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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第九章 勇者冒険編・天

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第199話 無重力の気遣い

 ラピシアの力を使ってのエーデルリヒト増産計画が失敗したため、宝石のある月へ行く必要が出てきた。


 ケイカ村の屋敷へ戻ってくると、廊下でリヴィアに会った。

 海邪神リヴィア。リヴァイアサン一族の一人らしい。

 背が縮んだためにラピシアと対して変わらない背格好になっている。ただしロリ巨乳だった。


「リヴィアか。元気してたか」 

「まあの――また補充して欲しいのじゃ」

 彼女は背中に背負っていた青い鎧を差し出した。

 リヴィアは中途半端な蘇生術で蘇ったため、生命力や魔力を自分では回復できないでいた。


 

 鎧に力を注いでやりつつ尋ねる。

「随分と魔力を使ったようだが、どうした?」

「むう……それがの……」

 美しい唇を尖らせて、何か言いづらそうにもじもじしている。そういう仕草は子供っぽい。実際はロリババアだが。


「どうした? あ、そういえば、地邪神ベヘームトを止めにいったんだったな」

「うむ……ベヘームトの復活は止められなかった。が、世界滅亡ではなく、変なことを言い出しおったのじゃ」

「変なこと?」


「愛でこの星を救う、とかなんとか」

「24時間マラソンでもするつもりなのか」

 俺の言葉にリヴィアは不思議そうな顔をした。

「意味が分からぬのじゃ。……まあ、当分、危険はなかろうて」



「まあ、それならいいか。危険が生じたらまた教えてくれ」

「わかったのじゃ……それはそうと、ケイカは今、なにをしておるのじゃ?」


「今は聖剣の材料集めだな。月に行かなくてはいけない」

 リヴィアの幼くも美しい顔が子供のように華やぐ。

「ほう! 月とな! それはまた面白そうなことをやっておるのう!」


「遊びじゃないぞ。まあ、行く方法がなくて困ってるんだけどな。うちにいる妖精に聞きに着た」

「ふむ。何か協力できるかもしれん。妾も一緒に会おうぞ」

 そう言って歩き出すリヴィア。


 ラピシアを見ると、大人しくしている。

 ただ、じーっとリヴィアを見ていた。裏や嘘はないらしい。

「まあ、いいか」

 俺はラピシアの手を引いて、リヴィアの後に続いた。



 屋敷の裏庭にある小さな工房。

 中に入ると、四頭身の妖精ハーヤが作業台の上に立って仕事をしていた。


 赤い三角帽子を揺らして振り向く。

「おや、ケイカさん。いらっしゃい。そちらは?」

 隣に立つ少女二人に目を向ける。

「ラピシアじゃないほうが、海邪神リヴィアだ」

「邪神! ひぃっ!」


 ハーヤは全身をぷるぷると震わせた。顔から汗が滴り落ちる。

「ある意味俺の虜だから、心配しなくていい」

「だ、誰がそなたの者になったと言うのじゃっ! 妾はまだ心までは許しておらぬわ!」

 リヴィアは頬を染めながら必死で反抗した。頭の上から湯気でも出しそうな勢い。



 そんな彼女は放っておいて、俺はハーヤに言った。

「というわけで、今日は頼みごとがあってきた」

「なんでしょう?」

「月に行きたい。月面に妖精の扉を設置できないか?」


 ハーヤがつぶらな瞳をきらきらと輝かせる。

「月ですか! テラフォーミングですか!」

「なぜそうなる。聖剣を作るのに必要な宝石が月にあるから取りに行くだけだ」



 ハーヤは肩を落としてがっくりする。

「そうですか……ロマンがないです」

「今はロマンを求めてない」


 ジトッとした目でリヴィアがハーヤを見る。

「この妖精、バカなのか?」

「天才となんとかは紙一重だからな……で、行けそうか?」



 ハーヤは短い腕を組んで唸り出す。

