第132話 村の警備体制
第130話でゲアドルフの話題が出ないのがおかしいので、隠れたゲアドルフが見つからない、獣人地区を攻めれば手がかりが見つかるかも、とケイカが判断する一行を付け加えました。それ以外の変更はありません。
翌日のケイカ村。
気配を感じて目を覚ますと、妖精の扉を通ってハーヤが出てきたところだった。
ハーヤが自分より大きな樽を抱えている。金属製だった。
「ケイカさん、おはようございます。頼まれた品ができましたー」
「おお、早いな」
ハーヤは床の上に樽をドスンと置いた。
「この樽が毒の成分を分解します。いちおう3個作りました」
「井戸3つと池2つ、用水路1つに外堀1つで計7個欲しかったが。引き続き製作頼む」
「はーい。機能が複雑なので3つが限界でした。残りは今日中に」
「頼む。で、使い方は?」
「水の中に入れれば自動的にろ過を始めます」
「簡単だな。使いやすいのはいいことだ」
ハーヤは樽の側面を見せた。スリットがたくさん入っている。
「あとここのスリットに短剣などを差し込むと、中から血まみれのおじさんが出ます」
「何その無駄機能! しかも黒髭じゃないのかよ!」
「盗難防止、みたいな? 血まみれのおじさんの質感を再現するのが難しいです」
「そんな意味のない機能つけてるから遅れるんだよ! 血まみれのおじさんがなければどれくらいかかる?」
「残り4つで……12分あればできます」
「1個3分でできるって解毒機能はほぼ完成してるじゃないか」
「やはり盗難防止機能が……人間さんは悪い人もいるので」
少し悲しそうに眉を寄せるハーヤ。
奴隷働き時代を思い出したのかも知れない。
俺も少ししんみりして話に乗った。
「そうだな。じゃあこの村から一定以上離れると屋敷に転送されるようにしたらどうだ?」
「なるほど。お化け屋敷に転送するのですね?」
「なぜ、お化け屋敷……この屋敷でいいだろ――ってそうか、悪い人も一緒に転送される可能性があるからか。誰もいないときに泥棒が転送されてきたら危ないな」
「ですです。結構、面倒なのです。電撃や爆発は誤作動すると危ない、とケイカさんにすでに却下されましたし」
「子供たちがいるからな」
マーリンたちだけじゃなく村の子供が見つけて遊ぶ場合も考えられる。それで爆発したら悲惨すぎる。ただでさえ子供たちは好奇心旺盛なのだから。
「――やっぱり血まみれのおじさんを。どろどろに溶かしたおじさんなら20分でできます」
「おじさんにこだわるな――まあいい、あとは俺が結界や呪印でなんとかしとく。残り作ってくれ」
「はーい」
ハーヤは妖精の扉を使って戻っていった。
次々と運ばれてくる樽に呪紋や呪印を刻んだ。
人が樽を動かしたら俺が分かるようにし、所在地を知らせるようにした。盗まれることは前提で奪い返そうと思う。
というか元から流通や技術流出はさせないつもりだった。さすがにハーヤの道具はオーバーテクノロジー過ぎて、人の手に渡ると悪影響の方が大きい。
その後は井戸やため池に設置した。
これで水は安心。水は人の生命線なので最優先だった。
ちなみに、今のやり取りで俺は「おじさんにこだわるな」と、おじさんを拒否したつもりだったが、ハーヤは「こだわるなあ……まあいい」と感想&許可がもらえたと受け取ってしまい、残りの樽には溶けたおじさんが実装された。
知らなかったので村人たちには注意するよう伝えていなかった。
すると後日、子供たちが樽を棒でつついて遊んだときにスイッチが入ってしまい、どろどろに溶けたおじさんが出てきて、子供たちは発狂したかと思うぐらいの悲鳴を上げた。駆けつけた大人も悲鳴を上げて逃げまどった。
結果、村のみんなのトラウマになったが、ちょっかいかけると樽に取り込まれるという噂が立ち、盗難や破損は一度も起こらなくなった。
