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第251話 謎の病気(神さまのおしごと2)

 大陸東端にある港町ポンバハル。

 俺たちは病気だった少女ティセに案内されて、スラム街ほど酷くはないが貧しい雰囲気の漂う地区へとやってきた。


 足を引きずったり、痙攣しながら歩く人が多い。

 原因不明の病に冒されているようだった。

 ――ただ、治癒魔法がとてもよく効くので、魔法で治すことにした。

 病気は一度罹患すれば免疫がつくので。



「さあ、やるぞ。セリカとミーニャは重病者の選別。俺とラピシアは選別された重傷者から片っ端にキュアをかけるぞ」

「はいっ!」「わかった!」「きゅあああ!」


 ティセが不安そうな顔で言う。

「わ、わたしは何をすればいいのでしょう?」

「そうだな……勇者が来たと触れ回ってくれ。あとは重病患者がいたら知らせてくれ」

「はいっ、わかりました!」

 細い手足を振って各家へと駆けて行った。



 それから馬車馬のように働いた。

 ケロイド状の腕や顔をした患者達を治していく。

「だいぶひどいな――《快癒》」「背中やお尻まで爛れているのか……《快癒》」「そう悲観するな。これで治る――《快癒》」


「ありがとうございます、勇者さま!」「さすが魔王を倒したお方!」「一生あなた様を信じます!」

 治った人々は涙を流して俺に感謝した。


 それでも病人は次から次へと、途切れることなくやってくる。

 俺の隣ではラピシアが、楳図かずおのマンガに出てくる必死で叫ぶキャラのような顔をして「きゅああああ!」「きゅああああああ!」「ぐわしっ――きゅああ!」と呪文を唱えていた。


 

 それから時間が過ぎた夕暮れ時。

 赤焼け空の下、最後の患者を治療した。

「待たせたな――《快癒》」 

 爛れた皮膚がみるみるうちに治っていく。


 病人だった男は、涙を流して喜んだ。

「ありがとうございます、勇者さま! これで漁の仕事ができます! 本当にありがとうございます!」

「うむ。頑張れよ」



 患者達は俺に何度も頭を下げた。

 少女のティセが傍へと来る。

「勇者さま! この辺りにいる人々は全員治りました! 本当にありがとうございました!」

「そうか。それは良かった。まあ、勇者として人助けは当然の事。金は要らない。ただ俺を信じてくれさえすればいいから」



 集まっていた人たちが感激でむせび泣く。

「「「ありがとうございます、ケイカさま!」」」


 俺はにこやかな笑みを浮かべて頷いた。

 今この瞬間、信者がぐぐっと増えたのを実感したからだった。



 ――が。

 ふとティセの手首に目がいった。

 そこには赤い発疹ができていた。


「ん?」

 最初は夕焼け空のせいかと思った。

 しかし、よくよく見れば治したはずの患者達――特に初期に治したものたちに赤い発疹ができていた。



「まさか、そんな――」

 俺はティセの手を掴んで目の前に持ってくる。

 ティセは頬を赤らめて俺を見上げた。

「け、ケイカさま……どうしちゃったのです?」


「……治ってない」

「え?」

「ほら、これ」

 ティセに自身の手首を見せた。

 ハッと息を飲むティセ。それから泣きそうに顔を歪める。



「ど、どうしてぇ~っ!」

「細菌か、ウィルスか、寄生虫か。とりあえず原因を特定しないとまずいな――ティセ、協力してくれるか?」

「な、治るのですか? なんでもしますから、どうか病気を治してくださいっ!」


「いいだろう。じゃあ、ついてくるんだ――両親も構わないな? これは病気を根本的に治すのに必要なことだ」

「は、はい! もう勇者さま以外に頼れるものはありません!」「どうかティセをよろしくお願いします」


 俺は勇者の証を取り出すと、ティセをパーティーに入れた。



「じゃあ、行くぞ」

「はい、ケイカさま」「ん」


 ティセも少し心配そうな顔をして頷く。

「お願いします、ケイカさまっ」

「当然だ。任せろ」


 俺はセリカとティセたちを連れて妖精の扉へ向かった。


       ◇  ◇  ◇


 ダフネス王国の、大河を挟んだ東側。

 丘を削った盆地にある、地獄侯爵の領土。

 侯爵の部下たちが畑仕事や放牧を頑張っていた。


 俺は部下の一人から聞いた場所へ向かった。

 そこで侯爵は黒いマントを風に翻しながら高笑いしていた。

「ふははははっ! 働け! 楽にならない暮らしの中で地獄のような日々を過ごすがよいわ!」


「「「はいっ、恐ろしい日々です、侯爵さま!」」」

「そうだろう、そうだろう! ふははははっ!」 



 俺は頭をポリポリと掻きながら近付いた。

「侯爵、久しぶりだな」


「ん? ケイカではないか。突然やってきてどうした?」

「侯爵に頼みがあってな。とある病気の原因を解明してもらいたい」


「ほほう。病気か」

 侯爵の目付きが鋭くなった。病気は宿敵だと認識しているようだ。



 俺はティセの背中を押して前へ出した。

「あ、あの。侯爵さま、わたしはティセって言います」


「ふむ……知らない病気だな」

 侯爵は目ざとくティセの手首を見ていた。

 赤い発疹が広がり、火傷のように爛れ始めている。



「やはり侯爵でも知らない病気か。どんな細菌に感染しているか調べて欲しい。もしかしたらウィルスかもしれないが」


「ウィルス?」

「細菌より小さな生物だ」


 侯爵は鋭い犬歯をぎらつかせながら顎を撫でる。

「ほほう。そのような存在がいるのか……より精細に調べられるようにしなければならんというわけだな」

「話が早いな、侯爵。というわけで、この子の病気調査を頼んだ」



 侯爵はバサァッとマントを大げさに広げた。

「当然だ! 死は我輩の手だけに委ねられねばならないのだからな! 見ているがいい、すぐに結果を出してやろう! ふははははっ!」


「さすが侯爵だな。――原因がわかったらケイカ村に知らせてくれ」

「うむ。任されよう――着いてくるがいい、こわっぱよ!」



 侯爵の後に続いて、ティセとラピシアが歩き出す。

 俺は眉間にしわが寄るのを感じながら話しかける。

「なぜラピシアがついていく?」

「ラピシアも、こわっぱ!」


「……ラピシアはいい。さあ、帰ろう」

 侯爵の後についていこうとするラピシアの手を取った。


 そして侯爵領をあとにした。

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