第230話 死霊騎士ファルカン!
浮遊大陸の中央にある、黒い立方体の建物。
その地下一階にある魔法の光が照らす黒い壁と床のだだっ広い部屋で、俺は死霊騎士ファルカンと対峙していた。
速攻、倒すか。
それとも話を引き出すか。
真理眼でファルカンを見ながら考える。
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【ステータス】
名 前:ファルカン
種 族:悪魔族
職 業:魔王近衛隊隊長
クラス:暗黒騎士Lv99 悪魔Lv50
属 性:【魔】【劫火】
攻撃力:2万5000
防御力:2万5000
生命力:2万5000
精神力:2万5000
【スキル】
馬槍突撃:馬で駆け抜けつつ槍で貫く。縦1列に2倍ダメージ。
剛烈槍:強烈な突き攻撃。追加風ダメージ。
影烈槍:影から槍を生みだして貫く。防御値無視攻撃。移動不可状態付与。
滅死槍烈破:多段突き。即死攻撃。小範囲。
旋槍防御:槍を回して絶対防御。物理&魔法無効。他行動不可。
【パッシブスキル】
行動予知:相手の次の行動を予知・予測する。
第六感:あらゆることに対して鋭敏な感覚を持つ。
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文字通り桁違いの強さの上に、即死攻撃満載。
骸骨の馬に乗ったファルカンに話しかける。
「率直に聞こう。魔王はどこにいる?」
「上にいる」
「石化した神々はどこにいる?」
「この下だ」
そう言ってファルカンは中央右側にある下り階段を指差した。
「創世神はどこだ?」
「同じく。ここにいる」
隣にいるラピシアは拳を握って睨んだまま何も言わない。
嘘ではないということか。
だが、疑念が深まる。
「えらく素直だな?」
「無駄な戦いはしたくないのでな」
戦えば俺が勝つ。それは絶対だ。
――こいつはそれを予知しているというわけか。
和服を揺らしつつ黒い床を踏み締める。
「何が目的だ?」
「私だって死にたくはない。ただ悪い条件ではないだろう? ほかに知りたいことはないのか?」
「……魔王はどうしている?」
「何もしていない――――と言えば嘘になるか。静養中、とだけ言っておこう」
ラピシアは何も言わない。
ただしファルカンが「何もしていない」と行った瞬間、大きく息を吸い込んだ。
口を「きょ」の形にしたが、話が続いたので元の姿勢に戻った。
結局、青い髪が揺れただけだった。
――なにか引っかかる。
まてよ? こいつは【行動予知】によって直近の未来を予知している。
前回、うまくあしらわれたのもこの力によってじゃないか?
魔王にとって最善の回答になるよう、選択したと考えられる。
未来予知は厄介だな。
でも、ファルカンの真の狙いはなんだ?
勝てないのがわかっていながら相手をし続けている。
こちらの油断を誘っている?
考え込んでいた俺は、はっと息を飲む。
――いや、違う。時間稼ぎ!
魔王はまだ本調子ではない、だが時間を稼ぐことで魔王が有利になると考えられる。
このまま会話を続けていても、ファルカンの思う壺だ。
――ならば、取るべき方法は一つ!
俺はギリッと奥歯を噛み締めて、黒い床を踏みしめた。
風のような速さで前に出る。
ファルカンの眼窩で燃える青い炎が揺らいだ。
「ぬっ!?」
奴の傍まで一息に、和服を揺らして大きく踏み込んだ!
勢いのまま、淡い光に包まれた太刀を抜く!
「ハァ――ッ!」
キィンッ!
かん高い音が黒壁の室内に響く。
ファルカンの持つ槍が俺の太刀を弾いていた。
「ほう、やるな」
――俺の斬撃を受けるとは。
さすが予知と第六感のスキルを持つだけある。
しかし衝撃までは受け止めきれずに、奴は床から煙を立てつつ壁際まで後退した。
黒い床と壁で覆われた広い部屋の中、俺とファルカンは距離を置いてにらみ合う。
しかしそれも一瞬のこと。
すぐさま攻撃に移った。
鋭い剣撃でファルカンを追い立てる。
そう。
学校で教鞭を振るうコーデリアばあさんは言った。
『予知は一番可能性の高い未来を見る』と。
だったら、予知を越える速度で攻撃しまくれば、攻撃される以外の未来は見えなくなる!
