理だっただろう。

 木の神である世界樹なら見抜いたかもしれないが、まだ幼くてすべての記憶が戻ったわけではないので難しいところだ。



 ミーニャは俯いて埃っぽい地面を見ながら、ぼそっと言う。

「とうもろこし、おいしすぎて気付かなかった」

 尖った猫耳が悲しげに伏せられていた。巫女服もいつもより、しわしわだった。


「そうだな。ここの人たちも同じだろう。渋みやエグみの強い山菜やほうれん草と違い、トウモロコシはそのまま食べてもおいしいから誰も気付けなかったんだ。でも、もう解決した――気にするな」


 わしゃわしゃとミーニャの頭を撫でると、猫耳をピッピッと跳ねさせつつ、ふにゃと鳴いた。



 その後、あれだけ蔓延していた病気が嘘のように消滅した。

 ――人々は救世主ケイカを讃え、銅像を設置することになった。


       ◇  ◇  ◇


 晴れた午後。

 大通りの交差する場所に設置された銅像前に俺たちはいた。


 周囲には街中の人が集まっていた。

「勇者さま、ばんざい!」「ありがとう、ケイカさま!」「あなたは命の恩人です!」「感謝です!」

 人々は涙を浮かべて旗をふり、帽子を振る。

 勇者ケイカを讃え続けるお祭り騒ぎ。


 ティセとその両親もいる。

「ケイカさま、ありがとう! お嫁さんの一人にして~っ!」「これ、ティセ。ケイカさまを困らせるようなことを言ってはいけません!」「愛人でもいいから、ケイカさまの寵愛を受けて欲しいもんだなァ」「あなたまでっ!――あっ」



 ティセが群集を掻き分けて、俺へと走り寄ってきた。

 癖のある髪がふわふわと揺れる。


 そして勢いのまま俺に抱きつく。

「ケイカさま……お願いがありますっ」

「ん? なんだ?」


「それは……」

 ティセが俺に寄り添い、背伸びをした。

 柔らかく湿った唇が重ねられた。


 観衆の声がさらに高まる。

 ティセは顔を真っ赤にして唇を離した。

「好きです。大好きですっ」



 呆気に取られていると、隣のセリカが微笑んだ。

「ケイカさまも、あなたのこと大好きですよ」

「はい、奥さん! ありがとうございますっ! ――私、待ってますから!」

 ティセはそのまま踵を返して群集の中へと紛れていった。


 ――感謝されてるんだか。どうなんだか。

 まあ、喜ばれていることは確かだった。



 隣にいるセリカが感嘆の吐息を漏らす。

「さすがですわ……ティセちゃんからも、この町の人々からも名声を得てしまうなんて」

「まあ、困ってる人を助けただけだ」

 俺は重ねられた唇の余韻を指で撫でながら答えた。


 なぜかセリカの青い瞳が妖しく光った。

「ケイカさまが、わたくしの夫で、本当に誇らしいですわ」


 セリカが胸を押し付けるように、大胆に寄り添ってきた。

 思わず薄い腰に手を回して抱きとめる。

 すると、余韻を上書きするように熱く湿ったキスをしてきた。舌が絡まり、ちゅくっと鳴る。

 ふわっと広がった金髪からは花のような香りがした。


 彼女のほうから、人の多い場所でこんなことしてくるとは珍しい。

 ――正妻の地位は渡さないという決意なのかもしれない。



 人々の感謝と喝采はやまない。

 唇を離すと、真っ赤に頬を染めるセリカを片手で抱きつつ、手を振って声援に応えた。


 ――これで、癒しの勇武神として未来永劫、人々に賞賛されることになるだろう。


 青空には、いつまでも俺を讃える声が響き続けた。



  閑話 神さまのおしごと 終

 願いを叶える神の仕事ぶりと、辺境大陸の食材が実は――という、本当は本編に入れたかった話でした。


 あと新作の投稿を開始しました。

「旧魔王VS.異世界魔王!~世界のすべては我輩のものだ!~」

http://ncode.syosetu.com/n1681dq/


 地獄侯爵みたいなキャラが主人公になったら、どんな物語になるだろう?

 と思って実験的に書いてみました。ふははっという高笑いは健在です。

 ぜひ読んでみてください。

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GAノベルより1月15日に3巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
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