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第170話 古典的な罠

 ファブリカ国の王様と会って、元騎士団長プレヴァーの潔白と、エルフ塩の件を解決した。


 その後、妖精の扉を通ってケイカ村に戻る途中、ドルアースに寄って商人のドライドに塩の偽造している悪徳業者を調べてもらうよう頼んだ。

 これで万事終了。


 あとは、今日一日ぐらいはケイカ村の屋敷でのんびり過ごそう。



 ――と思ったら。

 ケイカ村の屋敷に帰ると、馬車の荷台を引くラピシアに出会った。幌はついていないが四方には壁があって箱のようになっているタイプの荷台。


「なにしてるんだ?」 

「よろい来たの! だからつかまえに行くの!」

 見れば、箱のような荷台にラピシアが欲しがっていた青竜鱗の鎧が載っていた。

 どうやら俺がいない間にダフネス国王の使者が訪れ、鎧を届けていったらしい。


「……ふぅん」

 なんとも言いようがなかった。

 

 ラピシアは元気に荷台を引いていく。

 気になったので、その後をついて行った。

 舗装された小道に、ガラガラと車輪の音が鳴り響いた。



 ラピシアは屋敷の庭を出て、村の舗装路を東へと向かう。

 高い街壁が見えてきた。


 東門のところで門番をしている兵士とすれ違う。

「お疲れ様です、勇者さま!」

「ごくろう」

 最敬礼をする兵士に軽く言葉をかけて村の外へ出た。



 そのまま東にある林にでも向かうのかと思ったら、ラピシアは、ふんふーんと鼻歌を歌いつつ道をそれて荒地へと出た。


 見ていると、ラピシアはちょこまかと動いて簡易な罠を作成した。

 まず地面に鎧を置き魔力を込めた。水の魔力を持つ鎧なので、青く光り始める。

 それから棒に紐をくくりつけると、荷台を片手で引っくり返した。

 棒をつっかえ棒にして鎧の上に被せる。

 簡単にやったが物凄い怪力である。さすが神の子。



 とまあ、簡単に説明すると、雀を捕まえる罠の大きくなった版を作ったようだった。

 誰かが鎧を取りに来たら、棒を引っ張って馬車の荷台を被せるようだ。


 ――わけがわからない。

 盗賊でも捕まえる気なのだろうか。

 こんなバレバレな罠にひっかかる者がいるとは思えないが。

 まあ、何か意味があるんだろう。



 それから二人で近くの木陰に隠れた。

 ラピシアは棒を引っ張るための紐を手で握り締めつつ、体を楽しそうに揺らしていた。

「わくわくする!」

「……何を捕まえるんだ?」

「ないしょなの!」

「そうか。大きい獲物が取れるといいな」

「うん!」

 ラピシアは幼い顔いっぱいに笑みを満たして頷いた。



 ――待つことしばし。

 何かが空を飛んでくる気配を感じた。

 かなりの魔力をもった存在。俺ほどではないが、人や魔物以上。

 神に匹敵すると言えた。


 千里眼で見ると、ラピシアぐらいの少女が必死な形相で飛んでいた。

 サイズの合わない薄絹のドレスが風にたなびいている。


 知らないようで、どこかしら見覚えがある顔だった。

 真理眼で見る。

--------------------

【ステータス】

名 前:リヴィア

性 別:女

年 齢:?