意外とハーヤが正しかったのかもしれないと思わされた。
◇ ◇ ◇
浄化装置を設置したあとは村人を集めて話し合いをした。
村の防衛について。
魔物は結界のため村に入れないが、人や獣人は入れる。
サイクロプスはアホだったので猫獣人を脅して使おうとして失敗したが、金でなんでもする奴を雇えばどんな悪事だってできる。
毒だけでなく、誘拐や放火にも注意が必要だった。
大きな建物が増えたので火事は特に危ない。
そのため獣人を含めた村人たちと危機意識について共有することが重要だった。
朝日の降る中、屋敷の庭に獣人たちを集めた。
獣人は60人、人間が50ほど並んで座っている。
俺、セリカ、ミーニャ、獣人をまとめてもらってる狐獣人のマハルが前に立っていた。
「今日集まってもらったのは、村の危機管理について知っておいてもらうためだ」
「何かあったようですね。聞かせていただきましょう」
マハルの言葉に、俺は先を続けた。
「魔王軍が井戸や用水路に毒を入れようとしている」
「「「えええっ」」」
居並ぶ人や獣人から驚きの声が上がる。
「すでに対策をした。しかし、今後も様々な人や獣人を使った攻撃があると思われるので、村内見回り役と門番の強化をしたい。あとは火消し役だな」
「火消しなら私ができそうです」
外堀に通じる水路から人魚のクリスティアが手を挙げていた。
「できるか?」
「はい、外堀の水を消化に使えます、このように」
呪文を唱えたと思ったら、クリスティアの手から水鉄砲がびゅーっと飛んでいく。敷地にある背の高い木にばしゃばしゃとかかる。
見ている村人から、おおっと驚きの声が上がる。
「おー、水量も勢いも充分だな。どれぐらい遠く長く水をかけられる?」
「これは水を生み出すのではなく、今ある水を飛ばしているだけなので、外堀の水やため池の水がなくなるまでは続けられます。距離は角度次第で1キロ先まで」
「数件の火事ならそれでどうにかなりそうだな。じゃあ、クリスティアは養殖事業と消火隊をかねてくれ」
「は、はい。頑張ります!」
俺は座る村人達を見回した。
「もちろん村の消火隊と連携して欲しいが……消火隊長はいるか? 建物が増えたから今の人数じゃ足りないだろう」
体格のいい若い男が立ち上がった。
「た、隊長は俺っす! 確かに大きい建物の延焼阻止と救助を考えたら人が足りないっす」
ガチガチに緊張しながら答えた。チラチラとクリスティアを見て顔が赤くなっている。
まあ、神秘的なほど美しいものな。
「じゃあ、ここで募っておくか。日ごろの練習が大変だからやりたいものだけ挙手で」
「おおお俺やります!」「俺もしたいです!」「クリスティアさんとお近づきに!」「おいてめえ、今まで一度も消火活動参加したことないだろ」「うるせー、じいいは黙ってろ!」「俺はフィオリアさん派だ!」
うわぁ~、と一気に騒がしくなった。
過去最高の消火隊員数が揃うことになった。もちろんちゃんと厳選してのこと。
「よろしくお願いしやっす、クリスティアさん!」「今晩、お茶でも!」「俺が力になります!」「付き合ってください!」「困ったことあったら言ってください!」
新隊員たちがクリスティアのいる水路へうるさく詰め寄る。
クリスティアはと見れば。
「あ、あの。私、子供のいる身なんですけど……今が一番困ってます」
と、美しい顔を歪めて戸惑っていた。
「あとは村の見回り警備と門番だが……しばらくは持ち回りで頼む。おそらくエトワールが護衛騎士団を連れてくるはずだから、警備や門番の指導を頼もう。では、みんなは解さん――ん?」
ミーニャが手を挙げて俺を遮った。
眠たげに目を擦りながら前に出る。猫のように手の甲で顔を擦っていた。
祖母のナランディと夜遅くまで語り合っていたのは知っていた。
