第122話 リオネルの奴隷カタログ
セリカとともに妖精の扉をくぐって王都へ。
宿屋で線の細い少年リオネルに会う。いつもながらのどこか憂いのある笑顔。
「こんにちは、ケイカさん」
「元気そうだな。準備はできたか?」
「うん。荷物まとめたから、いつでも行けるよ」
「そうか……明日ぐらい下見に行くか。あと奴隷を買おう。できれば無条件奴隷を」
「え? 奴隷? どうして?」
「赴任先は、信頼の置ける部下でないとダメだ。主人を裏切ることのできない奴隷を使うのが一番いい。なぜなら~」
俺は問題点を話した。
ケイカハーバーは金と聖金が山ほど取れる場所。
普通の人を雇うのは危険すぎた。
船員たちすら陸には上がらせず、金の存在は教えていない。
もし知られたらゴールドラッシュのときに追い出されたインディアンみたいなことになりかねない。
リオネルは金髪を揺らして頷く。
「んー、場所が場所だけに大丈夫だと思うけど……ケイカさんがそういうなら。それもありかな」
「奴隷の主人になるとまた別の苦労があると思うが、我慢してくれ」
「うん、わかったよ。でも、お金ないかも」
セリカが言う。
「大丈夫ですわ、リオネルくん。費用はケイカさまが払いますから」
「いいんですか?」
「必要経費だ、心配するな――いくぞ」
「はい」
リオネルを連れて王都の外れにある奴隷商へ向かった。
昼前の暖かい日差しの中を、外壁近くのスラム街を目指して歩いた。
薄汚れた人が増え、どぶからはすえたような匂いが立ち上る。
立地としてはインダストリアの奴隷商館とは天と地ほどの差がある。
堅牢な石造りの建物に入った。
薄暗い室内。
顔色の悪いいつもの奴隷商が出迎える。
「ようこそいらっしゃいました、勇者さま」
「久しぶりだな。今日も何人か見せてもらいに来た」
「はい、わかりました。ただ、扱っております奴隷が少ないですが……」
「ん、そうなのか? とりあえず見せてもらう」
「どうぞこちらに」
奴隷商に案内されて、店の奥へと入った。
教室ぐらいの薄暗い部屋。石の壁につながれた奴隷は4人しかいなかった。
「本当に少ないな」
「前回全部購入されたのと、今はちょうど時期が悪くて……」
「そうか、借金の清算で金が必要になるのはもう少しあとになるからか」
「さようでございます」
一応、奴隷を見た。目の濁ったアル中の男(剣闘士)と、頬に傷のある山賊の男。あとは村人のおばさん(農夫・小物師)と、リオネル並みに若い少年。
使えそうなスキルはなし。
ていうかこのアルコール中毒の男、ずっといるな。
「ダメそうだな。ちなみにリオネル。どんな奴が欲しい?」
「そうだね……村の経営をするなら、身の回りの世話をしてくれるメイドが1人、帳簿や事務日程管理ができる執事が1人、あとは何かの技術を持つ使用人が2人ぐらいいたらいいのかな?」
「ふむ。いい答えだと思うが、ほかにあるかセリカ?」
「そうですね……充分だと思いますが、できれば怪我や病気を治せる医師か薬師、治癒師などが1人いればよいかと。高いですが」
「あー、確かになぁ。危険が多いし、それに治療できれば村人の信心度も増すな」
奴隷商が揉み手をしながら言う。
「でしたらオークション大会に参加されてはいかがでしょう?」
「オークション?」
「春と秋に2度開かれるのです。奴隷が少ないのも、皆、高値を狙って出品するからでして」
「なるほど」
「私も入札に参加いたしますが、勇者さまも利用されてはいかがでしょう? 開催日は約1週間後です」
セリカが横から補足してくれる。
「いろんな奴隷が来ると聞きます。このオークションだけは貴族や王族も利用するので、身分の確かな奴隷ばかりとか。また、奴隷以外にも武器防具、魔道具、美術品が出品されます」
「なるほど。でも、高そうだな」
俺の問いかけに、奴隷商が言葉を添える。
「いえいえ、相場の何倍にもなるようなことはめったになく。だいたい相場前後で取引されます。先ほど欲しがられていたような奴隷もかなり出ます。インダストリアから流れてきた奴隷も出るとか」
「ほう。だったら参加してみるか。どうすればいい?」
「まずは参加費とカタログ費を前払いします。小金貨50枚(25万円)になります」
「たかっ! それだけで赤字になるだろっ」
