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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第十章 勇者冒険編・決戦、浮遊大陸!
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第224話 俺色に染まれ!

 春の訪れを予感させる、暖かな朝日が荒地を照らしている。

 俺はケイカ村の外にある空き地にいた。

 目の前にはリリールが神々しいほどの美しい顔に、怒りを漲らせて立っている。


 少し離れたところにサイズの合わないドレスを着たリヴィアと、白いワンピースのラピシアがいた。

 ラピシアは何が楽しいのか、青いツインテールを跳ねさせて、ぴょんぴょん飛び跳ねている。


 俺は真理眼でリリールを見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:リリール

性 別:女

年 齢:ひ・み・つ(激おこ)

種 族:神

職 業:大海神

クラス:神術師 召喚術師

属 性:【荒水】【大海】【聖波】


【パラメーター】

信者数:約77万


生命力:8955万

精神力:9026万


攻撃力:889万

防御力:1772万

魔攻力:2673万

魔防力:1796万


【装 備】

武 器:なし

防 具:白波の羽衣(修道服)防御×2 魔防×2【全属性魔法無効】

装身具:大海嘯の指輪 魔攻×3

--------------------

 前より少し信者が増えただけだな。



 リリールが、しなやかな手を前へと持ち上げる。白いベールが風に揺れた。

「覚悟はよろしいでしょうか?」

「ああ、いいぞ。防御がんばれよ」


 リリールが形の良い眉を寄せる。そんな顔すら女神のように美しい。

「攻撃が通るはずありませんわ」

 


「お前……俺が、聖剣作ってたこと忘れてるな」

「え?」

「まあ、その目で見てみるんだな」

 シャラ……ン、と涼やかな鞘走りの音を立てて太刀を抜いた。

 淡い虹色の光をまとった刀身。


 目を細め、上段に構える。



 リリールは訝しそうに眉間のしわ深くしたが、とたんに目がまん丸に見開かれる。

「そ、そんな!」

「【神滅の宝刀】……言葉の意味はわかるよな? 頑張って避けろよ――《烈風斬》!」

 太刀を斜めに振り下ろした。


 ブォン――ッ!


 風が刃となって駆け抜ける。

 リリールの驚き戸惑う隙を突いたため、魔法では対処できない。



「く……っ!」

 リリールは横へ大きく飛んだ。

 体勢を崩しつつも手を前に向ける。


 ――しかし、すでに俺はいない。


「え? どこ――」

「後ろだ」

 俺はリリールの後ろ、背を向けてしゃがんでいた。黒髪が流れる。

 大振りな烈風斬はただのフェイント。

 リリールは見事に引っかかってくれた。



 太刀を下段から後ろへと、素早く切り上げる。


 ザァン――ッ!


 きらめく刀身が弧を描き、虹色の尾を引いた。


「あぁ……っ!」


 リリールは前のめりに吹っ飛んだ。

 うつぶせに倒れた衝撃で白いベールが飛ばされる。

 桃色の髪が波打つように広がった。


「勝負ありだな」



 ――が。

 リリールは背中を切られながらも、仰向けになる。

「まだです――《轟圧水波アクアレーザー》!」

 こちらへ向けた手のひらから、青く輝く水流がほとばしる。

 超圧縮された水が一筋の線になっていた。


 俺は太刀を彼女へ向けたまま唱える。

「――《水刃付与》」

 青く光る刀身。

 水が当たると、パシィッ、と弾けとんだ。


 とっさに出した魔法だけあって、そこまで強くない。

 そのままぐいぐいと足を進める。

 リリールは出力を上げたが水の神と聖剣には効かない。

 辺りに清らかな水が散ってきらきらと輝いた。



 ついにはリリールの傍に来た。

 寝転がる彼女の形の良い胸を、刀身でぐにっと押す。修道服の胸の辺りが淫らに歪んだ。

「降参しろ。俺の勝ちだ。そもそも能力的にはまだ俺のほうが低いとは言え、武神。魔法しか使えないリリールじゃ勝ち目はない」


「くっ……! 卑怯ですわ! 油断しなければ負けません!」

「いいや、次も俺が勝つ。なぜなら油断も隙も俺が作り出したものだからだ」

「……え?」



 俺は、やれやれと首を振る。

「烈風斬ぐらい、喰らってもたいしたことはなかった。喰らいながらカウンターを打ち込めばダメージは俺のほうが大きかった。それなのに避けたのは、なぜだと思う?」


 少し考えたリリールが、くわっと目を見開いた。

「ま、まさか――! 聖剣の名前を読ませた上で「頑張って避けろ」と語りかけた言葉そのものがブラフだったと言うのですか――っ!」


「当たり前だ。海を一部召喚しての大範囲魔法を使われたら俺もやばいからな。戸惑い、焦り、ブラフで使う力を限定させた。それがお前の敗因だ」

 特に大海嘯タイダルウェーブなんかされたら、ケイカ村まで被害が及ぶ。

 


