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第171話 ケイカ村スタイリッシュ訪問!

 海邪神リヴィアを捕まえて協力関係を結んだ後、村の南から聞こえてきた変な音の元へ向かった。


 村の南門まで来ると、ジャーン、ジャーンという鐘を鳴らす音がよりいっそう大きく聞こえた。

 南の道から何かがやってくる。


 派手な服を着た人々の集団。

 笛を鳴らし鐘を叩き、房の付いた扇を振っている。

 中心には御輿までかついでいる。

 まるでお祭りのよう。


 部下たちがかつぐ御輿の上には、上等な服に黒いマントを羽織った強面の中年男性――地獄侯爵が座っていた。

 ロマンスグレーの髪はオールバックに撫で付けられている。

 いつも以上にお洒落に見えた。



 その賑やかなままで、村の入口へとやって来た。

 御輿の上から俺を見るなり胸を反らした。

「ふははははっ! ケイカよ、来てやったぞ! 貴様が作り上げた村がどの程度か、あまさず見尽くしてくれるわ!」


「言ってくれりゃ歓迎の準備をしておいたのにな」

 侯爵は片手で顔を覆い、悪そうな笑みを浮かべた。

「くくくっ、それでは普段の村がどの程度か分からぬではないか! 欠点を取り繕う暇を与えず、いきなり相手を白日の下に晒す! なんと我輩は恐ろしいのだ……っ」


「ヴァンパイアのくせに白日に晒すとはこれいかに、だな……それはそうと、なんでそんなお祭りみたいに騒ぎながらやってきたんだ?」


「ふふん、我輩は賑やかな方が好きなのでな。しかしそれだけではないぞ! 深い理由がある!」

「ほう。聞かせてもらおうか」



 侯爵はマントをバサッとひるがえすと、御輿から飛び降りてポーズを決めた。

「ただでさえ歩くと疲れる。そこへ強制的に余計なことをさせて何倍も疲れさせ、我輩の残酷さを心に刻み込むのだ! 旅の行程すら死の行軍に変える、我輩の恐ろしさよ、ふはははっ!」


「「「はい、とっても恐ろしいです!」」」

 侯爵の部下達は、晴れやかな笑顔で答えた。

 彼らの顔には一仕事やり終えたという充実感に満たされていた。


 ――自分たちの敬愛する侯爵が「賑やかな方が好き」と言った時点で、苦行にはならんよな。

 むしろ私語は一切させず、黙々と歩かされた方が疲れたんじゃないか?



 何も言えず、俺は頭を掻いた。

「まあ、通常営業のようでなによりだ。まだまだ発展途上の村だが見ていってくれ」

「うむ、遠慮なくそうさせてもらおう。――あと農夫や料理人を連れてきた。農業と料理には自信があるといっていたからな。うちの技術者たちと比べてどれほどのものか試してくれよう」


「ああ、技術者のプライドを叩き折るんだっけか」

 どう考えても技術研修だけどな。



 それから侯爵を連れて村へ入ろうとした。

 村を囲む高い外壁をくぐって中へ――。


 するといきなり侯爵が叫んだ。

「ふおお! なんということだ!」

「どうした?」


 

