3層目⑨:静かな道の先
朝食をとる二人の間には、少々のぎこちない空気が漂っていた。
やがて、どちらからともなく会話が戻り、終えるころには元通りの二人に戻っていた。
食事を終えると、めぐるの提案で使えそうなカバンを探した。
手分けして探し始めてから十数分後。
埃被ってはいるものの、幸いなことに、非常持ち出し袋と書かれたリュックサックを見つけた。
携帯食料とペットボトルの水が少々、応急処置用の簡易的な医療キット。
食料の賞味期限が切れていることに目をつぶれば、十分な内容だ。
ヒカルは空いたスペースに食料の残りと着替え用の衣類を追加で詰め込んだ。
その横から「これも。」と、めぐるが何かを差し出す。
昨日ヒカルが飲み干した飲料の容器に、水を補充したらしい。
礼を言いながら受け取り、カバンの取り出しやすい場所に配置して閉じると、肩紐に腕を通す。
ヒカルは背中にずっしりとした重みを感じながら、玄関を後にした。
先に外に出ていためぐるが、ヒカルにカギを差し出した。
受け取ったヒカルは、鍵をかけなおすと、元通りに乾いた植木鉢の下にカギを忍ばせる。
扉に背を向けて数歩進むと、示し合わせたように二人は揃って振り返った。
「お邪魔しました。」
「いってきまーす。」
それぞれに短く出発の言葉をかけると、振り返ることなく一夜を過ごした家を後にした。
路地は相変わらず人の気配がなく、自分の足音だけが、小さく、やけに遠くまで響いていた。
昨日は気づかなかったが、アスファルトはところどころ割れて小さく隆起し、地肌が露出している。
若干の歩きづらさはあるものの、あの温室に比べれば何ということはない。
歩き始めて二十分ほど。
住宅区画の様子が、それまでの一軒家メインから、アパートや団地がメインに変わった。
「【区画C/D】って書いてたし、Cが一軒家メインだったんだろうな。」
「そうだね。寄り道する?」
「いや、散策中に床が抜けたらシャレにならないからな。元の予定通り、医療区画を目指そう。」
「はーい。」
そこから更に歩みを進め、団地群の隙間を抜けていく。
ヒカルはしばしば水分を補充しながら歩き、めぐるはその後ろや横に並びながら歩く。
途中でまだ使えるものがないかと道路沿いの駐輪場を軽くのぞきながら進んだ。
いくつかの駐輪場を確認したが、タイヤが割れてチェーンも錆びた自転車や、塗装が捲れた原付が止まっているだけで使えるものはなかった。
使えるものがないかと目を向けるたびに、時間だけが過ぎていく。
やがて、視界の先にやや大きな建物が見えてきた。
「……あれか。」




