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第125話 魔物狩り素材売り

 朝早くから辺境大陸のケイカハーバーへ行った。

 建築家メルビウスと少年リオネルを連れて行く。ケイカ村はまだ深夜だったため、眠たげに目を擦っていた。


 羽飾りを頭に付けた族長と会わせる。

「族長、この子がリオネル。俺の代わりに村を指導してくれる」

「おお、金色の神の子。わかった、我ら、従う」

「よろしくお願いします」

 リオネルが頭を下げると、さらさらした金髪が流れるように垂れた。


「こっちがメルビウス。橋と家を建ててくれる。指示を守るようにな」

「わかった。我ら、従う」

 族長は深く頷いた。



 リオネルは村を見渡しながら言う。

「なるほど。これは大変そうだね。でも、やってみる」

 メルビウスが河を指差した。

「あの島へ橋をかければいいのですね」

「ああ、そうだ。崩れた家を解体して出た石材を使用すればどうだろうか」

 メルビウスは崩れた建物へ近付き、壁を確かめるように触った。

「……昔は相当高度な技術があったようですね。かなり規格の揃った石を使ってます。これなら扱い易いので、建築日数を短縮できるかと」

「ただし、全部は使うなよ?」

「どういうことでしょう?」

 

「この陸地側の街は更地にして畑にする予定だが、歴史的な建物や価値のある建物は残したほうがいい」

 族長が言う。

「我ら、新しくなる。全部壊してかまわない」

「それはダメだ。なぜなら今は良くても、あとで困る。文化的価値があるなら、将来観光資源になるからな」

 メルビウスが驚く。

「な、なるほど! 町が発展して、航路が安定すれば、人をよりいっそう多く呼べますね!」


 リオネルも明るい瞳を丸くして驚いていた。

「さすがケイカさん。そこまで考えるなんて……うん、回遊できる形で一部の街並みは残すことにするよ」

「わりと無計画に立ち並んでいるので、残す建物は移動させてもいいでしょう」

「それがいいな。じゃあ族長、リオネル、メルビウスで後は頼んだ。俺たちは狩りに行ってくる」

「はい」

 リオネルとメルビウスは族長と話し合いながら街を歩いていった。



 ケイカハーバーを出ると、俺とセリカとミーニャとラピシアで、前に通った道筋をなぞりながら魔物を狩った。

 前回の回収し損ねた素材を探して。


 しかし数時間歩いたが、魔物は6本足の巨大狼にしか出会わなかった。従える狼は50匹ほどだった。

 吹雪で凍らせ、ラピシアが殴り、俺が太刀で切り捨てる。大きいボスはできるだけ傷のない素材を残すためにミーニャに倒してもらった。



 10分かからず戦闘が終わる。

 ミーニャが毛皮をはぐ横で、セリカが額の汗を拭う。

「前回倒した魔物の残骸、みんな食べられてしまったのでしょうか? 死骸すらありませんわ」


 俺は千里眼で岩の妖精扉までの道のりを見ていくが、セリカの言うとおり1体も見当たらない。

「そのようだな。惜しいことをした」

「残念ですわ。……ミーニャちゃん、これ、どれぐらいになるでしょうか?」


 ミーニャが手を動かしつつ、呟くように答える。

「毛皮、とても大きい。ボスが大金貨5枚(50万円)、手下が大銀貨5~10枚(5000~1万円)」

「ボスなんて家を覆えるほど大きいのに高くないんだな」

「狼はどこにでもいるから安い」

「それもそうか……それにしても新しい包丁、大きいな」

「よく切れる」


 ミーニャがヘムルじいさんの作った解体包丁を掲げる。

 キラッと光を反射する刃渡り45センチメートルの包丁。包丁というより、どことなく脇差っぽい。刃の幅は広いが。

【超振動・解体包丁】攻+180。【解体効率:大】【武器防具破壊】【武器スキル:熔解】【武器スキル:溶接】【武器スキル:真空衝撃波ヴァイブレード


 ――ミーニャのスキルになかった遠距離攻撃をこの包丁が補っている。

「これまたすごい包丁だな。大切にしろよ」

「もちろん」

 ミーニャはうっとりと包丁を眺めてから、また解体に取り掛かった。



