第249話 勇者のふりも楽じゃない。理由? 俺が……(最終章エピローグ)
10/31に改稿。
5行ほど付け足しました。
魔王を倒してから3年の月日が過ぎた。
その後も、魔物に苦しめられている人がいると聞けば(というかお守りを通じての祈願で知る)積極的に助けに向かった。
また、魔物たちは人や獣人との共存の道を探り始めた。
地獄侯爵の元に集まる魔物も多く、険しいが決して不可能ではない道を歩み始めている。
晴れた日のケイカ村。
俺は屋敷の玄関から、境内のような庭を眺めていた。
ひっきりなしに参拝客が訪れる。
庭中央の拝殿にある俺の銅像を拝んでは、直角に曲がって社務所代わりの販売所へ寄った。
家族や友人の分までお守りを買って、帰っていく。
参拝客の歩き続けた導線が石畳に凹みを作っていた。
大勢の人が途切れることなく訪れた証。
俺は多数の信者を従えて、名実共に『神』となった。
しかし、見ていると心がざわつく。
イライラしているのかもしれない。
「あら、ケイカさま。こちらにいらしたのですね」
セリカが金髪を揺らして玄関へ来る。
19歳になった彼女。昔と代わらぬ美しさ。気品さえ漂う。
腕には赤子を抱いていた。黒髪に青い瞳の男の子。
傍には金髪の小さな女の子がいて、セリカのスカートを掴んでいる。
「ぱぱー」
俺はしゃがみこんで我が子の頭を撫でた。
「エリーゼ、お絵かきは終わったのか?」
「うん! ぱぱ まま かいた!」
「そうか。あとで見てみような」
えへへと笑うエリーゼ。セリカに似た金髪が揺れた。
そこへ、猫耳と尻尾を生やした女の子が駆けて来た。二人いる。
子猫のようにすばしっこい。黒髪を揺らして走り回る。
「マミヤがたたくのー」「パパー、ネーニャがひどいのー」
外へ走り出そうとする二人を捕まえる。
「マミヤ。ネーニャ。走ったらダメだぞ。ミーニャは?」
「ママはー」「あっちー」
玄関先に、巫女服を着たミーニャが姿を現す。
17歳になって、胸がツンっと上を向くように成長していた。引き締まった肢体に色気を漂わせる。
そして背中に一人、腕に一人、赤子を抱えていた。
相変わらずの無表情。違いがあるとすれば尻尾が二股になっていること。
――猫又に進化していた。
「ん。おばあちゃんのところに行ってて」
「「は~い」」
双子の猫の子は屋敷の奥へと走っていく。
エリーゼが頼りない足取りで後を追いかける。
「エリーゼも~。ねこのおばあちゃん あうー」
しかし廊下の角を曲がろうとして、どてっと転んでしまう。
そこに緑髪のエルフが二人現れた。フィオリアとリィだった。
フィオリアは赤子を背負い、リィはお腹が大きかった。
「あらあら。泣かないのは偉い子ね」
「うん!」
フィオリアに起こされ、エリーゼは奥の部屋へと消えていった。
セリカが言う。
「今日はみなさんで集まって魔王討伐三周年記念を開くということですが……」
「3年か……あっという間だったな」
そこへサキュバスのステラとナーガのイエトゥリアがやってきた。
二人とも子供を抱えている。イエトゥリアは背負った子供のナーガに巻き付かれていた。
ステラが赤ん坊をあやしながら言う。
「エトワールは身重の体だからこれないってさー。――って、どうしたの、ケイカ。浮かない顔して?」
イエトゥリアも心配そうに言う。
「どこか悪いのではないか?」
すると、呆れた声が響いた。
「悪いのは頭じゃな」
「むしろ女癖かもしれません」
リリールとリヴィアが玄関に現れた。リリールは幼い子の手を引いている。
リヴィアは赤子を背負っていた。ガラガラを手で振ってあやしている。
人でいっぱいになった玄関。
ミーニャは半目になってリリールとリヴィアを睨む。
「ケイカお兄ちゃんは正しい。寵愛を受けておいてその態度は許さない」
「そうだな、嫌なら出て言ってくれて構わないんだぞ」
俺が言うと、リヴィアはロリ巨乳を揺らし、リリールはベールを揺らして拒否した。
「そんな、ほんの愛情表現ではないかっ」
「そ、そうですわ。ケイカさんが頼もしいからみんな頼ってしまうだけで、あなたに節操がないなんてこれっぽっちも思って――え?」
ラピシアが青いツインテールをなびかせて、屋敷の外から帰ってきた。
身長は3センチほどしか伸びてないが、お腹が妊婦のようにぽっこり膨らんでいる。
「ただいま!」
隣にはアトラ、こちらは小学校高学年ほどに成長していた。
