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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第七章 勇者地固め編・貴族動乱

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第169話 ハーヤと王様

 エルフの塩の偽物が出回り始めたので、瓶のラベルを新しくして俺が取り締まれるようにした。

 ファブリカ王国に伝えなければいけないが、新しいラベルが出来るまで待つ。


 その間、俺はケイカ村の屋敷でのんびりと過ごしていた。

 ダイニングのテーブルでセリカと一緒に遅めの朝食を取る。


 パンにチーズとハムを挟み、温かいスープを食べる。

 元宮廷料理長のクラリッサおばさんが給仕にあたる。

 ミーニャの姿は見えなかった。親父の宿屋へ顔を出しているのだろう。


 俺はパンを食べながら言った。

「ラピシアは学校か?」

「はい。元気に通っておりますわ」



 ちらっと学校の方へ目を向ける。

 《千里眼》と《多聞耳》で様子を見た。


 教室には10人ほどの子供たちがいた。

 席に座って、正面の黒板に書かれた文字を先生の後について読み上げている。

「「「はーとー! まーめー! むーぎー!」」」

 ラピシアは子供たちに混じって、可愛い口を大きく開けて叫ぶように言っていた。

 というか、見た目は同年代ぐらいと混じっていて、とても楽しそうだった。


 教壇に立つ先生であるエルフのリィが手を叩く。

「はい、よくできました。次はノートに書き写してみましょう」

「「「はーい!」」」

 


 俺は食事に戻りつつ、スープをすする。

「うむ。ラピシアは学校に馴染んでいるようだな」

「同年代の友達ができて喜んでます」


「なんていうのか。ラピシアもだいぶ成長したな」

「最初の頃は言葉すら危うかったですのに……本当にいい子ですわ」

 セリカは、ふふっと白い歯を見せて微笑んだ。

「学校も集団に対する教え方が分かってきたようだ。春から本格的に開校できるな」



 その後食事を終えてお茶を飲む。

 テーブルの向かいに座るセリカが言った。

「今日はどうされますか、ケイカさま?」

「そうだな……塩のラベルが出来たらファブリカ王国へ行く。それまではのんびり過ごすか」


「でしたら、ダフネス王国の貴族内乱について勇者はこのように対処した、と知らせる書類を作成しておいた方が良さそうですね」

「向こうの貴族や王族まで絡んでいたものな」

「エトワールさまと作ってきます」

「頼んだ」


 セリカは金髪を揺らして優雅に立ち上がると、軽く一礼してから去っていった。


 俺は冷めたお茶を一口すする。

 ――さて。俺もファブリカ王へ会う前に用事を済ませとくか。

 飲み干した湯のみ――ラピシア特製ハーレム湯のみをテーブルに置いて立ち上がった。


       ◇  ◇  ◇


 屋敷を出て裏庭にあるハーヤの工房に向かった。

 すると、中からにぎやかな声が聞こえた。


 扉を開けて入ると、ハーヤは相変わらず作業台の上を短い手足でちょこまかと動き回っていた。

 また変な魔導具を作っているらしい。


 しかし、内装が随分と変わっていた。

 前は殺風景な作業場だったのが、壁にタペストリーがかけられ、花の咲く植木鉢が置かれていた。


 そして、ハーヤの隣には、髪の長い女の子の妖精がいた。

 三角帽子を揺らして作業を手伝っている。

 彼女は俺が入ってきたのにすぐ気付いたが、ハーヤは作業に夢中になっていた。



 女の子は小さな手を伸ばして、ハーヤの肩を叩いた。

「ハーヤさん、お客さまです、勇者さまです」

「ほむ? ――ああ、これはケイカさん。お久しぶりです」

 ハーヤは手を止めると、俺に向き直って体を折り曲げるようにお辞儀した。


「忙しそうだな。というか二人は付き合うようになったのか」

「違うのです」

「弟子入りしたのです」

 そういう女の子は不満そうに、じと目でハーヤを見ていた。

 ハーヤは困った様子で、帽子の前を引っ張って顔を隠していた。


 ――ハーヤの態度が煮え切らないので押しかけ女房でもしたという感じか。

 面倒には巻き込まれたくないので、話を変えた。


「そうか。まあ仲良くな。……それで、作ってもらいたいものがあるんだが」

「なんでしょう? ケイカさんの頼みなら、全力で斜め上に向かいます! 予想外のイマジネーションを!」


「いや、普通でいい。親と子が血縁関係があるか調べる魔導具を作って欲しい」

「むむむ。それは難しそうですね」

 ハーヤは腕組みをして唸った。



 ……地球の知識を教えるしかないか。

「子供は親の遺伝子を半分受け継いでいるんだ」

「いでんし?」

 可愛く首を横に傾げた。三角帽子がふらふら揺れる。


「DNAと言ってな……」

 それから、高校生物辺りの知識を教えた。

 


