第231話 神々と創世神
浮遊大陸中央にある立方体の建物。
地下二階にある黒い壁に覆われた広い部屋。
そこには石化された神々が並んでいた。
セリカが声を震わせて言った。
「こ、これは、どういうことなのでしょう?」
神々の石像は男も女も老人も、すべて苦悶の表情を浮かべていた。
そして石像にはホースのような管がつけられていた。
ラピシアが眉を寄せて叫ぶ。
「ジジイ! ババア!」
一応ラピシアなりの愛情表現なのだろう。
真理眼で見る。
「カンデンス、アドウォロス、ルナリス……全部、本物の神々だな。そして、生命力と精神力はほとんどない。この管によって力を吸い取っているようだな」
「ひょっとして、遅かったのでしょうか――早く助けてあげませんと」
俺は太刀を振るった。魔法の光を反射して刀身がきらめく。
一刀の元に、つながれた管をすべて切った。
切られた管の先から、淡い光が零れて消えた。
セリカが口元に指を当てながら心配そうに呟く。
「全部運ぶのは、時間がかかりそうですわ……」
「いや。全部を運び出す必要はない」
「え?」
「力がほとんど0なのだから、ある意味害はない存在といえる。これ以上吸い取られないよう、まだ力が残っている神だけ運ぶんだ」
「な、なるほど! さすがケイカさま。冷静な判断ですわ!」
「どれ、運ぶ?」
巫女服を着たミーニャが黒い尻尾を揺らして石像の間を歩く。
「そうだな……右奥と、その手前。それから……」
力の残っている石像を5体選んだ。
セリカとミーニャで1体運び、俺とラピシアは2体ずつ抱える。
「よし、急ぐぞ」
石像を抱えて来た道を戻る。
階段を足早に上っていく。
――ここまでは順調。
地下一階を通り抜け、一階へと出る。
両開きの大きな扉を開けた。眩しい光が差し込む。
神の石像を表に出すと、セリカやラピシアも外に出てきた。
どすどすっと重い音を立てて地面へ置く。
セリカは風に吹かれて横に流れる金髪を手で押さえる。
「どうされるのです?」
「そんなもん、こうだ――《烈風斬》」
俺は太刀を抜きざま、一気に振った。
ザァンッ!
浮遊大陸の中央都市、高層建築の谷間に斬撃が響いてこだまする。
それから遅れて、ずずずっと重い音が響き始める。
立方体の横に立つすべての塔が、真ん中から斜めに切られて落ちていった。
浮遊大陸を覆っていた障壁がすべて解除される。
爽やかな青空が広がった。
続いて、入口前に置かれた神の石像を片手で持ち上げる。
「はぁっ!」
外へ向かって、海へと落ちるように、思いっきり投げた。
セリカが目を丸くする。
「まあ! ケイカさま! ……危なくはないのでしょうか?」
「石像とはいえ神なんだし、大丈夫だ――そら、そっちもいくぞ!」
次々に神の石像を放り投げた。
ラピシアが一体の石像を両手で頭上に掲げた。
「ラピシアもやる!」
「どこかにぶつけるんじゃないぞ」
「うん!」
全身を使って石造を放り投げた。青い髪が跳ねるように揺れる。
放物線を描くどころか、まっすぐに空へと飛んでいった。
しまいにはキラリと光って消えた。宇宙まで飛んでいったらしい。
確かに言いつけ通り、どこにもぶつけなかったな。
飛んでいったのは線の細い美女ルナリスだったか。
「……ま、神だし、死んだりしないだろ。力もだいぶ残ってたしな」
「んう? だめだった?」
「いや、いい――それより、次は創世神だ」
セリカとミーニャが髪を揺らして頷く。
「はいっ。行きましょう」「がんばる」
俺は頷いて真四角な建物へと戻った。
――が、入口の扉を開けたところで、悲鳴のようなかん高い声が響いた。
「はわわっ! 何をしているのですかっ!」
目を向ければ、一階奥にあった階段の傍に小学生ぐらいの女の子がいた。
肩ぐらいで切りそろえた茶色の髪。大きな瞳に幼い肢体。
柔らかそうな生地のパジャマを着て、小脇にヌイグルミを抱えている。
――なんでこんなところに子供が?
陽光の照らす入口で太刀に手を添えながら、とっさに真理眼で見る。
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【ステータス】
名 前:?
性 別:?
年 齢:?
種 族:?
職 業:?
クラス:?
属 性:【?】【?】【?】【?】
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何も読み取れない!
