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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第十章 勇者冒険編・決戦、浮遊大陸!

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第238話 Prayer of the world ――世界の祈り、希望の歌

 浮遊大陸の中央になる建物で、俺はセリカに抱かれて横たわっていた。

 魔王の痛烈な一撃を喰らって、命は風前の灯だった。


 けれど、セリカの祈りが世界へと届く。

 それに応えて、世界中から暖かい力が俺の心へと流れ込んできた。



『ケイカさま、頑張ってくれぇ!』『わ、我を娶るまでは死ぬことは許さんぞ! 生きるのだ!』『死なないで、勇者さま。人魚のために、世界のために、幸せな未来のために。お願いっ』


 港町ドルアース。

 ナーガのダリア、イエトゥリア、そして人魚のアリアが祈ってくれた。

 もちろん街のあちこちで、ナーガと人々が手を合わせて祈ってくれていた。

 

 体の芯が、ぼうっと温かくなる。



『ケイカさま、あなただけが頼りです』『ケイカさまこそ最後の希望です』『死なないで……頑張って……!』


 エルフの村でヤークト族長やフィオリア、リィが祈っていた。


 右腕が少し動いた。



 辺境大陸の村人たちも祈っていた。

『ケイカさま、神さま! 決して、負けない!』『神の使い、太陽の使い、ケイカさまは死なない!』

『僕より先に死なないで……っ! まだあなたからもらった恩を、何一つ返せていないから!』

 

 族長の声、部族たちの声、幼く澄んだリオネルの声。


 左腕を動かすことができるようになった。

 


 寒い世界からも、暖かな祈りが届く。

『あなたの本気はそんなものではないはずよ。もう少し頑張ってみてもいいじゃないかしら?』『勇者さん、死んじゃダメだから! また勝負するんだからぁ~!』


 霜巨人ティッキーが、巨大魔法少女フレイヤが祈っていた。


 右足が少し動いた。



 はるかな次元の向こうから、祈る声が聞こえた。

『勇者さま、あなたのしてきたことに間違いはなく、これからも間違わないでしょう』『勇者さま~、がんばってください』『死なないでください』


 月の人形たちが、花の咲き乱れる月面から祈っていた。


 左足が動いた。



 妖精たちの声もする。

『私が認めた勇者なのです。ここで死んではなりません』『ケイカどの、負けないでくれ!』『いかん! 負けてはいかん! 頑張るのじゃ!』『ぼく、信じるです~』


 妖精女王オルフェリエ、マージリア、ヘムルじいさんにハーヤ。


 みんなの心配する声を受けて、体の感覚が戻った。 



 人魚の島から祈りが聞こえる。

 ドラゴンの住むグリーン山からも願いが届く。

 各地の村々から、インダストリアの職人たちから、王様も王女も貴族も奴隷も、みんなが心を合わせて祈った。


『ケイカさま、アタクシを置いていかないでくださいませっ』『ゾンビにしてでもアタシとの約束守ってもらうんだからっ!』

 ケイカ村にいるエトワールとステラの声だ。


 侯爵の傲慢な声まで聞こえた。

『我輩にライバルと認められた以上、我輩の許可なく死ぬことは許さん! 一生、競い続ける地獄を味あわせてやる、ふははははっ!』


 俺は、困難に立ち向かう勇気を思い出した。



 ――ああ。

 こっちの世界に来ても、結局わがままに振舞ってきたのに。

 どうしてこんなに暖かいんだろう……。

 どうしてここまで俺を信じてくれるんだろう……。



「ケイカお兄ちゃんは、死なせない! 私の未来だから!」

 誰よりも純粋で、誰よりも力強い意思。

 俺の巫女ミーニャ。

 細い手足をしなやかに動かして舞い続ける。

 魔法の灯りだけが照らす黒い広間に、白衣と黒袴の巫女服が神秘的に揺れていた。


 未来か……。

 俺はずっと信じてくれる信者を得ようと頑張った結果、みんなの未来を生み出してきていたんだな。


 そしてみんなから見守られていたんだな。

 ――俺は、ずっと一人じゃなかったんだ。

 


 どんどん暖かい力が流れ込んでくる。


 すべての父親は、明日のために祈った。


 すべての母親は、子供たちのために祈った。


 すべての少年は、まだ会ったこともない人のために祈った。

 

