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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第八章 勇者冒険編・亡国の姫君

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第183話 でか猫の想い(ラピシアップ)

 エーデルシュタインの朝。


 水浴びを終えて城内の一階、広い廊下を歩いているとミーニャがやってきた。

 巫女服を揺らして傍へ来る。

「ケイカお兄ちゃん、ラピシアがいない」

「え?」

 俺は懐から銀色のメダルを取り出した。勇者の証。

 パーティーメンバーがどこにいるか表示できる。


 ミーニャは淡々とした声で言う。

「ラピシアがいないと、困る」

「廃坑を蘇らせてもらわないといけないからな……まだ城内にいるようだ。会ってセリカを手伝うよう言っておく」

「ん……お願い」

 ミーニャは黒い尻尾をゆらゆら揺らして見回りに戻っていった。

 何気なく見てると、廊下の角で首筋をぐりぐりとこすり付けていた。

 マーキングでもしているのか。


 獣人は、ミーニャに対しては絶対服従している。しかし咎人と知れ渡ったセリカ王女に逆らうものが出る可能性はゼロではない。

 そこで獣人たちが変なことをしないよう見張らせていた。



 勇者の証を見ながらラピシアを探した。

 一階を回り、二階へ上がる。

 どうやら二階の玉座の間にいるらしい。

 ゆっくりと歩いて向かった。


 何本もの柱が天井を支える広い部屋。

 広間の奥は高くなり玉座が据えられていた。

 けれどキマイラのグレスギーがクッションで寝ているだけでラピシアの姿は見えない。


 パーティーメンバーの所在地を拡大しながら近付いていく。

 するとグレスギーへと近付いていくことになった。

 でも姿はない。

 ふいに、背筋に寒気が走る。

 ――まさか喰われたんじゃ……?


 俺は太刀に手を掛けつつ、グレスギーの傍へ来た。

 すると、猫のように丸くなって眠る彼のおなかに、ラピシアがしがみついて寝ていた。毛とクッションに挟まれて小さな姿が埋没している。



 俺の足音に目を覚ましたのか、グレスギーが目を開ける。

「おい、でか猫。ラピシアに変なことしてないだろうな」

「むしろされた」

「ほほう」


 グレスギーは困り顔で溜息を吐く。

「こやつは何者なのだ。人の子ではなかろう……」

 事実を答えていいか迷ったので、別のことを尋ねる。

「何があった?」

「言わなくてはだめか?」

「捕虜だからな」


 ぐぬぬ、とグレスギーは唇を噛んだが、ぽつぽつと昨晩のことを語り始めた。


       ◇  ◇  ◇


 深夜。

 グレスギーが玉座横でクッションの上に寝ていると、てててっと軽い足音を響かせてラピシアがやってきた。青いツインテールが後ろになびく。

 手には穂のついた草を持っている。

 グレスギーは死を待つだけで、周りに関心がなかったので寝続けた。


 ――すると。

「ほいっ、ほいっ」

 ラピシアはグレスギーの近くまできてしゃがむと、彼の顔の前で草を振り始めた。

 無視して眠るグレスギー。

 反応がないのでラピシアは草の穂でグレスギーの大きな鼻をぺしぺしと叩く。


 薄目を開けてラピシアを睨む。

「俺は猫ではない」

「きょっ……どうして、むなしい?」

「なにがだ?」


「お母さんがいなくて、むなしい? 信じるものがなくて、むなしい?」

「子供にはわからんよ」

 ごろっと寝返りを打つグレスギー。顔が別の方向を向く。



 ラピシアは、むっと唇を尖らせつつ、グレスギーを回り込んでまた顔の前にしゃがむ。

「わからないから、聞いてる! なんで、むなしい?」

「…………」

 グレスギーは目を閉じて寝たふりをした。たてがみが揺れる。


 すると、ラピシアは彼の閉じた目を、ぐいーっと指でこじ開けて覗き込む。

「むなしい?」


 グガァァァア!

