ナオコの闇
「ヒロくん♡」
「ねぇ、ヒロくん♡」
僕は背筋を伸ばして、必死に寒気と戦っている。
肩に手が置かれ、左耳に息がかかる。
「ヒロくん♡」
「・・・ヒロくん」
気味が悪い。
僕の好きだった声が、僕の好きな声に近づいている。
それがとにかく気持ちが悪い。
『従姉妹』
元々似ているものなの?
それとも・・・
「ねぇ、ヒロくん。どう?これで『同じ』・・・でしょ?」
「元々、私が好きだったんでしょ?気付いてたよ。」
「全校集会で、君だけ、君だけが、私をみてくれていたね。」
「知ってたよ。全部。ぜーんぶね。」
「なのに、なぜ?」
肩が、痛い。
ギリギリ音がする。
「なんで、ヤミコなの?」
「言ったよね。あの子、飽きっぽいって。」
「捨てられちゃうよ?悲しい思いをするよ?」
やめてよ。
「私は、そんなことしないよ。」
「ねぇ、ヒロくん。」
僕の好きな声は、そんなんじゃない。
「ごめんなさい、先輩。」
「僕は、ヤミコさんが好きなんです。それは貴女じゃないんです。」
「どうして!?」
「私は、君の憧れた私にも、君が好きなアイツにもなれる。君の望む女になれる!」
「君が望むもの、何もかも叶えてあげられる。だから!」
「君は、私の側にいろ・・・。」
良かった。
僕の好きだった声だ。
「もう、ひとりぼっちは嫌なんだ。誰も私をわかってくれないんだ。」
「こんな力、いらない。」
「・・・捨てたい。」
「なんで私なんだ?私は、家のために存在しているのか?」
気温がどんどん下がる。
吐く息が白くなる。
「なぁ、ヒロくん、答えてよ。」
えっ
あっ
ぐぁ
「私は誰?」
息がっ
「私は、バケモノ?」
苦しい
「答えてよ、答えてよ、答えてよ、答えてよ!!」
先輩は
「ほら、苦しいでしょ?死んじゃうよ?ほら、怖いって言いなよ!!一生、私の側にいると誓いなよ!!でなければ」
「ここで、私の一生の思い出になってもらうよ?」
先輩、
格好よくて、綺麗で、僕の憧れの人でした。
でも、
あなたも、ただの女の子だったんすね。
僕はヤミコさんが好きだから、
こんなことしか出来ないけど、
どうか、どうか。
先輩の頭に手を伸ばす。
「やめてよ」
先輩の髪に触れる。
「君は、私の側にいるんだ。」
髪を鋤くように。
「君は、私と結婚するんだ。」
頭を撫でる。
「いやだ、いやだ、」
頭を撫でる。
「はじめて、私を見てくれたのに、私を知ってくれたのに」
「なんで、ヤミコなの。なんで、私じゃないの。」
「なんで誰も私のこと、好きになってくれないの。」
「誰か、わたしのこと、好きになってよ。」
「私を選んでよぉ」
先輩は、泣いていた。
僕はただずっと、頭を撫でていた。
帰り道、左手をじっと見ていると
「生徒会室で何してたの?」
ヤミコさんが怖い目をしてる。
「ケジメつけてきたの。ヤミコさんが心配するようなことは・・・怖い怖い怖い怖い」
傘の先をもう片方の手に乗せてこっち向けて・・・その構え古い漫画で見たぞ。
「・・・あの、さ、ヤミコさん。」
「なぁに?」
そう、覚悟は出来た。
ちゃんと伝えなきゃ。
「僕、その、ヤミコさんに言いたいこと、あって。」
すると、ヤミコさんは急にビクッとする。
「ヤダ」
「え?」
「聞かない。」
「は?」
「絶対、絶対聞かないからー!!!!」
そのまま脱兎のごとく、ヤミコさんは走りさってしまった。
「え?」
「ちょ、待ってよ!!ヤミコさん!!」
いったい全体、なぜ?




