第107話 妖精界大掃除!
辺境大陸にある地下道。
ヘムル爺さんと別れて廊下を進むと、何もない部屋に出た。床が黒いプレート状の石に覆われているだけ。
俺は床を見ながら言った。
「妖精の扉か」
「その通り。手を当ててくれれば行ける」
妖精のマージリアがしゃがんだので、俺もしゃがんで手を付いた。
黒いプレートが虹色に光り出す。
『非常時脱出用扉・敵対性なしと判断。通過許可』
ふわわわぁん、と空気が震動して鳴った。
軽い眩暈に襲われる。
次に目を開けたときはもう見知らぬ光景が広がっていた。
最初は荒野かと思った。一面の茶色い大地。黒味を帯びた禍々しい雑草がまばらに生えている。
しかしよく見れば、ところどころに石畳の床がある。
城の土台だけが残っていた。
空は曇天で、赤黒い雲に覆われている。
「ここが妖精界か……地獄といっても通用しそうなほど不気味だな」
「空気も生暖かくて気味が悪いですわ」
セリカが肩をすくめながら言った。
マージリアが応える。
「魔王軍に滅ぼされてから、妖精のよりどころとなる美しいものはすべて破壊されてしまった。ここでは妖精は力を出せない。魔力は使うと回復しないのだ」
「マージリアは大丈夫なのか?」
「そのためのこれだ」
彼女は矢を番えていない弓を持ち上げて見せた。
「そう言えば矢筒を持っていないな」
「弦を引けば自動装填される。妖精の大弓だ」
「それはすごいな――さて」
俺は辺りを見回した。どこまでも広がる不気味な荒野。
「ということは、この妖精界に生き残りはいなさそうだな」
「ああ、残ってるものといえば、石にされたものぐらいだ」
「いるのか。多いのか?」
「逃げ遅れた40人ほどだろう」
「手間だが、助けないと計画に支障が出るな」
「うん? だったら殺してしまっても問題ない。妖精なら転生する」
「そうは言ってもな……ん?」
ミーニャの三角耳がピクッと動く。瞬時に包丁を抜き放つ。
「何か来た」
視線を追えば、荒野をこちら目掛けて走ってくるゾンビ。すごく元気だ。
人の2倍ぐらいの俊敏さ。それが数体、向かってくる。
真理眼で見る。
「クイックゾンビらしい。セリカ、ミーニャ、頼む。俺は後ろの透明なゴーストをやる」
「はい!」「わかった」
幾ら早くてもミーニャの速度が上回り、セリカは凍らせて動きを止めて倒す。
俺は音もなく忍び寄っていた透明なゴーストを斬り捨てた。
1分かからず終わったので、マージリアが弓を使う暇もなかった。
「す……すごいものだな、勇者パーティーは」
「まあな。みんな強くなった。――マージリア、石になった妖精の場所はわかるか?」
「妖精同士はだいたいわかる」
「なら案内してくれ。運び出そう。ラピシアはしばらくたまごは背負って石像運びに徹してくれ」
「わかった、ケイカ!」
こうして俺たちは妖精救出を頑張った。
マージリアの指示の元、石像を見つけてはアンデッドを退治しながら運ぶ。
石像は小さいものは手のひらに乗るぐらい。大は人と変わりないぐらい。
回収した妖精はヘムルじいさんのいる非常口に並べた。
わりと城に近いところで石になっていたのが多かったため、2時間ほどで大体回収できた。
残りは3体。
「少し遠いですが、あっちです」
「よし、さっさと終わらせよう」
マージリアの示す方向に向かった。
ささっと回収する。
――そして。
小妖精の石像を抱えて戻るとき、俺たちは異様な光景を目にした。
荒野にずらっと整列するアンデッドの群れ。骸骨やゾンビが多いが、物理攻撃無効のファントムゴーストや、魔法攻撃無効のドラゴンゾンビ。即死持ちのリッチなどもいた。
縦100体、横100体の塊が10あった。
つまり10万体。
「なんだ、これ。ゲアドルフの軍勢なのか……あ!」
俺が声を上げると、セリカが目を丸くした。
「ど、どうされました、ケイカさま?」
「バリアムークがいる!」
「まあ、四天王の!?」
全身が金色の、筋骨たくましい男の姿。それが100体ほどいた。
「バリアムークはゲアドルフが作ったものだったのか!」
そういえば怨念を利用した人造人間だった。
ということは、それぐらい人手不足ということなのだろう。
セリカが顎に指を添えて可愛く首を傾げる。
「でも、どうしてここにたくさんいるのでしょうか?」
「隠しているのか? ……いや、違う。妖精の扉を使って全世界に総攻撃をかけるつもりだ。主力はアンデッドだったのか!」
シュガル諸島でレオが戦っていたアンデッドも、予行か実験だったのかもしれない。
マージリアが眉を寄せつつ言う。
「妖精の扉のいくつかは魔王軍が支配しているから、その推測は正しいだろう」
「考えたな、魔王軍……これは今倒しておかないと世界が滅びかねないな」
「アンデッドですから、まだまだ増やせそうですし」
セリカが端整な顔をゆがめた。
「危険だな。しかし死霊を扱う四天王のゲアドルフ――そういうことか」
「なにかでしょう?」
「ゲアドルフの移動が誰もつかめないって、妖精界を経由してたからだな」
妖精の扉の設置場所は真理眼でも見抜けない。
だからリリールでも見つけられなかったのだ。
「とりあえず、この妖精たちを助けたら、殲滅するぞ」
「わかりましたっ!」