 俺は千里眼でジャングルを見ていく。

 近くに魔物はいなかった。


「前回20グループ以上倒してしまったから、あまりいないな。特に村の周囲は。――いるのはだいぶ北のほうだ。一度戻って妖精の扉を使おう」

「はい」「わかった」

 ミーニャが解体を終えると、素材を全員で持って、ケイカハーバーへ戻った。というか俺とラピシアがほとんど抱えた。

 大量の毛皮と牙と骨、あとは柔らかい肉を持って帰ったら、住人にめちゃくちゃ驚かれ、ますます尊敬された。



 妖精の扉を駆使して魔物を狩りに行く。

 体長10メートル以上の巨大なさそりを倒した。長い3本の尻尾と大きなはさみ。連れていた手下は人間より大きい。30匹ほど。全部倒して殻をはぐ。

「これは売れそうか?」

「売れる。でも加工が難しいから高くない」

「なるほど。肉はどうだ? さそりはエビみたいな味がするそうだが」

「エビ食べたほうが美味しい。というか大きいのは力強いぶん固い。食材としては売れない」

「なるほど。魔力も少ないしだめそうだな。魚は大きいほうがうまいんだが」


 解体が終わると、殻とはさみ、そして尻尾を持って妖精の扉をくぐった。

 妖精界の地下室に積み上げておく。

 ちょうど木材を抱えて扉から出てきた美形のエルフが巨大なはさみを見て目を丸くしていた。

「こ、こんな魔物がいるのですね。すごいです。さすがケイカさま……頑張ってください」

「もちろんだ」



 またジャングルへと狩りに行く。

 鬱蒼と生い茂る枝を太刀で払いつつ進む。

「なんだか普通の冒険者みたいだな」

「そうですね。狩ってる魔物はありえないですが」


 ふと思いついて尋ねる。

「そういやパン職人ギルドや商人ギルド、鍛冶師ギルドなんかはあるのに冒険者ギルドはないんだな」

「昔はありましたが、魔王が率先して潰してくるので、もう誰も立ち上げようとはしません」


「なるほど。冒険者を結託させるのは魔王からしたら危険だものな。――でも冒険者はいるだろ? どうやって仲間見つけたり、依頼受けたりしてるんだ?」

 畑の刈り入れのとき、冒険者が護衛として雇われていたのを思い出した。

「村や町の酒場に依頼しますね。王都クロエだとルイーゼの酒場が有名ですわ」

「あー、勇者になったとき説明されたような気がしなくもない」



 セリカが金髪を広げて振り返り、ミーニャとラピシアを見た。

「新しく迎えられますか? 魔法使いさんがいてもよいかもしれません」

「確かにな。職業的には勇者、戦士(剣舞巫女)、姫騎士、治癒師だから。火力に偏ってるけど、まあ俺が魔法使えるし」


 するとミーニャが包丁を振るいながら言った。巫女服が鮮やかに揺れる。

「必要なら私が転職する。もうこれ以上、女いらない」

「なぜ女だと決め付けるっ! 3人とも女性になったのは偶然だ」

「次も絶対、女。間違いない。セリカもきっと同じ考え」

「わ、わたくしは……女性であってもケイカさまを一番大切に考え、支えてくれる人なら構わないと思います」

 戸惑いつつも、青い瞳はまっすぐに俺を見ていた。本心からの言葉らしい。

 思わず微笑みながら手を伸ばしてセリカの頭を撫でた。なだらかな頬が赤くなる。

「あぅ……ケイカさま」

「ありがとな。でもセリカたちがいてくれたら、もう充分だ――おっ、いたぞ」



 ジャングルの中にある巨木の枝に、開いた傘のような蜂の巣がくっついていた。

 直径5メートルはあるだろうか。それが幾つもある。

 数メートルはある黄色と黒の縞模様の蜂が巣の世話をしている。辺りには、ぶんぶんと羽音を立てて飛んでいた。

 巣には俺より一回り大きい白い幼虫が、中にみっしりと詰まっていた。

 気持ち悪い。

 これまた巨大な女王蜂が巣に張り付いている。


「やるぞ――《烈風斬》」

 枝を次々と切り落として巣を落下させる。

 怒った蜂が群がってきたが、セリカの吹雪で撃墜。

 あとは全員でとどめを刺して回り、さくっと全滅させた。


 蜂からは毒針と毒袋を回収した。

 外骨格は死ぬと魔法効果が切れて脆くなるため、素材にはならないらしい。

