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第198話 神秘の宝石エーデルリヒト

第9章開始です。更新は不定期になります。

できるだけ3日に一度の更新を目指したいと思います。

 四天王を倒し、貴族の反乱を平定し、エーデルシュタインを取り戻した。

 その過程で魔王を倒せる唯一のスキル【魔王撃滅閃アルテマスラッシュ】を覚えた。

 あとは聖剣を完成させることができれば魔王ヴァーヌスを滅ぼし、世界に平和を取り戻せる。


       ◇  ◇  ◇


 エーデルシュタインの早春。

 雪の残る山道を行列が登っていく。

 俺はセリカとミーニャ、そしてラピシアを連れて熊獣人たちが発見した鉱脈へ向かっていた。


 すると、先頭を歩く金色の毛をした体格のいい熊獣人クマルが立ち止まった。

「ケイカさま、ここが宝石のあった場所っす」

「ほう」

 クマルが指し示す先は、細い山道から外れた崖の斜面。

 確かに昼の日差しを受けて、崖の表面が緑色にキラキラと輝いている。



「エメラルドか?」

 クマルに取って来てもらった。

 手のひら大の岩の中に親指程度の緑色の石ころが入っていた。

 緑石の欠けた部分が淡い光を放っているように見える。


 隣にいたセリカが目を丸くして息を飲む。

「こ、これは! エーデルリヒト!」

 エーデルリヒトは聖剣を作るうえで必須な宝石だった。


「おおっ、マジか! ……ラピシア、これを増やせ!」

「わかった!」

 ラピシアは大地の神。大地由来の物質を別の物質に変性させる力【地質変更】を持つ。



 原石を渡すと、ラピシアは勢い良くしゃがみこんだ。青いツインテールが翻る。

「むむむむむ~! え~い!」


 ピカッと白い光を放つと、辺りの地面に光が広がった。

 一緒に来ていた実地検分の役人や鉱山発掘者たちが驚いていたが気にしない。


 そして、地面が岩になった。けれど、ぼこぼこの穴だらけ。モザイク模様。

 原石の埋まった石だけを再生して、エーデルリヒトのあった場所が空白になっている。



「ん? どういうことだ?」

 ラピシアは首を傾げながらエーデルリヒトを見ていた。

「う~? これ、お母さんのと違う」


「え? 宝石だろ!? まさか、魔法で生み出された人工物だったとか!?」

「わかんない」

 青いツインテールを揺らして素直に首を振るラピシアから、エーデルリヒトを貰う。

 そして真理眼で見た。


【エーデルリヒト】真空無重力下で、高圧高温の状況になったとき精製される宝石。受けた力を増幅反射させる性質を持つ。



「な! 宇宙生成物だから大地生成物に変換できないのか! でも、どうしてここにある――あ!」

「どうされたのです、ケイカさま?」


 セリカの不思議そうな問いかけに答えず、俺は辺りを見回した。

 今いるのは、エーデルシュタイン南東側の山脈。屏風のように山が連なり、高原を果てまで取り囲んでいる。

 ――でも違う!


