第113話 ダンジョン三頭会議
俺と侯爵はドラゴンの洞窟でダンジョンをどうするか考えていた。
ヴァーヌス教を押さえてダンジョンコンクールで優勝し、聖剣の材料を手に入れなくてはならない。
テーブルに座って管理画面を眺める。ドラゴンはテーブルの隣に座っていた。
1階層・王家の墓、2階層・墓場、3階層・迷宮(蟻と芋虫)、
4階層・迷宮、5階層・水の迷宮(船)、6階層・迷宮(植物薬草)、
7階層・決闘騎士、8階層・迷宮(偽たまご無数)、9階層・砂漠(侯爵予定地)、
10階層・キッチン、11階層・迷宮(霧)、12階層・迷宮
13階層・図書館、14階層・迷宮、15階層・機械の神
侯爵が脚を組みながら感想を言う。
「ふむ。階層ごとの難易度に差があるな」
「いくつか俺のアイデアが入っているからな。難しいところはたぶん俺だ」
「あとはばらばらで全体的にまとまりがないな。今あるものをぶちこんだだけというか。節操がなく、美学が感じられん」
「あー、それは俺も思ってた。テーマが欲しいところだな」
ドラゴンが言う。
「ではどうすればよいのだ? 水や火に統一するか? もうテーマに沿ったモンスターを集めている暇はないぞ?」
「別に属性だけがテーマじゃないけどな」
侯爵は画面を指差した。
「この5階層は鬼だな。船に乗ったら即死するとは」
「俺が考えた。心理の裏をかいた。かなりの確率で撃退できると思うが」
「さすがケイカだな。面白い。人の命を己の手でもてあそぶ快感……。くくくっ」
侯爵が悪そうな笑みを浮かべていた。
ドラゴンが話を戻す。
「だがどうする? 属性以外のテーマとは?」
「例えば何かの物語をテーマに沿ってダンジョンを作るとか。または地獄めぐりを模したダンジョンにしてもいい」
「伝承をテーマにするのか。して、その目的は?」
目的という言葉に、俺はピンッと閃いた。
「ずばり不老不死を求めて、だ! 死者の旅を追体験させて目的へいざなう。1階層目が王家の墓。2階層のアンデッド墓場を抜けて、次がもう船だな。死者の国へ旅立つ船。その後は、地獄や冥界、13階層以上は天国を模するとか」
ドラゴンが目を丸くする。
「おお! それは素晴らしいな! ばらばらに見えたダンジョンに統一感が出る!」
侯爵が深く頷く。
「しかもそのテーマなら死を操り地獄を生み出す我輩ともぴったりだな」
「だろう? しかも不老不死なら、集客力もばっちりだ」
ドラゴンが眉間にしわを寄せた。
「しかし、クリアされたところで、そんなもの用意できないが」
「15階層に若返りの伝承を持つ人魚を雇えばいいんじゃないか? もちろん人魚を食っても若返りの効果はないから、代わりにここでしか味わえない料理を出す。この料理が若返りの秘訣だとか言って」
――そうすれば、人魚達の誤解も解けるようになる。
侯爵がほほう、と感心する。
「人魚とも知り合いになったのか」
「まあな。……さてどんな旅路にしようか。川を渡ると――まずは地獄入口。4階層目は霧の迷宮でいいか」
「そうだな。次は火炎地獄に見立ててマグマ迷宮がよいだろう。その次は氷結地獄に見立てて氷迷宮か。あとは餓えか病気が欲しいところだ。我輩の力で生み出せるぞ」
「ドラゴン、作れそうか?」
「むむ……できなくはない、が。薬草と書庫とキッチンは必要なので残したいのだ」
「薬草は天国に回そう。ダンジョンじゃなくても、爽やかな花畑、みたいな感じで」
「おお。それはいいな。キッチンはどうする?」
ドラゴンの問いかけに俺と侯爵は眉を寄せた。
俺は苦いものを噛むような声で言った。
「一番テーマに合わない場所だな……」
「美食家と料理人だけであろう? 我輩の地獄に住まわせたらどうだ?」
ドラゴンが首を横に振る。
「いや、彼らは巨大な冷凍室を持っているから、階層一つ必要なのだ」
「ふむう……地獄か天国で料理対決か……なにか違うな?」
侯爵は顎に手を当てて首を捻る。長い脚を組み替えた。
俺は言った。
