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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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第134話 狐村とケイ作戦

 俺たちは獣人地区に出た。

 ケイカ村よりさらに北。歩けば10日は掛かる距離。

 辺りは荒涼とした草原だった。東に林がある。

 魔王軍が狐獣人たちを利用しないように保護しに行くためだった。


 大きな荷物を背負ったミーニャが地図を見ながら言う。

「ここから東に行けば、リスの村。そのさらに東に狐の村」

「あの林の傍にあるのがリスの村か」

 薄暗い天気の中、俺たちは東へ向かった。ラピシアにも大きな荷物を背負ってもらっていた。



 歩いて30分ほどでリスの村に着いた。

 林のすぐ北側にリスの村があった。40軒ほどの家が並んでいる。

 意外としっかりした木造の家で、二階建ても多い。

 先がクルンと丸まった太い尻尾が特徴的なリス獣人たちが村を歩いている。

 

 村へ入ると警戒された。

 変な服を着た男に、高貴な女、でかい荷物を背負った猫獣人と少女を見れば不信な目を向けて当然だろう。



 村の奥まで入ると白髪が混じったリス獣人が出てきた。栄養状態が悪いのか、痩せている。

「初めまして、旅のお方。私がこの村の村長をしておりますスクライルです。いったい我が村にどんな御用でしょう?」

 俺は懐から【勇者の証】を取り出しつつ言った。

「俺は勇者ケイカだ。狐の村へ行く途中に寄っただけだ――ミーニャ、荷物を配れ」

「わかった」

 ミーニャは尻尾をぴんっと立てて楽しそうに荷物を下ろした。


 背負い袋から出てきたのは、蕎麦の入った袋。2袋。

 スクライルが髭を動かして驚く。

「こ、これは……?」

「獣人たちの収穫は魔族に奪われたと聞く。食料の足しにしてくれ」

「おお……ありがたい。受け取らせていただきます――これ、お前たち」

 スクライルが命じると、近くにいたリス獣人が大きな家へ運び込んでいた。

 そして、続々とリス獣人たちが集まってくる。



 俺は獣人たちを見渡しながら言う。

「今日来たのは他のついでだ。だが、近いうちに獣人地区を魔族から解放する。別に何かしてもらう必要はないが、魔王軍を追い払ったら協力して欲しい」

「そんな」「まさか」「勇者でも無理だ」

 などとどよどよと否定的な意見が出た。


 俺はチラッとミーニャを見る。

 すぐに理解したのか、荷物を下ろして身軽になったミーニャが、一歩前に出た。

「私は猫のミーニャ。ケイカお兄ちゃんの力になるため、百獣王を目指す。――かかってきて」

 巫女服を揺らして、辺りを無表情に眺める。


 リス獣人たちからは馬鹿にしたような声が起こる。「はっ、あんな細腕でなにができるってんだい」「馬鹿にするのもいい加減におし」「くだらねえこと言ってっと、勇者の仲間でもぶちのめすぞ!」


 それに答えて、ミーニャはふんっと鼻で笑う。

「リスはわめくだけ? ――大丈夫。ケイカお兄ちゃんは手を出さない。全員でかかってきて丁度いいから、きて」

「「「なにぃ~!」」」

 頭に鉢巻を巻いたリスの男が大きな木槌を片手に襲い掛かってきた。



 ……で。

 3分かからず、20人ほどのリスたちが地面に転がった。

 ミーニャは顎をツンと上げ、飄々と立っている。汚れ一つついていない。

「もう終わり?」


 村長のスクライルは愕然として口を開けていた。しかし、すぐにミーニャの前に正座をして服従の姿勢を取る。

「……猫の人よ。リス族はあなたに従います」 

「ん。わかればいい。――言っておくけど、ケイカおにいちゃんは私の300倍強いから」

 ミーニャは腰に手を当てて偉そうに言った。


 

「まあ、そういうことだ。――ああ、そうそう。俺が獣人地区を開放しようとしていること、もし魔王軍の協力者がいれば、言ってくれて構わない。――あとで咎めたりもしない」

