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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第六章 勇者冒険編・北(仮)

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第127話 ダンジョン仕上げとケイカ村仕上げ

 俺はグリーン山に住むドラゴンの元へ向かった。

 ダンジョンの仕上げをするため。


 移動途中の妖精界地下室でクラゲ少女のルーナに会った。白と紺のセーラー水着を着ている。赤い髪と触手が水着の背中まで垂れていて良く似合っていた。

「朝早くから頑張ってるな。決闘バトルのほうは順調か?」

「当然なのよさ! もうすぐあたいが一番になるのよさ!」

「それはよかったな。――あ、倒した相手はどうしてる?」

「倒した相手? 倒したらそのまま捨ててるけど」

「おお! だったら解体して素材集めをして欲しい。金が必要になってな」

「それぐらいなら別にいいけど」

「ありがとう、ルーナ。とても助かる」


 礼を言いながら、クラゲ頭を優しく撫でた。ゼリーのように柔らかく、でも弾力があった。

 ルーナの頬が赤くなる。頭の触手が鞭のように乱れ動く。【触手乱舞】を使うんじゃない。

「べ、別にゆーしゃのためにお金稼いでやるんじゃないんだからっ! 水着や指輪の代金と、おかーさんや弟妹のためにやるんだからね! 勘違いしないで欲しいのよさっ!」

 なぜか顔を真っ赤にしてそう怒鳴られた。

 お金は1ゴールドでも多く欲しいので、よかったことにしておく。


       ◇  ◇  ◇


 翌々日。

 ドラゴンの洞窟で、俺はテーブルに座ってドラゴンと侯爵と話し合っていた。

 それぞれの目の前には半透明のスクリーンがある。ダンジョン管理画面が表示されていた。


 侯爵が顎を撫でながら頷く。

「ふむ。これで各迷宮の魔物やトラップの配置は問題なくなったな」

「当然だ。我にぬかりはない」

 ドラゴンが長い首を反らして偉そうに言った。


 俺は画面を指差しつつ言う。

「この使っていない機械神をどこかに出したいな」

「出すとするなら天国か」 

「キングラットに汚いものを捧げたら機械神が登場、それを倒せば次の階層にって感じか」



 侯爵がにやりと笑った。

「だったら『ふはは、よくぞ来たな、迷いし者どもよ! さらなる楽園の果てにたどり着きたければ、我に真の強さを見せ付けるが良い! さあ、かかってこい虫けらどもよ! くははははっ』と言わせればよいな」

