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第108話 3人 対 11万!

 妖精界でアンデッドの大軍に囲まれていた。

 その数、11万。地面を埋め尽くしながら襲ってくる。


 ゲアドルフだけが心からの笑みを浮かべて指揮棒を振っている。

「さあさあ、美しい悲鳴を奏でなさい! 死してしもべになるのです!」


「なってたまるか!」

 俺は即座に呪文を唱える。

「《嵐刃付与》! 《聖水壁》!」

 3人の武器が激しい風に包まれ、周囲に聖なる水の幕が張られた。防御力を高めるとともに精神干渉効果を打ち消す。

「セリカ、吹雪だ! ミーニャは近付く魔物を切り飛ばせ!」

「はい!」「うん!」

 二人の信頼する美しい返事。


 真っ先に駆け寄ってきたのは豹骨の背に人骨が融合した死霊の群れ。

 ミーニャは尻尾をゆらゆら揺らし、舞うような動きで迎え撃つ。

 瞬時に素晴らしい剣閃が走り、骸骨の首と腰は斬り砕かれていった。



 セリカがフローズンレイピアを中段に構えて目を閉じる。

 青白い霜が刀身を覆っていく。

「ハァッ!」


 セリカが光るレイピアを突き出した。

 とたんに切っ先から吹雪がほとばしった。俺の付与した嵐の刃を巻き込んで、猛烈なブリザードが吹き荒れる。

 ゴォォォッと大気を揺らす吹雪は、アンデッドの群れを吹き飛ばし切り刻み、白く凍りつかせていく。

 その白い波はゲアドルフにも届く。しかし余裕の笑みは消えない。

 ……冷気も弱点とは違うのか。


 凍らされたアンデッドの群れは動きを止めたが、仲間の残骸を乗り越えて、さらなるアンデッドが波のように押し寄せる。



 続いて俺が太刀を上段に構える。

「蛍河比古命の名に従う、神代の時より谷間を渡りしそよ風よ、一束に集まり烈風と成せ――《轟破嵐刃斬》!」

 太刀を思いっきり振り下ろす。

 風の刃を含んだ巨大な嵐がアンデッドに襲い掛かる!


 斬られ、砕け散り、アンデッドは吹き飛んでいく。

 俺の黒髪が激しくなびいた。



 ゲアドルフが、風の刃に切られながら高らかに笑う。

「素晴らしい力ですよ、勇者さん! ――しかし、あなたでは勝てません! わたしたちは不死ですから!!」

 指揮棒を持つ彼の腕が激しく振られた。

 人を小馬鹿にしたような動きに合わせて、砕かれたアンデッドが再生していく。


 風も違う。きっと土も違う。

 このパーティーにないのは――。


「なるほど。火で焼き払うしかないようだな」

「さすが、勇者ですね! 飲み込みが早い! ですが、あなたたちは火の力を使えないことは調査済みです! ――あはは!」

 腹に手を当てて折り曲げるようにして笑う。


 そう。このパーティーには火を使える者がいない。

 勇者魔法の中に炎と雷の混合魔法【雷炎光破ライトニングブレイズ】があるが、奴の生命力を削りきれる威力はなかった。


 しかし、この余裕から理解した。

 ゲアドルフ自身も火でしか倒せないと。

 だから『わたしが勝つ』ではなく『負ける気はしない』といったのだ。殺されなければ負けないから。

 無意識のうちに自分の優位に立脚した考えでゲアドルフは喋ってしまったのだろう。

 おそらくこの推測は当たっている。



 ミーニャは残像を生み出しながら、大軍相手に包丁を振るい続ける。

 珍しく赤い唇を苦しげに噛み締めて、紙一重で攻撃をかわしていく。額に必死な汗が光る。

 限界が近い。


 もう一度吹雪を発生させたセリカが苦しそうに言う。

「どうしましょう……ケイカさま」

 俺は懐に手を入れ、チラッと勇者の証を見た。

 パーティーメンバーの所在地を見ると、物凄い勢いで1つの点が近付いてきていた。


 周囲を幾重にも取り囲むアンデッドを太刀を振るって粉砕しながら、チラッとゲアドルフを見た。

 彼の真横にある黒い闇は、かすれて消えていった。

 これで逃げられない!


