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勇者のふりも楽じゃない――理由? 俺が神だから――  作者: 藤七郎(疲労困憊)
第五章 勇者冒険編・東

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第111話 ハーヤの想い

 日差しの暑い、気だるい午後。

 港に停泊する外輪船に行き、ルーナの部屋を訪ねた。

 寝ているラピシアを抱えながら扉をノックする。


 部屋に入るとルーナはベッドで横になっていた。

「元気してるか?」

「ひゃう! ……うん、元気になったのよさ」

 ルーナはベッドで寝ていたが、シーツで必死に体を隠そうとする。

 赤いクラゲ頭がぷるぷる揺れる。


 チラッと見える細い手足と胸の丸み。なぜ裸なんだと驚く。

「ん? 大きくなった?」

「背が、伸びたみたい……」

 赤く染まった顔をシーツで半分隠して呟く。

 前は10歳ぐらいだったが、今は15歳ぐらいになっていた。


「じゃあ、付いてきてくれ。侯爵に会わせる」

「そ、その前に! あの、ね。服が……ないの」

「ああ! そうか。ちょっと待ってろ」

 急に成長したから、胸と腰を覆っていた海草が着れなくなったようだ。



 俺は部屋を出ると妖精の扉を使った。

 妖精界を経由してケイカ村の屋敷へと戻る。

 ラピシアを部屋に寝かせると、エルフのフィオリアを探した。

 彼女は清々しい朝日の降る庭で生垣の剪定をしていた。

 はさみを動かすたびに大きな胸が揺れている。


 近付いて声を掛けた。

「フィオリア、ちょっといいか?」

「おはようございます、ケイカさま。どうされました?」

「リィぐらいの女の子に着せる服が欲しいんだが」

「わかりました。予備の服を渡しますわ」

「助かる」

 フィオリアははさみを生垣に立てかけると、屋敷へと向かった。

 緑の髪が美しく揺れていた。



 フィオリアから服を受け取ったあと、建築家のメルビウスに会った。

 村の北側で2階建ての大きな建物を建てる指揮をしていた。村人と獣人たちが働いている。

「メルビウス。元気にしてたか」

「おはようございます、ケイカさま。お久しぶりです。もうすぐ、学校ができます。病院はすでに完成しました」

「あの建物がそうか。よくやってくれた。――で、そうだな。裏庭に1つ、小さい小屋を建てて欲しい。2~3メートル四方の掘っ立て小屋で構わない」

「はい。それなら数日でできます」

「あと、メルビウスは橋をかけられるか? 場所は河口。30メートルの幅になるが」

「水深がどれぐらいかにもよりますが、おそらくできると思います」


 俺は首を捻った。

「しかし、この村の建築も頑張って欲しいからなぁ」

「弟子ができましたので、こちらは指示さえすれば建築は進みます」

「ふむ……じゃあ、掘っ立て小屋ができたら、橋作りをしてもらう」


「わかりました。……それから、王都までの道が舗装路になったことで、問題になっているようです。貴族の方が村長に詰め寄っていました。罰金を払え、と」

「徴税官のあいつか! それもあったなぁ。面倒くさいな……はぁ、一つ一つ解決していくしかないか」

「頑張ってください」

「ああ、それじゃ、またな」

 俺はメルビウスと別れて屋敷へ戻った。



 玄関から入ろうとして、ふと思いつく。

「そうだ、ハーヤにまだ妖精界を取り戻したこと、言ってなかったな」

 あとは銅像の改良も気になった。一応、要望は伝えてあったが。


 屋敷の裏へ回った。

 四頭身の妖精ハーヤの住む小さな工房へ入る。

 相変わらず作業台に向かって何か作っていた。

「ハーヤ。頑張ってるな」

「おはようございます、ケイカさん。最近、銅像が大人気なんです」

 手を動かしながら喋るハーヤ。


「おお。いいことだ。動きやすくできそうか?」

「関節部分を強くしつつ、魔法銀のギミックを組み込んでみました。たぶん50倍ぐらいに動きやすくなるかと。魔力もあっぷですー」