 ハーヤはふむふむと聞いていたが、最後には大きく頷いた。

「わかりましたです! いきものってそういう仕組みで増えてたんですね! DNAは螺旋構造で46本。それらはアデニン、シトシン、グアニン、チミンから構成された鎖状で……親子の配置は半分同じ、と」

「まあ、そんな感じだな。できそうか?」


 俺の問いかけに、ハーヤは目をキラキラさせて頷いた。

「できそうです! これでようやくホムンクルスが作れそうです! それどころか、新しい生き物だって作ってみせます!」

「さすがです、ハーヤさん!」

 女の子妖精が手を合わせて、感激した様子で言った。


 俺は溜息を吐くしかない。

「それは駄目だ。新たな生き物の創造は、神の所業だ。神に逆らうのは悪魔の仕業。ハーヤを成敗しないといけなくなる。それと、ホムンクルスも駄目だからな」

「う……わかりました。判定する機械だけ作ります」

 みるからにがっくりと肩を落とすハーヤ。


 俺は女の子に言った。

「ハーヤが暴走して変な物を作らないか、しっかり見張っておいてくれ……ハーヤが大切ならな」

「わ、わかりましたです、ケイカさま!」

 女の子はぶるぶると震えてハーヤにしがみついた。


 ――ちょっと脅しが過ぎたか。

 でもバイオハザードを起こされたら、手遅れだからな。

 まあ、聞き分けはいいから大丈夫だろう。


 しばらくハーヤの様子を見守ってから、屋敷へと戻った。


       ◇  ◇  ◇


 午後のファブリカ王国。

 街のあちこちある工場から煙が立ち昇り、冷たい海風に吹かれて斜めに昇っていく。


 晴天だが太陽光は弱く、ひきしまる肌寒さを感じた。

 しかし働く人々には気温など関係なく。職人たちは腕を振るい、荷役夫が製品を運んだ。

 王都インダストリアは活気があふれていた。

 ただ、街を三重に区切る巨大な街壁で壁画の製作をする職人達はさすがに寒そうだった。



 俺は宮殿のような城へ行って、王様に会った。

 ファブリカ国王ロンヘイム4世。


 謁見の間ではなく、大きな窓に面した茶会室に通された。

 内装には精緻な金細工が施されている。


 王様の座る丸いテーブルに向かい合って席に付いた。

 王様のほうから口を開く。 

「よくぞ来てくれた、会いたかったぞ。勇者ケイカよ」

「お久しぶり、というほど時間は開いてないですが。――まあ、いろいろありましたから」

「今回も活躍してくれたようじゃな。礼を言うぞ。……して、何か頼みごとがあったのではないか?」


「その前に、まず。こちらがダフネス王国の貴族に対する処罰と、今回の報告になります」

 俺は持ってきた書類を王様に渡した。

 エトワールとセリカが作った報告書だった。


 ――手順を間違えてはいけない。

 エルフ塩の頼みごとは難色を示される可能性があった。

 そのため、先に心理的なショックを与えて条件を飲ませやすくしたい。

 この話し合い、情報の出し方が鍵だ。



 王様は書類に目を通した。

 しばらくしてから溜息を吐いて顔を上げた。

「こんなにも恐ろしい事態が進行しておったとは。ヴァーヌス教も危険だ。すぐにこちらでも対処しよう……この参加貴族は確かなのか?」

「作戦に大きく関与していた元騎士団長のプレヴァーが詳細をすべて話してくれましたから」


 彼の名を出すと、王様の眉間に嫌悪のしわが寄った。

「あやつは信用ならん」

「いえ、彼は信頼に足る人物です。すべては冤罪だったのです」

「普段のおこないは礼儀正しいからそう思わされたのであろう。しかしな……」

 王様は苦々しげに口を歪めた。


「それならば、証拠をお見せしましょう」

「証拠とな?」



 俺はハーヤに作らせた魔導具をテーブルに置いた。

 小さな天秤量りに似ていた。両側に皿がある。軸の真ん中には数値を表示するパネルがあった。


 王様は少し身を乗り出して、天秤を眺める。

「これは、なんじゃ?」

「血のつながりがあるかどうか調べる魔導具です」

「ほう! そんなものがあるとは、聞いたことがない」

「妖精界に伝わる、秘伝の器具ですので……妖精の女王から今回だけ特別に借りてきました。5回だけ計れます」