 ほら、どうしたと言わんばかりに、ぐにぐにと聖剣の先で胸を突っつく。

 リリールは頬を染めて「くぅぅ……!」と悔しそうに唇を噛んでいた。


 ――と。

 リヴィアとラピシアが白い服を揺らして傍へ来た。

「勝負あった。これ以上やるなら大きな被害を覚悟せねばならんのじゃ。おぬし達もそれは本望ではなかろ?」


「わーい、ケイカの勝ち! ババア、負け! ババア、ババア! わーい!」

 ラピシアが踊るように俺たちの周りをぴょんぴょん飛び跳ねた。青いツインテールが激しく動く。



 リリールは寝そべりながらも下から睨む。

「ラピシアちゃん……いくら可愛い姪であっても、怒りますよ? いったい誰からそんな言葉習ったのです!」

 ラピシアが片足を上げた姿勢でピタッと止まる。

「ん~? お母さん?」


 少し興味が引かれた。

「ルペルシアが言ってたのか。それは創世神を指してか? ――いや、待てよ? そもそもラピシアは『ババア』って言葉を、どういう意味で使ってるんだ?」



 ラピシアは腕組みすると真剣なしわを眉間に寄せた。口もへの字になっている。

「う~? 好きなのに、嫌なことを言う、でも、嫌いになれない、女の人のこと?」

「ほう……そういえばそうか」

 ラピシアが今までババアと呼んだのは、セリカ、リリール、リヴィアだけ。

 嫌いな人には、おそらく何も言わずに男女平等パンチを繰り出したはず。


 リヴィアが眉を寄せ、幼い顔に不審そうな表情を浮かべた。

「つまり、ルペルシアも創世神の言動は嫌っておったのじゃな? ――創世神を心酔しておらぬのか……」



 リリールが吐き捨てるように言った。

 寝転がったままなので、ただふて腐れてるように見える。

「お姉さまは堕落されたのです。お母さま以外を愛するなんて、神のすることではありませんわ」


「堕落? 恋に落ちる前はお前みたいな状態だったのか――ということは」


 リヴィアが後を続けた。

「こやつら、本当に洗脳されておるようじゃな」

「せ、洗脳だなんて! 例えそうだとしても立派な意味があるのですわ! お母さまのなさることに間違いはありません! 許しませんよ!」

 聖剣を突きつけられながらも吠えるリリール。



 ――面倒だな。母親を心酔しすぎていて話が通じない。

 このままじゃ内部情報を聞いても全部教えてくれるかどうか。

 嘘は見抜けるが、故意に情報を隠されたらわからない。


「むしろルペルシアがどうして洗脳を解いたのかを考えるほうがよさそうだ。誰かを愛したから? いや――そうか。神聖を失ったからか」

 近くでラピシアが楽しそうに、ぴょんぴょん跳ねていた。

 ラピシアが生まれたというなら、そういうことなんだろう。


 そしてルペルシアとリリールは双子。

 同じ洗脳方法が使われている可能性が高い。



 俺は太刀を鞘に収めると、リリールの腰と肩に手を入れて抱き上げた。

「きゃっ! 何をするのですか!」

「洗脳解除だ――俺色に染まれ」

「え?」


 腰へ回した手をぐいっと持ち上げた。輝くように美しい顔が近付く。

 そして桜色をした可憐な唇を塞いだ。果実のように柔らかい。

「んんぅ~っ!」

 リリールは首を振って逃げようとした。


 しかし後ろからリヴィアが手を伸ばし、顔を固定した。

「いい気味じゃ」

 にやにやとしたたかな笑みを浮かべている。



 リリールはさらに俺の胸を押して離れようとする。 

 けれどもラピシアが、弾けるような笑顔でリリールの背中を押した。

「あ~い~の~めざめ~」

 どこで覚えたんだか、そんな言葉。


 ――リリールからしてみれば「しかし回り込まれてしまった!」というやつだな。


 ますます華奢な肢体を抱き寄せると、ツンと上を向いた形の良い胸が押しつぶされる。

 それでも気にせず、むさぼるように唇を吸った。

 リリールは柔らかい唇を必死で閉じて抵抗するが、それを押し開けて強引に分け入る。

 柔らかな体温が絡み合う。

 おしとやかな聖女の姿に似合わない湿った音がした。


「んん~!」

 リリールは苦しそうに眉を寄せて呻いた。