「高い壁で囲んで門には兵士をつけて見張らせる。つまり村人は絶対に逃がさんというわけだな。ケイカもなかなかやるではないかっ」


「いや、逆だよ逆。外敵から守ってるんだ。なんで強制収容所みたいにしなきゃならないんだよ」

 冷静に突っ込んだが、侯爵は高い壁を見上げて目を見張る。


「しかもこの壁、人力ではないな? 継ぎ目がない!」

「ああ、ラピシアに魔法で作らせた」


「くっ! 神の子を奴隷のようにこき使うとは! さすがケイカ、我輩と並ぶ恐ろしき男よ!」

「いやいや、待ってくれ。それだと俺がひどい奴みたいじゃないか」


 侯爵が疑うような目付きで俺を見る。

「ほう? では工賃、幾ら払った? この完璧な外壁、金貨500枚は下るまい」

「……これはタダだな。さすがにお金が欲しいというから今月から小遣いを……」


 侯爵は顔を手で多い、くぁーっと驚きの声を出す。

「我輩でもそこまで搾取することはないぞ!」

「そのかわり親代わりに面倒見てるし、ぎゅっと抱き締めたりしてやってる」


「親の恋しい子に愛情を注ぐふりをしてただ働きさせる、まさに外道!」

「……そういわれると弁解できないな。子供に大金渡してもどうかと思っていたが、もう少し何かしてあげてもいいか――とりあえず次だ次」

 強引に話を終わらせた。



 侯爵を連れて村の南東へ。

 まずは病院を見た。

 三階建ての大きな建物。患者数はまだ少ない。


 一階を軽く見て回った後で、侯爵が言った。

「建物自体は立派だが……普通だな」

「設備は侯爵のところのほうが整ってるだろうな。こっちはまだこれからだ」

「さすがに医療設備の充実は、人員との兼ね合いもあるからな。期待しておこう――ん?」

「どうした、侯爵?」


 病院の入口にいた侯爵は、村のはずれを見ていた。

 柵に囲われた四角い穴がある。

 ビホルダーゲルが働く排水施設だった。


「あの穴はなんだ?」

「地下から組み上げた温泉を地下へと戻す場所だ」

「なぜそんなことを?」


「温泉には塩や酸など、植物を枯らす成分が入ってるからな。用水路に流すと畑が枯れる」

「ほほう! そこまで考えて村づくりしているのか! なかなか知恵が回るな――しかしどうやって地下へ戻している? 見ても良いか?」

「いいぞ。侯爵なら穴に落ちても大丈夫だろう」



 俺たちは穴の傍へといった。

 二人で中を覗き込む。穴の底からジャバジャバと水音が聞こえてくる。

「おーい。アイ。お客さんだ」

「ほう? こんな湿度の高い場所で働かせているのか? なかなかの地獄――おおっ!」


 ずるずると壁を張って、巨大な丸い目を持つアメーバ状のスライムが這い上がってきた。

 半透明の触手を何本も、うねうねと動かしている。


 侯爵は、口を半開きにして俺とビホルダーゲルを交互に見ていた。

「どうした? こいつがビホルダーゲルのアイだ。みんなからアイちゃんと親しまれているが」

「ビホルダーゲル! こ、こやつは、天地創造に協力したといわれる神獣ではないか!?」

「知っているのか。さすが侯爵だな」

 