 すべての少女は、夢に見た神秘的な彼のために祈った。


 誰かが、誰かのために祈った。



 世界は祈りに包まれた。

 ――すべてはケイカのために。

 ケイカの未来のために。

 この星の、未来のために。


 ……未来で遊ぶ、子供たちのために。



 急速に力が、失われていく以上の力が流れ込んでくる。

 俺は床に落ちていた太刀を握り締める。

 だが、力が戻っただけで、胸の大穴は治っていなかった。

 力が、まだ足りない。入った分だけ胸の穴から抜けていく。


「ば、ばかなっ! どうしてあの致命傷から復活できる――!」

 無残に死ぬところを眺めると言っていたヴァーヌスは、お腹を押さえつつ取り乱した。


「はわわっ! ヴァーヌスさま、取り乱してはだめなのですっ!」

 創世神アトラがヴァーヌスの傍へ向かおうとする。

 しかし、ラピシアの噛み付き攻撃の効果がまだ切れておらず、水の中を進むように遅かった。



 そんな状況の中、ラピシアが泣きながら叫び続けていた。 

 俺の胸にか弱い手を当てて叫ぶ。

「きゅあああ! きゅあああああああ!!」


 しかしチートな回復量をもってしても、じわじわとしか傷口は塞がっていかなかった。

 もう死んだものと判定されたのかもしれない。

 回復魔法で死体は生き返らない。



 それでもラピシアは、幼く澄んだ切実な声で唱え続ける。

 眉間に必死なしわを寄せて、全力で叫ぶ。


 本能的に良いと悪いを感じ取る少女ラピシア。

 一瞬回復したけれど、根本的に治っていないと気付いているらしい。

 だから必死になりながら、涙が止まらないのだろう。



 ヴァーヌスが離れた場所から俺を見下ろしてあざ笑う。でも、ほっと安堵の息を漏らしたのは見逃さなかった。


「あ~、びっくりした。その雑魚が君たちの希望だったんだよねぇ? 世界の希望だったんだよねぇ? 結局無駄じゃないか! ――違うって言うなら、早く傷を直してみせてよ! やらないと死んじゃうよ? あははははっ」

 お腹を抱えて笑い出した。



 きゅああ、と叫んでいたラピシアが、金色の瞳からぼろぼろと涙をこぼす。

「なんで! なんでなの! ラピシア、とっても悲しいっ!」

 憤りながら頭を振る。青いツインテールが激しく乱れた。


 そして、幼い肢体が、白光に包まれながら明滅している。


 ――レベルアップしようとしてるのか……。

 次は確か「愛を知る」だっけな……。



 ヴァーヌスのあざ笑う笑いが響く中、せっかく祈りによって戻った力が、傷口から抜けていく。

 声を発することができない。

 そもそもなんて声をかけてやればいいんだ。


 ラピシアは俺の和服を掴みながら叫んだ。

「みんないつか死ぬ! だから、鳥はおいしい! 豚もおいしい! 牛もおいしい! ケイカも死ぬのは当たり前! でも、ケイカが死ぬのは悲しい! なんで!? ラピシア、すっごく、ずるいっ!」

 必死な叫びと共に、淡い涙が辺りに散った。


 そういえば、助けられなかった鳥を食べることに躊躇しなかった。

 命は粗末にしない、いい子だと思った。

 それがラピシアの愛なのかと思った。



 ――でも、違った。

 大切な人に、一秒でも長く生きていて欲しいと願う。

 それが、きっと、ラピシアの『愛』なんだ……。


 動けない俺は、眼差しにその思いを込めて、見つめた。

 微笑んでいたかもしれなかった。


 伝わったかどうかはわからない。

 なだらかな幼い頬に、新たな涙が流れただけだった。



 ……結局、神としてなにも成せなかった異世界の旅。

 一人の少女をそこそこ立派な神にすることができただけでも、その甲斐はあったのかもしれないな。

 そう考えたら、自然と笑みが零れた。

 これほど自然な笑みは、久しぶりかもしれなかった。



 ――と。

 ラピシアは俺を見つめて、ぼろぼろと涙を零し、張り裂けるように叫ぶ。

「苦しい! ラピシア、ずるい子! ――ケイカ、死んじゃイヤっ!!」


 その瞬間、黒い石に包まれた暗い部屋を、真昼のような光が照らした。

 ヴァーヌスもアトラも、突然のことに目を覆う。

「目がー! 目がー!」と叫んでいた。


 慣れていたセリカとミーニャだけが目を閉じて防いだ。



 そして、俺の懐にある【勇者の証】が明滅して、最後の事実を知らせた。


『パーティーメンバー・ラピシアがレベルアップしました』

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GAノベルより1月15日に3巻発売します!
何度も改稿してなろう版より格段に面白くなってます!
勇者のふりも楽じゃない
勇者のふりも楽じゃない書籍化報告はこちら!(こちらはまだ一巻)
― 新着の感想 ―
[一言] FF4のラストバトルのパクリ?
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