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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第十章 勇者冒険編・決戦、浮遊大陸!
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第226話 目立たなければ意味がないっ!

 春の日の午後。

 ケイカ村の屋敷にて、作戦会議を開いていた。

 食堂の十人掛けのテーブルに座っているのは俺、セリカ、ミーニャ。

 向かい側にリリール、リヴィア、ラピシアの計6名。


 何かあったときの安全確保のため、料理人クラリッサや奴隷たちはいない。

 ラピシアはつまらなそうにしていたので、お菓子を与えたら喜んで食べていた。



「さて。魔王を倒すための作戦会議をするぞ」

「はいっ」

 セリカが金髪を揺らして力強く頷いた。青い瞳には真剣な光が宿っている。


「ではまず、リリール。浮遊大陸を説明してくれ。潜入できないと話にならないからな」


 リリールが修道服のベールを揺らして立ち上がる。

「はい、ケイカさん。――浮遊大陸は上から見るとひし形をしております。実物はこれの50万倍ぐらいの大きさです」


 リリールが手のひらに青い水を召喚した。

 ぐねぐねと形を変えて、細長いひし形を生み出した。

 

 縮尺から考えると幅120キロメートル、奥行き200キロメートル、高さは500メートルから1キロメートル。

 手前には広大な平原と農地が広がり、奥には隆起した山。大陸の中央に高い塔を幾つも持つ都市があった。



「ふむ。大陸というより、大きな島だな」

 日本で言えば、四国より一回り小さいぐらいの大きさだった。

 それでも空に浮かべるにはとてつもなく大きいが。


 リリールが頷く。

「そうですね。元はもっと大きかったそうですが、浮かばせるために形を整えたそうです」

「ところどころにあるのは町か?」

「はい。浮遊大陸には中央都市以外にも、防衛都市や鉱山町、農村が複数あります」


「で、これらを幻影で隠しているというわけだな」

「それだけではありません。この大陸は、物理障壁、魔法障壁、幻影障壁の三つで覆われています」



 思わず俺は顔をしかめた。

「三つとも張っているのか。まずいな……障壁と浮遊の魔力源は?」

「お母さまが浮かせています。額のサークレットから自動的に供給しているようです」

「呪文じゃなく素の魔力だけで浮かせてるのか。操作方法は?」

「考えただけで動かせると言っておりましたわ」


 ふむ、と俺は俯いて考える。

「思考リンク式なのか。さすが創世神といったところだな――操作を乗っ取ることはできないな……」



 セリカが首を傾げつつ言った。

「乗っ取る必要があるのでしょうか?」

「危険な場所に移動したり、王都に追突されたりしないようにする必要がある。いや、そもそも大質量だから陸でも海でも落下するだけで甚大な被害が出るぞ」


「そうでした。そこまで考えが及ばず。申し訳ありません」

 セリカが金髪を揺らして頭を下げる。



 リヴィアがほほうと感心していた。

「さすがケイカじゃの。ならば乗り込んだらすぐに創世神の身柄を押さえることが必要じゃな」


「そうなるな。まずは結界を無効化する必要がある」

「んう? 何を言っておる? ドラゴンなら突破できるであろ?」

「突破するだけならな。――しかし、それだけではダメだ」


 俺の言葉にセリカが、うっと息を飲む。

「なんだか、とてつもなく嫌な予感がいたしますわ」

「さすがセリカ。わかってるな――でもこれは大切なことだ」


「なんでしょう?」


「魔王を倒す瞬間を大衆に見せ付ける! そのためには障壁を除去しておかなくてはいけない!」


「「「えええええ!」」」

 女性たちが驚愕の声を上げた。広い食堂に響き渡る。

 ミーニャだけが、さも当然といったふうに落ち着いて座っていた。

 ラピシアはお菓子を食べ続けている。



 リヴィアが小さな拳を振り上げて叫ぶ。

「何を言い出すのじゃ! 相手は魔王ぞ!?」

「け、ケイカさま……さすがに今回だけは難しいかと」

 セリカの発言にリリールまで頷いていた。


 俺は呆れたように首を振ってから言ってのける。

「誰も知らないところで魔王を倒してなんになる! ――目立たなければ意味がないっ!」


「「「ええ~」」」

 否定的というか、呆れた声で合唱された。



 思わず机を叩いて立ち上がる。 

「俺はただの勇者になりたいんじゃない! 人々に尊敬される勇武神になりたいんだ!」

 唖然と口を開くセリカと女神たち。


 なぜかミーニャとラピシアが、ぱちぱちと拍手をしてくれた。

 ミーニャは俺の巫女なのでわかるが、ラピシアも金色の瞳をキラキラ輝かせていた。

 少女の琴線に触れたらしい。「かっくいー」と口が動いている。

 まあ、理解してもらえたようでなにより。



 セリカが金髪を揺らしつつ、ふぅ~と吐息を吐いた。

「わかりました。ケイカさまがそこまでおっしゃられるなら、努力いたしましょう。幻影障壁を解除すれば良いのですね?」


「いや、映像配信して実況中継するなら魔法障壁が邪魔になる。ただ、創世神からの魔力供給を断つと浮遊の力も失って、地上へ落下してしまう。――リリール、障壁はどこから発生させている?」