「あー、すまん。機械神は言語プログラムが難しくてな。30字しか喋られん」

「少なすぎるぞっ!」

 侯爵が舌打ちをしてから冷めた茶を飲んだ。


 俺は指を折りながら考えた。

「じゃあ、機械っぽく。『ワレハカミノダイリ ウエニイキタケレバ ソノチカラヲシメスガヨイ』と言わせてバトル開始か」

「うむ。それで30字以内か。別言語は幻影表示させればなんとかできそうだな」

「よし、決定だな。もうあとはいいだろう」

 ドラゴンが大きな爪を使って器用に画面を操作する。

 すぐに設定されて、ダンジョンが完成した。



 俺は手を上に挙げて伸びをした。

「やれやれ。これで完成か。侵入者の心の記録方法や宝の配置で手間取ったな」

「まったくだ。生かさず殺さずのバランスが難しい」

 侯爵は肩が凝ったのか、首をこきこきと鳴らしていた。


 ドラゴンが画面を見ながら頷いた。

「しかし格段によくなった。礼を言う」

「気にするな。俺だって優勝しないといけないからな」

「なに、我輩の別荘でもある。地獄を増やすことに反対はない」

「では明日まで解散しよう。各自休んでくれ」

 ドラゴンは、大きな口を開けて、くぁぁ、とあくびをした。


 俺も疲れていた。

 たぶん、この管理画面は使用者の魔力で表示している。

 普通の人間だったら、魔力が切れてぶっ倒れているのは間違いない。

 徹夜でも疲労しただけというのは、さすがドラゴンと真祖ヴァンパイアと言えた。 



 俺は首を傾げた。

「にしても、コンクール会場に行ったりしないのか?」

「すべてライブ中継でおこなわれる。なんせあらゆる異世界から100以上のダンジョンが参加するのでな」

「なるほど。そりゃ確かに全員集まるのは大変だ」

「もう昼か。我輩は少し眠るとしよう」

 侯爵が立ち上がった。マントが力なく揺れる。


 そのくたびれた親父みたいな背中に話しかける。

「そうだ、侯爵。取引があるんだが」

「なんだ?」

「ケイカ村に病院ができた。そこで血を抜く道具と保存道具、あと技術者を貸して欲しい。もちろん分析後の血は提供する」


「ほほう。勇者が己の欲望のために人間を家畜にするのか……くくくっ、裏側から腐っていく果実を見るのは楽しいぞ」

 侯爵は悪い笑みを浮かべて振り返った。

 ――村人の健康診断をしたいだけなんだけどな。

 もちろん本音は言わないでおく。


「ああ、頼む」

「わかったあとでここに部下をよこそう」

 よし、これで健康診断の技術者ゲットだ!

 病気の早期発見につながり、ますます勇者ケイカの名は高まる。


       ◇  ◇  ◇


 昼過ぎのケイカ村。

 侯爵の部下の若い女と獣人の男を連れて戻り、病院長のファルに紹介をした。

 診察室で小袋を作っている。

「この方々が病気の検査をされる技師さんですか?」

「そうだ。血を抜いていろいろ分析する。誤解のないようにな」

「はい、わかりました。技師さん、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願いします」「侯爵さまのためにも、頑張ります!」

 侯爵の部下は仕事熱心だった。


 侯爵は食事――人間の血をほとんど摂取していないと思われた。だからステータスが低い。

 なぜなら一年に一度200ミリリットルを取ったところで、人間の体の血液量は4.5リットルだから、4000人いても177人分の血液量にしかならない。

 ヴァンパイアの部下は他にもいるので、どうしても一人辺りの血液量は減る。

 そのため侯爵はほとんど血を飲んでいなかった。


 だから、この健康診断の技術協力にも熱が入ったようだった。

 部下達の侯爵への忠誠があればあるほど、病気の早期発見につながるはず。

 WINWINの関係とはまさにこのこと。

 