 幼虫はほとんど潰れたが、低位置の巣が無事だったのでお土産として持って帰る。

 倒した働き蜂は100匹ほどいた。



 その後は巨大蟻の巣も見つけて全滅させた。これはもう地下まで潜るのが面倒だったので、ラピシアの土魔法で押しつぶさせて退治した。

 クレーターの底で両手を挙げるラピシア。

「全部ぺったんこにした!」

「偉いぞ、さすがだ」

 俺は褒めつつ千里眼で新たな魔物を探し続ける。


 セリカが眉を寄せて尋ねてくる。

「どうですか、ケイカさま? 魔物の気配はありますか?」

「あんまり高そうな魔物がいないな。ドラゴンも見当たらない」

「前倒したドラゴンの牙と皮、象の牙、全部とって置けばよかった」

 ミーニャがぼそっと呟く。尖った耳がへにゃっと垂れていた。


「ミーニャが気にすることじゃない。あの時は妖精界救出を急いでたからな」

 セリカが思い出したように言う。

「クリスタルボアの素材がまだ物置にあったと思いますが、売ってみたらどうでしょう?」

「あれで防具作ると軽くて防御力が高い上に、魔法反射やダメージ反射のついた鎧になるそうだからな。セリカ用に作りたい。最悪の場合は売るしかないが」

「ヘムルさんがいますものね」



 あとは巨大な蜘蛛を倒した。手下は50匹。群れる蜘蛛は気持ち悪かった。

 殻と牙と糸を手に入れる。

 それで狩りは終わり。

 

 妖精の扉を使って王都へ向かった。

 教えられた素材屋へ、山のような素材を運び込むのが大変だった。


 蜂の幼虫はケイカハーバーの住人たちに喜ばれた。虫は毒さえなければ高蛋白源。

 俺は、あんなでかいの食べる気しないが。

 これから別の部族を保護するのだから食料はたくさんあっても問題なかった。


       ◇  ◇  ◇


 夕暮れの王都。

 素材屋の大きな倉庫に俺たちはいた。

 うずたかく積まれた狼の毛皮や牙や骨、さそりの殻、蜂の透明な羽と毒針と毒袋、蜘蛛の殻と糸。

 念のため、蜂と蜘蛛のボスの死骸も一部、持ち込んでいた。


 従業員総出で検分していた。

 それから商人は汗を拭きながら傍へ来る。


「いや~、さすが勇者さまですね。これだけの良品を大量に持ち込まれるなんて。ドライドさんに紹介していただけて本当にありがたいです」 

「そう言ってもらえると助かるな。これからもひいきにするつもりだ。頼むぞ」

 


 商人は紙に各素材の金額を書いて、俺へと見せる。

「当然でございますとも。こちらのほう、すべて買い取らせていただきまして、大金貨91枚(910万円)でいかがでしょうか?」


 狼ボス毛皮6枚、ボス牙骨2枚、手下狼素材全部約3枚。

 さそりボス殻3枚、手下殻約2枚。

 蜂ボス針13枚、ボス羽6枚、ボス毒袋10枚。手下針8枚、手下羽2枚、手下毒袋6枚。

 蜘蛛ボス殻1枚、ボス牙9枚、糸6枚。手下殻1枚、牙1枚、糸12枚。

 その他、小金貨3枚。


 俺は自然と唸り声が出てしまう。

 100枚超えると思ったんだがな。

「う~ん、悪くはないが、もうちょっといくと思ったんだがな……」

「素晴らしい素材でしたので、かなり色をつけさせていただきましたが……」

「蜂と蜘蛛は予想より高いが、狼とさそりが思ったより安いな」



 商人が困ったような笑顔で、それでもハッキリした声で言う。

「時期が少し悪かったのでございます。今は農閑期かつ魔物の冬篭り前。各地の農村で余った人手が魔物を狩りますので、素材が大量に入ってきていまして……」

「なるほどな。狼なんて安すぎだしな。……さそりはこの国では珍しいと思うが」

「この殻とはさみは、固すぎるので相当加工が難しいかと。取引先の鍛冶工房では無理で、王都に加工できる人がいるかどうか……できる人でも時間がとてもかかります」


「ということは、むしろ素材よりも、武器防具に加工してから売ったほうがよかったか」

「鍛冶師の知り合いがおられるのでしたら、そちらのほうがいいかもしれません。この長いほうの毒針をランスにされると、現時点で強毒効果が付いてますので、大金貨65枚以上の価値が出るはず。整形に時間がかかりますが」


