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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第八章 勇者冒険編・亡国の姫君

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第184話 夜魔街ウォルピタス

ブクマ、評価、ありがとうございます。

 山に囲まれた小国エーデルシュタインの朝。

 俺はキマイラのグレスギーを連れて城に設置した妖精の扉をくぐろうとしていた。

 今回だけ、勇者パーティーに入れてある。


 扉を設置した小部屋には、ドレスを着たセリカが見送りに来ていた。

「あの、お気をつけて」

「大丈夫だ。むしろ自分を心配してくれ。……体は疲れてないか?」


 セリカがなぜか頬を赤らめて、泣きそうな顔で睨んでくる。

「も、もう……恥ずかしいですわ……」

「それは悪かった――じゃあ、言ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ、ケイカさま」 

 優しい声に見送られて、俺たちは妖精の扉をくぐった。



 妖精界につくと、片側にずらっと扉が並んだ回廊を歩く。

 クッションを背負ったグレスギーが尋ねてくる。

「このまま行くのか?」

「ん、何か問題があるのか?」

「入口は幻影で隠されているはずだ。俺は合言葉を知らんぞ」

「ほー、そうだったのか。だったら関係者を連れて行くか」

 踵を返して、ケイカ村につながる扉へ向かった。


       ◇  ◇  ◇


 朝日に照らされる夜魔伯爵領。

 海岸沿いには針葉樹林地帯が広がっていた。

 海の青と緑の木々が冬だというのに色鮮やかだった。


 丘の上に出た俺たちは、グレスギーの案内の元、針葉樹林を目指した。

 そこに夜魔伯爵の居住地があるらしい。

 

 そして俺は少女の手を無理矢理引っ張って歩いていた。

 魅惑的な肢体をひも状の下着と超ミニの浴衣で隠しただけの処女サキュバス、ステラ。

「もー、やだよー。アタシ、実家には帰りたくないって言ったじゃん!」

 先がハートになった尻尾をぶんぶん振って抵抗する。短い裾がめくれてお尻や局部がチラチラ見えた。



 呆れながらも正論を言ってみる。

「親がいるんだろ? たまには顔見せてやれ」

「どーせ『まだ処女なのか! もっと夜遊びして男をとっかえひっかえしないとダメだろう!』って叱られるに決まってる!」

「……サキュバスもそれなりに大変だな」


「そーよ。子供のときなんて、門限守って家に帰ったら『門限は破るためにあるんだ! スリルを味わないのは夜の魔物として失格だ!』ってめっちゃ怒られたの。理不尽すぎて頭にきちゃう」

 頬を可愛く膨らませてプリプリと怒るステラ。

 ――ふむ。

 サキュバスにしては意外と真面目な性格をしているのかもしれないと思った。


 グレスギーがぼそっと呟く。

「だからバカばっかりなのか」

 ステラの眉間にしわが寄る。

「つーか、なんでキマイラがいんの? こいつ、確か魔王軍じゃん」


「いろいろあって捕虜にした。このあとはたぶん、ラピシアが飼う」

「うわぁ……」

 なぜかステラが引き気味になった。



 俺は首を傾げた。

「どうした?」

「いや、あの子、ちょっと普通じゃないから」

「あれ、ラピシアとあんまり絡んだことないだろ? 知ってるのか?」


「そりゃおんなじ村で暮らしてるから、いろいろ噂は聞こえてくるよん。怒らせたら絶対ヤバイ子よね。ある意味、ケイカよりヤバイかも」

「ん? 俺のほうが強いぞ?」


 ステラは顔の前で手を振った。

「そうだけどさぁ。ケイカはわりかし打算的なところあるじゃん? 悪い奴でも利用価値があれば生かす、みたいな。でもあの子はそーゆーのまったく通用しないから、対応ミスったらその時点でぱーんち、よ」

 ――なんとなく、言いたいことはわかった。


「ラピシアは純粋で、いい子だからな。そこが可愛い」

「もうケイカも立派な親バカね――ついちゃった」



 目の前には鬱蒼と生い茂る針葉樹の森があった。

 細い小道が森の奥へと続いている。


「この道か? ――奥には何もないようだが……」

 千里眼で見たが、道はずうっと続いて海岸沿いの港町まで続いていた。


「そっちはダミー。地下に町作ってるの」

 そう言って小道から外れて森へと入る。良く見ればここだけ下草がない。


 少し森へ入ると、なぜか街灯がぽつんと立っていた。

「ここがナルニアか」

「何の話? ――さあ、入るわよ」

 ステラが街灯へ近付いていく。よく見れば、街灯の両隣の空間が歪んでいる。


「合言葉は?」

「アタシがいるからいらないよん。それとも二人だけで行く?」

「ダメだ」

 俺はステラの柔らかい手を掴んで、街灯へと向かった。


 ステラは頬を染めて、腕に抱きついてくる。形の良い胸が押し付けられた。

「……もうっ。強引なんだからっ」

 街灯の下をくぐると、立派な入口をした大きな階段があった。

 魔法の明かりが灯っていて足元は明るい。

 広い幅の階段をゆっくりと下りていった。


 後ろからグレスギーが溜息を吐きながらついてきた。

 

