第128話 温泉の手触り!
ケイカ村の温泉設備が完成したので、俺は屋敷に帰った。足取りが軽い。
廊下で出会ったセリカが不思議そうに尋ねてきた。
「どうされました、ケイカさま? とても楽しそうですが」
「セリカ、喜べ。温泉に入れるようになったぞ」
「まあ、本当ですか!? ドラゴンさまのところで入ったお風呂ですよね」
「そうだ。かなり効果の高い温泉だ。一緒に入るか?」
「え!? そ、そんな……あっ!」
セリカがはっと息を飲む。
「どうした?」
「わ、わかりました。一緒に入らせてもらいます」
顔を真っ赤にして答えるセリカ。
――あれ、冗談だったのに。
「まあまあ無理しなくていいからな」
俺はタオルなどを用意をして風呂に向かった。
食堂から渡り廊下で裏庭の風呂へと行く。
脱衣所で和服を手早く抜いて、中へ入る。
浴室は湯気で白く霞んでいた。
湯船の隅にミニチュアのドラゴン石像があり、牙の並ぶ口から、どぉぉっ! と白い湯気と激しい流れを迸らせていた。
「おーすごい湯気だ……少し薬品臭い……しかもこれ、60度ぐらいありそうだな。気をつけないと」
俺とラピシアは大丈夫でも、他の人たちが茹でダコになったら洒落にならない。
温度調節をしてからお湯の流入を減らした。ハーヤ製の魔道具なので、かなり便利に作られている。ドラゴンの右目を押せばちょろちょろと出る。左目を押せば止まる。
両目を目潰しするように押すと、最初のように大量に出る。手間がかかるのは誤作動による火傷防止のためであり、よく考えられていると思うが、毎回目潰しされるドラゴンが可哀想でもある。
体に湯をかけ、体を洗う。
少しぬるぬるしたお湯。温泉独特の香りがする。
石鹸が泡立たない。
おお、思ったとおり成分の高い、良質な温泉だ。
洗い終わって石鹸を流すと湯船に入った。
6人ぐらい入れる広い浴槽。
温泉は少し濁っている。
湯船へ寝そべると、肌よりも体の芯から温まった。
じわじわと体がほぐれていくような安らぎを感じる。
――と。
脱衣所で衣擦れの音がした。
本当にセリカがやってきたらしい。
嫌がられるかと思ったのに、意外と大胆だ。
扉が開いて、大きなタオルを巻いて体を隠したセリカが入ってきた。
湯気の向こうに見え隠れする白い肌。金色の髪。
「来ました、ケイカさま……この香り、本当に温泉なんですね」
「病院や旅館でも提供するつもりだが、入るのは俺たちが一番だ」
「ありがとうございます、ケイカさま」
セリカは背を向けて洗い場に座った。
背中まである金髪を洗う。濡れた髪が美しく光る。
張りのある肌が水を弾いていた。
「あ、あまり見ないでくださいませ」
「ああ、すまん。あまりに綺麗だったから」
「もうっ、ケイカさまったら……」
頬を染めてうつむくセリカ。
俺は背中を向けた。
壁は木の板。何の装飾もない。
富士山でも書けばよかったな。
そんな事を考えていると、後ろでタオルを取る音がした。
ざあっと水が流され、体を洗う音がする。
華奢だけど胸だけは大きなセリカが、全裸で体を洗っている。
水に濡れた肢体はどれだけ美しいだろうか。
千里眼を使おうかと思ったが、やめにした。
洗い終わって、湯船へと足音が近付いて来る。
「……では、入らせていただきます」
ちゃぷっと水に浸かる音。
もういいだろうと思い、振り返った。
肩まで沈めている。頬を染めて微笑むセリカ。恥ずかしいのか、温泉の湯に当てられて上気したのか。
華奢な首や細い腕が、いつもより綺麗に見える。
温泉で洗われた金髪は、輝くように光っていた。
「どうだ、温泉は?」
「はい、とても気持ちがいいです。肌がすべすべになっていますわ」
「いつも以上にか? ――どれ」
俺は湯船の中を移動してセリカの手を掴んだ。
グイッと引き寄せる。
「きゃっ」
すぐ隣までセリカが来た。勢い余って俺へ倒れ込むような形になる。
肌と肌が触れ合った。確かになめらか。絹よりもすべすべした肌になっていた。
大きな胸が圧し掛かるように潰れる。押し付けられる柔らかさ。
――が。
「こ、これは、水着!」
セリカはドルアースで買った、ビキニタイプのセーラー水着を着ていた。
紺の襟とスカート、赤いネクタイが湯の中で揺れている。白いビキニが大きな胸を隠している。ビキニタイプなのでお腹や背中は大きく開いていた。
「はい。ケイカさまが買うように言われた水着です。このためだったのですね」
「えっ!? ――ああ、まあな」
温泉では裸のお付合いが普通だろうと思ったが、言葉を飲み込む。
