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それぞれの駆け引き

 長テーブルの上座に父上が座り、その後ろに親衛隊長のテリーが立っていた。

 俺とライザは父上から距離を離して、長テーブルの側面に座り、対面にカトリ、エイチカ、アイリスが座っている。



 俺の後ろにはグルグル巻きにされたアインとキルバルトが寝かされており、それをメイドのティンパニーが見張っていた。

 


 メイド長だが、この女も実は強い。

 いわゆる戦闘メイドってやつで、盗賊の一人や二人なら軽くあしらえるだけの力は持っている。


 

 三年間のあらましを終えた後、父上がカップを皿の上に戻した。

 陶器と陶器の重なる音が静かに響く。



「そうか。三年の間にそんなことが。大変だったんだね」


「大変だってんならこの家にいた時のが大変だったわ。なにせ後ろのクズ二人に何回も殺されかけてるんでね、こっちは」


「あっはっは。なるほど、確かにそうだ」



 ディスケンスが声を上げて笑った。

 笑い事じゃねえよ全く。



 確かにこの二人のおかげで強くなったのはそうだが、そんなものはイジメの副産物みたいなもので、たまたま手に入ったものだ。

 親なら普通に止めろよとしか思わん。

 まあこの世界の常識を、俺のいた世界の常識で測るのはナンセンス極まりないが。



「さてそろそろ本題といこうか。まずその一。君はそこのゴミ二人の処遇についてどうするべきだと思う? 一。殺す。二。許す。三。中央の裁判所に引き渡す」


「何でもいいわ。心底興味ねえ。まあ無罪でいいんじゃないか?」


「ほう。寛容だね」


「いやマジでどうでもいいだけだ。聞くところによるとベレトを殺したのはこの二人じゃないらしいし、もういいんじゃね? しらんけど」


「君に濡れ衣を着せた罪は?」


「だから興味ないって。というかキルバルトをボコボコにしたし、もうそれで大体俺の気はすんだ。実際殺す気でやったしな。あれで生きてんだからキルバルトの耐久を褒めこそすれ、恨みはしねえわ」


「なるほどね。――おっと」



 父上がカップを手に取る。

 すると、何かに気がついたような声を上げた。



「紅茶がなくなってしまったよ。おかわりはいるかな?」


「飲み終えたら出ていくよ俺は」


「この家に戻ってくるつもりは?」


「あるわけねえだろ」



 カップを戻して俺は言った。

 当然だ。



 こいつは俺がシュミット=クロウだということを知っていた。

 つまり知っていて、放置していたのだ。



 そんな奴のところに、今更戻るわけがない。



「望みは何でも叶えると言えば?」


「なら、二度と俺に関わるな、だな」


「ふふふ。強気な言葉だ。だが君は現状がよくわかっていないように思うね」


「そうかい。なら俺からも言わせてもらうけどな」



 ディスケンスを指さし俺は言った。



「お前が外で言った『必ず話したいことがあるはずだ』ってのは、何だったんだ? 現状を理解していない俺に教えてくれよ。意味深に適当なことほざきやがって。悪いが俺はガンガンついていくからな」


「ふふふ。テリー」


「はい」


「アイン、キルバルト、アイリスの三人は、共謀してベレトを殺した疑いがある。よって拘束の後、刑を執行。手始めに、アイリスを股裂きにしろ」


「な!!」



 俺、カトリ、アイリス、テリー、キルバルトの四人が声を上げる。

 ライザとティンパニーは黙って見ており、エイチカは何が何だかわかっていなさそうだ。

 アイリスが席を立って後退り、尻もちをついた。頭を抱える。

 その顔は蒼白だった。

 


 父上はそんな中カラカラと笑い、俺を指さす。



「こう来られたら――嫌だろ?」



 こいつ……!

 俺が睨みをきかせる中、ティンパニーが父上のカップに紅茶を注ぎ、父上がそれに口をつける。

 


「先の質問に答えよう。君が私に話すべきこととは、アイン、キルバルト、アイリス。この三人の減刑を乞うことだ。貴族には自主裁判権があるからね。つまり私はその気になれば彼女らの命などどうとでもできるのだよ。私の質問に安易に答えすぎたね。駆け引きはまだ若いと見える」


「くっ。くっくっく……なるほどなるほど。そういうことかい。そりゃ俺が甘かったわ」



 笑いながら、俺は席を立ち上がった。

 困難に出会うと逆に笑ってしまう。

 俺の悪癖だった。



「だったら――てめえの命に剣突きつけて、交渉の一つでもすれば脱せられるんじゃねえのか?」



 腰の剣を閃かせる。

 ライザからもらった、折れていない剣だ。

 父上があごに手を置き、笑った。



「できるのかな? 君に」


「試してみるか」


「やってみたまえ。口だけ動かしていても仕方がないよ」


「上等じゃねえかてめえ!」


「待てクロ!!」



 振り返る。

 そこにいたのは、簀巻きのアインだった。



 かつての敵が味方になる。 

 最高のシチュエーションだが、なんてダサい格好だ。

 全然頼もしくない。



「お前その格好で何するつもりだよ……」


「うるせえほっとけ!」



 バタバタと腰だけを動かしてアインが言った。

 まさに陸に上がった魚そのもの。

 やはり一ミリも頼もしくない。



「父上!! そんなことをしたら、僕はバーバラ候のご令嬢との縁談を破談にする!! それでもいいのか!?」



 なるほどな。

 アインがこの状況で唯一打てる、必殺のカード。

 しかし。

 それであの父上が止まるのかと言われると――



「愚かな男だ。仮にも私の血も入っているはずなのに。縁談なんてものはもうとっくに破談したよ。君のせいでね」


「……。え?」



 たっぷり呆けた顔を見せてからアインが言った。

 アインにとって、バーバラ侯の孫娘と婚約している、というのは、一番の誇りだったはず。

 それが知らぬうちに破断していると聞けば、こんな顔になっても仕方がない。



「何だわかっていなかったのか。鈍いな実に。君の周りに何人の間者がいると思ってる? 男爵でしかない私と、バーバラ侯の繋がりを切りたいものは多いんだ。君がカトリの監禁に細心の注意を払っており、身代わりを出したとしても、バーバラ候に真実を話さず進めることはリスキーすぎてできない。つまり、実質破談したということだ。お前みたいな男との結婚を、バーバラ候の周りが許すはずがないからね」


「うぅ……」


「というわけで、君にそのカードはもう切れない。それでもアイリスを救いたいなら覚悟を見せてもらおうか。どうすればよいかわかるかな? 十秒だけ待ってやる。私は優しいからね」


「ぐっ。――わ、わかった!! 僕が代わりに――」


「やめろ、アイン、もういい! こいつは口で言っても止まらない。従ったら従うだけ調子に乗るだけだ。俺が手っ取り早い交渉術ってやつを教えてやるよ」



 足を進めて俺は言った。

 だが。



 ブオン!!



 長槍を向けられる。

 テリーである。

 俺にとって、こんな先端で握られた長槍を弾くことなど造作ない。

 しかし俺は素直に立ち止まった。テリーが困惑した様子で、ディスケンスを見ていたからだ。



「ダ、ダメです、ディスケンス様。これ以上はいけません」



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