「それは助かる。その調子で銅像の改良、頑張ってくれ……と、そうだ。妖精界を取り戻したぞ」



 何気なく言ったとたん、ハーヤの手が止まった。

 しーん……と静まり返った工房内に、からん、と手に持っていたハンマーの落ちる音が響く。


 ハーヤはつぶらな瞳で俺を見上げた。

「――ほんとですか?」

「ああ、本当だ」

「みんな、いますか?」

「石になってた40人ほどは助けた。あとはこれから集めていくんじゃないか?」


 しばらくハーヤは固まっていたが、急に作業台の上に立つと、ぺこっと深くおじぎした。

 腰を曲げて俯いたまま言う。

「ありがとうです。みんなにまた会える日が来るなんて、嬉しいです」

「よかったな。もう一人じゃないぞ」


「一人はやっぱり……さみしいです」

 ハーヤが顔を上げて笑った。ふっくらした頬に涙が伝う。



 俺は、はっと息を飲んだ。

 そしてハーヤに対する思い違いに、今更気付いた。

 ――ああ、そうか。

 一心不乱に道具を作ってたのは、趣味だからじゃないんだ。

 さみしさを紛らわせるためだったのか……っ。


 船は一人じゃ手が小さくて無理だ、外輪しか作れないと言ったとき、寂しそうな顔をしていたのを思い出す。

 ――ずっと、仲間に会いたかったんだな。


 そういや俺に「妖精の素質ありますね、妖精になりませんか?」と聞いてきたこともあったっけ。

 てっきり冗談だと思ってた。

 そうじゃない、一人がさみしくて本当に妖精仲間が欲しかったんだ。



 俺は気まずくて頭をかいた。

「……気を使ってやれなくて悪かったな。今から会ってきたらいい」

「はい……ありがとうございます、ケイカさん。ボクだけじゃなくて、みんなも助けてくれて。銅像作りも頑張ります」


「俺は妖精の扉が使いたかっただけだからな。行って来い、というか一緒に行くか」

「はーい」

 ハーヤが泣きながら笑って返事した。



 俺はハーヤを抱えて屋敷に戻った。もちろんリィの服も持っている。

 扉を通り抜けて妖精界に行くと、ハーヤは腕から飛び出した。

「わぁぁ! 懐かしの妖精界! ――ハーヤです、みんな~!」

 三角帽子を左右に揺らし、小さな足でとことこと駆けていく。


 出てすぐの地下回廊にいた、羽の生えた小さなフェアリーが近寄る。

「ハーヤじゃない、生きてたのね!」

「ニルヴィ、また会えた。本当に会えた!」

 ハーヤは泣きながらフェアリーと両手を握り合い、くるくると回った。


 フェアリーが心配そうに尋ねる。

「捕まらなかった?」

「捕まったけど、ケイカさんに助けられたんです~」

「ケイカさまって、本当にすごいのね!」

「えっへん、ボクは彼の専属技師なのですっ」

「ハーヤならきっとできるわ。――上にみんなもいるわよ、会うでしょ?」

「わあ! 会いたい~!」

 ハーヤはフェアリーと手をつなぎながら、上へ行く妖精の扉へ向かった。

 つぶらな瞳は喜びに輝き、頬についた涙のあとがキラキラと光っていた。



 俺はなんだか心が暖かくなるのを感じつつ、そっときびすを返した。

 外輪船へ通じる扉へと歩きながら思う。


 ――誰かを助けるって、傲慢な振るまいじゃなかったんだな。

 自分まで楽しく、嬉しくなるものなんだな。



 なんだろう、この気持ち。

 今まで誰かを助けても、自尊心が満たされるだけで、心の奥が暖かくなることなんてなかった。

 日本では日照りの村に雨を降らせても、恋愛を成就させても、傲慢な心が満たされるだけだった。

 助けてやったぞ、もっと盛大に感謝しろ、と。


 結局のところ、今まで俺がやってた人助けは、根本的に間違ってたのかもしれない。

 いや、まだよくわからない。

 

 ――でも妖精界を取り戻せて、本当に良かったと心の底から思った。

短いので夜も更新します。たぶん。

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