 ビホルダーゲルは嬉しそうに、本体から生えた触手を動かした。

 侯爵はしばし固まっていたが、急にふぉぉっと叫び出した。

「天地創造をおこなった神獣にただの廃水処理をさせるなぞ、そのプライドはずたずただろう! なんと恐ろしい! 神をも恐れぬ所業だ!」


「いや、そんな大げさな。能力を生かした仕事を斡旋しただけだ」

「そうやって口車に乗せて働かせたのか! くぅっ! 神獣すらも騙すとは、さすがケイカだな! 我輩でも真似できるかどうか危ういぞ!」

 侯爵は愕然とした表情で、首を振った。


 彼なりに絶賛してくれているのは分かるが、どうも納得がいかない。


「……おかしいな。みんなが生きられる場所を作ってきたつもりだが、侯爵視点で見ると俺が大悪人のように思えてきたぞ」

 侯爵が、うむっと深く頷いた。

「我輩もまだまだ努力が足らんな。もっと極悪にならなければ」

「ああ、頑張ってくれ」

 まともに相手していたらきりがないので、さらっと流した。



「それはそうと、温泉があるなら、その施設もあるということだな?」

「公衆浴場と、旅館がある」

「ほう。そこでもおぞましい地獄を生み出しているのだろうな。楽しみだぞ……くくくっ」


「いや、普通だから。今までもこれからも普通の村だから」

 そうは言っても侯爵は聞き入れてはくれなかった。

 アイを仕事に戻らせて、俺たちは旅館へと向かった。

 途中、侯爵は目を輝かせて「次はどんな地獄だ、こんな感じか? それともこうか?」などと楽しげに予想していた。



 旅館に来た。

 大きな玄関から中へ入ると、半脱ぎ状態の着物を着たエロ女将ことステラが出てきた。背中には小さな羽根があり、お尻の辺りに黒い尻尾が揺れている。

 胸の谷間やすらりとした太ももまで、白い肌を晒していた。


 俺たちを見るなり、驚きの声を上げる。

「おっ。侯爵じゃ~ん」

「む、誰であったか……サキュバスだな。もしや夜魔伯爵の娘か?」

「そーよ。名前はステラ。久しぶりだね~」

「随分と大きくなったな」

 侯爵とステラは気軽に話し合っていた。


 俺は不思議に思って尋ねる。

「知り合いなのか?」

 すると侯爵は苦いものを噛んだように顔をしかめた。

「まあ……知らない仲ではないな。ステラではなく、その親とな」

「うちの親と侯爵は仲が悪いのよねー。アタシもお父さんとはケンカして家出中だからよくわかるけど」


「というと?」

「お父さん、ちょっと頭おかしいから」

「ちょっとどころではないぞ。不愉快極まる――と、そうだ。ステラを見て思いだした。村に来た本当の理由だ」


 俺は侯爵を見た。

「なにがあった?」

「いやなに、ケイカはたまごを探しておっただろう? ゲアドルフの持っていたたまごは、夜魔伯爵の領地にあるぞ」

「そうか。6個集める約束をドラゴンとしていたんだよ。ありがとう、行ってみる」

 俺は軽い口調で答えた。

 内心、すっかり忘れていたなんて言えない。



「くれぐれも夜魔伯爵には気をつけろ。危険だ」

「わかった。あとで詳細を教えてくれ――さて、見学に戻るか」

「うん? 見てくの? あーい、案内しちゃうからね~」

「頼んだ」



 ステラの案内で旅館を見て回った。

 まずは温泉。

 広い脱衣所から入れば、中は大きな浴槽が一つ。窓はなく、壁に絵が描かれているので銭湯に似ていた。


 牛獣人のメイドたちが背中を流すなどの接客をしていた。

 巨乳がたわわに揺れている。


 侯爵は顎を撫でつつ、その風景を眺める。

「ふむ。さすがサキュバスが指揮を取るだけあって、スタイルのいい美女ぞろいだな」

「ふふん、とーぜん! アタシの目に間違いはないのっ」

 ステラは華奢な腰に手を当ててポーズを取った。嬉しいのか背中の翼が喜びでパタパタとはばたく。



 続いて2階の宿泊施設を見た。

 廊下に面して各部屋の扉が並んでいる。

 中は二部屋続きで大体同じつくり。

 質素だし、広くもないが、それなりに落ち着いた部屋だった。


 あとは広間や宴会場などを見た。

 百人ぐらいが食事できて、正面には簡易な舞台があった。そのうち出し物でもやる予定。



 旅館を見終わると、最後に侯爵が尋ねてきた。

「ふむ。だいたいわかった。娼館を兼ねているようだな。飴と鞭のためかもしれんが、ケイカにしてはいたって普通。地獄を感じさせなかったのは残念だ」

「いやいや。勇者の村でそんなふしだらなことはさせない。宿泊して湯に入るだけだ」


 俺の答えに、侯爵は目をむいて叫んだ。

「なんだと――ッ! サキュバスと巨乳獣人を働かせながら、性サービスを提供しないだと! 完全に生殺し状態ではないかっ! 欲求を煽りながら何もしないとは、これほどの生き地獄は見たことがない! さすがの我輩でも思いつかなかったぞ……くっ、さすがケイカだと褒めておこう!」