「は、はい。わかりました、勇者さま!」

 スクライルは正座の姿勢で何度も頭を下げた。


 喜ばれたのか、怖れられたのかわからないが、とにかく温かい声援に見送られてリスの村を後にした。


       ◇  ◇  ◇


 リスの村から1時間ほど東。

 林のはずれ、小川の傍に狐の村はあった。

 30軒ほどの粗末な小屋はぼろぼろで、人の気配がしない。

 寂寥のした雰囲気は猫の村に似ていた。廃村に近い。


 村へ入ると杖を付いた狐の老婆が出てきた。太かったはずの尻尾は毛がはげてぼろぼろだった。

「出て行きなされ。この村はもう終わりじゃ」

「俺は勇者ケイカ。俺の村に狐獣人マハル他18名が暮らしてる」


 老婆の目がくわっと見開かれる。

「おお……! マハルたちは生きておったのか……」

「それで、ちょっと面倒なことになってな。お前たちを迎えに来た」

 猫の村であったことや魔王軍がやってきそうな作戦を話した。



 老婆は深く頷いた。

「そうであったか……わかった、族長のマハルが従ったのじゃ、我らも従う。だが行けぬ」

「どうしてだ? ――怪我してる奴がいるのなら治すぞ」

「怪我人はいないが、病気のものが10名ほどおっての……伝染する病気じゃ」

「見せてくれ。たぶん、治せる」

「そのようなことができるのか!?」

「まあ、勇者だからな」

 ――神の力だけど。


 そして、大きな家に入った。大部屋に病人が収容されていた。

 魔法を使ってさくっと治す。

「か、体が動く……」「熱が下がった!?」「ありがとうございます、勇者さま!」

 全員に死ぬほど感謝された。

「ゆ、勇者の力とはこれほどのものなのか……っ! まるで神じゃ!」

 老婆は手を合わせて拝んできた。

 ――あんまり活躍しすぎると、未来の勇者が困るかもしれない。俺と同じ事が出来る人間の勇者なんているはずがない。

 まあ、いまさらだが。

 


 7人いた子供たちは歩けないほどお腹をすかせていたので、ミーニャが簡単な蕎麦粥を作った。蕎麦の実を出汁と醤油で煮込んだもの。

 もちろん病人にも食べさせた。


 その結果、3~9歳ぐらいの子供たち7人はみんなミーニャに懐いた。巫女服に、細い足に、しがみつく子供たち。筆のように太くフサフサな尻尾に囲まれて、ちょっと羨ましい。

 本人は無表情ながら戸惑っていた。



 一段楽したところで俺は手を叩いて注目を集める。

「じゃあ、そろそろ村へ向かうぞ」

「「「はい!」」」

 ぞろぞろと狐たち14名を引き連れて歩いていく。


 村を出ながら俺は全員に言った。

「ああ、そうそう。魔王軍に下っている奴はこのことを話してもいいからな。自分の命を第一に考えろ。俺はその程度では負けないから」

 狐たちからは狼狽が伝わってきた。

 狐の老婆にいたっては、目を見開いて動揺していた。

「そ、そのようなことを言ってもいいのか!?」

「井戸に毒を入れたり、建物に火をつけようとしても問題ない。――それも含めて、お前たちを救ってやる」

「おお……っ、勇者さま……!」

 老婆のしわくちゃの目から涙が流れた。


 ――この様子じゃ、やっぱり何か命令されてたんだろうな。

 まあ、胃袋と家族の命を押さえたら、なかなか実行できなくなる。

 そのための蕎麦だった。



 そして来た道を帰って妖精の扉へ。


 ケイカ村へ帰ると、狐の子は屋敷の庭へと駆け出した。ちょうど庭で昼食を食べていた獣人たち――親の元へ。

「おとーちゃん!」

「おお! お前病気だったはずでは!? なんという……! 勇者さま、ありがとうございます!」

 親子たちは泣きながら抱き合って再会を喜んでいた。


 マハルは嬉しそうに太い尻尾を揺らしながら、複雑な笑みを浮かべていた。

 俺と目が合うと、苦笑していた。

 ――これからが大変だ。


 マハルに声をかける。

「新しい獣人たちが何かしないか、頼むぞ」

「お任せください。しっかりと見張ります」

「あと四天王のゲアドルフの行き先や魔王軍の作戦について何か知ってるか尋ねておいてくれ」

「わかりました」

 マハルは獣人たちのところへ行った。



 俺は考え込む。

 とりあえず、目先の危機は去った、はず。

 あとは獣人地区とゲアドルフをどうするか。

 ゲアドルフが隠れている間に、このまま獣人地区を取ってしまうか?

 しかし聖剣が完成したらラピシアが狙われる可能性がある。何があるか分からないからちゃんと守ってやらないと。


 ゲアドルフにとってはもう人間や魔王軍はどうでもいいはず。

 今、部下に命令してやっていることは、ただの時間稼ぎだろう。

 きっとどこかで聖剣を作り始めているはずだ。


 ふと疑問が沸いた。

 ――クリエイトハンマーなしで聖剣は作れるのか?

 奴は作れそうな様子だった。どこで作る?



 俺はその場を離れて屋敷の裏庭へ行った。

 鍛冶工房に入った。炉の熱気が立ちこめ、カンカンと金属音が響く。

 ヘムルじいさんはクリエイトハンマーを振るって熱した金属を叩いていた。

「じいさん、世界樹の枝の加工を先に……」

「おや、勇者。世界樹の木刀ならできあがっとるぞい」

「はやっ!」

 ヘムルじいさんが指差す壁に木刀は飾るように掛けられていた。茶色い艶を放つ木刀。表面には刀のような刃紋が彫りこまれている。


【世界樹の木刀(改)】攻+50 聖油燃焼時・攻+255【属性付与】【自動再生】【HPMP吸収】

 魔法剣の特製を持ち、木刀に属性攻撃を乗せられるらしい。

 手に取ってみると、しっかりとなじんだ。いい木刀だった。



 ヘムルじいさんは目尻を下げて笑う。

「クリエイトハンマーがあれば自由自在じゃ。もう何も怖くない」

「そんなに凄いものだったのか……早く渡せばよかったな。蜂の針を武器にして売ればもっと高く売れただろうに」

 もったいないことをした。まあしょうがない。

「なに、わしは別に困りはせんからの。で、何のようじゃ?」


「ああ、聖剣をクリエイトハンマーなしで作ることは可能なのか?」

「出来なくはないと言いたいが、まあ普通は無理じゃろうて」

「銀鉄を溶かす炉はこの世界にあるのか? 魔法の火か?」


「銀鉄の加工なら人でも魔法を使わずともできよう。ただ聖剣は宝石と神竜の牙を溶かし込まなければいけないのじゃ。クリエイトハンマーなしじゃとすさまじい魔力と高温が必要となる。それができるのは星の力が噴出す魔法山ファスナラフトの噴火口だけじゃな」