 リリールは手に乗せた浮遊大陸の中央を指差す。

「中央都市の塔から発生させています」

「そうか。それなら話は早いな。壊せばいい――誰も住んでいないんだろ?」

「ええ、今は魔王ヴァーヌスと石化した神々だけかと。お母さまもいらっしゃるかもしれませんが」



 俺はどっかりとイスに腰掛けた。

「よし、これで一つ目の問題は片付いた。ドラゴンに乗って障壁を突破。俺の力で塔を破壊だ――次は、石化された神々だな。どこに収容されている?」


「城の地下倉庫に保管されています――このあたりです」

 手に乗せた浮遊大陸の真ん中を指差した。水が動いてまっぷたつになり、内部構造が丸見えになる。


「なるほど。ドラゴンに乗って接近したら見つかるか。監視システムはどうなってる?」

「お母さまはすべての場所を見ることができますわ。魔王は魔導具を使いますが」

「一日中監視しているわけじゃないのか?」



 リリールはほっそりした指を顎に当てて考える。

「そうですね……まだお母さまが浮遊大陸におられるとして。夜から昼まで一日12時間は寝ますから、その間は監視されていないかと」


「よし、寝ている時間に潜入だ。石化した神々をこっそり運び出してから、塔の爆破だな」



 ミーニャがすらりとした手を上げた。ネコミミがピコッと動く。

「ケイカお兄ちゃん。肝心の魔王は?」

「ああ、そうだな。魔王はどこにいる?」

「魔王を刺したのは城の2階です。そこで繭になりました。ただ、どこに移動したかになると……」


「まあ、その辺は乗り込んでからでいいか」

 ――障壁の中に入ったなら千里眼を使えるはず。



 セリカが胸を弾ませて手を上げる。

「リリールさま。その浮遊大陸に、敵や魔物は配置されてはいないのでしょうか?」

「魔王直属の手下はいるはずですわ。魔導衛兵はもう機能していません」


 セリカの胸の揺れを目の端で追っていたリヴィアが、自分の胸も揺らしつつ尋ねる。

「創世神はどこにおるのじゃ?」

「お母さま……どこでしょう。暗くてじめじめしたところが好きなので、地下におられるかもしれません」



「ダンゴムシかよ。――まあ、だいたい目処が付いたな。あとは浮遊大陸の移動阻止だけだな」

 セリカが顔を曇らせる。

「どうされるのでしょう? よほどの力がないと創世神さまの力を封じるなんてできるとは思えませんが」


 俺はニヤリと白い歯を見せて笑った。

「そんなもの、女神が二人いればどうとでもなる」

「え?」「なんじゃと?」


「浮遊大陸は海の上! 海を司る女神二人で押さえ込めばなんとでもなる! 大量の海水をぶつけて水圧で押し留めるんだ!」

「ええっ!」

「なんという発想じゃ……まあ、こやつと組めばできぬわけではないが……」

 リヴィアはチラリと視線を向けて、横に座るリリールを見た。


 その視線に対して、不敵な笑みで見返すリリール。

「確かに私一人では無理ですが……」

「ふん。どちらが本物の海神か、決着をつけてやろうぞ」

 リヴィアとリリールの間に火花が散った。


 ――まあ、やる気になってくれてよかった。


 手をパンと叩いて注目を集める。

「では確認するぞ。ドラゴンに乗って浮遊大陸へ。神々を移動させてから塔を破壊。それから女神二人で浮遊大陸を固定し、実況中継を開始する。そして創世神を無効化し、最後は魔王を倒す。いけるな」


 リリールが心配そうに、形の良い眉を寄せる。

「そううまくいくでしょうか……?」

「いくんじゃなくて、いかせるんだ。俺の力を使えばなんとかなるさ」


 ミーニャも頷く。黒髪がさらりと流れる。

「ケイカお兄ちゃんのしてきたことに間違いはなかった。これからも間違えたりしない」

「ああ。頑張ってみせる! 俺の願いのためにも」



 セリカが微笑んで頷く。

「頑張りましょう」

「私は、ケイカお兄ちゃんを支えるだけ」

「わーい、おでかけ!」

 ミーニャやラピシアも賛同した。


 リリールは、やれやれと言った雰囲気で微笑んでいた。



 そして作戦会議はお開きとなった。

 まだ飛竜からの報告がないので動けない。


 それぞれが持ち場へと帰っていった。



 ――と。

 リヴィアが俺の傍へ来ると、俯きながら言った。

「そういえば、ベヘームトはどうしたのじゃ?」

「帰ってもらったよ」

「そうか……少し寂しいかの」

 俯いた頬に青い髪が被さる。


 俺は背の低い頭をポンポンと撫でた。

「最後の手助けをしてくれたら、あとは行くも帰るも好きにするといい――だから、浮遊大陸の固定、頼むぞ」

「うむ。仕返しなのだから、当然じゃっ!」

 リヴィアは幼い顔を上げて、満面の笑みになった。


 ――多くの人が期待してくれている。

 魔王退治、頑張らないとな。


 人のいなくなった食堂で、柔らかな髪を撫でながらそう考えた。

説明回になった感じ。次からは動きます。

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勇者のふりも楽じゃない
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