「戦いの方法を変えるしかないだろうな」
「例えば?」
「天国に行く価値のある人間かどうかを審査するということで、味比べをさせるんだ。普通のお茶と高級なお茶を飲ませてどちらが高級か当てさせる。料理やデザートも同じように比べさせて高いほうを当てさせる」
「なるほど! 真実を見わける力を試すわけか! それならテーマに合いそうだ!」
ドラゴンが笑顔で大いに頷く。俺は続けた。
「ということは、たまご、キッチン、たまご、の順番だな。その先が天国」
「なぜそこにたまご迷宮なのだ?」
「地獄と天国をつなぐ場所。たまごは新たな生命の象徴。それによって死から再生するという意味合いがある」
「なんだかそれっぽいな。そういう伝承があるのか?」
「いや、今適当にこじつけただけだ」
ドラゴンは驚き、侯爵はあっはっはと大口を開けて笑った。天井の高い洞窟によく響く。
「さすがケイカだ! 真実味のある嘘を言わせたら右に出るものがいない!」
「褒められたと思っておくよ。で、書庫か」
侯爵が画面を見ながら言う。
「書庫とは、この図書館みたいなところか? 死者の書を隠しておいて、それを借り出せば次へ進めるとしたらどうだ?」
「うーん、普通だな。地獄めぐりというのであれば、挑戦者の過去の罪状を全部書きとめた本を見せ、それを音読させるというのはどうだろうか」
「自分の罪を自分で読ませるというのかっ。いつにも増してケイカは発想が鬼だな!」
ドラゴンは大いに驚いた。
が、侯爵は冷静に言った。
「それは面白いが技術的に難しいだろうな。どんな魔法を使ったよいか、我輩でもさっぱり分からんぞ」
「やっぱりそうか。いや、待てよ。何も人生全部でなくてもいいんじゃないか?」
「というと?」
「このダンジョンに入ってから心に思ったことを全部音読させるだけでも、かなり辛いぞ。人間はどんなときでもくだらない妄想をするものだからな」
――そして仲違いの原因になる。
少人数のパーティーで互いを信じられなくなったら終わりだ。
くっくっくと侯爵が笑う。
「パーティーメンバーに欲情したり恨んでいたりを音読させられたりしたら、最高のショーになりそうだな」
「ダンジョンに入ってからを全部記録するだけなら、不可能ではないな。それでやってみるか」
ドラゴンが言ったので俺は場所を考える。
「場所は地獄がいいのか。罪が暴かれるから」
「いや天国でもいいのではないか? その方が長く記録できるだろう?」
侯爵はニヤリと悪そうな笑みを浮かべる。
俺は頷きつつ言った。
「じゃあ、13階層は書庫で決定だな。――むしろ4階層の霧迷宮で幻術を使って美女や美男子の幻影で誘ったり、パーティーメンバーの幻影が愛の告白したりすると、もっと面白くなるかもな」
「ふはは! ケイカは恐ろしいな! それこそ見てみたいぞ!」
「聞いてるこちらまで赤面しそうな内容になりそうだ」
ドラゴンは口の端を歪めて苦笑していた。
「あとは我輩だが。地獄の最後が良さそうだな」
「そうだな。地獄の王として、挑戦者達に次の階層に行けるかどうかの試験する」
「ん? やって来た冒険者を全部殺すわけではないのか?」
「1パーティーとかならいいが、大軍でこられるとな。侯爵の部下には弱い人や獣人もいるし、階層だから大規模戦闘になったら逃げ場がない」
「なるほど……我輩が生殺与奪の権利を持つ者たちを、他者にむざむざ殺されるのは気に入らんな。許しがたい」
――自分の所有物だからこそ、他者から守るという考えか。
さすが侯爵。
「よくあるパターンは、昼間は人々が普通に暮らしているが、夜になると恐ろしい影が忍び寄る。その謎を解き明かせればクリア、みたいな感じか」
侯爵が俺をジロッと睨んできた。
「我輩にそんな三流な魔物のマネをしろと?」
「じゃあ、どうする? 前回や今回みたいな登場時の演出はつまらなかったぞ」
「ぐぬぬ……っ! 言ってくれるではないかっ」
侯爵は唇を噛んで悔しそうに言った。でも失敗したのが恥ずかしいのか、少し顔が赤かった。