「いえ、参加費のほとんどはカタログ代になります。汚さず破損させずにオークションが終わったあとにカタログを返却すれば、小金貨40枚(20万円)が返却されます」
「本が高いのか。でも返却されたカタログなんてどうするんだ?」
「魔法で白紙に戻しまして、また次に使用します」
「なるほど。それなりに金を持っている奴だけを選択するわけか――奴隷がいないんじゃ仕方ない。オークションに参加してみるか。セリカ、払ってくれ」
「はい、ケイカさま」
セリカが腰に下げた小袋から金貨を取り出す。
しかしリオネルが首を傾げる。
「でも奴隷商のおじさん。ケイカさんを直接参加させると、おじさんは儲からないけどいいの? 代理人として仲介料を取ったほうが儲かるよ?」
さすがリオネル。利に聡い。
「いえ、カタログを販売できるのは登録した商人のみ。紹介した参加者が落札するとカタログを売った商人に手数料が支払われます。逆に参加者が落札どころか入札すらしなかったら、商人が反則金を支払います」
「わぁ~、すごいやぁ! 本当に上客しか参加させないシステムなんだねっ」
リオネルがあどけない笑顔をして、大げさなほど感心していた。
その態度に違和感を覚えた。この子はそこまで馬鹿じゃない。
ちょっと考えてすぐに納得する。
カモを集めろと指示が出ているようなものだよな。
何か落とし穴があるのだろうと思った。
誘導尋問でそれを引き出したリオネルは、さすがというべきか。
セリカが金貨を差し出す。
「では、こちらがお金です」
「はい、大金貨3枚ですね、少々お待ちを」
奴隷商はいったん奥の部屋へ行った。
階段を登って2階へ。千里眼で見ていると、図鑑のように大きな本と、お釣りの金貨を持って戻ってくる。
「こちらが本と、小金貨10枚になります」
小指の先ぐらいの小さな粒が10個返ってきた。
そしてA4サイズぐらいの大きな本。表紙は革張り。
「これがカタログか――おお、カラーだな」
200ページぐらいの本の中には、魔法で印刷されたと思われる人物の全身像と名前、職業や来歴が書かれていた。後ろのほうは武器や道具が掲載されている。
奴隷商が言う。
「そのカタログの裏表紙に会場と暗証コードが書かれています。日時をお間違えのないように忘れず持参ください」
「ああ、わかった」
「おじさん、ありがとう」
リオネルがぺこっとお辞儀した。
それを合図に、俺たちは宿へと戻った。
親父の宿屋へ戻る。
一階の酒場でカタログ広げるのも格好悪いので、空き部屋に3人で入った。
俺を真ん中にして両脇にセリカとリオネルがソファーに座った。
テーブルに広げたカタログを覗き込む。
最初のページは背筋の伸びたイケメンの老人。
『プレヴァー・剣豪・前ファブリカ王国騎士団長・剣指南役として出品。条件奴隷。最低落札価格1年につき大金貨70枚(契約最大3年)・一言「わしの剣を受けられるかの?」』
セリカが言う。
「この方、お会いしたことがありますわ。王国で一番強かったはずです。後輩指導も上手だったとか。騎士団は引退されたようですね」
次は三十台ぐらいの美女が載っていた。
『ダイアナ・聖術師 呪術師・前カンデンス教、筆頭巫女・条件奴隷。最低落札価格1年大金貨55枚(5年契約)・一言「神の御心のままに。あなたに恩恵を」』
「この若さで引退するのか?」
「たぶん……結婚されるのではないかと。巫女は処女しかなれませんから」
「なるほど。神に仕えるには仕方がないな」
次は10代に見える超のつく美少女。胸と局部を紐で隠しただけのほぼ裸同然の格好をして、しなを作って誘惑していた。見た目に合わない妖艶な笑みを浮かべている。ていうかエロい。
『ステラ・サキュバス・条件奴隷。能力使用は主人のみ。最低落札価格1年大金貨50枚・一言「百発ひゃくちゅぅ~!」』
「え? 魔物が出品!? しかも条件奴隷で高い!」
「……サキュバスさんは特別ですから。認められているのです」
「どうして?」
尋ねると、セリカは頬を赤くして言いづらそうにもごもご言う。
「その……王侯貴族は世継ぎを必ず生まなくてはならないでしょう? ところが、その」
「ああ! 不能になって世継ぎが作れないと家が没落するからか!」
「はい、そうなのです。魔王軍とは関係がないのは確認済みです」
「だから淫魔の力を借りてでも子作りするのか……この世界の闇を見た感じだ」