ファルカンは必死で距離を取ろうと骸骨馬の横腹を蹴ってサイドステップした。
骸骨顔を歪めて唸る。
「くぅ! 待て、待たんか! 勇者よ!」
切りつけながら煽る。
「どうした、ファルカン! さっきまでの余裕は! 魔王はいまだ本調子じゃないんだろう? 今も力の回復に努めているんだろう? ――神々の力を吸うことによって!」
後半は鎌をかけただけだ。
しかしファルカンは、必死に槍を真横になぎ払いつつ叫んだ。
「そんな事実はない! 神々も魔王様を支持している! 魔王さまはいつも通りに休んでおられるだけだ!」
「きょきょきょっ!」
臨戦態勢のラピシアが、幼い唇を尖らせて可愛い声で鳴いた。
――ついに、嘘をついた!
「嘘がヘタだな! 創世神も騙して力を吸っているのか? それともお前らの仲間か!?」
「そ、創世神はただの協力者だ!」
「そいつも嘘だな!」
ラピシアが飛び跳ねて「きょ~!」と叫んだから間違いない!
黒い部屋の隅にまで追い詰められたファルカンは、悔しげに舌打ちしつつ猛烈な勢いで槍を繰り出した。
烈風の生じる激しい突き。
――剛烈槍か。
半歩横に移動して、軽々と槍を避ける。
ファルカンは骸骨顔を笑みでゆがめたが、次の瞬間、驚愕に口を開く。
俺の行動を予知したか。
だが、遅い。
「残念だったな。俺に風は効かない――散れ」
槍に纏わり付いていた、刃のように鋭い風が霧散した。
「くそぉ!」
ファルカンは叫び声に悔しさを滲ませ、それでも槍を横に振るう。
が、槍の真ん中を掴んだことを見逃さなかった。
絶対防御――旋槍防御をやる気だな!
俺は和服を揺らし、黒髪を逆巻き、上段に掲げた太刀を振り下ろす。
「バレバレなんだよ、予知野郎! 蛍河比古命の名に従う、神代の時より流れしせせらぎよ、一束に集まり激流と成せ――《魔鬼水斬滅》!」
ザァァァ――ンッ!
金属をぶった切る耳障りな音が黒い部屋の中に響く。
槍と骸骨馬ごとファルカンを真っ二つにした。
カラン、カラカラ、と骨や武具が床に散らばる。
床に倒れこんだファルカンから突然、火の手が上がった。
骨がボロボロと崩れていく。
青白い炎に包まれながら、ファルカンは天を仰ぐ。
「ああ……ヴァーヌスさ、ま。あなたこそが正義。あなたこそが、全知全能。あなたさまのお傍にいられて、私は幸せでした……」
彼の傍で見下ろしながら吐き捨てる。
「なにが全知全能だ。わがままに暴れまわっているだけだろう」
ファルカンは燃えながらも骸骨顔を俺に向けた。
「彼と私は従者かつ友なのだ……数千年の恨みを今……」
最後まで言うことはできずに、ファルカンは青白い灰となって燃え尽きた。
静かになる室内。
俺はポリポリと頭を掻いた。
「きっと魔王はお前のことなど、なんとも思っちゃいないだろうな。――まあ、厄介な奴だった」
セリカが赤いスカートを揺らして近寄った。大きな胸が揺れ動く。
「ケイカさま。目にも止まらぬ剣撃で追い詰めた姿、さすがでした」
「まあ、たいしたことはなかったな――さあ、行こう。石化した神々はこの下だ。魔王の回復を阻止しなければ」
「はいっ」「うん」「がんばる!」
そして彼女たちを従えて、階段を下りた。
下の階層が現れる。
黒い床と壁で作られただだっ広い部屋。
神々しいまでの造型をした、白い石像が並んでいる。
けれども普通ではなかった。
――ただ、その異様な光景に息を飲んだ。
もう東京の書店に並び始めてますね。
担当さんとさめだ小判先生のおかげでなろう版よりもはるかに面白く、かつエロくなったので、ぜひ。