 首を振ろうとするも、動かせず。逃げようとしても押さえられている。



 温かな日差しの降る荒野で、しばらく唇を重ね続けた。

 けれどもただキスをしているだけじゃない。

 俺は魔力を口移しに彼女の中へと流し込んでいた。

 最初は何か幕のような障壁を感じたが、力任せに流し込み続ける。


 ラピシアが何かの遊びと勘違いしているのか、きゃあきゃあと華やいだ笑い声をあげていた。



 ――そして。

 ふいに障壁が破れた。

「ああ……っ!」

 リリールが赤い唇の端から甘い声を漏らし、固く強ばらせていた肢体から力が抜けた。

 かたくなだったリリールが俺にもたれ掛かってくる。

 魔力を分け与えたおかげで洗脳が解けた証拠。

 はぁはぁ、と切ない吐息を繰り返していた。


 彼女の桃色の髪を優しく撫でつつ言う。

「少しは目が覚めたか、リリール」

「な、なんだか、世界が広く思えます……どうして私は、あんなにまで思い詰めていたんでしょう」


「そうさせられていただけだ――まあリリール自身が、信じたかったからというのもあるだろうな。そのため誰よりも強力な洗脳が働いた」

「そう、ですね……今でもやはりお母様とこの世界は大好きですから」

 俺の胸に顔を埋め、弱々しい声で言った。



 俺はリリールの顎に指を当てて上を向かせる。

「全部、自分でしなくていいんだぞ」

「ふぇ? ……何の話でしょう」

 リリールが頬を染めながら、挙動不審に目を動かす。


「創世神のことも、世界のことも。魔王のことも。俺を頼れば助けてやるから」

「ど、どうしてそこまで言い切れるのですか……」

「理由? 俺が神だからだ」


 リリールは不安そうな目で俺を見上げる。

「ですが、ここアレクシルドは私たちが作り上げた世界。他の世界の助けなど借りてもいいのでしょうか……」



 俺は、ふっと鼻で笑う。

「悪いな。もう俺の世界だ」


 リリールは目を丸くしたが、すぐに顔を真っ赤にして伏せてしまう。

「お母さまを……よろしくお願いします」

「その願い、聞き届けた」

 


 リヴィアが「うむ」とうなずいた。

「それならば浮遊大陸の正しい位置と、内部の情報を教えてもらわねばな」

「それなら……これを、あれ?」

 リリールは修道服のポケットをあちこちまさぐり始める。

 それから泣きそうな顔をした。


「どうした?」

「転移石をなくしてしまいました……」



 俺はラピシアをみた。

 不思議そうに首を傾げた。青いツインテールが地面まで垂れる。

 きょっ、とは言わない。

 なくしたのは本当らしい。


「どこまでもドジっ子だな」

「うう~。言わないでください」

「まあ、浮遊大陸は飛竜たちに探してもらってる。今はリリールの情報を元に作戦を立てよう」


「わかったのじゃ」

 リヴィアはドレスから覗く細い手足を動かして歩きだした。



 俺は傍にいるラピシアを見下ろす。

「ラピシア、よく頑張ったな」

「う? なにもしてない」

「いや、ラピシアがいたおかげで創世神の企みを見抜けた。偉いぞ」

 頭をなでてやると満面の笑みになった。

「わーい!」



 それから俺たちは村へ向かった。

 俺は荒れ地を歩きながら『なるほどな』と独りごちる。

 どうして母親であるルペルシアは「虚を知る」なんて難しいレベルアップ条件を設定したのか不思議だった。


 ルペルシアは信用してなかったんだな。他の神も創世神のことも。

 だからこそ、ルペルシアは俺にラピシアを託したんだ。

 勇者として魔王を倒すために。


 そして――創世神や神々の嘘を暴くために。

 その期待に応えないとな。やってやるさ。


 ――と、屋敷の前まで来ると舗装された石の道を、ずるずると水の固まりが這ってきた。

遅くなってすみません。

いろいろ回収していくのが難しいです。でも大団円に向けて頑張ります。

あと名前の通り、聖剣には神を倒す力があります。

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