「その山、どこにある!?」

「辺境大陸の最南端じゃ。極地に近いのう」

「なに!」



 俺はすぐさま辺境大陸を《千里眼》で見た。

 南のほうを見ていく。生い茂る緑のジャングル、次第に大陸の真ん中に背骨のような山脈が現れる。山脈は南へとつながり、ジャングルが消えて荒地になり、雪原に変わってますます山脈は高くなっていく。

 そして地球で言えば南極辺り。山脈の南端は大陸の南端でもあり、吹雪のなかに槍のように鋭い山が聳えていた。頂上からは青赤緑と虹のように色を変える炎が雲海を突き抜けて噴き上がっていた。

 内部は結界が張られていて見えない。


 そして山の麓に目を凝らすと、吹雪に隠れるようにして大型の魔物がいた。

 ――ここだ! 間違いない!

 魔物が減ったと思っていたが倒しすぎて数が減ったんじゃなかった、呼び寄せてやがったんだ!

 倒して殺したはずの大型魔獣はゾンビとなって徘徊している。

 他の魔物に食べられたんじゃなくてゲアドルフの奴が死霊魔術を使っていたのか!


 残っていた魔物に昆虫系が多かったのは吹雪に耐えられなかったからか。

 フローズンレイピアが良く効いていたのを思い出す。

 ――というか素材の山だな。オークションの軍資金にもなって一石二鳥だ!



「よし! ゲアドルフはその山にいる! ありがとうヘムル! 参考になった! 行ってく――」


 俺が工房を出ようとしたら、どたどたと足音を響かせてマハルとセリカが揃ってやってきた。マハルのふさふさの尻尾が揺れ、セリカの金髪が乱れていた。


「「大変です!」」

「一緒に喋るな。まずはマハルから」

 マハルのほうが顔色を変えていたので。


「はい! ケイカ村に対してケイ作戦が実施されるとのこと! 夜間に上空および超遠距離から投石、火矢、魔法で攻撃するとのことです!」

「本当か!? よくわかったな」

「ええ、狐も猫も作戦名しか知らなかったのですが、ただ一人、牛獣人のスジャータだけが知っていました!」


「なるほど、総督の女をやっていたからな。信憑性は高いな」

 俺は思わず舌打ちした。

 ――ゲアドルフめ。今すぐにでも倒しに行きたいのに、面倒くさいことしやがって。



「ゲアドルフを倒したいが……今から対策取らないと甚大な被害が出るな」

 するとセリカが一歩前に出る。

「ケイカさま、先ほど使者からの連絡があって、もうすぐエトワールさまが赴任して来られるそうです」

「そうか! 騎士を少しは連れてくるはず。防衛力の補強になる。わかった。セリカ、歓迎の用意頼む」

「はい、わかりましたケイカさま」

 セリカは真剣な表情で頷くと出て行った。


「マハルは獣人たちと話して、魔王軍の戦力から考えてどういった攻撃が来るか予想しておいてくれ」

「わかりました! すぐに!」

 マハルは2本の尻尾をぶんぶん振って出て行った。かなり興奮しているらしい。



 静かになる鍛冶工房。

 後ろにいたヘムルじいさんがぽつりと言った。

「今日は月は出よらんかったはずじゃ。真っ暗闇の中でどうするつもりじゃ?」

「防空壕でも掘って備えるしかないだろう」


 俺の答えにヘムルじいさんは頭を振った。少ない髪の毛がはらりと垂れる。

「いや、そうではなくて。魔物や魔族の多くは夜目が効くといっても超遠距離じゃろ? さすがに距離感が掴めず届かんはずじゃ」

「昼のうちに弾道の角度計算を? いやそれだと風による着弾ミスからの誤差修正ができない――ということは、何かのマーカーを設置した、いや、違う――そうか!」


 急な作戦発動に思えた。

 違う。

 村の中に着弾ポイントになるマーカーがようやく入ったから、作戦が開始されたんだ!


 物なら村人が不審に思う。だいぶ交流が増えたとは言え、元は排他的な村だったんだ。

 ということは、最近やって来た猫5人、狐14人、の誰かがマーカーの可能性が高い。



「となると、こちらの打つ手がかなり増えるな」

 防戦一方になるかと思ったが、いろいろ手は考えられた。


 さて、どうなるか。

 着任早々大変なことになったエトワールがどんな反応をするか楽しみだった。

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