       ◇  ◇  ◇


 長い階段を下りると、とても天井の高い地下街に出た。

 夜魔伯爵の町ウォルピタスと言うらしい。


 まず目を見張るのが天井の高さ。十階建てのビルを建てても余裕があるほどだった。

 そして、東京ドームが幾つも入りそうなほど広い。


 しかし地下だというのに魔法の明かりがあちこちに灯っていて退廃的に明るかった。

 色とりどりの蛍光色が明滅している。いかがわしい繁華街のネオンサインに似ていた。

 大きな建物が幾つも立ち並び、夜に住む魔族や魔物たちが歩き回っている。


 真理眼で見る。

 夜会服を着たヴァンパイアや、蛇女のナイトリリスなど。

 サキュバスやインキュバスは扇情的な着ているのですぐにわかった。

 普通の魔物たちもいる。

 ゴブリンやダークエルフがいた。探せばいろいろといそうだ。

 

 人間もいる。でっぷり太った商人の男や髭を生やした貴族の男。

 遊びに来ているらしい。



 大通りを歩きながら言った。

「なかなか賑わってるな」

「ここは夜を楽しむものなら誰でもウェルカムだもん。人間も魔王軍も関係なく住んでるよー」

「それはすごいな」


「まあ、滞在費はかなりかかるけどね」

「物価が高いわけじゃないよな。遊行費か」

「そう――あんな感じで」

 ステラが俺たちの後ろを指差した。



 後ろを歩いていたグレスギーが、化粧をしたライオンに言い寄られていた。ピンク色の薄いベールをまとい、しなを作りながら話しかけている。

「ちょっと、そこのキマイラのお兄さん、遊んでかない?」

「仕事中だ」

「人生、遊ぶことも仕事のうちよ。どうせなら、うちの店で商談とかしちゃいなさいよ。サービスするわよ。飲み物半額」

「俺に決定権はないんでな。また今度だ」


 メスライオンが悲しげな顔をする。というか、良く見たら尻尾がさそりの尻尾になっている。マンティコアじゃないか。

「残念だわぁ……せっかく似たような人に出会えたのに……二本足で歩く人たちの相手はもううんざり。あなたなら分かってくれると想ったのよ」

「む……それは……」

 グレスギーが初めてたじろいた。

 というかマンティコアが客引きやってるなんて、恐ろしすぎるぞ。



 ステラが手をパンパンと叩きながら近付いていく。

「はいはい。客引きの常套手段に騙されちゃだめ。だいたい、飲み物安い店って、チャージ料やチャーム料が高いのよ、でしょ? マンティコアのお姉さん」

 チャージ料は座っただけでお金を取られる。チャームは突き出しのこと。勝手に前菜を出されてお金を取られる。

 ノーチャージ、ノーチャームの店が良心的。


 マンティコアが嫌そうに鼻の頭にしわを寄せる。

「なによ、商売の邪魔しないで……あんた伯爵の娘ね。言いつけてやるわ」

「どうぞご自由に――さあ、行くわよ」

 ステラはグレスギーのたてがみを掴んで歩き出した。



 また三人で大通りを歩き出す。道の果てに豪邸が見えていた。

「これは大変な町だな。セリカを連れてこなくて良かった」

「甘やかしすぎ。もっとエロいこと教えないと。金髪巨乳の持ち腐れよ」

「処女のお前が言うな」


 ――と。

「ねえ、ひょっとして」

 オレンジ色の髪をした少女が話し掛けて来た。

 背中の大きく開いたバニーガールの姿。足の細さを強調する黒い網タイツが素晴らしい。

 背中には小さなコウモリの羽根。先がハート型の尻尾を楽しそうに振っている。

 サキュバスだった。


「あ! やっぱり! ステラじゃない!」 

「うぇ……ピッピ、なんのよう?」

 ステラはあからさまに嫌そうに顔をしかめた。

 しかしピッピと呼ばれたサキュバスはステラに顔を近づけて鼻をくんくん鳴らした。


 そしてニヤぁと笑って、手で口を押さえる。

「え、嘘! まだ処女なの!? なんのために外出てたのよ。だっさ~い!」

「うるさいー! あっち行ってよ、もう!」

 しっしとステラは手で追い払った。


 するとピッピとやらは、小走りで大通りの反対側にいた別のサキュバスのところへ行った。

 何かを喋ると、二人でステラをチラッと見て、ぎゃははっと笑う。


「やりかた知らないんじゃない? きゃはは」

「サキュバスなのに! あはは」

「きっと穴が開いてないのよ、ぎゃはは」

 おなかを抱えて笑う二人。その声を聞きつけて、他のサキュバスが数人寄ってきた。

 笑い声が大きくなる。



 大通りの隅で、ステラは拳をギュッと握り締めて震えていた。尻尾が足に巻きついている。

 が、すぐに顔を上げて笑顔で言った。

「ケイカ、行こ」

 無理しているのがよくわかる笑顔だった。


「……よくないな」

「え? いいよ、別に。これはアタシの問題なんだから。ケイカは気にしないで」

「そうはいかない」

 もう何を言っていいかわからなかった。ただ、なぜか無性に腹が立っていた。