 グレスギーは立ち上がって吠えた。コウモリに似た翼を広げ、蛇の頭を持つ尻尾をうねらせ威嚇する。

「小娘、いいかげんにしておけよ! 捕虜だからといって、何されても大人しくしていると思ったら大間違いだ! 貴様など一口で喰らってくれるわ!」



「怒ると、むなしくない」

 うむっと頷くラピシア。

 グレスギーは牙の並ぶ巨大な口を開けて襲い掛かった。


 しかしラピシアは手を伸ばして上あごと下あごをがっちりと掴んだ。

「ぐがっ! ががががが!」


 グレスギーが眼を白黒させた。どれだけ力を込めても閉じられない。

 ラピシアが開いた口の中に頭を突っ込んで上や横を眺める。

「ん~。歯が、大きいー! あっ、虫歯はっけーん」


 ラピシアは彼の口から頭を抜くと、ぐいぐいと押し始めた。

 グレスギーは四肢を踏ん張って耐えようとするが、後ろに押されていく。

「なんだこの力は……っ! 何をする気だ……」

 ぐいぐい押されて元のクッションの場所へ。グレスギーの抵抗むなしく、無理矢理寝かされる。

 しかも今度は仰向けに寝かされた。

 動物が弱点の腹を見せるというのは友愛や恭順の証。

 それを無理矢理見せる体勢にされたのだから、屈辱以外の何ものでもなかった。



 ラピシアはそんなことおかまいなしで、また腕力で口を開かせて手を突っ込む。

「きゅああああ~」

「ぐごぉぉぉ……お?」

 ラピシアが手を抜いた。にこにこ笑っている。


 グレスギーは口の中を確かめる様子。

「虫歯が、治ったのか……いったいどんな魔法だ……ありえんぞ」 

 ラピシアは最初の質問を繰り返す。

「むなしい?」



 グレスギーはしばらく固まっていたが、はぁっと溜息を吐いてクッションに寝転がった。

 そして、ぽつりと言った。

「……自分でもわからんよ。なぜむなしいかなんて。しいていうなら、今まで生きてきたことすべてがむなしい」


 じーっとラピシアは金色の瞳で見つめていたが、急にグレスギーへ近寄ると、大きな頭を胸に押し当てるように抱き締めた。細腕がたてがみに埋もれる。

「よしよし」

 ぽんぽんと優しく頭を叩く。


 もう無抵抗になったグレスギーはそれでも反論した。

「……子ども扱いするな」

「ラピシア、みんなのお母さん!」

「意味が分からん」


 そして、下手な歌をうたいはじめた。

「ねーむれー、わーがこー、やすらかに~」

 ケイカ村の学校で習ったばかりの子守唄。

 音程を外しながらも、グレスギーの頭を抱えて歌い続ける。


 始めは露骨に嫌な顔をしていたグレスギーは、次第に体から力が抜けていった。

 大きな猫のように丸くなり、ラピシアに身を預ける。背中の羽根がパタパタと気持ち良さそうに動く。

 もう拒絶はせず、歌も抱擁も受け入れていた。


 その時だった。

 ふいにグレスギーは別の音を聞いた。

 今まで気付かなかった音。

 頭を胸に押し当てられているので、ラピシアの小さな鼓動が聞こえてきたのだった。

 波のように優しく、大地のように頼れる音。

 それを聞き続けていると、グレスギーはなぜか心が満たされていくような気持ちになっていた。



 いつしか歌は終わっていた。

 ラピシアは母親のような、慈愛に満ちた笑みを浮かべて尋ねた。

「まだ、むなしい?」


「……いいや。もう大丈夫だ……ありがとう」

 グレスギーがお礼を言った。こんなに素直な言葉を言えたのは始めてかもしれない。



 その瞬間、ラピシアが白く光った。

「うおっ、まぶし!」

 グレスギーは驚きつつ、目を細める。


 ラピシアは光に包まれながら微笑んで言う。

「嘘には優しいうそもある。むなしいは、むなしいだけ。でも、誰かがいてくれたら、むなしくなくなる。一人では何もできなくても、誰かが想ってくれてたら、もう無じゃない。きょっ!」



 そして光が消えると、ラピシアは大きなあくびをした。

 目を擦りつつグレスギーの乗るクッションに視線を止める。

「おやすみなさい」

「お、おい……」

 ぐいぐいとクッションとグレスギーの隙間にもぐりこんでいく。

 むしろグレスギーを掛け布団のように体に乗せる。


 されるがままのグレスギー。

「動くに、動けん……」


 そして朝になった。


       ◇  ◇  ◇


 玉座の間。

 話を聞き終えた俺は、ニヤニヤ笑っていた。

 グレスギーが顔をしかめる。

「だから話すのがイヤだったのだ」

「まあ、むなしくなくなったようでなによりだな」

「で、何者だ? こやつは」

「まあ、神の子とでも思っておけばいい――どれ」


 俺はラピシアを真理眼で見た。

--------------------

【ステータス】

名 前:ラピシア

性 別:女

年 齢:257

種 族:半神人

職 業:大地母神Lv8(地を知る)