 挨拶を済ませて、あとはファルに任せた。

 村を歩いて学校へ行く。

 二階建ての木造。L字型をしており、広い校庭があった。二階建ての寄宿舎も併設している。


 校長室には、元村長の老人がいた。すっかり頭が白くなっている。

「これはケイカさま。お久しぶりです」 

「村長辞めて校長になったそうだな」

「はい、こちらのほうが性に合ってますので」

「あんなに書物を持ってたものな」

「全部、この学校へ寄付させていただきました」


 そう。

 本は高い。それなのにこの村長は自宅に書斎を持っていた。

 村長の家は代々本を集めてきたという。

 もちろん村のためでもあるが、知識格差によって子孫を常に村の指導者にするためだった。なかなかずる賢い、よく言えば賢明な考え方である。

 しかし王国直轄領になってエトワールが来ることで指導者の立場は失われ、今後学校ができることで知識の優位性も薄れる。


 そこで校長になったのだった。知識の伝達側に回れば、まだ尊敬を集め続けられるだろう。



「学校の準備はどうだ?」

「紙やペンは揃いましたので授業は始められますが。生徒が増えると教師が足りないかと」

「低学年には読み書き計算、高学年にはより高度な授業、だな」

「あと寄宿舎はできましたが、食事の手配がまだ……」

「貧しい家も多いはず。一日2食は出したいところだ。しばらくはクラリッサに頑張ってもらうか」

「今はまだそうするしかないでしょう」

 賢い子、才能のある子は特待生として無料にするつもりだった。

 その代わり、大人になって稼ぎ始めたら寄付をいただく。


「では教師になれそうなものがいるか探しておいてくれ。俺も探す。生徒の勧誘もな」

「はい、わかりましたケイカさま」

 校長は頭を下げた。真っ白い髪の中、頭頂部が少し禿げていた。



 俺は学校を後にした。

 村の舗装路を歩きながら考える。

 ――やはり、高学年や高等学問のためにあの条件奴隷の婆さんも落札すべきか。

 お金はいくら合っても足りないな。

「それに、ドライド商会の売上と賽銭の収入だけでは心もとない。もう少し定期的に金が入る仕組みを作らないと――もう、今日やってしまうか。疲れも取りたいし」


 俺は少し楽しくなりながら、屋敷へと戻った。


       ◇  ◇  ◇


 ハーヤ製ポンプとパイプを奴隷や獣人たちに運ばせつつ、村の南東へと向かった。

 俺の屋敷のまっすぐ南側。

 ラピシアも連れていく。



 塀の内側ぎりぎりの場所。草がまばらに生えている。

「ラピシア、ここにまず5メートル四方の深い池を掘ってくれ。岸壁はがちがちに硬くしてな」

「わかった! ――こんな感じ?」

 ラピシアは足でどんっと地面を踏んだ。

 それだけで地面がボコッと下がる。注文どおりの四角い穴。

 もう手を触れなくてもできるようになったらしい。


 一緒に来ていた奴隷や獣人が「おおっ……」とか「すごい……」と言葉を失っていた。

 俺は穴の底に下りた。続いてラピシアもパンツが見えるのも構わず飛び降りてきた。

 穴の底でキャッチする。

 

「うん、ちょうどいい穴だな」

「これ、どうするの?」

「次は――えーと……ここだ、このまっすぐ下に穴を掘ってくれ。あのパイプが通るぐらいでいい」

「手のひらぐらいの穴? 深さは?」

「700メートル」

「え!? そんなに!? ……むー」

 ラピシアがしゃがんみこんで手を付いた。穴の底をさすりながら歩き回る。


「……ずっと下に土や岩じゃないのがある」

「そう。そこが温泉だ。しかも火山性の温泉だ。村の北から来て、南へと流れて行ってる」

「わかった! 温泉、びゅーっと出てきて、この穴はそれを溜めるところ!」

「惜しいけど違う」

「そうなの?」

「この穴は利用した後の温泉を溜める貯水池だ! そして、利用後の温泉を地中に送り返す!」


 俺の温泉大作戦。

 名付けて「川や用水路に捨てるのがダメなら、地中に戻しちゃえばいいじゃない!」作戦。


 ラピシアが不思議そうに首を傾げる。

「ほー。うまくいく?」

「ま、普通に考えたらポンプが壊れるかパイプが破裂するかなんだが、水流を操る専門職がいるからな。たぶん、いける!」

 その専門職とはビホルダーゲルである。天地創造の力を使って温泉の排水をやってもらう。

 ……大砲で蚊を撃つようなものだが、海流や大河の操作など大掛かりな物はその分、料金が高くなるのでこの程度しかできない。(海流操作になると月の給料がカルメラ焼き1トンか、異界の物質ネムラリンのインゴット1本になるそうだ)



 というわけでラピシアにパイプの通る穴を掘ってもらい、俺の力で抑止弁を強化したパイプを突っ込んで完成。


 あとは、村の北側に1メートル四方の穴を掘り、温泉取得用のパイプを埋めてポンプを設置する。

 ポンプからは俺の屋敷と旅館、病院へ通じるパイプが3本延びている。もう一本、公衆浴場まで設置予定。村人は無料で入浴してもらうつもりだが、建物が建築途中なので後回し。