「むむむ……むむむむむ」

「やはり難しいか。火水風土が必要らしいもんな」


「むしろ、月で生存するのが難しいです」

「重力は少ないし、水や空気もないからな」

 ハーヤは目を丸くする。

「知っているのですか! そうなのです。生きるにはとても厳しい環境なのです」

「まあ、その辺は魔法を使ってどうにかしよう。ただ行くより帰る方が難しい。しかも大量の宝石を持って帰らなくてはいけない。――鯨型の魔導船とかないだろうか」


 これにはハーヤどころか、リヴィアも首を傾げた。

「魔導船? 知らないです」

「妾も知らぬのじゃ。何かと勘違いしてはおらぬか?」

「いや、単に思い付きを口にしてみただけだ。問題は掘り出した宝石を持って帰るのが大変なんだ」

 神三人。行くだけなら、本気を出せばなんとかなる。その場合の問題は属性だった。



 ラピシアが、手を上げた。笑顔で言う。

「えいっ! て、投げればいい!」

「やめろ。大災害になる。特にエーデルリヒトだしな」

 力を増幅反射するため、衝撃の威力だけじゃなく、それを反射した二重爆発が起こる。

 地上なら大爆発、海なら津波が発生するだろう。


 ハーヤは唸って言う。

「でしたらやはり、妖精の扉が一番ですね……けれど、地上から打ち上げて月まで火水風土を届けるのは、なかなか難しいです」

「高出力の火薬がないもんな。魔法で補うしかないか」

「それだと、宇宙空間に出た後の操作はどうするのです? 的確な姿勢制御はできますか?」



 今度は俺が腕組みをして考える番だった。

「う~ん。大気圏内ならどうにでもなるが、圏外だとなぁ……魔法で重力圏外まで運び、そこから内臓の燃料で姿勢制御するしかないか」

 水と風の神なので、それがない場所では魔法はほとんど使えなかった。


 そのため、俺たちだけで持っていくのが難しい。

 ラピシアは土で、リヴィアは水。

 火を持っていけない。属性の偏りが問題だった。


「おそらく宇宙空間では、速度より正確さが重要ではないかと考えるです」

「確かにな。――だったら、俺やラピシアが投げて、圏外に出たら姿勢制御ってのはどうだろう?」

「正確に投擲できるとは思えないですし、その後の制動が難しいです。やはり、地上から打ち上げないと」

 その意見は分かる。投げた時に数ミリずれただけでも、圏外突破時には数十メートルの差になってるだろうし。

 データを取ろうとしても投げるたびにズレてたら参考にならない。

「やっぱり宇宙に出るって難しいな」



 ――と。

 ラピシアが、小袋をにゅっと前に突き出した。

「これ、使ったらいい!」

「エーデルリヒトを?」


 ハーヤが受け取り中を見る。

「おや? これは衝撃を反射増幅させる石ですね。……はっ! そうか!」

「ん、何か思いついたのか?」


「燃料を積んだ弾丸型の入れ物を用意しまして。一段階目は魔法による爆発で飛翔。二段階目は宝石の増幅反射による推進。三段階目で積載燃料を燃焼すれば……」

「三段階ロケットで重力圏外へ運ぶのか。理にかなってるな」

 地球でも二段階や四段階より三段階が安定して成功していたはずだった。



 ハーヤは図面を広げながら、うきうきした声で言う。

「では、この無人ロケットで火水風土を飛ばして月面に。それから妖精の扉を設置するのでどうでしょうか?」

「良さそうだな。それで頼む」

「はーい。一日お待ちくださいませ~」

 ハーヤは一心不乱に図面を書き始めた。


 俺はラピシアとリヴィアを見る。

「というわけだ。月に行けそうだ」

「楽しみ!」

「ふむ。なかなか面白そうじゃの。ますます行ってみたいのじゃ……ただ、さっき水も空気もないと言っておったが、大丈夫なのかの?」


「その辺は扉を通る前に、桶や水筒を用意すればなんとかなるだろう……俺たちなら、大丈夫だ」

 暗に、神だからな、と伝える。



 リヴィアは子供体型には似合わない巨乳を揺らして、偉そうに言った。

