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第120話 懐かしの味

 翌日。

 屋敷裏の工房。

 妖精ハーヤに頼んでいた魔道具ができた。

「こちらになりますー。あの黒っぽいカードを大きくしました」

 渡されたのは黒い板。縦30センチメートル、横20センチメートル。表面がつやつやと光っている。

 こんなの頼んだ覚えがない。


「なんだこれ?」

「扉を使うたびに名札を手動でいちいち移動させるのは面倒なので、いっそのこと勇者パーティーに登録された人が妖精の扉を利用すると、自動的にインアウトを記録として残すようにしました~。ぽちっとな」


 黒い板の表面に、文字が浮かぶ。どこ行きの扉に、誰が何月何日何時何分に通過したかが記入されていた。


「なんだこれ! 全員のログがある! ――俺の記憶で精査すると記録は正しいな……ミーニャが意外と利用してる。ケイカハーバーと王都、屋敷に細かく戻ってる。食材を移動させたり料理の手伝いか。やっぱりルーナが朝昼晩にドルアースへ行ってるな。休憩時間を利用して決闘バトルに参加してるのか」

 記録を見ながらふむふむとうなずいた。



「記録日時は妖精界標準時になってしまうので参考程度に~」

「それでも助かるな。戻ったか行きっぱなしか、何分滞在したかわかる」

「屋敷の妖精の扉前と、妖精界の地下室に置いておきますね」

「2つあるのか、助かる」

「あと、ポンプとパイプ、命令無効の腕輪ができました」

「おお。さすがハーヤ。仕事が速い」


「このポンプはどうするのです?」

「もちろん温泉に使う! 村に温泉旅館を作って人を呼ぶ! 病院もあるから、湯治客も呼べる!」

 ハーヤが顔をしかめた。

「ここは農村だから農作物に被害が出るかもですー。用水路に入ったら大変だし、地下水に流れ込んでも危ないです。温泉は成分が複雑で、無効化する機械作るのは難しいですー」