「……俺たちの勝ちだ」

「倒せるのですか?」

「火がなければ、熱を使えばいいじゃないか」

「え?」



 その時、ひゅるるると大気をつんざいて、青いツインテールと白いワンピースをなびかせた流星が落ちてきた。


 ズドォォン……ッ!


 派手な爆発音とともに大地を揺らしてクレーターができる。爆心地周囲のアンデッドを数百体、大空へと吹き飛ばした。

「ケイカ! ただいまなの!」

 ラピシアだった。急いで俺たちのところへまっすぐ走ってくる。

 振り下ろされる剣や斧を避けようともせず一直線に。

 アンデッドを体当たりで砕き、振り下ろされる剣は逆に折れた。



 隣まで来たラピシアの頭を撫でながら言う。

「ラピシア! 使うなと言ったスキル覚えてるか!? ――今は使っていい! ひっくり返せ!」

「う? ――あ、うん! 使う!」

 ラピシアはすとんとその場にしゃがんだ。ワンピースの裾がチラッとめくれて細い足が見えた。


「んうううう~!!」

 ぐっ、と地面に指を立てて掴む。

 大地がゴゴゴッと揺れ始めた。



 ゲアドルフが震動にふらつきつつも笑顔は崩さない。

「大地の力を使って地震ですか? 想定済みですよ」

 ラピシアの足元から半径1メートルの魔法陣が発生して光り出す。

「それはどうかな? ――セリカ、ミーニャ! ラピシアに寄り添え!」

「はい!」「うん」

 俺たちはラピシアの傍に集まった。魔法陣の中に入る。


 ラピシアは眉間に可愛いしわを寄せつつ、さらに唸る。

「うううう~!! ――そいやっ!」

 ラピシアが手を地面についたまま、体全体を捻るようにして横回転した。



 その瞬間、ぐるんっ、と世界が反転した。

 荒涼とした地面が消える。

 埋め尽くすアンデッドが180度の反転に巻き込まれる。


「ぬあっ!」

 ゲアドルフが変な叫び声を上げた。

 しかし、一瞬で姿が消える。


 ドゴォォォォン……ッ!