クラス:治癒師 神術師

属 性:【豊穣】【輝土】【聖地】

所 属:勇者ケイカパーティー


【パラメーター】

筋 力:17万(2万)(+0) 最大成長値∞

敏 捷: 9万(1万)(+0) 最大成長値∞

魔 力:24万(2万)(+0) 最大成長値∞

知 識:11万(1万)(+0) 最大成長値∞

幸 運:999(0) (+0) 最大成長値∞

信者数:  0


生命力:130万

精神力:175万


攻撃力:17万

防御力:18万

魔攻力:72万

魔防力:11万


【スキル】

 回復(キュア):味方を回復させる。(熟練度:255/250)

 幻惑(ブラード):体をぼやけさせて攻撃を当たりにくくする。(熟練度:30/100)

 防御低下(デクラーン):相手を柔らかくする。(熟練度:31/100)

 睡眠(スリープ):相手を眠らせる。(熟練度:100/100)

 防御上昇(メタリカ):味方を硬くする。(熟練度:5/100)


【特殊スキル】

 流星頭突き(ブレッシングフロムヘブン):高度5万メートル上空から目標目掛けて落下して頭突きする。必中技。防御力を攻撃力に加算してダメージを与える。特殊効果・命中時、自身の行動速度を上昇させ、相手の速度を一定時間半減させる。

 神の噛撃(バイト オブ S.S.T.):攻撃ダメージ3倍。命中時、相手の守備力を大幅に下げる。さらに噛み付いてる間、確率で行動停止状態になる。


【地母神スキル】

地精結集:大地の力を自分か他の神に集める。攻撃力×Lv値。

地殻反転:地殻を引っくり返して地表を刷新する。

地質変更:土・砂・岩・鉱物などの大地自然物を別の大地自然物に作りかえる。

地星誘致:自分の星の近くにある衛星や惑星を引き寄せて合体させる。

地勢変革:自分の立つ大陸を自在に隆起陥没させ山脈や海溝を作る。大陸移動もできる。

大地恩恵:自分の立つ大地にいる、死んだもの敵意をもつもの以外すべてを回復する。

新地造成:火山を操り、一定以上の大きさの大地(島や大陸)を生み出す。


消滅黒星:ブラックホールを生み出し、すべてを無に返す。



【装 備】

武 器:なし

防 具:白銀のワンピース 母の愛が込められた服 防×2倍【全状態異常無効】【時間比例回復】

装身具:大地の指輪 魔攻力×3【即死無効】

--------------------

 確かにレベルアップしていた。

 なんだこの【消滅黒星】って。またやばすぎて使えないスキル覚えたな。

 というか、キュアの習熟度が限界値を超えてるんだが、はて。

 ひょっとしてさらに上級を教えればいいのか?


 次のレベルアップ条件は「地を知る」か……。

 結構知ってそうな気もするが。

 あとでプレートテクトニクスでも教えてみようか。



「神の子か……信じてしまいそうになるな――他言は無用か」

「言ってもいいが、ラピシアに手玉に取られたことまで知られてしまうぞ」

「ぐぬぬ……」

 グレスギーは悔しげに歯を噛み締めた。


 すると彼の下で、ううん……と変な声を出してラピシアが目覚めた。

 目を擦りながらグレスギーの下から這い出てくる。

「ケイカ、おはよう」

「おはよう、ラピシア。一人で頑張ったみたいだな」


「えらい?」

「えらいぞ。いい子だ」

「わーい、えへへ~」

 頭を撫でてやると、幼い顔をへにゃっと崩して笑った。



 ツインテールをわしゃわしゃと、ひとしきり撫でてから本題に入る。

「さてと。ラピシアは今日、セリカと一緒に廃鉱山へ行ってくれ」

「ケイカはこないの?」

「俺は咎人の証拠を取ってこないといけない。とは言え……セリカは国務があるから離れられないし……ミーニャは獣人たちを見張ってもらう必要がある。一人だとな……」

 顎に手を当てしばし悩んだが、寝そべるグレスギーが目に入った。


「グレスギー。どうせ暇なんだろ? 夜魔伯爵領まで案内してくれ」

「断ってもどうせ無駄なんだろうな……構わんよ」

「いってらっしゃー、グレぴー」

 ラピシアが屈託のない笑顔で言った。


 グレスギーが目を丸くする。

「ぐ、ぐ、グレぴー、だと!?」

「グレスギーだから、グレぴー」


 俺は笑いを堪えつつ言った。

「よかったな、可愛いがってもらえて。お前の処遇はラピシアに任せるとしよう」


 グレスギーは、むすっとした顔で立ち上がる。顔を振ると、ライオンのようなたてがみがわさわさと鳴った。

「勝手にしろ……ゆくぞ」


 こうして、俺はグレスギーを連れて夜魔伯爵の支配する領地へと向かうことになった。

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