「リオネルくん、あんまり見てはいけませんよ」
「あ、はい。ごめんなさい!」
リオネルの頬が赤くなっていた。世捨て人みたいなようでいて、やっぱり男の子らしい。
その後もパラパラとめくっていった。
「お。この婆さん、インダストリアにいた」
「あら、本当ですわ」
『コーデリア・魔導師 錬金術師・元宮廷魔術師長・家庭教師として出品。条件奴隷。貴族禁止、体罰禁止、重労働禁止、戦闘禁止。一日4時間勤務、週休3日。最低落札価格1年大金貨11枚(最大契約2年)・一言「馬鹿貴族どもにはうんざりじゃ」』
「貴族禁止て。なにかあったな」
「11枚なら、お買い得では?」
「実際の落札価格は5割り増しぐらいだろう。前は確か40枚だったが。でもケイカ村に来てもらうのもありかもしれないな――まあ、今はリオネルの奴隷だ」
「そうですね」
パラパラ見ていくとリオネルが指でカタログを押さえた。
「この人、良さそうですね」
『ディナ・メイド・貴族屋敷5年、豪商屋敷3年・無条件奴隷・最低落札価格大金貨25枚』
可愛らしい女の子に見えたが、男の子らしい。メイド服を着ている。
「ふむ。無条件奴隷か。働いていたのになったのか」
「借金でも背負ってしまったのかもしれませんね」
「まあ、元気そうだし、リオネルが気に入ったのなら――お?!」
写真でも真理眼でステータスを見れた。
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【ステータス】
名 前:ディナシー
性 別:男
種 族:妖精
職 業:奴隷
クラス:治癒師Lv50 使用人Lv40 精霊術師Lv25
属 性:【草】【水】
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妖精! 人間に化けてるみたいだな。
治癒師のスキルもあるし。
――これはお買い得だな。
何か事情があるかもしれないが、落札すれば問題ない。
もしメイドとして働いてくれるなら妖精の扉が通れるから連絡係にもなれる。
決定だな。
その後もパラパラと見ていった。
条件奴隷の執事と無条件奴隷の大工を見つける。
大工はリス獣人らしく、先の丸まった大きなフサフサの尻尾を持つ、ショートヘアのいなせな女性だった。
「25枚、11枚、34枚。しめて70枚。やっぱり職業持ちは高いな。最低価格で落札は無理として、倍の150枚は用意したいところか」
セリカが金貨の入った袋を見ながら言う。
「……足りないかもしれません」
「100枚ぐらいなかったか? ――ああそうか、建築の資材費払ってたな」
「今60枚ぐらいですね。どうしましょう……ドライドさんに借りましょうか。それか砂金を……」
俺は唸った。
聖金の砂金はセリカがもらって一度換金してしまった。あまり何度も聖金を持ち込むと、どこから取ってきたのかと怪しまれる。辺境大陸の存在がばれかねない。
危険に晒すことになるし、本当にお金が欲しいときに困ることになる。
「あと90枚、きりのいいところで100枚か。まだ1週間あるし、稼げばいいだろう」
「1週間で大金貨100枚!? ケイカさんでもさすがに難しいと思うよ」
リオネルが首を振った。柔らかな金髪がさらさらと揺れた。
「ふふん。まあ、任せとけ」
セリカが心配そうに尋ねる。
「どうされるおつもりでしょう?」
「いくつか心当たりがある。金貨1枚で売れる魔物を100匹狩っていいし、珍しいものを運んで売りさばいてもいい」
辺境大陸の魔物に、妖精の扉を使った貿易。
「なるほど! 1つではないのですね! さすがケイカさまです」
「ケイカさん、すごいや。ケイカさんならできそう」
「あとは商人のドライドに会って相談したいところだな」
「ドライドさんは夕方に、魚醤の樽を届けてくれるはずだよ」
「そうか。ではまたあとで来る。待つように言っておいてくれ」
「はーい――カタログは?」
「リオネルが持っててくれ。暇なときにでもより詳しく見て、第2候補、第3候補まで選んでおくといい」
「うん、わかった。ありがとう」
リオネルは、はにかみつつ頭を下げた。
俺は立ち上がると、セリカを連れて妖精の扉へ向かった。
ドライドと話せば金策の目処もつく。
一週間で100枚。稼いでやろうじゃないか!