俺の上位存在――。
幼女を見ながら言った。声がかすれている。
「お前が……創世神アトラか」
少女はこちらへと走ってきながら目を丸くした。
「どうしてアトラを知っているのです!?」
「散々世話になったからな……まさか、ガキとは思わなかったが」
アトラはぷく~と頬を膨らませた。
「アトラは子供じゃないのです! 恋を知ってる大人なのですっ!」
「ランドセルが似合いそうなくせによく言う……そういうことか」
「ほえ?」
アトラは細い首を傾げる。茶髪がさらりと横に流れた。
創世神のやっていることは、いくら傲慢な神だからといっても限度があった。
思慮の足りない考え。
理想を追い求める夢物語。
他者の命を何とも思わない残虐性。
――すべてはガキだったからだ。
俺は呆れて首を振りつつ、セリカたちに言った。
「今言ったとおり、こいつが創世神だ。気をつけろ」
「まさか、子供さんだったなんて……」
「お母さまと慕われる創世神というだけで勝手にイメージしてた。容姿は尋ねなかったからな」
セリカが真剣な顔をして腰に下げた細剣に手を添えた。
ミーニャも戦闘体制を取る。
ラピシアは眉間に可愛いしわを寄せつつ叫んだ。
「チビババア!」
「な、なんなのです! この失礼な子供は!」
「ババア! ババア!」
ラピシアが叫び続ける。
黒い壁に覆われただだっ広い部屋によく響いた。
むぅ~と、唇を噛み締めていたアトラが言う。
「生意気なのです! やっつけてやるです!」
「まあ、待て。あいつは、お前の孫なんだぞ――といっても、実際に生んだわけじゃなさそうだが」
「ほえ? マゴってなんなのです? う~、よくわからないけど、アトラに逆らうのはみんな敵なのです!」
「みんな敵って……あのなあ。自分が生み出した世界だからってなにをしてもいいんじゃないぞ。みんなは自分たちが生きるために、必死で生きているんだ。それを無視したらダメだ」
――神ならなにをしたっていい。
俺も昔はそう思っていた。
でも、違った。
セリカ、ミーニャ、ラピシア。
キンメリクの親父、レオ、ナーガ族、エルフたち、その他もろもろ。
みんな必死で生きていた。
人に説教できる立場ではないとわかっている。
それでもこの創世神は間違っていると言わずにはいられない。
――が、アトラはヌイグルミを振り回して怒った。
「そんなの関係ないのです! アトラに優しくしなくてはいけないのです! それが生きとし生きるものすべての義務なのです!」
俺は呆れて溜息を吐く。
「どれだけわがままなんだ……お前のわがままで大勢が苦しんだんだぞ?」
「苦しい? 意味がわからないのです。みんなわたしのためになれて喜んでるのです」
「だめだこいつ――創世神とは思えないほど頭悪い」
アトラは目を吊り上げて怒る。しかし小さなこぶしを振り回すだけなので、子供っぽく見える。
「アトラをバカにする人は、めっ、なのです!」
「何が、めっ、だ。魔王に協力してるくせに」
「ヴァーヌスは悪い人じゃないのです! アトラの願いをかなえてくれるのです!」
その言葉に引っ掛かりを覚えた。
「創世神すら叶えられない願いを叶える、だと?」
アトラは茶髪を激しく乱して頷いた。
「そうなのです! ヴァーヌスはアトラにとって、白馬に乗った王子様なのですっ!」
「いったい何が望みだ?」
「みんな優しくて争わない、素敵な世界が欲しいのです!」
「そんなもの幻想だ。必死で生きてる以上、争うし対立も生まれるもんだ。それを見守ってやることが神の役目だ」
「争いなんて、悲しいだけ! アトラの言うことが聞けない者たちなんて、生きる資格はないのですっ!」
あまりの傲慢な意見に、イラッとした。
それは過去の自分を重ねているせいかもしれなかった。
大股でアトラに近寄ると、握り締めた拳を頭の上に落とした。
ゴツンッと鈍い音がした。
「いい加減にしろ。どれだけ回りや世界に迷惑かけたと思ってるんだ。もっと神の自覚を持て!」
何か信じられないものを見る目付きで俺を見上げていたが、しばらくして大きな瞳に涙を浮かべた。
「神なんて……神なんて、ただの豪華な呪いなのですっ! ふぇぇぇん!」
「――呪い?」
俺の疑問には答えず、 アトラは顔を覆って泣き出した。
「ふぇぇぇん! ヴァーヌスぅ! ヴァーヌスぅぅぅ!!」
――すると、カツンッと硬い靴音が、昇り階段から響いてきた。
「ダメだよねぇ。暴力を振るうなんて。愚か者のすることだよ」
透き通る声。だがどこか冷徹で残忍。黒い壁に囲まれた部屋によく響いた。
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