セリカが俺へもたれながら、感心した声で言う。
「この季節に水着を買われるなんて、いったいどういうお考えだろうと思っておりましたが、まさか一緒に入るためだったとは。さすがです、ケイカさま。この水着可愛いですし、一緒に入れるのは嬉しいです」
「そうだな。俺も楽しい」
「大切にしますね」
隣に並ぶと大胆に俺の腕を抱き締めてきた。大きな胸に挟み込まれる。いつもなら重く柔らかい感触が水の中ではふわふわと軽い。
少し腕を動かして、きめの細かい肌と密着させるとセリカがビクッと肢体を震わせた。
「うぅ……あ、あまり動かさないでくださいませ」
「どうした? ――しかし、ここまで綺麗になるのか。すごい温泉掘り当てたな」
確かめるために、空いた手を彼女の細い足や腰にすべらせた。やはり、どこもかしこもすべすべだった。
「やぁ……くすぐったいです、ケイカさま……」
青い瞳を潤ませて逃げるように体をひねる。でも俺の腕は離さず、より強くぎゅっと抱き締めてきた。
「肌が敏感になるのか」
「そうかもしれません。――こんな感じに」
セリカが俺の体に細い指を這わせた。
「おおっ」
指先の動きが良く分かる。いつもより肌が紙一枚分薄くなったかのように、感覚が鋭くなっている。
声を上げた俺を見て、ふふっとセリカが笑った。並びの良い白い歯が光る。なんだか、やり返してやった、みたいな印象を受けた。
「やったな、こいつ」
俺は細い腰に腕を回してから思いっきり触った。背中や太もも、脇に首筋。胸も触ってみる。柔らかいのにすべすべ。ピンク色に上気した白い肌。
「だめ、だめです、ケイカさまぁ……っ」
喘ぐような悲鳴を上げてセリカがか弱く暴れた。が、逃げようとはせず、俺にしなだれかかるような形で肩に頬を乗せてくる。金髪からは湯の香りがした。ギュッと目をつむっている。指の動きに合わせて、はぅぅ、と震えるような声を出す。
――と。
バタンッと扉を豪快に開けて、白い塊が飛び込んできた。セリカが慌てて離れる。
「おんせん! ――ひゃ!」
ラピシアだった。全裸を惜しげもなく晒している。
入ってきたとたん、俺の姿を見て立ち止まった。飛び込んだままの大股開きの姿。
どうやら、俺がいるとは思わなかったらしい。脱衣所に服があっただろうに。
するとラピシアは、細い手で体を隠しつつ、そのまま湯船に走ってきた。
村の子供と遊んできたのか、泥だらけの髪のまま、湯船に飛び込んでこようとする。
慌てて立ち上がって、入ろうとするラピシアを押し留めた。
華奢な肢体にもかかわらず、大地母神のフルパワーに負けそうになる。足を踏ん張って押し返した。
「まずは洗え!」
「やっ! 恥ずかしい!」
ラピシアが顔を真っ赤にして俺を見上げる。金色の目に涙が浮かんでいた。細い手がおざなりに体を隠している。
どうやら裸を見られるのが恥ずかしいので、湯船に入って隠れようとしたらしい。
「だめですわ、ラピシアちゃん」
セリカが水音を立てて湯船から上がると、自分のしていたタオルを拾った。俺と揉みあうラピシアに掛ける。
「う……ありがと」
ラピシアの華奢な体から力が抜けた。でも顔は真っ赤だ。
セリカはラピシアを連れて洗い場へ行った。
座らせようとするが、ラピシアは首を傾げていた。
「水着?」
「ええ、ケイカさまと一緒に入れますので」
「じゃあ、ラピシアも着てくる!」
タオルを巻いたままの姿で出て行こうとする。
俺は冷静に呼び止めた。
「ラピシアの水着は魔法が掛かってないからだめだぞ」
「そうなの?」
「温泉は生地が色落ちするんだ。成分によっては変な色になるかもな」
「へぇ~。わかった。やめる」
ラピシアは素直に洗い場に座った。ツインテールの青髪が元気良く垂れた。
セリカがラピシアの髪を洗った。
ラピシアは気持ちが良いのか、きゃあきゃあ喜んでいた。
次第に裸に慣れたのか、その後は3人で湯船に入って肩まで浸かった。ラピシアがセーラー水着の襟やネクタイをいじりながら言う。
「ラピシアもこれほしい」
「俺がいないとき入ればいいじゃないか」
「セリカとだけ、ずるい! 一緒に入る!」
「ああ、わかったわかった」
ラピシアがここまで恥ずかしがるようになるなんて思わなかった。成長しているようだった。精神的に。
このぶんだとミーニャも欲しがるかもしれないと思ったが、なんとなく彼女は全裸でも気にしないような気がした。
こうして初温泉はにぎやかに終わった。
肌がすべすべになって気持ちよかった。