しかし、お腹は妊娠八ヶ月ぐらいにぽっこりと膨れている。
「ただいま、なのです」
セリカやステラが目を見張る。
「えっ! ラピシアちゃん、アトラちゃん、いつの間に妊娠を!?」
「ケイカ、やるねぇ。さすがアタシの夫じゃん!」
リリールとリヴィアも目を見開いて驚いている。
「ラピシアちゃんとお母さまに手を出すなんて! それはさすがに犯罪ですわ!」
「け、ケイカ、越えてはならぬ一線を越えてしまったというのかの!」
一番驚いたのは俺だったが。
「いや、待て! さすがにラピシアとアトラには手を出してないぞ! ――冗談にならないからやめるんだ、二人とも!」
するとラピシアは白いワンピースの下からメロンぐらいある大きなたまごを取り出した。
アトラもシャツの下から素直にたまごを取り出す。おへそが見えた。
ラピシアが元気な声で言う。
「にんしんのマネ!」
「それ、イエトゥリアの卵だろう。壊すんじゃないぞ」
「きゅあで治せる! でも、わかった!」
ラピシアは大切そうに両手で抱えた。
アトラは茶髪を揺らして頭を下げた。
「はわわ。ちょと冗談が過ぎたのです。謝るのです」
「なぜそんなことを」
「みんな次々妊娠するから羨ましくなったのです」
俺は溜息を吐く。
「そういうことは立派な神になってから言ってくれ……」
アトラはまだ神として大切なことを、4つほど理解したに過ぎない。
ミーニャが言う。
「また、溜息。養育費大変?」
「まあな……って、そんなことじゃない。お前たちが傍にいてくれて本当に感謝している」
セリカが首を傾げて訪ねる。
「では、何に苛立っておられたのです?」
俺はまた境内へと目を向けた。
次から次へと参拝客が訪れる。
――しかし。
その人々にはある一つの傾向があった。
若い女性からおばあさんまで。
ほとんどが女性だった。
俺は地団駄を踏んで叫ぶ。
「なんでだよ! 四天王を倒し、魔王を討伐して、世界を救った、唯一の勇者だぞ! あんなにも苦労をして、頑張ったのに――なんで、なんで――!」
俺は頭を抱えて叫ぶ。
「なんで『子宝』と『安産』の神なんだぁぁぁぁ!」
セリカたちが呟く。
「当たり前ですよ」「ん、それも悪くない」「何を今更言ってんのさぁ」「これだけ孕ませておいて」「今頃、気付いたのかの」「私だけじゃなく、お母さんにまで手を出してるのに」
母親たちは他の赤ん坊たちを眺めてから呆れたように呟いた。
「確かに。この3年で我が子は13人生まれた。出産時の死亡率も下げた」
――というか、セリカやミーニャ、その他、目をかけた者たちが産褥熱で死んで欲しくなかったから、侯爵式細菌学による衛生観念を病院に普及させた。エトワールも村で入院している。
セリカが微笑む。
「ええ、わたくしも覚悟していましたが――お産が死と同じではなくなりました」
俺は納得がいかなくて、ぐぐっと歯を噛み締める。
「でも、あるだろう、ほら! 勇気の神とか、戦いの神とか、破魔の神とか!」
海邪神リヴィアがにやにや笑いながら言った。
「何の神かは、人々が決めるものじゃからの。観念せい」
「だからって、勇者になって魔王を倒したのにっ。あれだけ決死の冒険をこなして掴んだ地位が――! ――子宝と安産の神はないだろ!」
セリカが困ったような笑みで俺の背中を撫でた。
「まあ、まあ。ケイカさま。皆に頼りにされている神さまには違いありませんわ」
「そうなんだが――っ! ……うわぁぁぁ!」
どうにも納得がいかなくて頭をかきむしった。
それを見ていたセリカがくすくすと笑い出す。
釣られてステラやリヴィアたちも笑い出す。
美しい笑い声は心安らかなハーモニーとなって、春の青空へ溶けていった。
今日もケイカ村は、この世界は、たまらなく平和だった。
『勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――』 終
お疲れ様でした。
これにて本編は完結となります。
1年4ヶ月の長い間、読んでいただき、本当にありがとうございました。
たくさんの評価やブクマが支えとなって、完結までこぎつけられました。
ありがとうございました!
「勇者のふりも楽じゃない」の1巻は好評発売中です!
桁違いに面白くなっていますから是非読み比べてみてください!
あと本編に入らなかった話が2つほどあるのですが、2巻の書籍作業があるのでしばらくは無理そうです。
そのうち閑話として書きたいと思います。
では、また。