そのせいか、疲れは見えるが目の輝きには充実した光が宿っていた。
ミーニャは凛と澄んだ声を響かせる。
「私はミーニャ。昨日おばあちゃんとたくさん話した。いっぱい教えてもらった。だから獣人のみんなに知って欲しい。私はケイカお兄ちゃんを支えるため『百獣王』を目指す。異議がある人は受けてたつ――以上」
どよどよ、と獣人たちがざわめいた。
しかしミーニャは黒い瞳で睥睨すると、しーんと声は収まった。
正座をして手を足首の下に入れている。よくわからないがミーニャの言葉を受け入れたようだった。
俺はミーニャに尋ねた。
「用事はもういいか?」
「ん、終わった」
「そうか。では皆のものは仕事に戻ってくれ。解散! ――マハルは残ってくれ」
そろそろと村人と獣人は仕事へと戻っていった。
マハルが傍に来る。
「どうされました、ケイカさま」
「猫の村に行ったらな、村に残っていた猫に悪事を働かせようと魔物が来ていたんだ。狐の村は大丈夫かと思ってな」
「……なるほど、そのようなことが……狐の村も行った方がよろしいでしょうね。猫と狐は村に馴染んでますから村人達にあまり警戒されない。他の獣人が襲ってくるよりも厄介でしょう」
「そうだな。今日中に連れてこよう。――すでに篭絡されていたら、見張り頼むぞ」
「わかりましたケイカさま。……ですが今後、人の出入りが多くなると大変ですね」
「その点は少し考えてある。テーマパーク方式だな」
「てーまぱーく? なんでしょうそれは」
「まあ、そのうちにな」
「では、またあとで」
マハルが去る。
跡には俺とセリカとミーニャが残された。
ミーニャは目を閉じてゆらゆら揺れている。眠そうだ。
「ミーニャ、無理しなくていいからな。……百獣王ってなんだ?」
「獣人全種族を倒して従えたらなれる。称号? とても強い」
「そういう称号か。今以上に強くなるのか。ミーニャなら簡単になれそうだな。頑張ってくれ」
「うん」
「あと眠いならしばらく寝てていいぞ」
「わかった」
ふらふらと屋敷に戻っていった。
セリカが傍へ来る。
「ケイカさま。先ほど出た話ですが……今後、人や獣人の流入が増えると問題が増えそうな気がしますが、その『てーまぱーく』方式で解決できるのでしょうか?」
「あー、そうだな。別に俺は問題をすべて解決するつもりはないからな」
「え!?」
セリカの目が丸くなる。
「人や獣人の悪意までを完全に防げるとは思っていない。重要なのは、何が起きても他よりは安全だと人々に勘違いさせること。それができたら勝ちだ」
「そんなことができるのでしょうか……」
俺はニヤリと笑ってセリカを見た。
「つまり、こういうことだ。『勇者がいたせいで魔物に襲われて村が半分燃やされてしまった!』と『勇者がいてくれたおかげで魔物に襲われても村が半分焼けずにすんだ!』では同じ被害でも大違い。ようは村人の考え方を手玉に取るんだ」
セリカは眉をひそめてドン引きしていた。
「な、なるほど……ケイカさま、黒いです……」
「ふふん、魔王相手にしてるのだから俺は手段を選ぶつもりはない。まあ、あとはハーヤの魔道具とエトワール次第だな」
あっとセリカが声を上げる。
「そろそろエトワール様がこられる頃ですね。今日か明日です」
「あさってからオークションが始まるから、今日来て欲しいところだな――ん?」
屋敷からエルフのリィが走り出てきた。簡易な麻の服がひらひらとなびく。
「ケイカさん、あの子が起きたよ!」
リィにはシャム猫獣人チシャの見張りを頼んでいた。
「わかった。見張りありがとうな」
「いえいえ~、どういたしましてっ」
健気に微笑む。何気に可愛かったが、どこか疲れているようにも見えた。
フィオリアに見張りを変わってもらうかと考えつつ、シャム猫のところへ向かった。