「おお! 短いほうの針や、さそり殻はどうなる?」

「うう~ん、私は武器商人ではありませんので、参考までに聞いてほしいのですが。短い毒針を剣やスピアに加工すれば1本8~25枚。さそり殻の防具は5枚以上になるのではないでしょうか。これに効果が乗ればさらに」


 ――じゃあ、毒針とさそり殻を全部ヘムルじいさんに頼めば……と、思ったが、今は世界樹の枝を加工してもらっていた。

 固くて加工に時間がかかるらしいし、オークションは約1週間後。



「う~ん。数本だけ作って売るのもありかな……いや、明日もまた狩ればいいか」

 優先順位としてはパーティーメンバーの装備、世界樹の枝の加工、その他、の順番だろう。

 ちなみに素材はすべて売らずに少し残してあった。ヘムルじいさんが使うかもしれないので。


 俺の呟きを聞いた商人が深く頷いた。

「わかりました、勇者さま。次も持ち込みいただけるのでしたら、今回はもう少し勉強させていただきます。大金貨100枚でいかがでしょうか?」

「一割アップか。わかった、それで売ろう」

「ありがとうございます。すぐにお持ちいたします」

 聖金貨2枚をセリカが受け取り、素材商をあとにした。

 予定額はぎりぎり達成。競ることになった場合を考えて、もう少し欲しいところだった。



 日が沈み、薄暗くなった王都の大通りを歩いた。石畳の道の両側には高い建物が立ち並ぶ。

 するとセリカが話し掛けて来た。

「明日も狩ると言われましたが、ダンジョンのほうは大丈夫なのでしょうか?」

「あ、そうか。開催日は3日後か。となると明日、明後日は仕上げに集中したほうがいいか。まあ、空いた時間にちょこっと狩っても……」


 するとセリカが心配そうに眉を寄せて、和服の袖を掴んできた。

「ケイカさま。最近、頑張りすぎな気もします。予定額は超えたのですから、もう少しゆっくり行動されても。ゲアドルフもダンジョンコンクールが終わるまでは動かないでしょう」

 後ろを歩くミーニャが言う。

「私もどこかでお金稼ぐ」

「ラピシアも!」

 小さな拳をぐっと握り締めてラピシアが言う。目が輝いている。



「気持ちは嬉しいが。うーん、セリカたちだけで稼いできてもらうってのは違う気がする……けどなぁ、もう少し軍資金を集めておきたいからな……ナーガや人魚は当分何もしなくても大丈夫か。エルフにはまだしておきたいことがあるが観光施設が整うまではしなくていいし。ケイカ村にはあれか……ああっ!」

 俺は思わず立ち止まって大声を出した。


 突然の声に、隣のセリカどころか、大通りを歩く人々の注目までも浴びてしまった。

「どうされました?」

「まだ金があった!」

「え?」


「セリカ、村に行って寄付箱とお守り販売料の値段、数えてきてくれ!」

「ああ! それがありましたね! いくらか貯まってからと思ってましたが――はい、すぐに数えてきます!」


 セリカが赤いスカートを翻して駆け出した。なびく金髪が宵闇を照らす店々の明かりを受けてきらめいた。



 ――その後、親父の宿屋でセリカから報告を受けた。

 全部で大金貨64枚にもなっていた。

 賽銭は数枚分だったが、お守りが700個売れて21枚分にもなり、銅像が全部で40枚分。

 特別料金を払うから銅像を納期前倒しで欲しいと言った領主貴族から、かなりふんだくったそうだ。


 まさかここにきて名前の売り込みや、こつこつ信者を集めてきたことが役立つとは。

 自然と顔がにやける。

 お金が足りたことも嬉しいが、信者を増やした小さな成果が出たことが一番嬉しかった。

 よきかなよきかな。


 ちなみに願いは寝る前に時々、聞き届けていた。叶えたり叶えなかったり。

 今夜は少し多めに叶えてやるか、と浮かれたことを考えた。

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