 この世でもっとも重たい音がして、地殻がひっくり返った。

 ――今まで一度も使っていない魔法。ゲアドルフも知らない技。


 ラピシアが覚えた、大地母神スキル【地殻反転】

 魔法の力と物理破壊力を併せ持つ、すべてをなかったことにできる。本来は世界創造時に使用するスキル。

 妖精界は単独で存在しているため、元の世界に影響は出なかった。

 先に石像を救出したのはこれに巻き込まないためだった。



 辺り一面、荒野ですらなかった。全体が赤黒い溶岩で覆われている。

 俺は水と風の魔法を駆使して周囲に結界を張った。


 1分、5分、10分。


 時間が経過しても熱は冷めそうにない。

 ついでにアンデッドも出てこない。



 セリカが呆然と口を開けたまま言う。

「これが……ケイカさまの勝つ方法だったのですね……」 

「もとはアンデッドを短時間で殲滅するために考えていたんだけどな――ちょっと冷やすか」

 俺はひょうたんの水をまき、それを触媒にして大量の水を召喚した。

 爆発音を立てて、白い蒸気が吹き上がる。


「これは……焼け石に水かもしれないな……」

「吹雪、使いましょうか?」

「無駄だからやめておけ」

「はい、ケイカさま」

 神の御業みわざに、人がどうこうできるはずがない。


 俺が何とかするしかなく、せめて足場だけでも冷やし続けた。

 ていうか、元に戻さないと、妖精の扉が使えないしな。



 念のため、1時間してから、ラピシアにもう一度引っくり返してもらった。

 またマグマ状になった地面が現れる。


 10万以上いたアンデッドは跡形もなく消えていた。

 骸骨も死霊もリッチもゴーストも、すべて灰になっていた。というか、黒っぽいカスしか残っていない。敵ながら哀れ。


 俺はラピシアの頭を撫でながら、ふざけて言った。

「じょーずに焼けました~」

「えへへ~。がんばった!」

 ラピシアは眠そうに目を擦りながら言った。激しく消耗した疲れが出たのだと思われる。

 ラピシアは130万しかMPがないのに、1回で50万近く消耗していた。

 かなりふらふらするのも仕方がなかった。



 俺はゲアドルフが立っていた辺りを見た。

「死んだかな? ……ん?」

「あれは……」

 セリカが信じられない様子で口元を押さえる。


 ゲアドルフのいた辺りは半球状のくぼ地になっていた。

 なぜだろうと考えて、すぐにわかった。

 反転した瞬間、妖精の門を召喚して脱出したとしか考えられなかった。



 俺は思わず舌打ちした。

「逃げられたか……まあ、しかたない。準備不足だ。次は必ず倒す」

「悔しいですけど、さすが四天王ですわね……しかし、これ、どうやって直しましょう?」

 するとラピシアが、ふぁぅとアクビしながら言う。

「元の土や石にすればいい?」

「できるか?」

「やってみる」

 ラピシアは地面に手を触れた。それから、んんん~と唸った。


 黄色い光が手から発せられ、同心円状に波紋が広がっていく。

 マグマが消え、普通の大地に戻っていった。

「えらいぞ、ラピシア」

「らぴしあ、いい子……なの」

 前のめりに倒れこんでしまう。

 魔力を使い切ったようだ。

 すやすやと寝息を立て始める。



 セリカが微笑みながらラピシアを抱え上げた。

「本当にすごい子ですわ」

「そうだな」

 俺がラピシアの頭を撫でると、眠りながらでも嬉しそうに、にへらと笑った。

 ミーニャも横からのぞきこんで、ラピシアのすべしべした額を撫でた。

「えらい。起きたらソーセージあげる」

「そうだな。ラピシアのお手柄だ」


 ミーニャの耳が嬉しそうにピコピコと揺れる。

 というかミーニャが誰かを褒めるのは珍しい気がした。

 それだけきつい戦いだったのかもしれない。

 11万体相手じゃ当たり前か。


 俺は伸びをしながら言った。

「じゃあ、一度マージリアのところに戻るか」

「はい!」「うん」

 俺たちはラピシアを抱えつつ、妖精の扉へ向かった。



 ふと勇者の証を見ると、セリカとミーニャがめちゃめちゃレベルアップしていた。

 セリカがLv51、ミーニャがLv54。

 ……そりゃ11万体も倒せばレベル上がりまくるよな。

 そして、パーティーに入れっぱなしだったルーナが58まで上がった。成長痛で死ななければいいが。


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セリカ修得スキル

戦意高揚エグザテーション】味方の攻撃力と防御力、状態異常抵抗をアップさせる。パッシブスキル。

乙女祈願プリンセスデザイア】光の加護を味方に与える。敵の攻撃3回無効。光属性ダメージ付与。

威光マジェスティックフォース】相手を畏れさせ、行動を抑止する。確率で魅了の効果。パッシブスキル。

流星光破スターライトストライク】光の力を剣から放つ。遠距離範囲攻撃。


ミーニャ修得舞闘スキル

【一の太刀】絶大な威力を持つ上段切り攻撃。相手防御値無視。攻撃力2倍。使用後の硬直あり。

【五月雨斬】梅雨のように柔らかに。五回分の切り攻撃を同時に放つ。

【快癒舞】 パーティー全員のHPを小回復し、状態異常を治す。

【心頭滅却】心を無にする。魔法攻撃無効。次の攻撃の効果2倍。

【女の恨み】相手が過去に女を泣かせた悲しませた、のべ回数×攻撃力。当然、母や姉妹も含む。誠は死ぬ。必須装備・包丁。


ミーニャ修得盗賊スキル

【難鍵解除】あらゆる鍵を解除する。

【強奪】通常攻撃最中に相手の持ち物をランダムで奪う。

【地図製作】フィールドや洞窟の地図を正確に書き留める。

【隠密】気配を消して敵の眼前でも目に止まらず行動する。他のスキルを使うと発覚。


ケイカ修得スキル

真空爆光ソニックフレア】空間を圧縮して爆発させる。光属性の範囲攻撃。

全回復オーヒール】最大HP分を回復させる。

慈愛聖域アルテマガーデン】自分とパーティーの周囲に絶対安全地帯を作る。敵攻撃無効。味方移動&技発動不可。味方HP半快。

今後の展開によってはここでの経験値を増減するかも。

しばらくは戦後処理と内政回が続きます。

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