種 族:神

職 業:海邪神

クラス:剣豪 神術師 混沌術師

属 性:【暴風】【海流】【微光】


【パラメーター】

筋 力:33万2500

敏 捷:30万4600

魔 力:36万1700

知 識:31万1800

信者数:0


生命力:314万3200/318万3698

精神力:319万2600/330万2455

--------------------

 やはりそうか。

 ただ、パラメーターがすべて半減していた。

 最大値が減っている。

 何かあったらしい。



 リヴィアは罠の近くに降り立つなり、鎧を見て目を輝かせた。

「み、見つけたのじゃ! これさえあればっ!」

 リヴィアはなんの迷いもなく鎧に飛びついた。

 泣きそうな顔で鎧にほお擦りする。


「いまなのっ!」

 ラピシアが、ぐいっと紐を引っ張った。

 つっかえ棒が外れて荷台が被さる。

 ドスンと派手な音とともに、リヴィアを閉じ込めた。


 中から戸惑う悲鳴が聞こえた。

「なんなのじゃ~!? 真っ暗なのじゃ~! 何も見えぬのじゃぁ~!」

「アホだな」 

 初対面ではもっとこう、威厳があったように感じたが。


 ラピシアが両手を挙げてばんざいした。

「つかまえた! わーいわーい」

「よかったな――どれ」



 俺たちはひっくり返った荷台の傍まで行った。

 ラピシアが片手で荷台を持ち上げる。


 日の下に姿を現したリヴィアが、鎧を抱き締めながら涙目で叫んだ。

「お、おぬしは、ケイカっ!」


 近くで見ると面影がある。

「そういうお前はリヴィアだな。……随分と変わったな」

 背が縮んでいた。

 見た目の年齢が17歳ぐらいだったはずが、10歳ぐらいになっている。

 大きな胸やくびれた腰が失われ、子供体型になっていた。



「う、うるさい! 魔法を使ったら縮んだだけじゃ! この鎧さえあれば、きっと元に……」

「そうか。亡くなった人を依り代としたから、おかしなことになっているのか」

 真理眼で見ていると、最大値がじわじわと減っていた。

 今ある生命力精神力まで最大値が下がるらしい。


「このままでは、また消えてしまうのじゃ……」

 悲しげな顔でリヴィアが言った。

 ラピシアが俺の和服の裾を引っ張った。

「かあいそーなの!」


 ――ふむ。

 この状況は使えるかもしれないな。



 俺は彼女へ手を伸ばしながら言う。

「俺の血で復活したんだから、俺の力を分け与えれば止められるかもな」

「ほ、本当か! 頼むのじゃ!」

「いいだろう」

 リヴィアの手を掴んで、魔力を流し込んだ。

 彼女の全身が青い光に包まれる。

--------------------

【ステータス】

名 前:リヴィア


生命力:318万3695/318万3695

精神力:330万2450/330万2450

--------------------

「どうやら止まったな。最大値は増えなかったが」

「ぬぅ……それではこの姿のままではないか――ハッ! それならば!」


 リヴィアはラピシアに向かって手を向けた。青く光り始める。

「大海の魅せる 遠き蜃気楼よ――」

 魔法を唱え始めた。ラピシアに取りつく気らしい。

 何をされるのか分かっていないラピシアは、不思議そうに首を傾げた。


 しかし俺は素早く動く。

 リヴィアの細い腕を掴んで魔力を打ち消した。

「そうはさせない」

「だったら、お前たちを弱らせてから乗っ取るのじゃ!」

「いいのか? 俺たち二人相手じゃ分が悪いぞ? それに魔法を使えばさらに縮む――ほら、今使ったから、また縮み始めた」


「ぐぬぬ……だったら、どうすればよいのじゃあ!」

 ふぬぬ、と唇を噛み締めて涙目で俺を見上げてきた。

 幼い顔が涙を必死に堪えている。


「協力してくれるなら、常に魔力を分け与えてやってもいい」