「位置関係はこんなもんか。ではポンプを下げて――そうそう。繋ぐパイプが地中に埋まるように。それから排水パイプも地中に埋めて――よさそうだな。完成だ。偉いぞ」

 ツインテールの頭を撫でてやるとラピシアは目を細めて喜ぶ。

「わーい。……これでどうなる?」

「毎日温泉に入れる」

「わーい!」

 意味が分かってるのかいまいちよく分からないが、喜んでもらえたようで何より。



「さあ、帰って入るぞー。奴隷や獣人諸君も入りたければ、村の南通りに面した公衆浴場の建設を急ぐんだ!」

「「「うおぉぉぉ! 入りたい!!」」」

 みんな南へと向かっていった。


 ちなみにケイカ村は上から見ると田の字になっている。

 中央付近に前は村長屋敷だった代官屋敷があり、そこから東西南北に舗装路がある。東通りのはずれが俺の屋敷。



「おっと、排水設備も稼動させないとな」

「まだ、やる?」

 ラピシアが小首を傾げた。

「いや、ラピシアはもういい。設備は完成したから。ありがとうな」

「温泉、入る?」

「もう少しやることがある。それが終わったら入れるぞ。今は遊んできていいし、好きな物食べていい」

「わーい! 温泉! 遊んでくる!」

 くるくると踊るように3回転すると、そのままどこかへ走り去った。

 子供は無駄に元気だと思う。



 それから村の西にあるため池へ行った。

 不恰好な楕円形をしている池。

 人魚のクリスティアと頭にクラゲを被った子供マーリンとプルラがいた。

 水の中を泳ぎながら、魚にエサをやったりしている。

 ――これはこれで絵になるな。水族館のエサやりシーンのように、一つの観光名所になるかもしれない。


 そんな事を考えていると、俺に気付いたマーリンとプルラが上がってきた。

 頭のクラゲをプルプル震わせながら笑顔になる。

「ゆーしゃ、こんにちは」「んちゃー」

「こんにちは、元気そうだな。ビホルダーゲルはいるか? 呼んできてほしい」

「アイちゃん、いるよー」「るぉー!」

 ざぶっと水の中へ潜って池の底へと潜っていく。さすがイカと人魚のハーフだけあって泳ぐのが速い。


「アイちゃんて。目玉だからか」

 なんて単純な、と思ったが悪くないネーミングに思えた。



 池の底の砂が舞い上がり、直径2メートルはある巨大な目玉が浮かび上がる。

 巨大なアメーバ。核の部分が目玉になっている。

 砂に隠れていた透明な体を波立たせて水面へと上がってきた。やっぱりちょっと気持ち悪い。


 巨大な目でじーっと見つめてくる。

「魚食べてないだろうな」

 目玉がコクッと上下に動く。

「それならいい。さて、前に話した仕事をして欲しい。温泉の排水を地下に戻す仕事だ。できるな?」

 また目玉がこくっと動く。


「じゃあ、ついてきてくれ」

 のそのそとアメーバの体が陸へ上がってくる。

 村人が見たらショックだろうな。



 マーリンとプルラも上がってきた。

「アイちゃん、どこいくのー?」「のー?」

「アイちゃんはこれから仕事だ」

「すごーい。大人だったんだ」「んだー」

「マーリンたちだって働いてるじゃないか」

「ボクはおかーさんの手伝いだもん」「もん!」


「どこで働くか、見てみるか?」

「「うん!」」

 ということで二人を連れてアイとともに村の南東へ。

 何人かの村人とすれ違ったが、意外と驚いていなかった。もう慣れたか、それとも諦めたらしい。



 温泉処理場へ来ると、もう排水が貯まり始めていた。

「あれをパイプの中に流し込んでくれ。うまくいきそうか?」

 アイの目玉が頷いた。


 ずるずると四角い池の壁を垂直に降りていき、十センチほど貯まった水の中に入る。

 ぞぞぞっ、と音を立てて、すぐに温泉はパイプの中へ消えた。

「おー。これなら病院や旅館、公衆浴場が本格稼動しても余裕みたいだな」

「アイちゃん、すごいなー」「なー」

 子供たちは四つんばいになり、縁から下を覗きこんでいた。

 手を滑らせたら落ちそうなほど。


「……これは柵を作らないと危険だな。アイも人が落ちてこないよう注意しててくれ」

 アイは目玉を上下させてこくっと頷いた。


「マーリン、プルラ、お母さんの手伝いに戻ってくれ」

「「うん!」」

 二人は元気良く頷くと、ててっと走っていった。

 その後ろ姿が外堀に消えるのを見届けてから、近くで作業していた狐の獣人に柵作りを頼む。

 それから屋敷へ戻った。

 温泉に入るぞ!

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