セリカが気合を入れて応え、ミーニャも頷いた。
――が。
大軍団の前方に、突然黒い空間が生まれた。
マージリアが叫ぶ。
「あれは! 妖精の門!」
「扉とは違うのか?」
「扉は設置場所が固定されてるが、門は時間制限があるもののどこからでも来れる――ああ!」
馬車が通れるぐらいの大きさとなった闇から、ぞろぞろと骸骨の剣士が現れた。普通と違うのは6本腕なところ。剣士スキルが非常に高い。
魔改造されたスケルトン剣士だった。
大軍団が並んでる横に、100×100で整列していく。
俺は叫ぶ。
「マージリアとラピシア! 妖精の石像を急いで運べ! ラピシアは終わったら全力で戻って来い! たまごも置いてな」
「はい!」「わかった!」
ラピシアは笑顔で、ふんすっと鼻息荒く答えると、砂埃を上げて全力で駆け出した。マージリアも慌ててついていく。羽根を出し、魔力を放出させながら。
緊急事態だとわかってくれたようだった。
セリカが緊張した声で言う。
「どうされます、ケイカさま!?」
「待つ。きっと作ったばかりのアンデッドがちゃんと整列したか、見に来るはずだ。そこを叩く」
「で、ですが、この数が相手になる可能性が……」
「わかってる。大丈夫だ。最悪の事態に対処する方法も考えてある」
俺の言葉に、セリカは凛々しい顔で頷いた。金髪が頬にかかる。
「さすがケイカさまです。信じます」
ミーニャは半歩前に出つつ、無表情のまま顎をつんと上げた。巫女服が風になびく。
「私はもっと前からケイカお兄ちゃんだけを信じてる」
「わ、わたくしだって、ケイカさまのことはずっとずっと昔から……」
「変に張り合うな。集中しろ」
「はい、ごめんなさい……」
恥ずかしそうに頬を染めつつ闇の塊へと青い瞳を向ける。
一応マージリアにはこの世界の成り立ちを聞いていたが、もう一度千里眼で確認する。
ある一定以上は見れなくなる、箱庭のような世界。
うん、大暴れしても世界に被害は出ない。大丈夫だ。
俺は視線を闇の門に戻した。
ぞくぞくと骸骨が出てくる。
よくもまあ、これだけ死体を集めた、もしくは召喚したと感心する。
そして、この軍団のボスが現れるのを待ち続けた。
ラピシアはまだ帰ってこない。
セリカが独り言のように呟く。
「死霊術師ゲアドルフ……いったいどんな人なのでしょう……」
「骸骨みたいな奴か、ローブを被った老人か」
「出てきたところを奇襲しますか?」
「……それはやめておく。ゲアドルフ本人ではない可能性があるし、使役者を攻撃した時点で、このアンデッドが襲ってくるからな。あと情報も欲しい」
「わかりました、ケイカさま」
この上級アンデッドの大軍に襲われて、セリカとミーニャを守りきれるかは不透明だった。俺だけ生き延びても仕方ない。
せめてラピシアが帰ってくるまでの時間を稼ぎたい。
そして時間を稼げば門は消えて、ゲアドルフの逃げ道がなくなる。そこが勝負だ。
そんなことを考えているうちにも、骸骨は整列していく。
最後の骸骨が出た頃、1人の男が出てきた。
白いスーツに白衣を着た優男。
手に持つ指揮棒のような杖を小刻みに振るい、骸骨達を歩かせている。
「さあさあ、きびきび歩きましょう! 二拍子のリズムではい、はい、はい、はい!」
よく通る澄んだ声。魅力的に響く。
理知的な横顔からは、なんとなく芸術家か科学者を思わせた。
俺は真理眼で男を見た。
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【ステータス】
名 前:ゲアドルフ
種 族:死生超越者(前種族:ハーフエルフ【始祖直系】)
職 業:魔王軍西方部隊及北方部隊総司令官 兼 真理探求者
クラス:死霊術師Lv99 精霊術師Lv99 錬金術師Lv99 司令官Lv90 楽士Lv76
属 性:【炎】【鳴闇】【死魔】
攻撃力:3000
防御力:5000
生命力:9999
精神力:9999
【スキル】
死続烈波:3回攻撃。傷を与えた相手に継続ダメージ。
命精吸収:敵のHPMPを吸い取り、自分のものとする。
恐怖支配:恐れを抱いたものを使役する。
死導刻印:触れたものに死を与える。素数Lvに即死、偶数Lvにデスカウント。
冥府降臨:敵味方区別なくすべての生物を死霊にし使役する。大範囲魔法。
死霊生成:死体から死霊を生み出す。
死霊召喚:さまよう死霊を召喚する。
死霊合成:複数の死霊を合成して上級死霊を生み出す。上級は意思を持つ。
死霊使役:死霊を従える。複雑な命令をこなさせる。
死霊操作:大量の使役死霊を操る。簡易な命令をこなさせる。
死の這音:自分を見るもの、気配を感じたものに死の恐れを抱かせる。
不滅蘇生:指定した攻撃以外で死んだ場合、HP全快で蘇生する。
死の王:アンデッドはすべて従う。
魔器練成:精神力を消費して武具や道具を生み出す。一定時間で消滅。
物質合成:いくつかの物を混ぜて新しい物質を生み出す。
真実一路:無機物のステータスを見る。遠視・拡大視の効果。
【データ】
精霊魔法も使うが、闇以外は従わない。
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指定した攻撃以外で倒せないだと!?