「わ、わかったのじゃ! なんでもするから早く魔力を! まだ消えとうない!」


「神の言葉に嘘はないな? ――いいだろう。力を分けてやる」

 掴んだ手に力を込めて光らせた。

 リヴィアの魔力が回復する。

 縮みが止まった。



 リヴィアが、はぅっと諦めの吐息を漏らした。

「大人しくしておこうかのぅ」

「それがいいな。縮まない体にする方法を一つ思いついたし」

「ほ、本当か!?」

「教えて欲しければ答えろ。魔力ががっつり減っていたが、いったい何をやったんだ?」


 リヴィアが、気まずそうに華奢な肩をすくめた。

「う……その、知り合いをな、復活させようとしたのじゃ」

「誰だ?」

「ベヘームト。地邪神などと呼ばれておる。我らは別に邪神ではないのにのう」


「日ごろの行いが悪かったんだろ」

 俺の言葉に、リヴィアは幼い頬を膨らませて反論した。

「違う! アトラが裏切りおったのじゃ!」


「アトラって誰だ?」

 すると横からラピシアがポツッと呟いた。

「おばあちゃん」


「ラピシアの祖母ってことは、創世神か。リリールの話だと、いい母親みたいだったが」

「アトラは自分の理想を理解しないものはすべて排除する、ただの独裁者じゃ」


「神なら自分が正しいと信じていて当然だとは思うが……どんなふうに?」

「世界をよりよくするための助言をしただけで邪神扱いにしおった。許せんのじゃ」

「ん? リヴィアは創世神によって生み出されたんじゃないのか」


「天地開闢の折にヘルパーとして呼ばれただけじゃ。ベヘームトと共にな。我らリバイアス一族はあまたの世界で創世の手助けをしてきたからの」

「俺のいた世界でもあったな。リヴァイアサンとベヒーモスか」

「百の異名を持つのじゃぞ、ぬふふ」

 リヴィアは、幼い顔をにんまりとゆがめた。

 名前が売れているのは、ちょっと羨ましい。


「それで先輩としていろいろ教えてやったら、口答えするなと怒り出したわけか」

「そうじゃ。で、わらわを追放して、自分に絶対服従の子供を生み出して世界を作った。その結果がこの現状なのじゃ」

「ご覧のありさまだな」


 リヴィアは小さな手を握り締めて振り上げる。

「というわけじゃ。あの女の作った世界なぞ、滅ぼしてくれるわ!」

「それはやめろ。俺が神になれなくなる」

「また新しく作り直せば良いではないか」


 彼女を見つめて、心の底から真面目に言った。

「多くの人が生きている。人々が積み上げてきた努力の結晶を無に返すのは賛成しないな」

「……意外と、優しい神なのじゃな? もっと猛々しいかと思うておったが」

「変わったんだよ……しかし、リヴィアの話が正しいという保証はないな」



 判断に困ってラピシアを見た。

 まん丸な瞳で、俺たちの様子をじっとうかがっていた。

「どう思う、ラピシア?」


 ん~、と眉間に可愛いしわを寄せて唸り出した。

「ラピシア、お母さんが好き。おばあちゃんキライ。でもお母さんは、おばあちゃんが好き。だからラピシアも、おばあちゃんが好き」


 リヴィアが、ふんっと鼻で笑った。

「子供の意見じゃな」

「チビババア!」

「なんじゃと! おぬしもチビではないか!」

「チビ、チビ!」

 ラピシアが背伸びをしてリヴィアを見下ろそうとする。リヴィアもまた背伸びをしてラピシアを見下ろそうとした。

 不毛な争い。


 俺は二人を押し留める。

「どう見てもどんぐりの背比べだ。いや、最後に魔法を使って縮んだぶん、リヴィアの方が――」

「い、言うでない! む、胸はわらわの方があるぞよ!」

 リヴィアは両手で胸を寄せてあげた。縮んでぶかぶかになったドレスの胸元に、ふくよかな谷間ができる。

 確かに胸が膨らんでいた。結構大きい。これがロリ巨乳ってやつか。

 俺が魔力を注入した結果、背丈は伸びず、横に膨れたらしい。