俺は画面を見ながら考え込む。
「どうするか……戦わないとなると、侯爵の扱いが一番難しいな」
「地獄の王として何をするかだな……やはり判定か?」
ドラゴンが言うと侯爵が鼻で笑った。
「何を判定する? 不老不死に値する人間か? それとも天国にいけるかどうか、か? ばかばかしい。人間なんぞみな地獄がふさわしい」
「それだ!」
俺は思わず大声で叫んだ。
侯爵が目を丸くする。
「いきなり叫んでどうした?」
「侯爵も相手の血を吸えばヴァンパイアを生み出せるんだろう?」
「うむ。低級なヴァンパイアになるがな――はっ、そうか!」
ドラゴンだけが分からず首をひねる。
「それがどうした?」
「冒険者を試すんだ。侯爵は戦わない。しかし『この先はさらなる地獄が待つだけだ。それよりも我輩が血を吸ってやるだけで、お前たちは永遠の若さと命が手に入るぞ? チャンスは一度だけだ』と誘惑する。誘惑に負けたものは血を吸われ、断った者だけが先へ進める」
「ふむ……皆、断るのではないか?」
「普通ならな。しかしこのダンジョンは不老不死を求めてやってきた者たち。心が揺らぐだろう。でも断られてもいいんだ」
「なぜだ?」
「仲間が侯爵の言葉にぐらついているのを見ただけでも仲間への不信となる。そして次の階層が鬼畜難易度のたまご迷宮。心が一致団結していないと、まず死ぬ」
「二段構えにするのか!」
「やはりそうだったか! ケイカはおそろしい奴だな! くくくっ」
侯爵は楽しそうに笑った。
俺は続けた。
「となると、書庫で仲違いさせたあとでも、次の階層で不信を煽るような罠を仕掛けたほうがいいだろうな」
「ほう? 天国で?」
「薬草の野原。金色のキングラットが一匹だけ。看板にはこうある。金色に一番汚れている生贄を捧げよ、と」
「なるほど! 書庫で互いの心の中を聞いているから、犯罪的な考えを持った奴は問答無用で殺されるな」
「しかし、生贄は指定がない。実は小さな金の像に泥団子を備えるだけで通れるという」
「殺したあとでその落差を知るとショックだな!」
侯爵が言った。
「ということはだいたい出揃ったな」
「あとは決闘騎士か。亡霊鎧だったし地獄に配置しても似合うんじゃないか?」
「うむ。そうすると、こんな感じになるぞ」
ドラゴンが画面をいろいろいじった。DPを消費して階層を入れ替えているようだ。
すると今までの話を反映させたダンジョンが画面に表示された。
1階層・王家の墓、2階層・墓場、3階層・水の迷宮(船)、
4階層・迷宮(霧幻影)、5階層・迷宮、6階層・迷宮(氷)、
7階層・迷宮(飢餓病気)、8階層・決闘騎士、9階層・草原(侯爵)、
10階層・迷宮、11階層・キッチン、12階層・迷宮(たまご無数)
13階層・図書館(心暴露)、14階層・花畑、15階層・プール(人魚)
俺は満足して言った。
「不老不死を求める死者の旅路。冥途の迷宮の完成だな」
「あとは各迷宮の細かい設計だが……」
ドラゴンの言葉に侯爵が答える。
「今すぐでなくても良かろう。明日か明後日まで各自考えてから持ち寄れば良い。それよりも我輩の部下たちはどうやって運ぶ? 大移動はさすがに目立つぞ。1週間後までに間に合わぬかも知れん」
「それは我が召喚陣を使って召喚しよう」
「そんなことができたのか」
俺が感心して尋ねると、ドラゴンはニヤッと口の端を歪めた。
「でないと入口より大きい砂クジラやドラゴンゾンビは運び込めないぞ」
「それもそうか。……では、俺はそろそろ帰る。侯爵も送っていこう」
「ああ、わかった。――ではドラゴン、また会おう!」
「こちらこそ、よろしく頼む」
侯爵はバサッとマントを軽快に広げると、広い洞窟を歩き出した。
――やれやれ。ダンジョンにも目処がついた。
あとは、っと。ああ、人魚とルーナの弟たち。それに舗装路の問題だな。
俺は侯爵を送り届けて、パーティーから外した。
それから外輪船へ向かった。




