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第157話 レオ報告と対貴族

 午後の日差しの降る王都インダストリアの近く。

 俺は両王国に飛竜の売込みをすませ、エルフ塩の販売許可を得た。

 その後、外側の壁から少し離れた木陰で、レオたちから報告を受けていた。

 辺りを気にしながらレオが言う。そよ風が青髪が爽やかに揺らしていった。


「ケイカさん、私たちは海岸沿いを旅して村々の問題を解決してきたのですが、一つ気になったことがあります」

「なにがあった?」

「この国の恭順貴族とヴァーヌス教が結びついています。ヴァーヌス教の司祭が魔族を使っていろいろ画策していました」


「その個人だけ魔族と協力しているのか? それとも……」

「ヴァーヌス教全体で魔族や魔物を従えているようですね。こちらを見てください」

 レオが背負い袋から書類の束を取り出した。奴隷取引や、斡旋の手紙、襲撃する村や人物の指示。


 書類を読み込んでいくと、ヴァーヌス教が操る魔族に村を襲わせ、借金によって人々を奴隷にし、ヴァーヌス教を介して魔王軍に売り払われているのがわかった。

 そして襲われた人々はヴァーヌス教以外を熱心に信じるものたちや、王政側の人間だった。



「これは良い証拠だな。魔族は奴隷と食料を手に入れ、ヴァーヌス教は異教徒を排除し、貴族は反勢力を削れる。三者が得する関係を築いていたのがはっきりとわかる――そう言えば、カンデンス神を信じる職人たちも裏では奴隷として出荷されていたんだっけか」