「大丈夫だ、なんとかなる!」

「ケイカさんがそういうなら……。他にすることはありますか?」

 ハーヤが可愛く首をかしげた。



「あとは、そうだな……。そうそう、世界樹の枝を油に浸けて燃える武器にしておいてくれ。ヘムルじいさんがいいかもな」

「ですね。武器は範囲外。お手伝いしながら作ります~」

 ――いつか作った、大陸間弾道ラブレター配達機は武器じゃないのか。

 納得がいかない。


「それと世界地図もあるといいな。上空から撮影した写真を繋げた正確な地図を」

「はーい。どろろーんや超高高度戦略ばくげ――花束贈呈機を改造します~るん♪」

「今、お前、爆撃機って言おうとしたよな!? 武器は範囲外って言ったところだよな!? 語尾可愛くしたって騙されないぞ!」


「やだなー、ケイカさん♪ 妖精がそんな危険なもの作るわけがないじゃないですかー」

「ほう。最近ではどんなの作ったんだ?」

 尋ねたとたん、ハーヤの顔に赤みが差した。

 照れた様子で、短い手で頭を掻く。三角帽子がゆらゆら揺れた。



「えへへ~。それ聞いちゃいますかー、やだなー、どうしようかなー。爆発しないでくださいね?」

「聞くだけで爆発ってどんだけあぶない兵器作ったんだ」


「えっと――彼女作っちゃいましたっ」

 ハーヤは顔を真っ赤にしながらも、どこか誇らしげに答えた。


「あ~、宴会のときのあの子か」

 宴会で一緒にお酒を飲んでいた同じ小妖精の女の子。ハーヤのことを「かっこいい」と言っていた。4頭身で長い黒髪だったのを覚えている。つぶらな瞳が可愛かった。



 夢見るような笑顔でハーヤは語る。

「そうなんです~。こんなボクをかっこいいって言ってくれて……だから、髪の毛1本貰って、培養液で練成――」

「待てい! どうしてそうなる! 普通に『好きです、付き合ってください』とか『好きだよ、一緒に暮らそう』って言えば恋人になってもらえただろうが!」


「え゛え゛え゛!! 恋人って生きてる相手になってもらうものなんですか!?」

「だめだこいつ。もう手遅れ過ぎる――そりゃ、今まで一度も恋愛の手助けを成功させたことがないよな」

「はうう~」

 しょんぼりと肩を落とすハーヤ。



 かわいそうなので元気付けておく。

「まだ脈はあるはずだ。可愛いアクセサリーでも作って、プレゼントすればいい――ハーヤは相手の女の子好きなんだよな?」

「はい……いや、どうなのかな……一緒にいると胸がどきどきするけど、好き、なのかな……?」


「まずそこからか。大丈夫、その状態は好きであってる。その女の子のこと考えると、胸がキュンってなるだろ? 隣にいたいとか、手をつなぎたいとか――」

「――多脚に改造したいとか」


「お前もう黙れ。一生1人でこの工房にいろ」

「ええええ、そんなぁ! 1人はさみしいですー!」

「しらん」

 俺はまだわめいているハーヤを無視してさっさと工房を出た。

 話してるとこっちの頭までおかしくなりそうだった。



 するとミーニャがお守りを通じて連絡してきた。

 辺境の村に着いたらしい。

 外輪船へ向かった。


       ◇  ◇  ◇


 外輪船は川をさかのぼり、生き延びた人々のすむ村へと着いた。

 途中でナーガと鳥獣人の襲撃を受けた以外は順調に進んだ。


 外輪船が神の船ということで、初めから信頼度マックス。

 ケイカハーバー部族の口ぞえもあり、移住もなんなく決定。

 問題はなかった。しかし問題があった。


 俺は村の畑を見ていた。穂を垂れた草が生えている。

「稲……だと……っ!」

 案内役の村人が答える。

「作るの大変。でも、たくさん取れる」

「すごいぞ、これは……いや、でも品種はどうか?」

「神さま、食べるか?」

「食べる!」



 村に帰るとすぐに食事が提供された。

 お粥で出された。木の椀に入った白いお粥。

 見た感じ米粒が細長くて失望しかけたが、食べるともっちりしていて日本米に近い。

「うまい! これでおにぎりが喰いたい! 味噌付けて焼いたのを!」

 ――お米と味噌は日本の心!


 何十年かぶりのご飯に、ふと昔を思い出す。

 俺が道祖神まで落ちぶれていた頃、味噌をつけた焼きおにぎりをお供えすると遠出のときの足腰の痛みがなくなるという噂が広まり、近所のじいさんばあさんがよく供えてくれた。

 経年劣化の足腰は神でも治しようがないが《快癒》を唱え続ければ遠出しても痛みは減る。


 息子の結婚式に出たい、遠くに住む孫の顔が見たい、そんな願いを焼きおにぎりを食べながら叶えてやったものだった。

 爺さん婆さんが亡くなるともう誰も道祖神を世話してくれなくなったが。高度経済成長からバブルの頃か。



「懐かしいな……あ、でも、そうか。そうだったのかも……」

 お粥を食べる手が止まった。

 ふいに、今になって間違いに気付いた。


 癒したんだからもっと敬え! と当時は傲慢に思っていた。

 でも違ったんだ。

 神として癒すべき本当のところは、足腰ではなかったんだ。


 治すべきは、家族との関係だったんじゃないか……?

 いつでも孫の顔が見れるようにすれば足腰が痛くても良かったんだ。


 たぶん、そうなんだろう。当時の俺では気付けなかった。

 だからこそ、信者0人にまで落ちぶれたんだろうな。

 今となってはもう手遅れ。だから今度は同じ間違いをしないようにすればいい。



 しみじみとした思いにとらわれながら、俺はまたスプーンで粥をすくった。

 味わうように食べる。塩味しかついていない白い粥を。

 横にいるセリカが驚いている。

「そんなにおいしいのでしょうか……?」

「いや、昔を思い出していただけだ」


「そうですか……よい思い出でしたか?」

「よくはないが、今となってはいい教訓だ」

「それは、よかったです」

 セリカは目を細めて微笑むと粥を口へ運んだ。


 ミーニャがネコミミをピッピッと動かして言う。

「おにぎりってなに?」

「この米を炊いてな、――こうやって、三角に握るんだ。それに味噌を付けて焼く」

「わかった。今夜、やってみる」

 おにぎりを作る手つきを見せただけで、もう理解したらしい。

 さすがミーニャ。 



 俺は考えながらお粥を食べ続けた。

 米を食べると生きてると実感する。


 いや、正確には違う。

 セリカが横にいてくれるからこそ。ミーニャが信じてくれているからこそ。ラピシアが慕ってくれているからこそ。

 出会った人々の多くが、信頼したり期待していてくれるからこそ。

 このお粥にまでたどり着けた。


 だから食べると生きてる実感が湧いたのか。

 つまり、人々に愛され敬われてこそ、俺は生きてることを実感する。

 理由? きっと俺が神だから。

 なんだかすごく中途半端ですが五章終わりです。

 ラピシアの答え、ゲアドルフの暴走、ダンジョンコンクールの勝敗、ルーナの決着、エトワールの来訪。

 いろんなことが投げっぱになってしまいました。

 第六章では回収したいところです。


 ていうかプロット上では前話でラピシアがレベルアップするはずだったのに拒否られました。もう作者ですらラピシアの展開がわからなくなりました。

 このあと2話ほど閑話が続きます。多分はじめてのケイカ以外の視点。

 第六章は早めに書きます。

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