 適当な出まかせだが、信憑性を上げるには充分だろう。


 ふむ、と王さんは顎を撫でて頷いた。

「ケイカは妖精界を助けたのであったな。嘘ではなさそうだ……で、どう使うのだ?」

 興味津々と言った様子で尋ねてくる。



「調べたい二人の人物の一部――髪の毛で構いません。それを皿へ別々に乗せます。すると、実の子供の場合、父と母から半分ずつ受け継ぐので50と表記されます。孫なら25。兄弟姉妹は50~100になります」


 王様は、水をかけられたように、はっとして顔を上げた。

「……知っておるのか」

「ええ。もしこれで第3王子との関係を調べて、50と出なければプレヴァーは死刑にしましょう」


「……だが……しかし……」

 王様は難しそうに顔を歪めた。


「陛下は血筋をうやむやにしていい立場ではございません」

 俺の言葉に、王様は手を何度も開いては握った。

 戸惑っているらしい。


 けれども、最後には溜息とともに頷いた。

「わかった。やってみよう……しかし、この魔導具が信頼できるかどうか調べてみなくては」


「さすが陛下。用心深いですね。そのために5回、調べられるようになっています。まずは絶対親子であるとわかっている人で試しましょう。続いて、別人同士。あとは、陛下と他の王子。最後に陛下と第3王子を」


「よかろう。……手に入れてこさせよう」



 王様は従者を呼び、指示を出した。

 しばらくして、兵士の親子がやって来た。

 機械で計測しなくてもいいぐらいに、父と子はそっくりの顔立ちをしていた。


 計測の結果は50。



 続いて、俺と王様。

 結果は0。


 それから第1王子の髪の毛をもらってきた。

 結果は50。


 そして最後は第3王子。

 ――やはり50と表記された。



 数字が出たとき、王様は一瞬だけ刺されたかのように顔を歪めた。

 しかしすぐに平然とした態度を取り戻した。


「なるほど。プレヴァーは潔白であったか。しかし第3王子は謀反を企んだことは事実。死を持って償ってもらう」

「さすがのご決断。ですが、心中お察しします、陛下」


「しかたあるまい。プレヴァーにはすまなかった、居場所は空けておく、と伝えておいてくれ――きっと彼の性格では二度とファブリカの地を踏むまいが」

「わかりました。必ず伝えましょう」

 俺が約束すると、王様は長い息を吐いた。視線がどこか遠くを見ている。



 空気がだいぶ重くなったので、無理矢理に話を変えた。

「陛下、一つお願いがあってまいりました」

「――ん? ああ、なんじゃ?」


 俺は小瓶を取り出した。

「こちらです」

「これは、エルフの塩であるな……そなたの顔がラベルに描かれてあるぞ。えらく可愛いものじゃ」


「はい。本物だと証明するためです。実はエルフ塩の偽物が出回り始めました。人とエルフの友好関係を壊さないためにも、厳しい罰則の制定をお願いします」

「うむ。人々も困るであろう。そのようにさせよう」


「あと、悪質な業者の摘発を、俺の独断でさせていただきたいです」

「それも構わん。勇者のすることだ。特にこれだけの成果を上げてきたケイカじゃ。間違いはなかろう」

 そう言うなり王様は、俺の言い分を全部受け入れて部下に伝えた。


 どうやら思考能力が低下しているようす。

 表向きは冷静だが、内心はかなりのショックを受けているらしい。

 こうすれば話し合いを有利に進められると思っていたが、想定以上の結果となった。

 これもエルフのためだ、仕方がない。



 こうして王様との会見は上々の首尾で終わった。

 少し老けたように見えたのが、心苦しかった。


 あとは、暇な時にでも悪質な業者を摘発して、公開処刑にすればいいな。

 暇なのは今か。


 まあ、商人のドライドに頼んで流通から洗ってもらえば偽造している業者はすぐにわかるだろう。

 

 ともあれ、エルフたちに伝えて安心させるため、王様に別れの挨拶をしてから城の外へ向かった。


次話はまた三日後ぐらいに。

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