打撃? 斬撃? 魔法?
それを調べないと不利だな。
即死攻撃満載だが、侯爵に会ったあとで全員に即死無効の効果を防具に付与させておいたから助かった。
となると、あと怖いのは恐怖支配ぐらいか。
優男が俺たちに気付いて足を止める。
いやに芝居がかった態度で腕を組む。
「ふむ……妖精には見えない。生きている人のようだ。モノクルで見た映像にも似ている……ひょっとして勇者ケイカですね?」
「そういうお前はゲアドルフだな」
すでにステータスは見たけど確認しておく。
「ええ、わたしは魔王四天王の一人、死を奏でる芸術家ゲアドルフです」
「芸術家ねぇ……確かに、肉の造型は得意そうだな」
はっと息を飲むゲアドルフ。
セリカが形の良い眉をひそめる。
「どういう意味でしょう、ケイカさま?」
「美男子に見えるが、うわべだけだ。人の肉と皮を被った化け物。中身はガリガリの骸骨だ」
「まあ!」
セリカが驚きで目を丸くした。
神の目を欺けるはずがない。
ゲアドルフの端整な顔が強く歪んで、憎しみを露わにした。
手に持つ指揮棒を両手で掴んでぐぐぐっと曲げる。
しかし、すぐに手を離し、コホンと取り繕う咳をした。
「言ってくれますね。さすが勇者、と言ったところですか。――でもあなた、わかっていませんね。しょせん人なんて外見ですよ」
「まあ一理あるな」
「ケイカさまったら!」
セリカがゲアドルフを睨みつつも、ぷくっと頬を可愛く膨らませた。
ゲアドルフの目がセリカに向く。
「よく見れば、理想的な頭蓋骨をされた女性じゃありませんか。どうです? リッチクイーンになって永遠の美しさを保ちませんか?」
「お断りさせていただきます!」
「それは非常に残念です。わたしとなら楽しい時間を過ごせるのに」
ゲアドルフは、くつくつと口に手を当てて笑った。その仕草だけなら本当に色男だった。
「時間があるのか? 四天王が1人になって職務に追われているそうだが」
俺が嫌味を言うと、彼ははぁ~と大げさな溜息を吐いた。
「そうなのですよ。わたしが魔王軍に参加したのは、自由に研究と芸術に没頭させてもらえるという条件だったのです。それがもう、今は、雑務に忙しくてやりきれません」
バリアムークみたいな新しい死霊作りや、セリカのような美少女を使った美しい死霊作りがやりたいんだろう。
研究と芸術は紙一重か。
俺は太刀を構えると、口の端に笑みを浮かべる。
「そうか。なら楽にしてやろうか?」
「あなたがたが死霊になって手伝ってくれるなら助かりますがね?」
ゲアドルフもイケメンな顔を強烈に歪めて笑い返してきた。
「ふんっ。それにしてもこうして勇者と対面しているというのに、余裕な態度だな」
「ええ、負ける気がしませんから」
ゲアドルフは両手を広げて指揮棒を構えた。まるで、これからオーケストラの指揮でもするかのように。
――特定攻撃でしか死なないから余裕なんだな。……つまり打撃や斬撃、刺突ではない。
「魔王の居場所はどこだ?」
「わたしの演奏を最後まで聞き終えたら、教えて差し上げましょう! いけ! 死霊たちよ! この世でもっとも美しいメロディを奏でよ!」
ゲアドルフは腕を振った。
その瞬間、大地が足音でごごごっと鳴った。
11万のアンデッドの群れが襲い掛かってきた。
長くなりすぎて中途半端になったので、21時ぐらいにもう一回更新します。