 侯爵は額に手を当てて、悔しそうに顔をゆがめていた。尖った犬歯がギラリと光る。


 隣のステラが背中の羽をパタパタ揺らしてのん気な声を出した。

「いや~侯爵は相変わらずテンション高いね~キライじゃないけど」

「ふっ、我が生涯のライバルと対決しておるのだ。高ぶるに決まっているだろう? ――さあ、他の施設を見せてもらおう!」

「はーい、行ってら~」

 ステラの声を背に、また別の場所へ向かった。



 学校や畑の反応は普通だった。

 人魚のクリスティアに魚の養殖をさせていたが、これも反応は今ひとつ。

 驚くかと思っていたので意外だった。人魚は島の方でも魚や貝の養殖はやっているらしい。

 珍しくはなかったのか。


 村の中心へと戻りつつ侯爵に言った。

「これでだいたい終わりか。あとはたいして――ああ、村の代官と一応顔合わせしておくか?」

「んん? 村の実権はケイカが握っておるのではないのか? まあ、これからも訪れるかもしれんから、会っておこうか」



 というわけで、少し肌寒い風の吹く中、村の中央にある代官屋敷へとやって来た。

 二階建ての木造。

 王女が住むとあって、少し見栄えよく改築されていた。


 兵士や侍女の挨拶を受けつつ二階の執務室へと上がる。

 部屋の中には棚とテーブル。

 窓を背にして大きな執務机にエトワールが座っていた。


 俺たちが入ると、彼女は席を立って一礼をした。赤い髪が優雅に揺れる。

「ケイカさま。そして、お客さま、遠いところからご足労下さりありがとうございます」

「こちらは地獄侯爵の異名を取る、真祖ヴァンパイアのデスペラードだ。――で、侯爵。こちらが代官をしてもらってるエトワールだ。以後よろしく」


「なっ、なんですって!?」

 エトワールがすみれ色の瞳を見開いて裏返った悲鳴を上げた。


 侯爵は渋い顔をしかめる。

「うかつだぞ、ケイカよ。我輩の正体を人間にたやすく明かさないで貰いたいな」

「冗談だから真に受けるなよ、エトワール。ともあれこの村の連中なら大丈夫だがな」



 エトワールは疲れたような顔をして溜息を吐いた。

「ケイカさまにはいつも驚かされますわ……アタクシはエトワール。この国の第三王女ですわ」


 今度は侯爵が驚く番だった。

「なんと! 王族が代官に! ――それは国の意向か? 勇者を重要視しているという表明なのか」

「いや、俺が呼んだ。前の村長では事務処理が大変でな。王女なら意見も通りやすいから」

 俺の言葉に、エトワールが頷く。

「ええ、ケイカさまの願いで代官として着任いたしました。いろいろと助けていただきましたし、そのお礼ですわ」



 すると侯爵は目を丸くして驚いていたが、突然、驚愕の叫びを上げた。

「ふぉぉ! つまりは王族を人質に取って、自身の安全と国への影響力を保っているわけだな! なんという悪辣さ! ――さすがケイカ、ぬかりないな!」


「ああ~、そういう解釈も出来るのか……もう好きにしてくれ」

 俺は肩をすくめた。もう否定するのはやめだ。


「そうか。ここまでしないと、国という組織の中で居場所を作るのは難しいのか……とても参考になったぞ!」

 侯爵は非常に感心した様子で、なんども頷いていた。



 エトワールが不思議そうに首を傾げた。ウェーブのかかった赤い髪が優しく揺れる。

「なかなか面白い御仁のようですわ。今夜は村に泊まられるのでしょうか?」

「うむ。部下たちは疲労しきっておる。このままだと死という生温い救済を与えかねん! 一泊して身も心も回復させ、地獄の日々から逃れられないようにしてくれるわ! ふはははっ」


「えっと……泊まられる、ということですわね。でしたら、簡単にではありますが、宴の席を設けましょう」

「そうだな。それがいい」

 俺も賛成した。


 その後は宴会の用意のため、エトワールは忙しく指示を出し始めた。

 俺たちは邪魔しないよう、代官屋敷を後にした。



 天頂を過ぎた太陽から弱い日差しが降る。

 旅館へと戻る道すがら、侯爵がふと思い出したかのように口を開く。

「そう言えば先ほど、この村の連中には正体をばらしても大丈夫、と言っておったが。そのようなことはありえんと思うのだが……人はどんな秘密でも無闇に喋る生き物だぞ」


「いや、この村の連中は、最初俺とセリカを殺そうとしたんだよ。勇者になる男に危害を加えようとしたんだ。本来なら村人全員、死刑になってもおかしくない。だから俺の不利になるようなことはいえない」


 侯爵が目を見開いた。

「なんとっ! 村人の弱みを握って磐石な体制を築き上げたのかっ!」

「まあ、俺には後ろ盾がなかったからな。それぐらいの保証は手に入れておかないと安心して留守に出来ない」


 侯爵は、首を振りつつ溜息をもらした。

「ふう。我輩をどこまで驚愕させれば気が済むのだ……本当に恐ろしい男だ、ケイカは」

「いやいや、侯爵の解釈も充分恐ろしかったぞ。少し反省した」


 侯爵は尖った犬歯を見せてにやりと笑う。

「ならば、今回は引き分けということだな」

「そういうことにしておこう」


 旅館の前まで来た。

「それじゃ、また夜に」

「ああ、宴を楽しみにしておるぞ……血の滴る料理を特にな!」

「そんなものはでない! ――いや、まてよ?」

「どうした、ケイカ?」


 俺は悪い笑みを浮かべて答えた。

「見てのお楽しみだ」

「ほう? ケイカの言うことなら間違いはないだろう」


 そして侯爵と別れて、屋敷へ急いだ。

 宴の用意をするために。

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