「当然じゃ! 妾は世界創世を手伝った神なのじゃ!」

「はいはい。……セリカたちは来るんだろうか?」

 さすがに今回は危険が大きすぎた。


 特にセリカやミーニャの力を必要とする場面はなさそうだし。

 必要なのは、月面で生きられる生命力と何トンもの宝石を持ち運べる馬鹿力だけだった。


「まあ、夜にでも聞いてみるか」

「つっきー、つっき~!」

 ラピシアは楽しそうに目を細めて、その場でくるくる回っていた。長いツインテールが弧を描いていた。


       ◇  ◇  ◇


 夜のケイカ村。

 俺は屋敷の食堂で、セリカやミーニャたちと食卓を囲んでいた。当然、ラピシアとリヴィアも一緒に食べている。


 夕飯を食べながら計画を話す。

「というわけだ。一応、月へ行ける算段はついた」

「さすがですわ、ケイカさま。とても頼もしいです」


「どうする? セリカ、ミーニャ。月へ一緒に行くか?」

 セリカは美しい顔を輝かせて言う。

「ぜひ行ってみたいですわっ。いったい、月からこの星や太陽を見るとどのように見えるのでしょう……とっても楽しみです」


「そりゃ想像を絶する景色だろうな」

「ラピシアは、行く!」

 肉料理を頬張りながら、ラピシアは元気に言った。



「むしろラピシアは運搬係として言ってもらわないと困る……ミーニャは?」

 彼女も行きたがると思っていたが、意外なことに首を振った。黒髪がさらりと鳴った。

「やめとく」

「どうして?」

「足手まといになりたくないから」

 俺を無表情な黒い瞳でじっと見つめてくる。黒い尻尾がはたりと揺れた。


「なぜ、そう思う?」

「月では魔法を使わないと生きていけないっぽい」

「そうだな」

「でもケイカおにいちゃんは無敵。もし何かあったときでも、ケイカお兄ちゃんだけなら生き延びれそう。でも私がいるとケイカお兄ちゃんの迷惑になる可能性がある」

「なるほど」


 ミーニャは俺と冒険して桁違いに強くなった。

 けれど宇宙ではその強さも無意味だった。どう足掻いても生き延びられない。

 いや、強くなったからこそ、無酸素無重力の危険性を察知したのかもしれない。



 セリカが、あっと声を上げてすまなそうに俯いた。

「申し訳ありません、ケイカさま……危険な場所で足手まといになってしまう可能性を考えておりませんでした」

「お前たち二人ぐらい、何もなければ守ってやれるがな」


 するとリヴィアが鼻で笑う。

「妾と同じぐらい強い者が月面で襲い掛かってきても同じことが言えるかの?」

「む……それは厳しいかもな」


 ミーニャが尖った猫耳をピコッと動かした。

「だったらやっぱり危険。私は留守番しとく」

「ええ、わたくしも政務に励んでいましょう」



 彼女たちの心遣いがわかった。

 ――確かにリヴィアの言う通り、宇宙空間でのイレギュラーな事態に絶対対処できる自信はない。


「すまないな。月に新婚旅行と洒落込んでみてもよかったんだが。まあ、必ずエーデルリヒトは持ち帰るから待っていてくれ」


 セリカが花が開くように優しい笑みを浮かべる。

「その心遣いだけで、わたくしは嬉しいです」


 へっ、とリヴィアが変な声を出した。

「よくいう。なにが新婚じゃ」

「こいつ……居候の癖に。おかわり禁止な」

「な、なんじゃと! 食べねば育たぬのじゃ!」

「いやもう、胸以外育たないだろ。諦めろ」

 きぃぃ~、とリヴィアが顔を真っ赤にして襲い掛かってきた。

 それを軽くあしらいつつ、和やかな団欒は続いた。

簡易なキャラ表ができたので、少し推敲したあとで目次の一番初めに追加したいと思います。

ひょっとしたら「しおり」がずれるかもしれません。申し訳ないです。


あと今更ですが。ケイカの服装って和服としか書いてませんが、

みなさん、どんな服を想像されてますか? 教えてもらえたら助かります。


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