 エーデルシュタインは山脈に囲まれた高原だと思っていた。

「ここは隕石の衝突によってできたクレーターだったのか!」

 さすがの俺でも気付かなかった。



 セリカも驚く。

「囲む山と高原は大昔に大きな隕石が落ちたことで作られたのですね、驚きですわ」

「だろうな……でも、困った」


 ラピシアの力を利用して一挙に聖剣の材料を手に入れるつもりだったのに、予定が崩れた。

 確かに重力の影響を受ける地上と、無重力の宇宙とでは物質の性質が変わる。

 地上では絶対に精製できない物質も存在する。



 いっそのこと、クレーターの中心を探してみたらどうだろうかと考える。

 でも、エーデルシュタインは楕円状に歪んでいる。落下時の影響を考えると落下地点の推測は難しい。

 それに大地母神ルペルシアが地勢誘致で作ったなら、その後のクレーターをいじってる可能性もある。


 困り顔をしているはずの俺に、セリカが気付く。

「どうしましょう……隕石なんて、どこにあるかわかりませんわ」

「そうだな。中央の王都にある湖を調べるしかないか……いや? 待てよ」


 俺は真理眼でラピシアを見た。見つめられて首を傾げるラピシア。

「う?」

--------------------

【地母神スキル】

地精結集:大地の力を自分か他の神に集める。攻撃力×Lv値。

地殻反転:地殻を引っくり返して地表を刷新する。

地質変更:土・砂・岩・鉱物などの大地自然物を別の大地自然物に作りかえる。

地星誘致:自分の星の近くにある衛星や惑星を引き寄せて合体させる。

地勢変革:自分の立つ大陸を自在に隆起陥没させ山脈や海溝を作る。大陸移動もできる。

大地恩恵:自分の立つ大地にいる、死んだもの敵意をもつもの以外すべてを回復する。

新地造成:火山を操り、一定以上の大きさの大地(島や大陸)を生み出す。

消滅黒星:ブラックホールを生み出し、すべてを無に返す。

--------------------


「ラピシア、この宝石と同じ物質は近くにないか? 彗星や小惑星であれば【地星誘致】で持ってこれるはず」


 ラピシアは上を見上げた。目をまん丸に見開いて空を眺める。

 しばらくきょろきょろしてから声を上げた。

「ううう……あった! 引き寄せる?」

「お、できるか。頼む」



 するとラピシアは『月』に両手を向けた。手をぼんやりと光らせながら、掴む動作をする。

 俺は慌てて肩を掴んだ。

「ちょっと待て! ストップ! まさか、月にあるのか!?」

「うん! たくさんある!」

 飛び跳ねるように元気に答えるラピシア。


 俺は押さえ込むようにしてスキルを無効化しつつ言う。

「あんな大質量、地上に下ろしたら引力や何やらで地上が大変なことになる。やめるんだ」

 そっと地上に降ろしたとしても、月の引力が空気や海水、砂や岩を猛烈な勢いで吸い上げる。表層地震も起きる。

 その反動で生物はすべて死滅するだろう。

 大災害なんてもんじゃない。



 ラピシアは言われたとおりにスキルを止めた。

 けれども、なんだか不服そうだ。

「月は絶対、引き寄せるんじゃないぞ」

 怖いので、二度と使わないように言い聞かせる。


「う……わかった。あと、これほしい!」

 エーデルリヒトを指差すラピシア。

 こんな少量じゃ足りないだろうと思うが、小袋に入れて持たせる。

「ああ、いいぞ」

「わーい! もっと拾う!」

 ラピシアは小袋を持った手を振り回しつつ、崖に駆けていった。

 見ていると、斜面に見えているエーデルリヒトを指の力だけで掘り出していた。

 ――まあ、滑落しても大丈夫だろう。

 


 その間にセリカは連れて来た者たちに指示を出して、この一帯の採掘はすべて国が接収するように計らっていた。

 ただ、砕けた隕石片であるエーデルリヒトを拾い集めても、聖剣を作るための必要量に達するのはいつのことか。

 魔王は数ヶ月以内に復活するはずなので、到底間に合わない。



「月に行かないといけないのか……」 

 辺りを歩き回っていたミーニャが傍へ来る。

「ケイカお兄ちゃん。ラピシアにロープを持たせて月へ投げたらどう? 宝石を持ったら引っ張る」

「俺の力は水か風がないと発生させられないからな。帰りが難しい。そもそも月へ着陸する軌道に乗せられるかどうか」


 ミーニャは猫耳をピッピッと揺らしつつ、無表情な顔で言った。

「じゃあ、妖精の扉は?」

「あ、扉を月面に設置すればいいのか。ミーニャ、賢いぞ」

 頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細め、細い尻尾を左右に揺らして嬉しい気持ちを表していた。



 ラピシアが崖から戻ってくる。

 小袋は集めた宝石でいっぱいになっていた。

 もちろん、原石の見た目は石ころと変わりない。

 大地の神だから出来ることだった。


「拾った!」

「よしよし。頑張ったな」

 頭を撫でてやるとにへらっと笑った。


 それから現場はセリカとミーニャに任せて、俺はラピシアを連れて妖精の扉をくぐった。


       ◇  ◇  ◇


 妖精界へ着くと、回廊を通って地上に出た。

 新規扉の設定は地上で行うため。


 焼け野原だった地上は花畑で埋まり、白い壁と青い屋根の可愛らしいお城が出来上がっていた。窓はいちごやチューリップの形をしている。

 ラピシアが作った防壁はあるものの堀はなく、矢用の狭間や石落とし窓も設置されていない。

 防衛戦にはまったく役に立たないというのが俺の感想。

 メルヘンチックではあった。



 妖精の扉の制御装置は城の中に設置されているようなので繊細な作りの門から中へ入った。

 すると大小さまざまな妖精たちが忙しそうに動き回っていた。

 壁や天井に色のついたテープを張って飾り付けをしている。

 まるでパーティーでもあるかのよう。


 通りかかった小さな妖精に話しかける。

「どうしたんだ? 賑やかそうだが」

「もうすぐ女王さまが復活されるので、お祝いです」

「そうなのか。オルフェリエだったか」

「はい。消えてからもうすぐ月が一巡り。転生復活です」



「それはよかったな。――そうそう。月に行きたいんだが、妖精の扉の設置方法はわかるか?」

「ほえ? 妖精の扉は火水風土の力を使っているので無理かと」

「地上だけなのか……なんとかならないか?」


 小さな妖精は、背中の羽根をぱたぱたと動かして考えた。

「う~ん。ハーヤさんなら、なんとかできるかも?」

 俺は自分の顔が険しくなるのを感じた。

 ――どうせ、碌な方法じゃなさそうだ。ほかに方法はなさそうだが。


「忙しいところ、呼び止めて悪かったな。ハーヤに聞いてみる」

「はーい」

 小さな妖精は、ふわふわと飛んで去っていった。



 俺はケイカ村の屋敷へ向かうことにした。

 ふとラピシアが静かだと思ったら、宝石を入れた小袋を覗き込んで楽しそうにしていた。

 夜店ですくった金魚を眺めてるかのよう。

 ――大地母神にとっては石も友達なのかもしれないと思った。

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