 レオは端整な顔を痛ましそうに歪めた。

「やはり職人たちも……許されないことです」


「そうだな……しかし、ここまで根が深いとは思わなかったな」

 俺は思わず腕を組んで、ううむと唸った。

 ――貴族が魔族と組んだ程度なら、何かしてきても楽勝だと思っていたんだがな。

 ヴァーヌス教も絡んで、組織的に魔物を運用して何かを企んでいたのか。


 ということは、もっと大きな企みがありそうだ。

 ファブリカ王国の実権を握ったり、ダフネス王国の王位を簒奪したり。

 大活躍する俺の信頼度も下げたいだろう。むしろ殺そうとしてくるかもしれない。


 う~ん……俺もずっと村にいるわけじゃない。

 特に、聖剣の材料である宝石をエーデルシュタインに探しに行かなくてはいけない。

 長い時間がかかった場合、村が大軍で襲われたら危ない。

 こんな時『勇者ケイカ村』という名前は諸刃の剣だ。

 自分の村一つ守れなくて何が勇者だ、と責められかねない。信者も失う。

 余裕を持って宝石探しをするためにも、後顧の憂いは断つべきだな。



 一つ頷くと軽く言った。

「よし。貴族とヴァーヌス教を潰そう」

「ええっ!? どうされるのでしょうか?」

 セリカが目を丸くして尋ねてきた。


「潰すって言い方は誤解があるな。とりあえず、貴族と魔族のつながってる証拠を探す。それを国民に知らせるか、ばらすぞと脅して失脚させる。王には当然伝えておくが」

 セリカが頷く。

「貴族の力を抑えたい国王側は乗るでしょう」

「本当は、関係者全員断罪したいところだがな。あまりやりすぎても反発を生む。二度と歯向かわなければそれでいい。そのためには証拠と――黒幕のあいつだな」


 レオが首を傾げた。

「黒幕の目星がついているのですか?」

「ファブリカ王国の第3王子だな。凄まじく評判の悪いエトワールと婚約していたのもこいつだ。きっとダフネス王国の乗っ取りも考えていただろうな」

「なるほど……ヴァーヌス教が黒幕かと思っていました」

 レオの言葉にダークが頷く。

「私もそう思っていましたよ、90%の確率で」



「さすがだな。実はそれもあるんだ。だが、まだ黒幕の証拠は手に入れられないだろう。周辺の証拠を集めて、直接手を下しているトップを失脚させるのが精一杯だ」

 魔王とつながってる証拠はさすがに出てこないはず。

 というか、ヴァーヌス神が魔王そのものだ、なんてよっぽどの証拠じゃないと信じてもらえない。それこそ観衆の前で、本人の口から言わせるぐらい出ないと。


 セリカが心配そうに、大きな胸に手を当てて言う。

「では、魔王やヴァーヌス教は放置、ということでしょうか?」

「ヴァーヌス教は、信じきってる信者が多い。処理を間違えると信者が敵になりかねない」

 最大規模の信者を持つ。昔、神殿に行ったとき、飴をくれたおばあさんは心底ヴァーヌスを信じていた。

 できれば素朴な人たちを敵には回したくない。



 レオが頷いた。

「ケイカさんの言う通りですね。まずは敵勢力を削ることから始めましょう。出来るだけ力になりますよ」

「それは助かる。レオたちはファブリカ王国の恭順貴族と第3王子の動向を探ってくれないか? きっと大きな企みをしてるはずだ」

「はい、わかりました」

 レオは素直に頷いたが、ティルトが訝しそうに見てきた。

「どうしてわかるんだよ?」


 俺はニヤリと笑う。

「都合のいいことに俺の活躍に危機を抱いて、貴族とヴァーヌス教は無理矢理動こうとしている。必ずどこかでボロを出すはずだ」

 俺がエトワールの婚約を破棄したり、飛竜を斡旋したおかげなんだが。


 レオは白い歯を見せて爽やかに微笑んだ。

「さすがケイカさんですね。頼もしいです」

「任せとけ。最悪の場合でも、証拠捏造して斬りまくってやるから……それで、緊急の報告がある場合、ティルトを伝令にしてくれ」

「え? やだよ、ケイカ村遠いし」

 ティルトが嫌そうに幼さの残る美しい顔をしかめた。


「エルフは妖精の扉を通れるだろう? それを使って知らせてくれ」

「え!? オレ使えんの?」

「エルフは妖精の一派だから、使えるぞ」

「マジかよ! そんな話聞いたような聞いてないような……」


 ティルトが腕組みして唸ると、ダークが眼鏡を指で押し上げた。

「きっとティルトは悪戯に使うから、教えてもらえなかったんでしょう」

「うっせっ! つーか、妖精の扉でどうやって悪戯するんだよ?」

「出てきたところを驚かすとか、出口に落とし穴掘るとか」

「……なるほろ。子供の頃知ってたら、やってたかもしんない」

「でしょう?」

 なんでも御見通しですよと言わんばかりに、ダークは眼鏡を指で押し上げた。ガラスの部分がキラリと光った。



 俺は呆れつつももう一度尋ねる。

「で、ティルトが連絡係でいいんだな」

「おっけー。やってやるよ」

 ティルトは強い眼差しで笑いつつ胸を叩いた。


 レオへ視線を移す。

「それにしても、いつも働かせてばかりですまないな……この件が終わったら、一度故郷に帰って休んだらいい」

 レオが子供のようにはにかんで笑った。

「ありがとうございます。父もだいぶ年を取りましたので、元気な顔を見ておきたいです」


「僧侶をしているんだったか」

「はい、村で唯一の僧侶でした。……家を継ぐはずの私が咎人になってしまいましたが」

「いずれ、その誤解も解けるさ」

 優しく諭すように言った。

 レオは素直に頷いた。どこまでも爽やかな笑みを浮かべて。


 というか、ヴァーヌス教をうまく潰せば、咎人制度をなくせる。

 セリカがエーデルシュタインの王女に復帰するためにも、やっておいた方がよかった。


 俺はセリカの手を取り、一歩下がった。

「じゃあ、レオ、ダーク、ティルト。頼んだぞ」 

「はい、ケイカさん」「お任せください」「やってやるぜ!」

 三人は元気に答えた。なかなか頼もしいパーティー。

 そして俺たちは簡単な挨拶をして別れた。



 午後の草原を歩いていく。

 セリカと手を繋ぎながら、妖精の扉へと向かった。

 彼女は、心配そうに形の良い眉を寄せた。

「ヴァーヌス教は強大です。うまくいけばいいのですが……」

「いかせるさ。それに全部と戦うわけじゃない」

「と言いますと?」


「教団全部が腐ってるとは考えにくい。真面目な奴や、日和見主義の奴だっているはずだ。その辺を上手く活用できれば……」

「難しそうですが、頑張りましょう。わたくしもできるだけ支えますから」

 セリカはそう言って、俺に寄り添ってきた。

 柔らかな肢体と、花のような香り。


「ああ、任せとけ」

 笑いかけながら、繋いだ手をぎゅっと握る。

 するとセリカは顔を真っ赤にして、なぜかうつむいてしまった。

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