「まあ、ラピシアがキライと言うなら、そうとう危険な奴なんだろう。言い伝えではラピシアを殺そうとしたらしいし。リヴィアの話は信用できそうだな」

「当然じゃ。恨みはするが嘘は言わぬ」


 ラピシアは、にゅっと手を差し出した。

「じゃあ、ともだち!」

「むう……こやつは話を聞いておったのかや? わらわは偉大な神の一族なのじゃぞ?」

「いいじゃないか。二人とも仲良くな」

「うん!」

「むう……ケイカがそう言うなら、わかったのじゃ」

 リヴィアは幼い顔をしかめて握手した。



「ちなみにどんな世界を作ろうとしてケンカになったんだ?」

 俺の問いに、リヴィアは大きな胸を反らして言った。

「わらわは競争こそが生き物の本分だと思うておる。どんな者も上を目指して努力すれば、おのずと世界全体が底上げされる。だから切磋琢磨しやすいシステムを作ってやるべきなのじゃ」


「それが大海支配者のシステムか。それもどうかな」

「魔物の数を制限して、他の弱きものたちが生き延びやすい環境を作る、という意味合いもあったのじゃぞ? それをアトラは、争いのない優しい世界を作るだのなんだの言いおってからに。脳内お花畑じゃ」


 言われてみれば、それなりによくできたシステムかもしれなかった。

 実際、大海支配者の決闘バトル中は、人の船はほとんど襲われなかった。

 海に住む弱き者――人魚や妖精たちも襲われなかっただろう。



「ほかにもいろいろ聞いておきたいな。創世神や魔王に関して。とりあえず、俺の屋敷に住むといい」

「なんと! そなたと一つ屋根の下に!? ――はっ! なんでもするということは、つまり……」

 リヴィアは急に顔を赤らめて、もじもじと華奢な体を捻った。ぶかぶかの服がずれて豊かな胸が隙間から見えた。


「一緒にいた方が魔力供給しやすいだろう? それに、ベヘームトのこともある」

 その名を出すと、リヴィアはあっと声を上げた。

「そうじゃった! 彼の事を忘れておった!」

「そいつはどうする気だと言っていた?」

「まだ復活してはおらん。儀式の途中で体が縮み始めたんでの」


「んー。そのまま復活させて、素直にもとの世界に帰ってくれるか?」

「どうであろう? ただベヘームトも相当恨んでおったからのう。アトラには復讐するかもしれん」


「まあ手伝いに来てやったのに、邪神呼ばわりされて封印されたら、普通は怒るよな。俺でもキレる」

 リヴィアは心配そうに俺を見上げる。

「だがケイカはこの世界を失いたくないのであろう?」

「そうだな。復活させても面倒だし、邪神は魔王を倒した後で処理することにするか」


「では儀式を中止してくるかの。……あまり力を使いたくないが」

「その鎧を電池代わりにすればいいだろう。俺の力を込めといてやる」


 青竜鱗の鎧を拾って、力を込めた。清浄な青い光に包まれる。

 リヴィアに渡すと、彼女は両腕でぎゅっと抱き締めた。

「ありがとうなのじゃ!」

「では、頼んだぞ」

「うむ! すぐに止めてくる! ――それと、先ほど言った体を縮まなくする方法、忘れるでないぞぉぉ~」

 リヴィアは鎧を抱えたまま、空高く飛んでいく。

 ドレスを風に翻し、大きな胸や小ぶりなお尻を見せながら雲の向こうへと消え去った。



 後に残った俺とラピシア。

 冷たい風が荒地を吹き抜けていく。ラピシアの長いツインテールが揺れていた。

「それじゃ、家に戻るか」

「うん!」

 ラピシアは馬車の荷台につっかえ棒と紐を投げ入れると、ガラガラと荷台を引き出した。

 俺も一緒に戻っていく。


 ――と。

 ジャーン、ジャーン、ジャーン、と賑やかな音が聞こえてきた。

 村の南のほうからだ。

「なんだ?」

「ちかづいてくる!」


 音が徐々に大きくなってくる。

 チンドン屋でもいるのか。


 ラピシアを屋敷に戻らせ、俺は村の南へと急いだ。

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