 ステラの言葉を無視して、彼女の手を掴み、馬鹿笑いする集団へ向かった。

「え、え、え!? ちょっと、ケイカ!?」



 奴らはニヤニヤ笑いつつも、首を傾げていた。

 俺は懐から勇者の証を取り出して、奴らの顔の前に銀色のメダルを突きつける。

「俺は勇者ケイカだ」

「「「えええ!?」」」

「勇者!?」「なんでステラと!?」「というか敵!?」


 戸惑う奴らを尻目に、ステラの薄い腰に手を回してぐいっと持ち上げた。

 至近距離に幼さの残る妖艶な顔が来る。

「ほえ!? け、ケイカ?」

「いいか、お前ら。ステラは俺の女だ! これを味わえるのはステラだけ――」

「ケイカ――んうっ」


 ステラの柔らかく赤い唇に無理矢理重ねた。

 始めは戸惑った様子だったが、すぐにくちゅっと湿った音を立てて気持ちに答えてきた。

 熱い吐息が交差する。

 彼女の体から力が抜けて、俺の首に手を絡め、もっと奥深くまで求めてくる。



 チラッと横を見ると、サキュバスたちは頬を染め、羨ましそうな視線で俺たちを見ていた。

 胸や腹を押さえて震えている。膝が震えていて、今にも倒れそうだ。


 俺特製、魔力&生命力濃縮キスだからな。濃厚な力が注がれているのを見るだけで、サキュバスとして反応してしまったのだろう。

 見ている全員が興奮と欲求不満で耳まで顔を赤くして、喘ぐように言った。

「あぁ……すごいわ……」「羨ましい……」「あんな濃い力、見たことない」「あ、あたしにもしてぇ……」

 へなへなと彼女たちはその場に座り込んでしまった。


 俺は唇を離した。

 ステラは頬を染め、荒い息を吐いた。抱きつくようにもたれかかってくる。



 俺は、へたりこんだ彼女たちを見下ろして言った。

「ステラには必要ないってわかったろ? 今後、ステラをバカにするのはやめろ……俺並みの相手を捕まえられたやつだけバカにしていい」


 そう吐き捨てると、ステラを横抱きに抱えて去った。

 後ろからは喘ぎながら、悔しがる声が聞こえた。

「無理よ……」「勇者って、あんなにすごいの……」「う、羨ましい……」「欲しい……」



 グレスギーの待つ往来の反対側まで戻った。

 そして、ステラを抱えたまま歩き出す。


 グレスギーがジトっとした目で俺を見てきた。

「セリカ王女を連れてこなくてよかったのは、おぬしのほうではないのか?」

「……言ってくれるな。仕方がなかったんだ」



 まだほんのり頬を染めるステラが俺を見上げて言う。大きな瞳が潤んでいた。

「ケイカ、どうして?」

「なぜか、すごくイラっとした。帰りたくないって理由がわかったよ。悪かった」

「ううん、謝らなくていい。でも、どうして? まだケイカの女になってないのに」

 ――なんでだろうな。


 う~ん、と考えながら話す。 

「たぶん、俺の村の一員で、俺を支える仲間の一人だからかな。大切な仲間をバカにされて黙ってはいられなかった」

「……ありがと」

 ステラは小さな声で呟き、恥ずかしそうにうつむく。桃色の髪がふわっと動いて赤く染まった顔を隠した。



 ネオンサインのような明るい光に照らされた大通りを歩いていく。

 そして、付き辺りにある大きな屋敷にやってきた。

 4階建ての大きな豪邸。


 門の内側に庭があってその奥に玄関があった。

「ここがアタシんち。父の夜魔伯爵が住んでる――下ろして」

 ステラを地面に立たせた。

 彼女は乱れた浴衣を直そうともせず、すぐに門をいじって鍵を開ける。

「話し合いでなんとかなるかな」

「どうだろ? お父さん、ちょっと変だから」



 ――と。

 グレスギーが後ろを振り返った。

「なんなのだ、あれは」

「ん?」


 見ると、サキュバスの集団が少し離れたところにいた。

 20人ぐらいいる。時々、口を開けて空気を食べている。

「なにしてんだ?」


「あれ、ひょっとしてケイカの漏れた生気を食べてるんじゃないかな? 受け止め切れなくて少しこぼしちゃったから。ある意味、拾い食いよね。優秀なサキュバスたちがなにやってんだか」

 そういうステラは、ちょっと優越感に浸っているようだった。細い腰に手を当てて形の良い胸を反らしている。


「少しは見返せたか?」

「とっても! こんないい男捕まえるなんて、アタシってば、やっぱ見る目あるよねっ――ケイカ、大好きっ!」

 ぎゅうっと抱きついてくるステラ。

 柔らかい胸がまたもや押し付けられる。

 道の向こうから、サキュバスたちの「「「あぁ~!」」」とうらやむ悲鳴が聞こえてきた。


「はぁ。先行くぞ」

 グレスギーは呆れた声で言うと、頭で門を押し開けて入っていく。

 俺はステラと寄り添いつつ、屋敷へと入った。

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